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一言二言三言

日常思うこと、演劇や音楽の感想を一言二言三言。
現在、半年遅れで更新中……DVDを買う参考にでもしてください。

雨と夢のあとに

2007-02-14 | 観劇
演劇集団キャラメルボックス
原作:柳美里  脚本・演出:成井豊+真柴あずき
出演:福田麻由子(雨)岡田達也(朝晴)岡内美喜子(暁子)岡田さつき(マリア)久松信美(早川)楠見薫(霧子)畑中智行(北斗)三浦剛(高柴/正太郎)大木初枝(ちえみ/沢田)青山千洋(波代/水村)篠田剛(洋平/康彦)小多田直樹(広瀬/熊岡)小林千恵(番場/大谷)
Sun.27.Aug in シアターBRAVA!

雨の父・朝晴はジャズベーシスト。蝶の採集に出かけていた台湾の森で行方不明になっていたが、ある朝、気づくと自宅でベースを弾いていた。しかし朝晴の姿は雨と、新しい隣人暁子にしか見えなかった。朝晴は雨に逢いたい想いで落ちた穴の底に体を残し、魂だけが戻ってきていたのだった。

劇団を2つに分けてのチャレンジ企画、もう一方は本物の子役を迎え、ドラマ化の際に脚色したものをベースにした舞台化だったが、舞台の出来としては今ひとつ。
4~500席程度の小劇場なら悪くはないが、BRAVA規模で観せるには完成度が低く、素人目ながら、端々まで演出家の目が行き届いていないように思われた。
役者任せの演出としても、あまりに普通に演じているので表現上の面白みもない。旗揚げしたばかりの慣れていない劇団のような印象だ。
また、落雷などの音響効果も1回目は迫力があって良かったが、2回3回と同じ調子で繰り返されたのは煩いだけ。
辛うじてゲストの実力で保っていたと言えなくもなく、通して、話と役者がもったいない作品になってしまっていた。

俺たちは志士じゃない

2007-01-21 | 観劇
演劇集団キャラメルボックス
脚本:成井豊+真柴あずき 演出:マキノノゾミ
出演:浅野雅博(神田松吉/文学座)細見大輔(品川竹次郎)温井摩耶(かえで)西川浩幸(桂小五郎)大家仁志(天王寺創一郎/青年座)左東広之(鶴橋清之助)筒井俊作(梅田新兵衛)實川貴美子(天王寺美咲)坂口理恵(ぬい)渡邊安理(こま)武田浩二(土方歳三/アクションクラブ)多田直人(沖田総司)
Sun.16.Jul  in 新神戸オリエンタル劇場

幕末の京都。新選組について行けず脱退した江戸の浪人・松吉と竹次郎は逃亡中、偶然出会った岩国藩士・鶴橋に坂本竜馬と中岡慎太郎に間違えられ、商家の土蔵に匿われる。やがてその土蔵に勤皇の志士・桂小五郎がやってくることになり――

