タイ国経済概況(2023年3月)

1.景気動向
(1)国家経済社会開発委員会(NESDC)が2月19日に発表した速報値によると、2022年通年の経済成長率は前年比+2.6%で2021年の同+1.6%から加速。しかし、2022年第4四半期の成長率は前年同期比+1.4%で、前期(同年第3四半期)の+4.5%から大幅に鈍化した。観光客数の回復がプラス要因だったが、主に欧米向け輸出が振るわなかった。NESDCは2023年について前年比+3.0~+4.0%と予測していたが、今発表で+2.7~3.7%に下方修正した。2022年第4四半期の失業率は1.15%で、前期の1.23%からさらに改善し、新型コロナ前の水準に近づいた(2019年第4四半期は0.98%)。

(2)タイ工業連盟(FTI)の発表によると、2023年1月の産業景況感指数(TISI)は前月比+1.3ポイントの93.9で、新型コロナ前以来43ヵ月ぶりの高水準を記録した。FTIは内需拡大、消費財の好調、観光セクターの大幅回復、中国の水際対策緩和による対中輸出の増加等が景気回復に良い影響を与えていると指摘した。一方で、マイナスの影響として輸出量の減少、エネルギー価格の高騰、世界各国でのインフレによる景気減速等をあげた。また、業種別では45業種中27業種が上昇。企業規模別では、小規模企業が前月比+4.4ポイントの80.0、中堅企業が同+2.0ポイントの99.8、大企業が同▲0.8ポイントの100.8だった。

(3)FTIが2月21日に発表した1月の自動車生産台数は、前年同月比+4.0%の15.8万台だった。8ヵ月連続でプラスを記録した。内訳は国内向けが同▲0.4%の6.6万台、輸出向けが同+7.4%の9.2万台。新型コロナ前の2019年1月の生産台数18.0万台を下回った。また、1月の国内新車販売台数は同▲5.6%の6.6万台で、輸出台数は同+24.3%の8.7万台。新型コロナ前の2019年1月の販売台数が7.8万台、輸出台数が8.2万台であり、輸出台数は新型コロナ前の水準を上回った。

(4)FTIが2月21日に発表した1月の自動二輪車生産台数は、前年同月比+12.5%の23.8万台で、7ヵ月連続のプラスを記録した。2019年1月の生産台数は21.8万台であり、新型コロナ前と同水準だった。内訳は完成車(CBU)が同+14.6%の19.4万台で、完全組み立て部品(CKD)が同+4.0%の4.4万台。また、1月の国内販売台数は同+9.8%の15.9万台、輸出台数は同▲0.1%の4.2万台だった。2019年1月の販売台数が14.9万台、輸出台数が2.6万台であり、販売台数、輸出台数ともに新型コロナ前の水準を上回った。


2.投資動向
タイ投資委員会(BOI)は2022年の投資申請統計を発表し、新規申請額は6,646億バーツで前年比+38.8%となった。申請件数は同+41.4%の2,119件。産業別申請額では、サービス・インフラが最も多く2,013億バーツ、電子・電気機器が1,333億バーツ、機械・金属加工が1,322億バーツと続いた。このうち、タイ政府が重点産業とする「Sカーブ産業」に対する新規申請額は、前年比+40.0%の4,687億バーツだった。また、国・地域別の海外直接投資額では、中国が同+107.9%の774億バーツで首位、日本が同▲36.6%の508億バーツで二位、米国が同+72.5%の503億バーツと続いた。


3. 金融動向
タイ中央銀行(BOT)の発表によると、2023年の1月末時点で金融機関預金残高は24兆5,122億バーツ(前年同月比+4.2%)、貸金残高は28兆5,698億バーツ(同+3.9%)といずれも増加。また、1月25日にBOTは政策金利を1.25%から1.50%に引き上げた。

