発達障がい・こころのやまい

専門外ながら相談を受けることがあり、その際に読んだ本や集めた情報を書き留めました(本棚9)。

河野政樹先生による「発達障がい」WEBセミナー

2018-11-08 17:17:23 | 発達障がい
 河野政樹先生は「広島県立障害者療育支援センターわかば療育園」の園長先生です。
 WEBセミナー(2018.11.8)「発達障害の診療の意義と実際〜子どもの未来を笑顔で溢れたものにするために〜」を聞いてメモしたことを記しておきます。
 あ、私と同級生であることが判明!

 発達障害児は脳神経の髄鞘化の遅れのため「スロースターター」であることを知りました。
 5〜10歳時期ではいくら教えようと思っても脳が反応してくれない。この時期は叱ったりしないで自尊感情を傷つけないことが大切。
 10〜15歳では急成長するのでそこまで辛抱強く待つ。
 これは目から鱗が落ちました。
 この病態を知っているのと知らないとでは、療育の効果が違ってきそうです。

 それから、AD/HDに用いられる各薬物の特徴がおぼろげながらわかりました。
 インチュニブ®(グアンファシン)はAD/HDの要素を持った大人の統合失調症にも有効であることが最近報告されていますね。

<参考>
精神疾患の根っこは「外胚葉障害」

<メモ>

□ 障害のとらえ方〜日本と欧米の違い〜
 日本では子どもの中に障害があると考える
 欧米では子どもと社会の間に障害があると考える → そこに介入可能。

□ 治療効果の違い〜何を選択するかで成長の到達点が異なる
①なにもしない → 低い到達点
②薬物療法単独 → ①と③の間
③薬物療法+社会心理学的サポート → 高い到達点

□ DSM-V(2014年)では「発達障がい」は「神経発達症」(Neurodevelopmental disorder)という名称に変更された。

□ AD/HDの子どもは、忘れ物をしたくなくても忘れてしまう、授業中に立ち歩きたくなくても立ち歩いてしまう。
→ 本人が一番困っている。

□ AD/HDの併存障害(Jansen P, 1999)
AD/HD 単独:31%
AD/HD+反抗挑戦性障害(ODD):40%
AD/HD+不安障害・気分障害:38%
AD/HD+素行障害(CD):14%
AD/HD+チック障害:11%

□ 反抗挑発症(ODD)と素行症(CD)
・反抗挑発症(反抗挑戦性障害):著しく反抗的・挑戦的な子どもたち
・素行症(素行障害):犯罪行為を伴うもの
・「DBDマーチ」(斎藤ら)AD/HD → ODD → CDという時系列の流れ

□ AD/HDの薬物療法の選択方法
同じ多動・衝動性の症状でも、
・脳の過敏や興奮が主なのか
・神経伝達の不十分さが主なのか
により薬物の選択が異なる。

□ AD/HD治療薬の作用点の違い(Michael Huss, 2016)
コンサータ®:雑音を減らす
ストラテラ®:(間接的に)情報伝達を強化する
インチュニブ®:(直接的に)情報伝達を強化する

□ AD/HD児に集中力を維持させるための授業中の基本的配慮
・余計な音や動きが耳や目に入らないように環境整備
・大声・早口はダメ → 小声でゆっくりと
・注意してはダメ、褒めるべし
→ 子どもは注目してもらいたい・かまってもらいたいという気持ちがあり、注意すると「悪いことをすればかまってくれる」と理解し、褒めると「よいことをすればかまってくれる」と理解する。
・体を動かす授業
→ ジッとしていられないので、体を動かす指示を心がけると合法的に解消する。
・AD/HDだけではなく全体で同じことをさせる。
・衝動的発言に対して、無視するのではなく相づちを打つ
→ 無反応では反応するまで発言を繰り返す傾向あり、「フ〜ン」という程度でも落ち着く。
・注意するときは、(遠くから大声でなく)小声で近づいて行う。

最後の「注意するときは小声で近づいて行う」はヨーロッパでは既に子育ての常識として根付いているようです。

<参考>
□ 「イライラ育児が日本を出たら消えた


□ 成長の過程で、不注意に比べ、多動症状は軽快しやすい。

□ MPH徐放錠(コンサータ®)について
・中枢神経刺激薬
・MPHのヒトにおける作用機序は完全には解明されていない。
・脳内のドパミンやノルアドレナリンのトランスポーターに結合することで、シナプス間隙におけるこれらの神経伝達物質の濃度を増加背背、前頭部の脳機能を活性化させる作用を有する。
<主な副作用>
・食欲不振:33%
・初期不眠症:13%
・体重減少:12%
・腹痛:6%
・チック症:5%
・発熱:5%

