“子ども”を取り巻く諸問題

育児・親子・家族・発達障害・・・気になる情報を書き留めました(本棚4)。

普通の人が親を殺す「介護殺人」の悲劇

2017年12月21日 07時47分22秒 | 家族
 この記事を読んで、「介護殺人」と「子ども虐待」は構図が同じであることに気づきました。

■ 介護生活敗戦記・前編 〜普通の人が親を殺す「介護殺人」の悲劇
2017年12月21日:日経ビジネス
■ 介護生活敗戦記・後編 〜「介護殺人」の本と番組に寄せられた意外な反応
 NHK大阪放送局報道部チーフ・プロデューサー 横井秀信氏
2017年12月22日:日経ビジネス


・事を起こすのは「ふつうの人々」で、むしろ真面目で責任感が強い人が追い詰められがち。
・介護する側(子どもを育てる側)の社会的サポートが不十分。
・第三者の介入がポイント。
・社会全体で支えるシステム構築が早急に必要。

 それから「予防医学のパラドックス」の対話部分を興味深く読みました。
 この内容は予防接種にも共通していると感じたからです。

(横井)私、松浦さんの本で、お母様との介護もさることながら、「予防医学のパラドックス」という視点から、社会の分断に対する警鐘を鳴らしているのがものすごく腑に落ちて(『予防医学のパラドックス』が教える認知症対策)。「適者生存」的な考え方は、実はまったく科学的ではないということがよく分かり、すごく勇気というか力を得るというか、あ、こういうことなんだなというのを納得しながら読ませていただきました。

(松浦)ありがとうございます。病気の人に対して集中的に対策を打つより、社会全体がやんわりと努力して対応する方が、ずっと効率がいい。そう考えると、ものすごく評判の悪かったメタボ健診、あれも正しいんですよね。一人ひとりが、太りすぎない、栄養バランスに気をつける、といった小さなことに気をつければ、全体では医療費が大きく圧縮できる。でも、個人ベースに落としこむと「俺が好きな時に好きな飯食っちゃいけないのか」みたいな反応を喰らいがちです。
 よく言う例ですが、社会が禁煙に動けば、周囲の人間を含めて全体の発がんリスクが下がることは間違いない。一方で、タバコを吸ってもがんにならない人がいるし、吸わなくてもがんになる人はいる。社会全体では間違いなく効果があっても、個人にとって、運が良いか悪いかだからです。
 個々の人間が気をつけたら、確実に社会全体で認知症の患者は減る。けれど、特定の個人が発症するかどうかは確率次第で、「努力すれば発症しない」とは絶対に言えない。努力しても確率が下がるだけなので、結果として運が悪いと発症することがあり得る。

(横井)そうですね。でも、困っている人を社会全体で支える、という正論が、きれい事じゃなく、科学的、合理的なんだというところがすごく響いて、「辛い人を生まないために、社会全体が動くのが最もコストが安い」と納得できる。これはとても支えになります。


公共の場での授乳はOK?

2017年12月19日 16時40分18秒 | 育児
 他人の前で授乳できない動物はヒトだけでしょうね。
 でも、裸で過ごす民族は、たぶん人前でも授乳すると思われます。
 胸を隠してしまったがために、胸を見せる授乳もできなくなってしまった現代社会のジレンマ。