〈2月の回顧〉
(1)(為替動向)
2月のドルバーツは堅調に推移。月初、ドルバーツは32.80台前半でスタート。注目のFOMCでは市場予想通り政策金利の25bp利上げが全会一致で決定され、パウエル議長のディスインフレーションに関する発言を受けてリスクオフムードが改善し、32.60台半ばまで下落した。しかし、その後は米雇用統計やISM非製造業景況指数の強い結果を受けドル買いが加速し、33.70台後半まで上昇した。途中、日本政府が日銀総裁に元日銀審議委員の植田和男氏を起用との報道が流れると円高となり、連れる形でドルが下落する場面が見られるも、米消費者物価指数(CPI)やその他米経済指標が軒並み市場予想を上振れ、タイの2022年第4四半期GDP成長率が前年比+1.4%と市場予想を大きく下回ったこともありドル買いバーツ売りが継続。中旬にかけて34の大台に乗せる展開となった。下旬にかけても、タカ派なFOMC議事要旨や連日の強い米経済指標結果を受け、米金利上昇とともにドル買いが継続。月末に発表されたタイ経常収支は、20億ドルの赤字だったこともあり、ドルバーツはストップロスを巻き込みながら一時35.30台後半まで上昇し、結局35.30近辺で越月となった。

(2)(金利動向)
2月のバーツ金利は、全年限で上昇する展開となった。月初、注目のFOMCにてインフレ鈍化に関する指摘がハト派と受け止められ、世界的にに金利が低下。しかし、その後の米雇用統計やISM非製造業指数の強い結果を受け、米金利の上昇とともにバーツ金利も長期ゾーンを中心に上昇。発表された1月のタイ消費者物価指数(CPI)は前年比+5.02%と市場予想を小幅に下振れ、伸び率は9ヵ月ぶりの低水準となったものの、強い米経済指標に引っ張られる形でバーツ金利の上昇圧力は継続する展開となった。中旬、米消費者物価指数(CPI)の強い結果や、FED高官のタカ派な発言も金利上昇を後押しし、グローバルな金利上昇圧力は継続。途中、タイ中銀のマティー副総裁は、インフレ率が今年減速する可能性が高いとし金利上昇圧力が弱まる場面が見られるも、月末にかけて発表された強い米経済指標の結果を受け、インフレ再加速への懸念によるFEDの更なる引き締めへの思惑が意識される中、世界的に金利が上昇し、月末のタイ10年物国債利回りは2.58%台、同5年物利回りは2.19%台、同2年物利回りは1.89%台と、それぞれ前月末より+0.06%、+0.11%、+0.10%の値動きとなった。

(3)〈今後のイベント・見通し〉
先月は、連日の強い米経済指標の結果を受けソフトランディングあるいはノーランディングの可能性が台頭し、米金利の上昇とともにドルバーツは年初来高値を更新する展開となった。米国の利上げ長期化はある程度織り込まれてきている中、年始からの下げを全て戻したこともあり、今後ドルバーツは足許の上昇がどの水準で落ち着くかを探る展開となるだろう。なお、今月はFOMCおよびMPCの開催が予定されている。FOMCに関しては、25bpの利上げがマーケットコンセンサスであるものの、一部では50bp利上げの可能性も指摘されている。MPCにおいては25bpの利上げがコンセンサスであるものの、輸出額の減少が予測される中、政策金利を据え置く可能性も出てきている。かかる環境下、ドルバーツは下落しにくい地合いであり、引き続き下値の堅い値動きが継続するものと予想。ただし、中国経済の想定以上の回復によりバーツ買いが先行する可能性もあり要注意。


4.政治動向、その他
プラユット首相は、2月21日の閣議で3月初旬の下院解散の方針を伝えた。選挙は下院解散から45~60日の実施が憲法103条で定められており、先に選挙管理委員会が示していた5月7日が投票日となる見通し。ウィサヌ副首相が示した選挙日程によると、5月7日に総選挙、7月初旬に選挙結果公表、7月下旬に新首相指名、8月上旬に新政権発足となる。また、下院解散後は、新政権発足まで現在の内閣が選挙管理内閣として政権を担う。しかし新たに予算措置が必要となる事業の閣議承認等はできず、次期政権に委ねられる。



(注)本資料は情報の提供を目的としており、何らかの行動を勧誘するものではありません。
投資等に関する最終決定は、お客様ご自身で判断されますよう宜しくお願い申し上げます。

情報提供:三井住友銀行バンコック支店 SBCS CO., LTD.
 
 
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