□ アトモキセチン(ストラテラ®)について
・NRI:選択的ノルアドレナリン再取り込み阻害剤
・AD/HDに関連の深い前頭前野にはドパミンの再取り込み口(トランスポーター)がほとんど存在しない。そのため、ドパミンもノルアドレナリンのトランスポーターより再取り込みされる。するとノルアドレナリンのトランスポーターをふさぐことでドパミンの再取り込みも抑制できる。
→ 前頭前野におけるノルアドレナリン&ドパミン共に濃度上昇。
・効果の持続が長い
・効果発現まで2週間〜2ヶ月程度かかる。
<副作用>
・頭痛:22%
・食欲減退:16%
・傾眠:14%
・腹痛:11%
※ 海外のデータで自殺念慮、攻撃的行動増加の報告あり。

□ AD/HDでは局所的な皮質(主に前頭前皮質中部)の成熟に遅延が見られる
・・・最大約2年の遅延、それは髄鞘化の遅れの可能性(西英一郎、生化学第92巻第10号、2010)

□ AD/HD児への望ましい対応 → スロー・スターターであることを理解して介入する
・5〜10歳:伸び悩みの時期:他児はできるようになるが、AD/HD児は努力してもできない。
→ 自信を失わせないよう「褒める習慣」を作ることが大切。ここで叱ってばかりいると自尊感情・自己肯定感が育たず、急成長期を迎える前につぶれてしまい、ODDやCDに陥りがち。
・10〜15歳:急成長の時期:他児は伸びきってしまっているため、せっかくできるようになったことも当たり前と捉えられがち。
→ その子にとっての伸びを喜び、チャレンジを促す。

□ 何を褒めたらよいのか?
・何をしたか(Doing)で認めるのではなく、その子の存在そのもの(Being)を認める。
→ すべての子育てに共通することです!

□ 自尊感情・自己肯定感が育たないとどうなるか?
〜傷ついた心は2つの方向に;
① 怒り・反抗・暴力
② 抑うつ・不安・身体症状
〜どちらもボロボロの心を守るための防衛反応

□ 河野先生の施設でのインチュニブ®(グアンファシン)の使用経験
・有効(著効34%、効果あり49%)、中断例21%(理由として眠気が多かった)
・ODD(反抗挑発症)例で有効
・ASD合併例の多動、衝動性、注意散漫に効果あり

□ インチュニブ®(グアンファシン)の使い方
<適した症例>
・ODD(反抗挑発症)合併例・・・3〜8週間で反抗症状を有意に抑制
・ASD合併例
・興奮の強い例は効果あり
・もともと日中眠気のある例は適さない
<導入した印象>
・多動症状の著明改善例が多い
・学習面での改善や忘れ物の減少など不注意症状の改善例もある
・24時間効果が続くため、朝の支度でトラブるケースや夜間学習ができないケース、学校では落ち着いているが家庭では落ち着かないケースでも有効
・反抗挑戦症は著効例が多い

□ 脳の構造的要因ー前頭前皮質の障害−(Arnsten AF, 2009)
・DMPFC:背内側前頭前皮質 → 現実検討能力、エラーモニタリング
・DLPFC:背外側前頭前皮質 → 【注意】注意・思考のトップダウン式制御
・rlPFC:右下前頭前皮質 → 【行動】不適切な行動の制御
・VMPFC:腹内側前頭前皮質 → 【感情】感情の調整

□ 薬物療法導入の際は本人に説明して同意を得ることが大切
・薬効を説明し、「この薬はあなたを褒めてもらうために飲む」ことを本人に伝えて同意を得る。
・剤型も本人と相談しながら行う。

□ カウンセラーが発達障がいを理解できない理由
・カウンセラー自身がコミュニケーション・パターンの成り立ちを知らないため、カウンセリングができず保護者を叱ってしまったり、子どもの言い分に沿いすぎて「今のままでいい」と誤解させてしまう危険性あり
→ 発達障がいコミュニケーション指導者養成+カウンセリング技術習得(AMWECで認定)

□ AMWEC(日本医療福祉教育コミュニケーション協会)で学べること
・発達障がい(神経発達症)に対する医学的に正しい知識の習得
・コミュニケーション技術の向上
・発達障がいコミュニケーション指導者育成(初級・中級・上級)
・コミュニケーション検定(1〜5級)
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