“子ども”を取り巻く諸問題

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「自閉スペクトラム症」の人を取り巻く困難さ

2018年02月13日 06時55分06秒 | 発達障害
 近年、「自閉症」「高機能自閉症」「アスペルガー症候群」「広汎性発達障害」などの病名が「自閉症スペクトラム」という表現に統一されました。これらの病態にはハッキリ分けられる境界線が存在せず、連続的なものであることがわかってきたからです。
 そして、この疾患は他人事ではなく身近です。
 ちなみに、東大生の4人に1人はアスペルガー症候群であるとTV報道で耳にしたこともあります。
 どんな風に捉えるべきか、参考になる記事を紹介します;

※ 下線は私が引きました。

■ 「自閉スペクトラム症」の人を取り巻く困難さ
2018/2/12:東洋経済)備瀬 哲弘 :精神科医
 近年、テレビや新聞、雑誌などで「大人の自閉スペクトラム症」が取り上げられることが増えました。実際、自閉スペクトラム症(以下、ASD:Autism Spectrum Disorder )は「10人に1人は抱えている」とも言われています。
ではASDとは、いったいどのような症状を言うのでしょうか。『大人の自閉スペクトラム症』を刊行し、職場での深刻な現状を豊富な事例とともに取り上げた精神科医・備瀬哲弘氏にお聞きしました。

◇ 自閉スペクトラム症は、もはやひとごとではない
 筆者のところには“生きづらさ”を感じている人たちが多く診察に訪れます。そして生きづらさの原因を探し求める過程で、「ASD」に行き着く人が実に多いのです。
 ASDとは「従来は自閉症、アスペルガー症候群、高機能自閉症などを含む広汎性発達障害と包括されていた疾患を、知的レベルや特性に強弱はあるが、その基本的な特性によって連続している(スペクトラムは連続帯と訳される)ととらえ直した概念」のことです。
 ASDの特性としては、空気が読めず、思ったことをすぐ口に出し、その結果として相手をすぐに怒らせる、極端にこだわる、落ち着きがない、同僚との雑談が苦手などを挙げることができます。ただ、程度の差こそあれ、少なくともこれらの特性の1つは、誰にでも当てはまるかと思います。
 ではASDの人は、生きるうえで「どう困っているのか」「何が生きづらくさせているのか」、4つのケースを紹介します。

 30代女性事務員のBさんは、子どもの頃から余計な一言をつい言ってしまい、人を怒らせたり、不愉快にさせたりしてきました。年を重ねるにつれ、言葉をのみ込めるようになってきているとはいうものの、それでもうまくいかないことのほうが多いとのことです。また、空気が読めず、場の雰囲気を乱すようなことばかりしています。Bさんはよどみなく話すことができますが、どこかまくし立てるように、せわしなく話す印象を受けます。

 40代男性会社員のIさんは、幼い頃から内気で引っ込み思案な性格です。興味があることに没頭すると周りの状況が見えなくなり、ほとんどの時間を一人で過ごしてきました。就職してからは、人付き合いやコミュニケーションが不得意ということで、上司や同僚、後輩たちからも、「付き合いが悪い」「空気が読めない」「コミュ障(コミュニケーション障害)」などと、叱責されたり、陰口を言われたりすることが続いています。

 10代女子大生のEさんは、他人の心情を想像するのが苦手です。そのため自分が“わからないこと”を質問すると、かなりの頻度で相手に誤解されてしまいます。相手を責められているような気持ちにしたり、相手が怒り出したりするのです。それでもただ単にわからないから聞いているだけなので、なぜ誤解されてしまうのか、わからないのです。

 20代男性会社員のRさんは、子どもの頃から人間関係が苦手で、トラブルになることが多々ありました。自分は間違ったことを言っていない、と思っても、相手が怒り出すというのです。これまでの経験から、自分が主張を曲げないことで相手を怒らせることが多かった、と自覚をしているので気をつけているのですが、社会人になってからもトラブルが続いています。弟がASDという先輩の勧めで、私のところに受診しにきました。

