
ぶっちゃけ、今年の映画1位と言うレベルではなく、ライフタイムでも相当な上位に入れても良い、と考える素晴らしい作品。中立的であること、デザキ監督のビジョンがしっかりとあってブレないこと、両者が両立している素晴らしいドキュメンタリー。
この作品を観て、エドワード・サイードの「オリエンタリズム」を読んだ時の衝撃に近いものを感じた。サイードが膨大な文献を読み込んで緻密に持論を積み上げていったのと同様、この作品でも圧倒的な量のインタビューを積み重ね、それらを重ねて説得力ある作品に積み上げている。それらを編集する中で、変に一貫性が壊れたりすることもなく、まさに社会学研究のアプローチはかくあるべき、と言う見本のような映画だった。
なんと言っても、かの事件以来、ビビっているのか、一切表に出て来なくなっている杉田水脈議員が饒舌にインタビューに答えていることだ。それだけでもこの映画は入場料を払う価値があるといっても良いくらい。歴史修正主義者の発言を、一つ一つ丁寧に裏を取り、バランス良く議論を前進させるドキュメンタリーになっている。
この映画を観て、従軍慰安婦問題が解決済みか未解決かの結論はここでは書かない。僕がこの作品で強く印象に残った論点を2つだけ挙げる。
1つは、この問題は日韓外交問題ではない、人権問題として考えるべき、と言うこと。外交問題だとすると、「他の国もやってるから良いんだ」と言う具合に、話をずらされてしまいがち。そんな議論は今日のセクハラ、パワハラ問題では許されない。これまで私的に何度も「弱い立場の人間は発言することができないし、できても相手に届かない」と言うことを繰り返してきた。元慰安婦が証言しないからと言って、事実もなかったことにするのは大きな誤り。私生活で痛いほどこのことを痛感している僕にとって、元慰安婦側の立場を支持しない訳には行かない。
第二に、国内でこの議論が盛り上がらない理由として、2012年から歴史教科書から慰安婦問題が削除されていると言う衝撃の事実。これじゃ正当な歴史評価が次の世代でできないではないか。
あと、日韓関係正常化において、仲介者のアメリカが歴史問題を棚上げにした、と言う話も紹介される。つまり、慰安婦問題は実は先送りされていた。
いずれにせよ、この問題に関心があろうとなかろうと、今日の様々な歴史問題をより良く理解する上で重要なファクターがこのドキュメンタリーには詰まっている。観て損はないし、是非観ておくべき映画。
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