千秋楽を観劇。(たまたま)
『俺たちは志士じゃない』再再演は、演出家にマキノノゾミを迎えてのチャレンジ企画。
脚本を書き直したというのもあるけれど、舞台は本当に演出家次第で変わる。ストーリーは同じでもまるっきり違う作品になった。
キャラメルボックスといえば、前向きで爽やか、ハッピーエンド必至(TRUTHが唯一の悲劇)の、つまりあくまで『健全』な老若男女が楽しめるお芝居をする劇団だったわけですが、ここ数年はマンネリな印象を受けていた。
登場人物は記号化され、役者たちの演技の幅も一様。見終わった後も、誰が出ていたかは覚えていても、役の名前は思い出せない。
それでも演出家を変えたときに動ける役者が育っている、ということが証明された点は、この公演の成果だと思う。
マキノ氏はMy Favorite演出家なので(野田秀樹は別格。化け物だと思う)好みの味付けになっているのは当然だが、今まで記憶に残らなかった役者たち1人1人が、ちゃんと生きた人間を演じていた。
特に今回注目したのは温井摩耶。本当にこれまで私は彼女を認識していなかったのだけど、京女のはんなりさと、落ち着いた大人の色気を醸し出すイイ女ぶりに、すぐに虜になってしまった。
彼女の演技を見ると成井演出とマキノ演出の違いがよく分かる。成井ではおそらく叫んで感情表現するところを、あえて観客に背を向けて静かに言葉を押し出す。これがいい。
松吉の支払いを肩代わりするシーンでも、オーバーアクションで嫌がって見せるのではなく、困ったような笑顔で「なんで私が」と言いながら、少し体をくねらせてしょうがないわねと小銭を出す。松吉との関係性を想像させる様にニヤリとさせられた。
主役松吉の浅野さんはさすが文学座というべきか、三枚目なのに味のあるいい男で、温井との男女の遣り取りは憎らしい。まさにお似合いだ。
實川は初演、再演の美咲の中で最もハマッていたと思う。男勝りで無謀、心の淀みのなさ、世間知らずな正義感が、女ではなく少女である姫君らしい。
情けないけど献身的な美咲の許婚・清之助とも親分子分、といったままごとめいた雰囲気が微笑ましかった。
こまはキャラメルでは絶対に見ることのない登場人物で驚いたが、渡邊は田舎育ちのおっとりとしていて融通が利かず、どこか抜け目のない奉公人の娘を好演していた。常に体を折り曲げた姿勢は大変だっただろうと思う。
ぐっちさんはいつもと違うものを要求されたようで、若干しんどそうではあったが、次回作『少年ラヂオ』ではドシリとしたいい演技を見せてくれていた。
いろんな意味で全員がいい刺激を受けたように思う。キャラメルボックスの行き先が楽しみになった。

トーマの心臓

2007-01-02 | 観劇
Studio Life  脚本・演出:倉田 淳  原作:萩尾望都
Sat.8.July(Seele) Sun.9.July(Flügel)  in シアター・ドラマシティ
山本芳樹(ユーリ)高根研一(オスカー・Seele)曽世海児(オスカー・Flügel)松本慎也(エーリク)林 勇輔(レドヴィ)吉田隆太(アンテ)船戸慎士(バッカス)舟見和利(サイフリート)他

冬の終わりの土曜日の朝、トーマ・ヴェルナーが自殺した。そして月曜の朝、ユリスモールの元へ遺書が届く。「これが僕の愛、これが僕の心臓の音…」半月後に現れた転入生エーリクは彼に生き写しだった――ドイツのギムナジウムを舞台に繰り広げられる思春期の愛と生命の物語。

高根オスカー最高!! 正にオスカーそのものでした。私が見た回は彼だけ一足早い楽日だったのですが、カーテンコールで足首まで手をつけて体を折る姿や、最後に立ち去る際の手を振りながら見せた吹っ切れた笑顔は、役に対する思い入れの強さや真摯な姿勢を語っていたような気がします。
一方、曽世オスカーは大人すぎて、シュロッターベッツの問題児という設定にはややそぐわない気がしました。ユーリと2人のシーンでは柔和なタイプが並び、キャラクターがぼやけてしまったのも残念なところ。
で、その主役のユーリは……とっても不思議ちゃんでね。コメント映像を見た限り、地なんじゃないかと思うんですが。私が山本芳樹を苦手だという点を差し引いても、生徒みんなの尊敬を集める人物には思えなかった。どちらかと言うと天上の人ではなく、違う星の人だと思う。でもこれでユーリ役3回目くらいなんだよね……あれが倉田淳のユーリのイメージなんでしょうか。う~ん。
松本慎也はすごくエーリクらしいエーリクで、現実の人間として存在する彼は生意気なばかりに見えた原作よりも、さらに内面の純粋さが伝わって、好感の持てる人物になっていました。
心配されていたサイフリートも、変質的な部分が強調されていたので、ユーリのトラウマに説得力が出て、なるほどな、という配役でした。舟見さんに対する見方は変わりましたけれど。笑
そしてアンテ……か、可愛すぎる。さすが吉田隆太。何度心の中でオスカーに「そんな不思議ちゃんほっといて、アンテの気持ちに応えてあげなさい!」と叫んだことか!
ちょい役ですが、シェリー(ユーリの母親)役、岩崎大さんも控えめだけど芯は強そうな女性で、立ち姿(足首めっちゃ細っ!)は私が見たライフ作品、数作の中でピカ1の美しさでした。
物語は一読では難しい原作を、印象を損なうことなく世界に入り込みやすい形にしてあり、改めて「ああこういう物語だったのか」と再発見でき、原作を読んだ人も読んでいない人も満足できる内容と完成度だったと思います。2006年、お奨めの1作でしょう。