 このように多くの人が持っている特性だとしても、ASDの人はその度合いが強いために問題となってしまい、生きづらさを感じているのです。

◇ 誤解を解いていくことが”生きづらさ”を解消するカギ
 大人のASDの人の生きづらさの原因の1つは、周囲の人たちから「誤解され続けている」ということです。
 彼らは、事実とは異なる誤った理解に基づいて、実際よりもネガティブな評価を下される可能性が高い状況にあります。筆者は、周りの人が彼らに対して冷淡な視線を向けたり、素っ気ない態度を取ったり、面倒くさそうな口調になってしまうのではないかと心配になることがあります。
 彼らは幼い頃から、接する人のほとんどから誤解を受け続けていることも少なくないため、生きづらいと感じたとしても、なんら不思議ではありません。
 これは、なにもASDの人だけの問題ではありません。周囲の人にとっても、大きなストレスになります。事情がなんであれ、人にネガティブな態度で接し続けることは、不快な気持ちになるからです。これも、生きづらい状態に違いないのです。
 お互いの生きづらさを解消するために、できるだけ誤解を解いていくことが必要です。つまり、お互いをより適切に理解していくことが大切です。
 ASDは生来の「特性」であるため、本人の努力が足りなかったり、親のしつけが悪かったわけではありません。このことが十分に理解できたとしても、不快な気持ちにさせられると、お互いに理解するのは不可能、と思われる方も少なくないでしょう。その気持ちは、よくわかります。
 それでも私は、コミュニケーションを取る前からあきらめることなく、繰り返しコミュニケーションを取ってほしい、と願わずにはいられません。その積み重ねによって、想像もできなかったほどよい状況になっていくことがあるからです。
 ASDの特性は、ネガティブなものばかりではありません。特定の分野では、ほかの多くの人が到底及ばないほどの高い能力を発揮し、偉業を成し遂げる人も珍しくないのは、広く知られている事実です。
 また、たとえ偉業と呼ばれるほどでない場合でも、ASDの特性がある自分の「ありのまま」を理解し、受け入れ、周囲の人にも「ありのまま」を理解してもらうことで「生きやすさ」を感じるようになった人は数多くいます。
 ASDの特性は、基本的に生涯持続します。ただ、生きづらさは生まれ持ったものではありませんし、生涯その状況が持続するとは限りません。たとえいま生きづらいと感じていても、これからの未来に「生きやすさ」を感じられるような「変化を起こす」ことは、いまからでも、誰にとっても可能なことなのです。

◇ 無理のない「共助」が持続的なサポートにつながる
 では、具体的にはどうすれば変化を起こすことができるでしょうか。
 大人のASDに対するサポートは、ASDの人の「自助」、つまり、他人の力を借りることなく、自分の力で切り抜けることの割合が高くなります。「大人」ですから、自分で解決すべきと期待されやすいからです。
 ただ、ASDの人は、自分自身を客観的に見ることが苦手です。また、社会的コミュニケーションが苦手という特性があります。「他者の心情を適切に想像すること」が苦手なために生じている問題です。自助だけで不十分な場合は周囲からのサポート、つまり「共助」が必要で、重要なウエートを占めることになります。
 たとえば、職場でASDの人が心掛ける「自助」として、先輩や上司の評価基準や価値観についての情報を収集することが挙げられます。情報収集の方法としては、先輩や上司が自分以外の他者と接している時の様子をよく観察するという方法があるでしょう。
 「ああいうふうに振る舞えば、上司が怒り出すことはないのだな」と、観察をして評価を下げないような言動を探っていくわけです。
 さらに、先輩や上司から注意を受けることへの対処法がわからずに悩んでいるのなら、改まって相談をして、意見を仰ぐのもいいでしょう。「相談に乗って話を聞いてくれる」とか「アドバイスをしてくれる」などのサポートが得られる可能性も出てくるからです。すなわち、ASDの人が「共助」を得る可能性を高めることにつながるわけです。
 たとえば、「あの人は、進捗状況を子細に把握していないと不安になってきて、それでお説教が始まるから、細かく状況報告をするといいよ」「指示された内容だけでなくて、全体の状況を踏まえて資料を用意していることをアピールすれば、安心してもらえるし評価もよくなるよ」という具合に、ASDの人が自ら相談をしてみることによって初めて、具体的な対処法を助言してもらえる可能性が出てくるわけです。
 当人が繰り返し取り組み続けているからこそ、周囲の人も、あれだけ苦労しているのなら何か協力したい、という気持ちが自然と湧き上がってくることもあります。
 このような状況になってくると、ASDの人本人にとっても、周囲の人にとっても、生きづらさが軽減する可能性が高まるのではないでしょうか。


 日本人特有の「言わなくてもわかってもらえる」「空気を読む」スタンスを捨てて、鉄道員の指さし確認のように、コミュニケーションを取りつつ、一つ一つの段階を確認しながら物事を進めていくというスタンスが必要と思われます。
 自閉症者には「日本語が第二外国語のように聞こえる」そうですが、それをヒントにして、ASDの方を「外国人と同じように捉えて理解を求める、丁寧に説明する」ようにしたらうまくいくかもしれません。