■ 公共の場での授乳はOK? 赤ちゃん目線で考えると……
2017年12月19日:朝日新聞
 赤ちゃんを職場に同伴したり、公共の場で授乳したりすることについての議論が活発です。女性の社会進出や母親の権利として語られることも多いですが、先月都内で開かれた集会では、赤ちゃんが食事をする権利という視点も、投げかけられました。
 「生後間もない乳児の胃袋の大きさはサクランボ大、生後1カ月でようやくたまご大になるんです」「胃袋が小さいのですぐにおなかがすいてしまい、いつ泣き出すか分からない。生後1カ月だと、1日18回飲むのが当たり前の子どももいる」
 11月上旬、東京・渋谷で開かれたトークイベント「全日本おっぱいサミット」。産婦人科医の村上麻里さんが話すと、会場に集まった約150人が聴き入った。
 さらにジャーナリストの津田大介さんは、授乳は子どもの食事とし「赤ちゃんがちゃんと授乳されること、それもひとつの人権」と話した。
 すでに海外では「子どもの事情」も踏まえた仕組みになっているところがある。
 授乳に関する著書があるカウンセラーの本郷寛子さん(58)によると、米国の多くの州や台湾、英国、豪州など、公共の場での授乳が法律で保障されている国々では、乳を飲む「子どもの権利」としても捉えられているという。国連『子どもの権利条約』24条「健康・医療への権利」などが根拠になる。本郷さんは「日本では公共の場や職場で授乳をすると、その場を私物化しているかのように語られがち。授乳を我慢すると母親も乳腺炎になる場合があり、母子の生理として待ったなし、ということが理解されていない」と話す。
 豪州では昨年、連邦議会の議場内での授乳が認められ、今年、実際に授乳した議員も出た。
 1984年に公共の場での授乳が法律で守られるようになったが、現実にはその後も「授乳をしていると、人目につかない場所へ移動しなさいと言われ、多くの母親はトイレへ行くくらいしか選択肢が無かった」(本郷さん)という。そのため90年代に、男性がトイレの個室で食事をしているイラストが描かれたポスターによるキャンペーンが行われた。「You wouldn’t eat here. So why should a baby?」(あなたは、こんなところで食事しようとはしないですね。なぜ赤ちゃんはそうしなければならないの?)と問う、現・オーストラリア母乳育児協会の試み。その後、徐々に理解が広がっていった。

■「出産や授乳の事情、学ぶ機会も必要」
 イベントを企画したライターで3人の子の母ちかぞうさん(43)は、ひと昔前まで子育てや授乳は日常にある当たり前の光景で、結果として赤ちゃんの権利も守られていたのでは、と感じている。「いち母親としての本音は、多くの人がストレス無く授乳を受け止めてくれること。否定的な意見を『不寛容だ』と断罪したり、母親を『ワガママ』だと決めつけたりする議論では問題解決にならない。必要なのは相互理解です」
 催しには、普段子どもと接していない人にこそ参加して欲しいと考えた。様々なテーマで発言を続ける男性ジャーナリストの津田さんや、乳房を写した作品が多い写真家の伴田良輔さんに出演を依頼したのも、色々な人に関心を向けてもらいたかったからだ。
 会場では体の仕組みや、外出先の授乳で苦労した体験談を紹介するなど、母子の実態に理解を深める一方、不妊治療中の女性にとっては、人の授乳をみるのはつらい場合があるなどと言及した。
 イベント終了後、子を持たない30代後半の女性は「赤ちゃんの欲しがるときがおっぱいの必要な時など、お母さんの思い通りにならないことを初めて知った。授乳服を使うなど互いに配慮や気遣いができれば」と話した。
 出産ジャーナリストの河合蘭さん(58)も、少子化やきょうだいが少なくなって育児を目にする機会が減るなか、他人の授乳に「ぎょっ」とするのは「自然な反応で、現代社会ではやむを得ない」と話す。日本助産師会が大学などで出張授業を行う例があるが、学校教育に出産や授乳の実情を学べるカリキュラムを設けるなど「理解を深める機会がもっと必要では」と提案する。

育児放棄は胎児期プロラクチン不足が原因? 

2017年12月19日 16時34分33秒 | 育児
 育児放棄(ネグレクト)の原因は、ホルモンの影響(胎児期のプロラクチン不足)だという驚くべき報告を紹介します。

■ 育児放棄はホルモン不足が原因? マウスで解析
2017年12月18日:朝日新聞
 育児放棄(ネグレクト)は胎児期のプロラクチンというホルモン不足が原因とする研究を、高崎健康福祉大の下川哲昭教授らがまとめた。研究はマウスを使っておこなわれたが、今後、人における出産後の育児行動や、育児放棄を防ぐための研究が進む可能性がある。
 下川教授らの研究は、米国科学アカデミー紀要のオンライン版に掲載された。出産数も乳腺の機能も正常でありながら、子育てに興味を示さないネグレクトマウスを解析した。
 まず、ネグレクトマウスの卵管に正常マウスの胚(はい)(受精卵が分割したもの)を移植し、正常マウスの卵管にはネグレクトマウスの胚を移植した。すると、ネグレクトマウスの代理母から生まれた正常マウスは育児放棄率が高く、正常マウス代理母から生まれたネグレクトマウスはすべてが正常な育児行動をとった。
 これらのことから遺伝子よりも胎児期の環境が強く影響すると考え、乳腺の発達や授乳などの母性行動に影響する脳下垂体ホルモンのプロラクチン濃度を測定した。その結果、妊娠後期でネグレクトマウスは正常マウスに比べ著しく濃度が低かった。
 さらに、妊娠後期にプロラクチン分泌が低下しているネグレクトマウスにプロラクチンを投与したところ、生まれたマウスたちは正常マウスと同程度の育児行動をとったという。
 下川教授は「2010年に大阪で起きた2児放置死事件に衝撃を受け、研究を本格化させた。今後、人における母親自身の胎児期環境という視点での研究や、ホルモン療法によるネグレクト回避のための研究の進展が期待できる」と話している。


