久しぶりで、
柳屋呉服店について。
どこでも同じだろうが、
薄墨でも着物を着る人が減ってきた。
田舎町では、冠婚葬祭は紋付きと決まっていたが、
「やっぱり着物でないとなさ」という婆さまたちは、
徐々にあの世へ移動している。
「このままじゃダメだよ。
一反が何十万円もする着物以外に、
もっと安くて、若い子でも買える商品とかも扱わなきゃ」
意欲的な若旦那が、そう言い出して、
今年の夏は浴衣をどんと売り出した。
もちろん、激安のぺらぺらな浴衣に比べたらはるかに高価だが、
吟味した柄の浴衣は、予想を上回る売上げとなった。
これに力を得た若旦那は、今度は和風小物をそろえ始めた。
くくり猿のストラップ。
鯛の香袋。
巾着袋。
化粧ポーチ。
お手玉。
信玄袋。
懐紙入れ。
縮緬のはぎれで作った、こまごまとした品をウィンドウに並べている。
これが意外に好評で、
それまで柳屋に足を踏み入れることのなかった、
10代、20代の若い娘たちがどんどんやって来るようになった。
これを一番喜んでいるのが、
じつは、大旦那だ。
若い娘が来ると、
「はいはい、いらっしゃいあんせ。
めんこい小物がありあんすよ、お嬢さんにぴったりだ」
そんなことを言いながら、うれしそうに接客をする。
客の娘だちも、気のよさそうな年寄り相手だと気詰まりではないとみえ、
臆すことなく話し、ときには、
「おじいちゃん、かわいい」などと言う。
大旦那はやにさがっている。
「まあ、おじいさんは若い女の子の相手して、
ちっと若返ったようであんすねえ」
女房がつぶやくのを聞きながら、
旦那はうらやましそうに、大旦那を見ている。
いいなあ、
俺も親父のように若い娘っこの相手をしたいもんだ。
そう思いながら。
若い娘らの前では、
どんな男も
くくり猿だ。
手も足も出ない。
ころりと負ける。
柳屋呉服店について。
どこでも同じだろうが、
薄墨でも着物を着る人が減ってきた。
田舎町では、冠婚葬祭は紋付きと決まっていたが、
「やっぱり着物でないとなさ」という婆さまたちは、
徐々にあの世へ移動している。
「このままじゃダメだよ。
一反が何十万円もする着物以外に、
もっと安くて、若い子でも買える商品とかも扱わなきゃ」
意欲的な若旦那が、そう言い出して、
今年の夏は浴衣をどんと売り出した。
もちろん、激安のぺらぺらな浴衣に比べたらはるかに高価だが、
吟味した柄の浴衣は、予想を上回る売上げとなった。
これに力を得た若旦那は、今度は和風小物をそろえ始めた。
くくり猿のストラップ。
鯛の香袋。
巾着袋。
化粧ポーチ。
お手玉。
信玄袋。
懐紙入れ。
縮緬のはぎれで作った、こまごまとした品をウィンドウに並べている。
これが意外に好評で、
それまで柳屋に足を踏み入れることのなかった、
10代、20代の若い娘たちがどんどんやって来るようになった。
これを一番喜んでいるのが、
じつは、大旦那だ。
若い娘が来ると、
「はいはい、いらっしゃいあんせ。
めんこい小物がありあんすよ、お嬢さんにぴったりだ」
そんなことを言いながら、うれしそうに接客をする。
客の娘だちも、気のよさそうな年寄り相手だと気詰まりではないとみえ、
臆すことなく話し、ときには、
「おじいちゃん、かわいい」などと言う。
大旦那はやにさがっている。
「まあ、おじいさんは若い女の子の相手して、
ちっと若返ったようであんすねえ」
女房がつぶやくのを聞きながら、
旦那はうらやましそうに、大旦那を見ている。
いいなあ、
俺も親父のように若い娘っこの相手をしたいもんだ。
そう思いながら。
若い娘らの前では、
どんな男も
くくり猿だ。
手も足も出ない。
ころりと負ける。