余談。ドラマシティでチケットを切ってもらった瞬間、私の目はグッズ売り場横のファンクラブの入会受付に立つ曽世海児・三上俊に釘付けになってしまいました。オーラって、あるんですねぇ……。またこの2人の受け答えする様が素晴らしい。柔らかい笑顔と低い姿勢には感心しきりでした。舞台衣装の制服なので、なおさらどこの高級ホテルマンかと。三上君には休憩時間にも黒の上下にスタッフ証を首にかけた姿とすれ違ったのですけれど、その時も無意識に振り返ってしまいました。電話予約時に受けた丁寧で感じの良い印象は嘘ではなかったようです。おネエさん、これから君のこと贔屓にさせていただくわ

SHINKANSEN☆RS メタル マクベス

2006-10-15 | 観劇
劇団☆新感線
原作:ウィリアム・シェイクスピア  脚色:宮藤官九郎  演出:いのうえひでのり
出演:内野聖陽(ランダムスター/マクベス内野)・松たか子(ランダムスター夫人/ローズ/林B)・森山未來(レスポールJr./元きよし)・北村有起哉(グレコ/グスタフ北村)・橋本じゅん(エクスプローラー/バンクォー橋本)・高田聖子(グレコ夫人/シマコ)・粟根まこと(パール王/ナンプラー)・上條恒彦(レスポール王/元社長) 他
Mon.3.Jul in ウェルシティ大阪厚生年金会館大ホール

時は2206年。絶大な勢力を誇るレスポール王率いるESP軍が将軍ランダムスター指揮の下、他の軍を次々と征していた。そこへ3人の魔女が現れ、ランダムスターに「未来の国王」・エクスプローラーに「王を生み出す男」との予言を告げ、1980年代に活躍したヘビーメタルバンド『メタル マクベス』のCDを渡す。歌詞は殺人予告であり、バンドの人間模様は国王への道に繋がる予言になっていた。予言を知ったランダムスター夫人は夫をそそのかし、レスポール王の息子レスポールJr.を犯人に仕立て、王を殺すという計画殺人を企てる。手柄として与えられた領地マホガニー城で開かれたESP軍の勝利を祝う宴が幕を閉じたとき、殺人計画は実行に移された。城から逃げ出したレスポールJr.は、パール王の元に身を寄せる。そして王を永遠の眠りに導いた夫妻は罪の意識に苛まれ、自分達の永遠の眠りも奪われたことを知る。