「日本一醜い親への手紙」

2017年12月19日 06時12分27秒 | 育児
 あれ、この本の題名、見たことある・・・実は20年前にも発行されていました。
 つまり、20年経っても、問題は解決していないということですね。

 哺乳類の子どもは、愛情をたくさんたくさん必要とする生き物です。
 愛情無しには、体は大きくなっても、心が育ちません。

■ 虐待した親へ…「日本一醜い親への手紙」本に
2017年12月17日:朝日新聞

 親から虐待を受けて育った100人の手記をまとめた「日本一醜い親への手紙 そんな親なら捨てちゃえば?」が10月に出版された。「ありがとう」とは言えない親への思い、大人になっても癒えない心の傷などがつづられている。
 冬はご飯も食べさせず、服がビリビリに破れてほぼ裸の私に頭から水をかけ、外に放り出したね。お父さんにも殴られ、髪を引っ張られ、ふり回されて首を捻挫。すごく悲しかった。
 「鈴鳴うた猫」というペンネームで、こうした体験を手記にした女性(29)に取材した。九州出身で、現在は神奈川県に住む。
 妹たちは母と一緒にお風呂に入るのに、長女だった女性だけは「お前はくさいから、お父さんに洗ってもらえ」と、20歳まで父と入浴させられた。小学生の時、祖父から性器に指を入れられる性的虐待も受けたが、「誰にも言っちゃいけない」と思い込んでいた。
 中学生になると、自分の指先や手首をカッターで傷つけるようになった。高校1年生の3学期、学校に行けなくなった。うつ病の症状だったが、親は「甘えだ」と言った。パジャマ姿で庭に放り出された。「学校に行けない私が悪いんだ」と自分を責めた。
 大学卒業後、親からは地元の公務員になるよう言われた。でも、こっそり神奈川県内の自治体の公務員試験を受けた。合格を知った親は、「落ちればよかったのに」と言った。
 25歳で親元を離れた。信頼できる主治医にも出会え、今春、結婚もした。でも、トラウマは消えない。親に怒られる幻聴は最近も聞こえる。「夜中に包丁を取り出していた」と夫に教えられることもある。
 手記を募集していることをツイッターで知り、「親と向き合ってみよう」と思った。親への「手紙」を書いてみて、「少しだけ、つきものが落ちたような感じ」がしたという。「虐待を虐待として受け止める機会がなかなか無かったので、すごく良い機会になった」。ただ、親の反応が怖いので手紙を送るつもりはない。「親が好き」という気持ちも、親を責めたくない気持ちもある。
 子どもの時、自分の虐待に気づいてくれる大人はいなかった。「子どもたちがこんな風に感じて生きている現状があることを知ってもらいたい」と願う。
 手記には、今後の人生への決意も込めた。

 私は必ず生き抜いてみせます

■編集者「まず現実を見て」
 出版を企画したのは、作家で編集者の今一生(こんいっしょう)さん(52)。1997年にも「日本一醜い親への手紙」を出している。当時、親への感謝をつづった手記本がベストセラーになる中、「親に『ありがとう』と言えない育てられ方をした人の声に耳を傾けたい」と考えたのがきっかけだった。
 最初の出版から20年たったが、児童虐待はなくならない。「社会の仕組みを変えるきっかけにしたい」と、再び手記を募った。暴力や性的虐待のほか、親が浪費して学費を積み立ててくれなかったり、極端な信仰を押しつけられて精神的に追い詰められたりしたことなど、さまざまな体験や思いが寄せられた。
 「平穏のため、今後も絶縁し続けます」と書いた人もいれば、「ずっとさみしくて、かなしいんだよ」という人もいる。親への思いはさまざまだ。「周囲から見たら『親を捨てちゃえば?』と言いたくなるけど、捨てても捨てなくてもいい。それを決めるのは、あなただよ」との思いを込めて副題をつけた。
 今さんは「子どもへの虐待は、大人がやり過ごしてきた宿題。まず現実を見て」と話す。虐待を防ぐには親への支援が必要だと言われるが、「子どもも支援すべきだ。自分がされていることが虐待なのか、最低限守られる人権は何か、教えられないまま大人になっていくのはおかしい」と問題提起する。dZERO刊。税別1800円。


