タイ国経済概況(2018年6月)

1.景気動向

(1)国家経済社会開発庁(NESDB)は5月21日、2018年第一四半期のGDPを前年同期比+4.8%と発表、20四半期ぶりの高い伸びとなった。NESDBは2018年通年の経済成長率の予測値をこれまでの前年比+3.6~4.6%から同+4.2~4.7%に上方修正、輸出は同+8.9%、国内投資は同+4.7%、民間消費は同+3.7%の見通し。財務省も同様に2018年の経済成長率の予測値を前年比+4.2%から+4.5%へと上方修正している。

(2)タイ中央銀行は4月の月例経済報告を5月31日に発表、継続して輸出が好調であることに加え、内需も拡大している。4月の輸出額は189億米ドルで前年同月比+14.6%となった。石油関連製品(同+25.8%)を筆頭に、農産品(同+17.5%)、自動車(同+17.2%)、電子製品(同+15.2%)と各主要分野で輸出が伸びている。また、民間消費は同+5.8%、消費者信頼感の回復、政府の低所得者向け支援策などが寄与した。民間投資も同+7.0%と伸長、設備投資が増加しており、通信、エネルギー、コンピューターなどの分野における機械輸入が拡大している。

(3)タイ工業連盟(FTI)が5月10日に発表した4月の自動車生産台数は前年同月比+11.9%の13.5万台、内訳は国内向けが同+12.1%の6.2万台、輸出向けが同+11.7%の7.3万台となった。4月の大型連休による操業日数減により、前月比の生産台数は▲31.0%となったが、前年同月比の生産台数は10ヶ月連続のプラスとなっている。また、同月の国内販売台数は同+25.2%の7.9万台、輸出台数は同+5.3%の7.3万台。1~4月の自動車生産台数は前年同期比+11.3%の67.4万台、国内販売台数は同+15.5%の31.6万台、輸出台数は同+4.1%の36.8万台。現在、ベトナム向け自動車輸出は、ベトナムが年初に導入した自動車輸入規制により大幅に落ち込んでいる。タイ政府は6月に開かれるタイ・ベトナム貿易合同委員会にて、ベトナムに対して当規制の見直しを求めるものとみられる。



2.投資動向

(1)EEC(Eastern Economic Corridor/東部経済回廊)法が2018年5月14日官報で告示され、15日付で施行となった。EEC法は73条から成り、外資企業ならびにタイ企業のEECへの投資促進や産業の高度化を目的としたもの。対象地域、各種委員会の権限、都市開発の方針、外国人雇用や投資優遇措置などの指針が定められている。EEC政策委員会やEEC事務局に裁量を与えることで、柔軟に投資誘致を行うことができるようになっている。もっとも、EEC法自体にて投資の恩典や条件の詳細を定めたものではなく、EEC投資に関連する法規や告知などの根幹を成す法律という性質を持つ。

(2)タイ国鉄は5月25日、バンスー駅および都市鉄道レッドラインの建設作業現場を報道陣に公開した。現在、バンスー駅の工事の進捗率は49%、利用開始は2020年第3四半期となる見込み。バンスー駅は、国鉄、都市鉄道、バス、高速鉄道などが接続するターミナル駅(バンコク新中央駅)として整備が進められている。タイ政府は駅周辺につき民間資金を活用して副都心として開発したい意向であり、オフィスビル、商業施設、国際展示場などが開発される見通し。



3.金融動向

タイ中央銀行の発表によると2018年4月末時点の金融機関預金残高は19兆2,058億バーツ(前年同月比+5.5%)、貸金残高は17兆5,693億バーツ(同+4.8%)といずれも増加。



4.金利為替動向

〈金利動向〉
(1)(5月の回顧)
5月のバーツ金利は、上旬から中旬にかけては米金利の上昇に加えてリスクオフで金利は上昇。下旬にはやや失速するも月間を通しては大幅上昇。月初、米金利の上昇にともないタイ10年債利回りは2.64%台で推移。その後、米国のイラン核合意離脱および同国への経済制裁再開を受けて原油価格が上昇し、米10年債利回りが再び3%台を回復。これにともないバーツ金利も上昇。さらに、米中通商協議が両者の溝が埋まらないまま終了となったことや、マレーシア総選挙での野党勝利によるリスク回避の動きでバーツ金利は一段と上昇。16日のタイ中央銀行金融政策委員会(MPC)では全会一致で現状維持が決定されたが、相場への影響は限定的。その後、イタリアでポピュリズム政党が連立政権樹立で概ね合意に達したことで、リスク回避となりバーツ金利は上昇。また、21日に発表されたタイ2018年第1四半期GDPが前年同期比+4.8%と予想を上回る好調な結果となったことでタイSET株価指数は大きく上伸し、これを受けてバーツ金利も上昇。貿易戦争へのリスクや北朝鮮を巡る緊張感が高まってリスク回避モードとなるとタイ10年債利回りは2.85%台後半まで一段と上昇。その後発表された米連邦公開市場委員会(FOMC)議事録がタカ派的でなかったことやイタリア政局リスクから米金利は大きく低下したが、バーツ金利は小幅低下に留まった。

