忘却の彼方へ

ウエブ上のメモ

child abuse(子どもの乱用)な人間関係「欲求を満たす、満たされる役割」の逆転

2005年04月15日 | 福祉のプロとして
 虐待の英語はabuseである。abとuseの組み合わせでできているが、abは「離れた」「隔たった」との意味がある。useは「使用する」という意味であり、ふたつを合わせると「離れた使用」「隔たった使い方」ということになる。abnormal(アブノーマル)という言葉があるが、これとよく似ている。虐待の英語としては、かなりニュアンスが違うようだ。

 実はabuseは「乱用」として訳されることのほうが多い。alcohol abuse(アルコール依存症)、drug abuse(薬物乱用)などがそれである。child abuseのように「虐待」と訳されるのは例外なのである。ということで、child abuseは「子ども虐待」というよりは「子どもの乱用」とするほうが自然なのである。

 では、「子どもの乱用」とはどういうことか。わかりやすく言い直すと「子どもという存在の乱用」「子どもとの関係の乱用」といったほうがいいかもしれない。親が、子どものためにでなく、自分のために利用することを現すのである。普通は、親が子どもの欲求に応じたり制限を加えたりすることが親子関係の基礎であるが、乱用する親は、子どもの欲求や要求とは無関係に子どもと関係を持とうとする。つまり親が自分自身の欲求の満足を求めて子どもと関わるときに「子どもの乱用」が発生するのである。

 性的満足を得るために子どもを利用する例もあれば、早期教育が大事だと2歳から英語や九九を覚えさせて出来ないからとイライラして叩いてしまうような例も自分の欲求を満足させるため、子どもを乱用しているといえる。
 このことは、親子の役割の逆転と言える。「欲求を満たす役割」「満たされる役割」という観点からとらえると虐待をしている親子関係は通常とは逆転した役割関係になっているのである。
 このような逆転した親子関係の中で成長した子どもは、親元を離れてからも自分自身の欲求は犠牲にして常に他者の欲求を満たすことにエネルギーを使い、それができないと自分に存在価値を感じることができないなどの心理的な問題を抱えることも珍しくない。(参考 西澤哲著「子どものトラウマ」講談社現代新書)


虐待の第4のタイプ「心理的虐待」は子どもの存在自体の否定

2005年04月12日 | 福祉のプロとして
 西澤哲著「子どものトラウマ」講談社現代新書は、被虐待児への援助を行っている我々、あるいは一般市民にも理解しやすい内容でありおすすめだ。

 普通、虐待は4つに分類されている。身体的、性的、ネグレクト、心理的虐待がそれであるが、性的虐待については古くからその存在が認識されていたにもかかわらず、社会がその問題を黙認してきた虐待である。身体やネグレクトに比べると問題意識としてはあたらいい虐待になるのだが、真っ正面から取り組んでいなかったというだけで、この被害に遭っている児童の数は実は非常に多いという。

 心理的虐待は、定義自体が難しく、最近になって脚光を浴びてきたようなところがある。身体や、ネグレクトに比べ、命にかかわるようなことはあまりなく、表に出てきにくい虐待であるが、「おまえなんか生まれてこなければよかった」などの言葉に代表されるように、子どもの存在自体を否定するような言葉を言われ続けることにより、「自分は存在価値のない人間なんだ」と思ってしまう。身体的虐待のように身体へのダメージはないし、ネグレクトのように成長面での障害こそでないかもしれないが、心に与える傷はかなり大きいものがある。