「若いママの輪に入れない」 アラフォーママ

2017年12月10日 18時31分29秒 | 母親・女性学
 子どものではなくお母さんのお話です。
 この時代、さもありなん、ですね。

■ 「若いママの輪に入れない」 アラフォーママ、悩み共有
2017/12/10:カナロコ by 神奈川新聞
 35歳以上で初出産した「アラフォーママ」のネットワークが広がりを見せている。女性の社会進出を背景に晩婚化や晩産化が進む一方、「若いママの輪に入っていけない」「地域に同世代の友達がいない」などと感じるアラフォーママは少なくない。介護、体力の低下、将来への不安…。同じような課題に直面する母親たちがつながり、悩みを共有しようという動きが、県内でも始まっている。
 6日、横浜市港北区の菊名地区センター。「港北アラフォーママの会」の初めての交流会が開かれた。集まったのは、1歳7カ月の長女を連れた横浜港北エリアリーダー・中尾愛子さんと4組の親子。子どもは生後5カ月から2歳半まで、母親は30代後半~40代前半だ。
 「若いママたちがジャニーズの話をしていて、ついていけなかった」「(ママ友に)年齢を教えたら敬語を使われるようになり、ショックだった」
 初対面ながら思い思いに語り合った参加者。共通するのは会社や学生時代の友達の中にアラフォーママはいるものの、自分の地域にはあまりいない点だった。こうした会を待ち望んでいた、との声も聞かれた。
 「(周囲より)年齢が上ということもあり、介護や子育てに不安を感じることもある。皆さんでつながり、交流していけたら」。中尾さんは呼び掛けた。
 晩婚化や晩産化が進む昨今。厚生労働省の人口動態統計によると、1980年の平均初婚年齢は夫27・8歳、妻25・2歳だったのに対し2013年は夫30・9歳、妻29・3歳。母親の第1子出生時平均年齢は80年の26・4歳に対し13年は30・4歳と、やはり上昇傾向にある。
 こうした中、奈良県で誕生した「アラフォーママ・ネットワーク」。両親が高齢のため育児を手助けしてもらえない、教育費がかかり続け自分の老後の資金が不安…など、アラフォーママならではの悩みを打ち明けられる場をつくるのが狙いだ。趣旨に賛同した人がエリアリーダーとなり、地域ごとに交流会を開くなどしている。中尾さんによると、県内では現在、横浜市都筑区と港北区で活動が展開されているという。
 「介護や更年期など今後、直面する課題もあると思うので、いろいろな人からアドバイスをもらえたら。職場復帰するママも多いので、要望があれば土日の開催も検討したい」と話している。

自閉症の機序に迫る点鼻薬が治験へ

2017年12月08日 11時01分18秒 | 子どもの心の問題
 自閉症を薬で治療する時代が来るのでしょうか?

 現在自閉症の一因として「15番染色体異常」「脳内セロトニン減少」などが明らかになっており、そのモデルマウスを使ってセロトニンを増やす薬(選択的セロトニン再取り込み阻害薬:SSRI)を治験研究が進行中。
 さらにオキシトシン点鼻薬も他者への信頼感が高まったり社会的相互作用を促進する効果があることが分かり、ASD研究への応用が示唆されています。
 近年では腸内細菌叢との関連も検討されているようです。

■ 自閉症の機序に迫る点鼻薬が治験へ 〜発達期の脳内セロトニンやオキシトシン、腸内細菌が関与
2017.11.30:日経メディカル
2017/11/30 塚崎 朝子=ジャーナリスト
 社会的コミュニケーションや想像力の障害、こだわりを主徴とする自閉症スペクトラム障害(ASD)。いまだ原因不明の発達障害で治療法も確立していないが、最近の研究で神経伝達物質のセロトニンやオキシトシン、腸内細菌の関与が明らかとなり、発症の根本に迫る薬剤の開発が進んでいる。
 今年6月、理化学研究所脳科学総合研究センターと日本医科大学の共同研究グループは、モデルマウスを使った実験で、発達期における脳内セロトニンがASDの発症メカニズムに関与する可能性が明らかになったと発表した。この結果は、 米国科学振興協会(AAAS)が発行する『Science Advances』(Sci Adv. 2017 Jun; 3: e1603001.)に掲載された。
 ASDは、他者の意図を直感的に汲み取ることが苦手で、相手や場の状況に合わせたふるまいができないといった対人コミュニケーション障害を主徴とする代表的な発達障害で、有病率は100人に1人と患者数は比較的多い。発症には遺伝的素因が関係し、行動パターンによって診断されたASDの40~60%が遺伝性とされ、異なる遺伝子異常の疾患群が混在していると考えられている。

