商工会議所裏にある、新興印刷のデザインルームで、
ロッパとゴエモン、それにカメキチが、
Macのモニターをのぞき込んでいる。
モニターには、大黒衣装のカメキチの写真。
打出小槌を振り上げ、福々しいようすだ。
「はあ、さすが素人の撮る写真とはちがうなあ。
あったらに緊張しまくって、笑わなかった先生がよ、
一瞬笑ったところを、こったらにうまく撮るとはな。
さすがプロだ」
ロッパが感心してつぶやくとおり、
カメキチの写真は、にっかと笑い、
なんとも楽しげだ。
「確かに、亀掛川先生、
あのときかなり緊張してたから、
どうなるかと心配した」
ゴエモンもそう言った。
カメキチは、何も言えない。
事実、撮影では緊張の極地で、
笑えといったって、顔が動かなかったのだ。
カメキチの写真の上部には、
墨痕淋漓といった感じの、
肉太の「薄墨三商会 大黒まつり」という
特大文字。
「ちょっと古風な感じにしたかったので、
このフォントにしたんですよ。
いいでしょう」
デザイナーがうれしそうに説明した。
大黒姿のカメキチを囲むように、
「福入れ!」「福入れ!」「福入れ!」という
赤い文字が散っている。
「ゴエモン、いいんでないか、このポスターで。
なにより派手で、目立つぞ」
ロッパが言い。
ゴエモンも「そうだな、これでOKにするか」
うなずいた。
「あのなあ、もうちっとでいいから、
俺がな、目立たない写真にしてくれんか」
カメキチがおずおずと申し入れたが、
ゴエモンはデザイナーと話し出して、
聞いてくれない。
「ま、ま、いいんでないか、先生。
ゴエモンのためだ、我慢してくれい」
ロッパが、無責任にカメキチをなだめ、
それで大黒まつりのポスターは決定となった。
造り物のキラキラした小判や鯛、
金銀の短冊などを背景に、
満面の笑みで小槌を振る
カメキチ扮する大黒様。
「福入れ!」の文字が踊り、
なんともめでたいポスターだ。
「俺は、なんでこったらに、
楽しそうに笑ってるんだかなあ」
カメキチが、モニターの自分の笑顔を見て、
不思議そうに言った。
「俺はこったらに笑ったおぼえがないんだがな」
「なに言ってるんだ、カメキチ。
先生はよ、いっつも笑って、
いっつも楽しそうだ。
そこがカメキチのいいところでないか。
見てるこっちまで、おもしろくなるんだ」
教え子ロッパが、大まじめに言った。
ゴエモンも、デザイナーとの話を止め、
振り返って、うなずく。
「そうですよ、先生。
先生はいつも楽しそうですよ」
そうか、とカメキチは納得した。
楽しそうか。
したら、それでもいいか。
三商会の大黒まつりの準備が
こうして、整った。
ゴールデンウィークの、
薄墨春まつりも始まる。
薄墨は、桜にいろどられ、
陽気なときを迎える。
ロッパとゴエモン、それにカメキチが、
Macのモニターをのぞき込んでいる。
モニターには、大黒衣装のカメキチの写真。
打出小槌を振り上げ、福々しいようすだ。
「はあ、さすが素人の撮る写真とはちがうなあ。
あったらに緊張しまくって、笑わなかった先生がよ、
一瞬笑ったところを、こったらにうまく撮るとはな。
さすがプロだ」
ロッパが感心してつぶやくとおり、
カメキチの写真は、にっかと笑い、
なんとも楽しげだ。
「確かに、亀掛川先生、
あのときかなり緊張してたから、
どうなるかと心配した」
ゴエモンもそう言った。
カメキチは、何も言えない。
事実、撮影では緊張の極地で、
笑えといったって、顔が動かなかったのだ。
カメキチの写真の上部には、
墨痕淋漓といった感じの、
肉太の「薄墨三商会 大黒まつり」という
特大文字。
「ちょっと古風な感じにしたかったので、
このフォントにしたんですよ。
いいでしょう」
デザイナーがうれしそうに説明した。
大黒姿のカメキチを囲むように、
「福入れ!」「福入れ!」「福入れ!」という
赤い文字が散っている。
「ゴエモン、いいんでないか、このポスターで。
なにより派手で、目立つぞ」
ロッパが言い。
ゴエモンも「そうだな、これでOKにするか」
うなずいた。
「あのなあ、もうちっとでいいから、
俺がな、目立たない写真にしてくれんか」
カメキチがおずおずと申し入れたが、
ゴエモンはデザイナーと話し出して、
聞いてくれない。
「ま、ま、いいんでないか、先生。
ゴエモンのためだ、我慢してくれい」
ロッパが、無責任にカメキチをなだめ、
それで大黒まつりのポスターは決定となった。
造り物のキラキラした小判や鯛、
金銀の短冊などを背景に、
満面の笑みで小槌を振る
カメキチ扮する大黒様。
「福入れ!」の文字が踊り、
なんともめでたいポスターだ。
「俺は、なんでこったらに、
楽しそうに笑ってるんだかなあ」
カメキチが、モニターの自分の笑顔を見て、
不思議そうに言った。
「俺はこったらに笑ったおぼえがないんだがな」
「なに言ってるんだ、カメキチ。
先生はよ、いっつも笑って、
いっつも楽しそうだ。
そこがカメキチのいいところでないか。
見てるこっちまで、おもしろくなるんだ」
教え子ロッパが、大まじめに言った。
ゴエモンも、デザイナーとの話を止め、
振り返って、うなずく。
「そうですよ、先生。
先生はいつも楽しそうですよ」
そうか、とカメキチは納得した。
楽しそうか。
したら、それでもいいか。
三商会の大黒まつりの準備が
こうして、整った。
ゴールデンウィークの、
薄墨春まつりも始まる。
薄墨は、桜にいろどられ、
陽気なときを迎える。