(2)(6月の展望)
今月のバーツ金利は、引き続き米金利動向を中心とした外部要因に振らされる展開継続。中旬の米FOMCで利上げペースの加速が示されるかどうか注目される。一方6月20日にタイ中央銀行がMPCを開催するが、政策金利は現状維持が見込まれる。第1四半期GDP、5月米消費者物価指数(CPI)ともに予想を上回る良好な結果となったため、出口議論が台頭する可能性も。しかし、通商関連をはじめ外部環境に先行きの不透明感がある中で急いで利上げする必要はないものとみられる。

〈為替動向〉
(1)(5月の回顧)
5月のドルバーツ相場は上昇。米利上げペース加速への期待後退が下押し要因となったが、一方で五月雨式に発生した欧州政治、貿易戦争をはじめとしたリスク要因が相場を押し上げた。月初、米利上げペース加速への警戒感からドルバーツは31.7台半ばまで上昇。しかし、2日の米FOMCが期待ほどタカ派的ではなかったことからドルバーツも31.60近辺まで低下。その後、米中貿易戦争への懸念や米国のイラン核合意離脱、マレーシア総選挙でのマハティール氏勝利でリスク回避モードとなり、ドルバーツは一時32.2台前半まで上昇。そういった中発表された米CPIが予想を下回ったことで、利上げペース加速への期待後退からドルバーツも32を割って低下。今度は北朝鮮リスクへの警戒感に加えて、イタリアでポピュリズム2政党が連立樹立で概ね合意したことで欧州政治リスクも懸念されドルバーツは一時32.2台後半まで上昇。その後発表された米FOMC議事録で利上げペースの加速を確認できずドルバーツは反落。月末近くには、米中貿易摩擦やイタリアでの再選挙の可能性を巡る思惑でドルバーツは上下したが、結局32ちょうど近辺でクローズ。この月に発表されたタイ経済指標は2018年第1四半期GDPを始め良好であったが、相場への影響はほぼ見られず外部要因主導での相場展開であった。

(2)(6月の展望)
中期的なドルバーツ動向は、堅調なタイ輸出を背景にバーツ高トレンドに回帰するものとみている。ただし、今月中旬の米FOMCで今後の利上げペースの加速が示されるかに注目が集まっており、結果次第ではドル一段高の可能性も。また貿易戦争への警戒は継続していることもドルバーツをサポートするものと思われる。一方、タイ中央銀行は20日にMPCを開催するが、こちらでは政策金利は現状維持が見込まれる。ただし、第1四半期GDP、5月CPIともに予想を上回る伸びを示しており、出口議論が台頭するか注目される。



5.政治動向、その他

(1)アーコム運輸相はタイおよびカンボジア間の鉄道が6~7月に開通する見通しを示している。また、今後サケオ県のアランヤプラテート駅よりさらに国境に近い駅を建設し出入国管理を実施するとしている。カンボジアでは、プノンペン市内と空港を結ぶ鉄道が4月に開通しており、プノンペンからタイ国境ポイペトを結ぶ路線の修復作業を続けているなど、鉄道整備が進められている。

(2)軍事政権発足後4年を迎えた5月22日、市民約200人がバンコクのタマサート大に集結、早期の選挙実施を求めたデモ行進を開始したものの警察により阻止された。政府は、総選挙を2019年2月に実施するとしているが、年内の選挙実施を求める声や再び先送りされるとの懸念の声があがっている。




(注)本資料は情報の提供を目的としており、何らかの行動を勧誘するものではありません。
投資等に関する最終決定は、お客様ご自身で判断されますよう宜しくお願い申し上げます。




情報提供:
三井住友銀行バンコック支店 SBCS CO., LTD.
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