脳内セロトニンの減少が発症に関連
 ASDの発症に関与する幾つかのゲノム異常が突き止められており、ASD患者には15番染色体において重複異常が頻出している一群があることが知られている。また先行研究で、ASD患者の脳内においてセロトニンが減少することが示されているが、これらの異常が発症に関連するメカニズムは明らかではなかった。
 研究グループは、まずヒトの15番染色体重複と同じゲノム異常を持つモデルマウスを作製した。ヒトでもマウスでも、セロトニンは中脳にある神経核の1つ、縫線核のセロトニン神経細胞から放出される。PETイメージングにより、このモデルマウスの脳活動を測定したところ、縫線核の活動低下を確認した。また、セロトニン神経細胞に対する電気活動では興奮性の入力が低下しており、脳内セロトニン神経機能の低下が示唆された。さらに、感覚刺激応答の実験で、ヒトのASDとの相同性を確認した。
 出生直後からセロトニンが減少しているこのマウスに対し、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)のフルオキセチン(国内未承認)を、生後3日齢から離乳(生後21日齢)まで長期間投与したところ、体性感覚皮質の抑制性入力および、縫線核のセロトニン神経への興奮性入力が改善し、脳内セロトニン量が回復した。
 さらに15番染色体重複モデルマウスにみられる社会性行動異常が、セロトニンを増やす療法によって改善するかどうかを行動試験で調べたところ、フルオキセチンを投与した仔マウスでは、鳴き方の発達の遅れ(コミュニケーション障害)が改善した。また、空間学習に基づく繰り返し行動異常は改善しなかったものの、社会性の行動指標(社会性相互作用)は改善した。
 研究責任者の1人、日本医科大学大学院医学研究科薬理学分野教授の鈴木秀典氏は、「発達期におけるセロトニンの重要性を示しているだけでなく、脳内セロトニンがバイオマーカーとなり、発達期に不足しているセロトニンを増やすことの有用性が示された」と話す。
 現在、非定型抗精神病薬のリスペリドンとアリピプラゾールに「小児期の自閉スペクトラム症に伴う易刺激性」への適応が承認されている。成年期以降ASDにおいても、二次的なうつ気分や社会不安障害、強迫性障害などを併発している場合にSSRIなどの抗うつ薬が投与されることがあるが、ASDの中核症状を改善する科学的根拠がある根本的な治療薬はない。 
 鈴木氏らの研究成果から、SSRIが発達期におけるASDの根本的な治療薬となる可能性も示唆されるが、SSRIは副作用リスクも高く、小児に対する安全性は確立していない。鈴木氏は「発達期にセロトニンを増やすことの有用性を証明することが研究目的であり、SSRIはそれを示すための手段にすぎない。薬によらず、欠乏しているセロトニンを増やすための食事や環境などがあれば、理想的だ」と語る。

