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薄墨町奇聞

北国にある薄墨は、人間と幽霊が共に暮らす古びた町。この町の春夏秋冬をごらんください、ショートショートです。

しまき

2013-03-13 19:11:25 | 薄墨町
前回の記事をご覧くださった方から、
「しまき」とはなんぞや、
という質問を頂戴した。

これは私がよく使う言葉だ。
ある程度の年齢の、薄墨生まれの者なら誰でも使う。
「親類しまき」
「親戚しまき」
そんな言い方をする。

しまきとは親類、親戚と同意語。
「親戚」と書いて、「しまき」とルビを振りたい。

ただ、厳密にいえば、親類としまきは微妙に異なる。
たとえば、伯父伯母(叔父叔母)、甥姪、従兄弟(従姉妹)、
その連れ合いといったあたりは親戚だろう。

だが、伯父の嫁さんの兄夫婦のせがれ嫁とか、
姪っ子が結婚した婿さんの本家にいる跡取り息子とか、
血つながりがなくても、
ある程度動向を心得ている関係、
それがしまきだ。

薄墨では、しまきに関しては、
「伯父さんのとこの伯母ちゃんの実家で、
ほれ、家をついだ伯母ちゃんの兄さん、
その兄さんのとこの末っ子がこの前、嫁ばもらったべ、
その嫁さんの○子ちゃんが…」
などと、ぐだめいて詳細に述べる必要はない。

「染屋町のトメさんの里、山坂の、末のシンちゃんとこの○子ちゃん」
といったように、地名と氏名で話が通じる。

逆にいうと、
上記のように、地名と氏名で話が通じる程度の親しさが
しまきといってもよいだろう。

この方言、由来は何なのか。
考えたこともなかったのだが、思いついて広辞苑をひいてみた。

〈しまく〉という言葉はふたつある。
「風巻く」と書いて〈しまく〉と読むのがひとつ。
もうひとつは「繞く」と書く動詞。

「風巻く」のしまくは、「し」が風の古語だそうで、
文字通り巻くように風が激しくふく意。
そして「繞く」は、とりまく、まきつくという意味。

言語学者はなんというか知らないが、
私は、この「繞く」が
薄墨弁「しまき」の語源ではないかと思う。

いなかの古い町では、
人間関係が濃密で、二重三重につながり合う。
血縁だけと限らず、
さまざまな縁によって自分をとりまいている人々、
それを、しまきと呼んで大切にする。
薄墨の町ではそうして、皆が暮らしてきた。

この年になると、これも案外悪くない暮らしだと思う。

本日の薄墨弁講座、これにておしまい。

★★★


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