
本の雑誌でプロレス本の特集をしていたので眠っていたプロレス熱が再発!ダイナマイト・キッドの自伝を読んでみました。すでに廃刊らしくアマゾンで古本を安価で購入。ダイナマイト・キッドは日本では初代タイガーマスク(佐山聡)との名勝負でブレイク。タイガーが新日本を離脱した後、全日プロレスに移り、従兄のデイビー・ボーイ・スミスとブリティッシュ・ブルドックスでその地位を不動にした。しかしこれは凄い本だよ。同じ年にプロレス関係者を震撼させた有名な暴露本、元新日本プロレス・レフェリー、ミスター高橋(ってしかしまあ、酷い名前だ)の”流血の魔術最強の演技―すべてのプロレスはショーである”が出版されているけれど、今読むとこちらの方が全然衝撃的。ボクサーを目指していたキッドがレスリング道場(かの有名なイギリスのビリー・ライレー・ジム、日本での通称”蛇の穴”だ)へ連れていかれてボロボロにされる。日本人好みのシュートって奴だ。キッドはボロボロにされていく中でシュートを学んでいくんだけど全然それを評価していない。だから新日本プロレスの伝説”カール・ゴッチ”のことも”うぬぼれの強い男と評価し、ビル・ロビンソンと共に”ビッグスターにはなれなかった男たち”と片付けている。彼にとってのプロレスリングはお客さんあってのものなのだ。この辺りは新日本プロレスファンにはショックだろう。そしてその後も赤裸々な話のオンパレードだ。タイガーマスクのデビュー戦ではあまりのマスクの出来の悪さに落ち込むタイガーをリング上で励ます。彼の高速ブレーンバスターをはじめとするハードでハイスパートなレスリングを毎日続けるには(トレーニングと)薬物の使用が不可欠だったこと。自分はお客さんを喜ばすのが仕事で変なプライドは無いので相手の技もきちんと受けるとか、日本遠征の前にはきちんと負けてチャンピオンベルトをテリトリーに置いていくとか(チャンピオンが不在になると興業成績に影響が出る)。そんなプロレスの内幕を実に淡々と語っていく。レスラーの評価もしている。どんな木偶の坊でも動かすことができる天才レスラーがテリー・ファンクだ。サーベル加えてるだけで何もできないタイガージェットシン。日本人にも触れている。動けなくなった自分を最初の試合に下げ興業全体のオーガナイズを考える馬場に対し、どんな弱い相手とやろうともメインにこだわる猪木。レスラーの目から見たレスラーの評価は実に興味深く面白い。連日の試合でアクシデントも多く、たとえそれが無くとも毎日のバンプ(受け身)で全身がボロボロ。彼をはじめ多くのプロレスラーが神経の切断など深刻な怪我を抱えていること。遠征続きで生まれる家族との距離。薬物の摂取による精神障害についても触れている。最後はステロイドの過度な摂取による心臓肥大で倒れてしまう。キッドはステロイドと決別する。体重は20Kg以上落ちた。全盛期の筋肉の鎧をまとったような彼の肉体は晩年には中学生のようなになっていた。そして襲ってきた頸へのダメージによる歩行不能。40歳を前にして車いす生活を余儀なくされる。なんていう人生だろう。彼が振りかえる人生は実に壮絶でありめちゃくちゃだ。それでいて濃密で魅力的だ。数多くの裏切り妬み、少しだが大切な友情。個性豊かというにはあまりにもハチャメチャなレスラーたち。最後に彼は業界で偉大と言われた人たちは勿論、プロとしての実力が全く備わっていない者も”みんなグレートだった”と振り返る。自分たちが残してきた足跡(小さなレスラーでも練習とセンスで大きなレスラーよりはるかに使える)を誇らしげに語る。ダイナマイト・キッドはレスラーとしても人間としてもけれんみのない何とも格好いい男だなと感心した次第でありました。プロレスの真実を知りたいならミスター高橋の暴露本より断然こちらがお薦め。高橋本には”プロレスを愛するがゆえにこの本を書いた"っていうようなことが書いてあった気がしますが、こちらには本当の愛が詰まってます。
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