オキシトシンが社会的な相互作用を促進
 ASDは、DSM-5(米精神医学会の精神疾患の診断・統計マニュアル第5版)に基づき、
(1)社会的コミュニケーションおよび社会的相互関係における持続的障害
(2)限定された反復する様式の行動・興味・活動
──の2つの中核症状で診断がなされるが、この中核症状をターゲットとしたオキシトシン点鼻薬の開発が始まっている。
 神経ペプチドであるオキシトシンは、視床下部の室傍核と視索上核の神経分泌細胞で合成され、下垂体後葉から血中に分泌されるホルモン。よく知られた作用は、妊娠末期の平滑筋収縮や乳汁分泌促進であり、陣痛促進のための注射剤「アトニン」が国内でも製剤化されて販売されているが、点鼻薬は欧州でのみ授乳促進の目的で用いられている。
 オキシトシンは動物において、雌雄のつがいの絆など社会的な相互作用を促進させることも報告されている。2005年にヒトに投与することで他者への信頼感が高まったり社会的相互作用を促進する効果があることが分かり、ASD研究への応用が示唆されていたNature. 2005;435:673-6.)。
 当時、東京大学精神神経科准教授だった山末英典氏(現・浜松医科大学精神医学教授)は、それに注目した。ASD当事者にオキシトシン点鼻薬を連続投与する試験を行い、対人場面に表れる中核症状が改善すること、さらにこの症状改善が脳の機能改善を伴うことを世界で初めて実証し、2015年に報告している(Brain. 2015;138:3400-12.)。「ASDは男性に多い。オキシトシンは女性で豊富で働きやすいホルモンだが、男女を問わず脳内にオキシトシン受容体が多く分布しており、ASDの病態解明だけでなく改善に使えないかと考えた」(山末氏)。
 試験は、ASDと診断され、知的障害がなく向精神薬の服薬を行っていない20人の男性当事者(18~55歳)が対象で、短いビデオを見せ、登場する俳優が発する言葉の内容と言葉を発する際の顔や声の表情から、友好的に感じられるか敵対的に感じられるかを判断してもらった。こうした判断をする際に、ASD当事者は、顔や声色よりも言葉の内容を重視する傾向があり、その際には、脳の内側前頭前野活動が有意に弱いことが、それに先立つ山末氏の研究から明らかになっている(JAMA psychiatry 2014; 71:166-75.)。
 この試験結果を受けて、オキシトシン点鼻薬の安全性と有効性を確認する目的で、山末氏を代表研究者として、名古屋大学、福井大学、金沢大学、東京大学の4施設で大規模な臨床試験が実施された(現在、論文審査中)。
 さらに山末氏らは、帝人ファーマ社と新規改良製剤を共同開発し、2016年度から医師主導治験を行い、薬事承認を目指す計画を進めている。
 オキシトシンは、元々は内因性ホルモンであり、安全性が高いとされる。ただし、女性ホルモン(エストロゲン)と関わりが深く、相互作用もある。マウスの実験では幼若期にオキシトシンを長期間大量投与して、成熟後に性指向性が変化して雄なのに雌を求めないといった変化が生じたことも報告されている。
 このため、性徴を終えた成人を対象に開発を始めて、安全性を確認した上で小児での開発に移行する計画が立てられている。山末氏は、「ASDへのオキシトシンの効果には個人差があるが、治験で症状改善のための選択肢となることが証明されれば、ご本人やご家族の生活の制約が減り、社会全体への貢献が期待できる」と話す。
 なお、オキシトシン神経系は、セロトニン神経系下流にあるとされ、両者が相互作用することが明らかになっている。オキシトシンが作用する際には、セロトニン系も変化している可能性がある。

退行性ASDは腸内細菌叢が関与
 ASDには退行性(regressive autism:RA)という一群がある。中耳炎などの感染症の治療に関連して発症することが多く、しかも消化器症状を伴うことが多いことから腸内細菌叢との関係を示唆する研究もある。米国で複数のグループが、RAの小児と健常児とで、腸内細菌叢を調べたところ、Bacteroidales目やClostridiales目などの菌については増加傾向、また、Bifidobacteriales目の低下傾向があるといった有意差を認めている。
 さらに、中等症あるいは重症の胃腸症状を呈するRA患児18人を対象に米国で実施された非盲検臨床試験では、グラム陽性菌に強い抗菌力を有するバンコマイシンの8週間の経口投与が主要症状と消化器症状を改善させることが示されている。
 RA患者で多かった菌は常在菌で、環境を介して容易に感染しやすい。特に乳児は、床を這うなどして、そのまま経口感染する可能性がある。木沢記念病院(岐阜県美濃加茂市)中央検査センター長で岐阜大学名誉教授の渡邉邦友氏は、RAに関連する細菌はプロピオン酸産生菌が多く、これらが腸内で増えると、代謝物が血液脳関門を通過して神経系に達する可能性を指摘する。特に腸管免疫が未発達な状態にある乳幼児が抗菌薬を服用すると、腸内細菌叢を一変させる可能性があり、代謝が変化することがあり得る。渡邉氏は、「従来、ASDの環境因子として様々な物質や感染との関与がいわれてきたが、そうしたものは全て腸内細菌叢をハブとして発症につながっている可能性もある」と語る。
 2004年には、マウスにプロバイオティクスを投与すると自閉症様行動が軽減するという研究成果も報告された(Cell. 2013;155:1446-8.)。ヒトでの有効性を示す小規模な臨床研究は既にあるが、欧州では大規模な臨床試験が実施されており、成果が期待されている。