 養護施設に入所する児童の多くは、心理的虐待を受けていると疑われるケースも多い。入所時の主訴は、別でも入所後の親子関係や児童を観察しているとわかるのである。

施設における事故について(3)損害賠償の実務

2005年04月07日 | 気になるニュースなど
1 行為と損害の確認をする
 行為の確定のため:行為者からの事情聴取、被害者からの事情聴取(これらは、聴取の時期、場所について配慮が必要)。目撃者からの事情聴取、物的証拠の保管、写真撮影(現場撮影)
 損害の確定のため:診断書をとる、物的証拠を保管する、写真撮影(被害品の撮影)
2 行為者の責任弁識能力の検討
3 故意、過失の検討
 予見可能性の有無(親権者、施設の長、職員のそれぞれの立場で予見可能性は異なるから、それぞれの予見可能性を個別に検討する)。
 結果回避可能性の有無
4 因果関係等で問題があれば、その検討
5 被害者の過失の検討
 損害が生じても損害発生につき被害者に過失がある場合には、過失相殺(民法722条)により、加害者側の損害賠償義務が一定限度減じられる。
6 加害者側の事前協議(親権者、施設の長、職員等)
 行為の確認、それぞれの過失についての見解の確認、責任割合の協議
7 被害者との示談協議
 私的自治の原則:示談の内容は示談当事者が納得すれば、違法な内容を含まない限りどのような内容でも有効である。
 過失(過失相殺を含む)についての見解は。はっきり述べる方がよい。

施設における事故について(2)不法行為の成立要件とは?

2005年04月03日 | 気になるニュースなど
民法上 ア故意又は過失による行為、イ権利侵害(損害)、ウ違法性、エ行為と損害との因果関係の4つが成立条件となる。
ア過失とは、注意義務違反である。これには、a)予見可能性を前提とした予見義務違反、b)結果回避可能性を前提とした結果回避義務違反である。
養護学校在学中の少年(9歳)が、校外学習の帰途、突然車道に飛び出して自動車にはねられて死亡した事件では、少年は校外学習に16回参加していたが、それまでに特に危険な行動がなかったこと、当日も特に変わった行動がなかったことなどから、職員の予見義務違反を否定する判決がでた(東京地判昭和60年2月14日)。
また、保育園児が園内で板きれを投げて、他の園児に負傷を負わせた事件では、平素から乱暴な振る舞いがある児童であり、保育園自体がその取扱いに苦慮していたほどであることから、本件加害行為を予想しえなかったことではないとして、職員の代理義務違反を肯定した(和歌山地裁昭和46年8月10日)。

施設における事故について (1)損害賠償の責任を負う者とは?

2005年04月02日 | 気になるニュースなど
施設現場においてもリスクマネジメントに取り組み、事故の未然防止に努めているが、もし、事故が起こった場合に損害賠償責任を負うことになる。先日、弁護士を講師に施設における事故についての学習会があった。

損害賠償の種類としては2つあり、ア契約上の債務不履行による損害賠償、イ不法行為に基づく損害賠償に分けられるが、主に施設現場で問題になるのはイの不法行為によるものである。
損害賠償の責任を負う者はa行為者本人、b監督義務者、c代理監督義務者である。

a行為者本人は、民法上は未成年者で「責任弁識能力」の無い者は賠償責任を負わないとされる。「責任弁識能力」とは、どういう責任があるかをわかる能力であり、11歳11ヶ月の少年に責任弁識能力を肯定する判決もあれば、12歳2ヶ月の少年についてそれを否定する判決もあるようだ。もちろん、精神の障害により「責任弁識能力」を欠く者は賠償責任を負わないとされる。
b監督義務者は、親権者、後見人、監護者、児童福祉施設の長とされる。監督義務者は行為者本人が行為責任を負わない場合に責任を負うことになるが11歳未満の児童の行為には当然として責任を負うことになる。ただし、未成年者が責任能力がある場合でも監督義務者の監督義務違反が認められれば不法行為責任を負うことになる。施設入所中の高校生が交通事故を起こした場合などは該当することもある。
c代理監督義務者は、例えば保育士や教員、施設の職員などが該当する。基本的には?の監督義務者と同様に考えてよいが、監督義務者(施設長など)が不法行為責任を問われることがなくても代理監督義務者(施設の職員など)が責任を問われることがある。なんでも上(施設長)が責任をとるものと思っていると、職員は痛い目に合うかもしれない。