中高生の20人に1人が“ネット自傷行為”

2017年12月08日 10時31分36秒 | 子どもの心の問題
 座間の事件は衝撃的でした。
 その温床となっている“ネット自傷行為”の状況の調査報告を紹介します。
 その対策は「否定や批判をすることなく、ただ子どもの話に耳を傾ける存在となれることを子どもたちに伝える」こと、だそうです。
 この時代、インターネット上で相談・カウンセリングがもう少し発達してもよいと思うのですが・・・。

■ 「ネットで自傷行為」、中高生の新たな問題に
2017/12/01:ケアネット
 ティーンエイジャーのネットいじめが問題となっているが、他者ではなく自分自身を傷つける内容をネットに投稿するなどの「ネット自傷行為(digital self-harm)」が米国の中高生の間で新たな問題となりつつあるようだ。米国の中高生5,593人を対象に実施された調査から、20人中1人にネット自傷行為の経験があることが分かったという。詳細は「Journal of Adolescent Health」9月18日オンライン版に掲載された。
 この研究を実施したのは米フロリダ・アトランティック大学ネットいじめ研究センターのSameer Hinduja氏ら。同氏らはネット自傷行為を「ソーシャルメディアやゲーム、ウェブフォーラム、メールなどあらゆるネット上の環境で、自虐的な内容を匿名で投稿したり送信したりすること」と定義し、2016年に全米を代表する12~17歳の中高生5,593人を対象にネット自傷行為の経験について調査した。
 その結果、約6%にネット自傷行為の経験があり、経験率は女子(5.3%)よりも男子(7.1%)の方が高いことが明らかになった。ネット自傷行為に及んだ回数は、「1回のみ」とした経験者が51.3%を占めていたが、35.5%が「2~3回」、13.2%が「何度も」経験したと回答した。
 また、人種や年齢による経験率の違いは認められなかったが、同性愛者の中高生ではネット自傷行為に及ぶリスクが異性愛者と比べて約3倍だった。さらに、ネットいじめを受けたことがある中高生はネット自傷行為のリスクも約12倍に達していたほか、学校でいじめにあった経験や薬物乱用、抑うつ症状、オフラインでの自傷行為(自身の身体を傷つける行為)の経験もオンライン自傷行為リスクに関連していた。
 調査では自傷行為に及んだ理由についても尋ね、自傷行為の経験者の約半数から回答が得られた。このうち多かった理由は「自己嫌悪のため」、「注目されたい」、「気持ちが落ち込んでいるため」、「自殺したい」、「周囲から面白がってほしい」、「退屈しのぎ」などだった。
 この結果を踏まえ、Hinduja氏らは身体を傷つける自傷行為と同様、ネット自傷行為も自殺の前触れである可能性があることに懸念を示し、このような行為に及ぶ背景や、オフラインでの自傷行為および自殺行動との関連などについて、さらなる研究を行う必要があると結論づけている。
 Hinduja氏によると、ネット自傷行為が注目されるようになったのは2013年のHannah Smithさん(当時14歳)の自殺がきっかけだった。Smithさんは、自殺する数週間前にソーシャルメディアに匿名で自虐的な内容のメッセージを投稿していたという。今回、ネット自傷行為に関する初の調査を実施した同氏は「これまで15年にわたってネットいじめについて研究してきたが、ネット自傷行為がこれほどまでに広がっているとは予測していなかった」と話す。
 同氏は「一部の青少年がこのような問題を抱えているという現実を、親や教育者はしっかりと認識しておくべきだ」と指摘。また、親や教育者に対し「否定や批判をすることなく、ただ子どもの話に耳を傾ける存在となれることを子どもたちに伝えてほしい」としている。
 米南メソジスト大学ファミリーカウンセリングセンターのSarah Feuerbacher氏は「自傷行為は他者や自分が置かれた環境に対して自分の無力さを感じることに起因していることが多い。その苦しみを吐き出せる相手がいないとき、インターネットがそのはけ口となる」と説明。親は子どものオンラインでの言動に注意を払うとともに、互いを尊重しながら親子の気持ちを包み隠さず分かち合うことを勧めている。


<原著論文>
Patchin JW, et al. J Adolesc Health. 2017 Sep 18.