久しぶりに歌の上手いミュージカル見たなぁ…(その感想もいかがなものか)ヘビメタですが。
実は始まるまでは恐る恐るだったのですよ。歌が、じゃなくてね。いやそれは想像以上はるかに良かったんですが。私、新感線苦手かもしれないって思ってたんです。
でも新感線のどこが苦手か分からない。演出もカッコイイし、役者も上手いし、なんか凄いってのは思うんだけど、中盤でいつも疲れて時間が気になってしまう。実質的に公演時間も長いんですけどね。
で、演出の問題なのか、脚本が問題なのかを考えていて、今回。
非常に面白かったです。
蜷川版の『天保十二年のシェイクスピア』悩んでやめてよかった……出演者には惹かれたけど高いんだよぉ。いや、新感線も高いんだけど。ちょっと脱線。
このブログでもクドカン好きは何度も明言してきましたが、これだけ上手くコラボレートするとは思いませんでした。いのうえひでのり、やりますな。
クドカン作品はキャラクターが際立っていて、楽しさに溢れているけれど、庶民的な空気がある。今作では勢いはそのままに、ヘビメタの激しさ・退廃的王国世界を当てはめて貧乏くさくないマクベスに仕上がっていた。
個々の役者については、上條氏はさすがとしか言いようがない。レスポール王の威厳にランダムスター夫妻に罪悪感を与えるだけの人間性、そして響き渡る歌唱力はまさに圧巻といったところ。
ランダムスター夫妻はクドカンお得意のバカップルだったが、2人とも賢そうなので、『ぼくの魔法使い』の町田夫婦ほどの面白さがなく、若干物足りない気はした。(クドカンに毒されているのだろうか…)
レスポール王殺害後の壊れていく様も、まともそうで追い詰められた人間の悲壮感はあまりなかったので、この点においての説得力は薄かった。しかし内容満載の舞台なので、全体としてはこれぐらいがちょうどいいのかもしれない。本当は人の良い夫婦が、魔女の予言というきっかけに背中を押されて罪を犯して“しまった” そんなマクベスもアリだろうか。もうちょっと松たか子に色気が欲しかったけどね。
北村有起哉はいつ見ても感じが良いね。なんか健全な感じがするね。でも綺麗すぎず熱すぎずで、どんな役やっても嵌まってるなぁと思う。主役タイプではないが(いや分かんないけど)№2の位置で女性1番人気みたいな印象です。
で、グレコとレスポールJr.森山がじゃれあうシーンは笑わせるところなんですが、ビジュアルが美しいためにある特定の層に対するサービスのように思えてしまった。目、腐ってる私? でも絶対狙ってるよねぇ?
その森山未來。ステージから降り、私の左側通路を走り抜けたわけですが。片手をゆるく伸ばせば届くその距離に一瞬見た森山未來。
ムッチャ、綺麗。
「うっわ」って感じ。「うっわ」って。
そしてその透き通る肌を見て思ったことそのまま書くならば。
キィッレッ! 森山未來キッレッ!……さ、触りたいー……
休憩除いてフルに4時間のステージ。1番印象に残っているのがそれとはどういうことか。>自分。
12500円(送料込)払った甲斐ありました。ありがとう。これでもう満足です
さて(仕切りなおし)脇を固める新感線メンバー。どの舞台でも際立って存在感を見せる役者が、多すぎて埋もれてしまうという凄い劇団だなぁ、とまたしても実感しました。実力があるからこそ、脇に徹してゲストを引き立たせることができるわけですが。この中でも際立ってしまう古田新太は本当に凄い、と出てないけど感心してみたり。
粟根氏は完璧な身のこなしで、それなりだった若造たちが並んで同じ動きをするとヘナチョコ見える。揺るがない、って感じですね。
橋本じゅんはわりといつも通りかなー。笑
歌詞はめちゃめちゃだけど(もちろん狙ってる)生バンドの重低音が絶妙の入り方で、盛りだくさんの舞台を中だるみすることなく、最初から最後まで力強く引っ張り、時間はまったく気にならなかった。
知らなければ難解で敬遠しそうなシェイクスピアが、まったく違う枠と手法でとても理解しやすい形になっていた。私のように新感線ちょっと苦手かもと思っていた人間にも入りやすい。いいもの観せていただきました。

HUMANITY THE MUSICAL ~モモタロウと愉快な仲間たち~

2006-10-04 | 観劇
企画ユニット地球ゴージャスプロデュース公演Vol.8
作:岸谷五朗 演出:寺脇康文・岸谷五朗
出演:岸谷五朗・寺脇康文・唐沢寿明・戸田恵子・高橋由美子・植木豪・蘭香レア 他
Tue.27 / Wed.28.Jun in フェスティバルホール

『大会社』に勤める平凡なサラリーマンの順平(唐沢)は妻のアサコ(戸田)は口うるさいけれど、可愛い愛人ミヨ(高橋)とそれなりに楽しんでいる。ある日、ワンマン社長の前でのプレゼンに失敗すれば即クビ決定の新商品開発チームのメンバーに選ばれてしまった。しかも枕元に現れたおじいさん(人形声:岸谷)とおばあさん(人形声:寺脇)に無理やり送り込まれた別世界で、種太郎として鬼退治にでかけることになる。集まってきたイヌ(寺脇)サル(植木)キジ(蘭香)は、現実とはまったく性格の違う開発チームのメンバーで……


保険をかけたら2日取れちゃったよ第2弾。
現実世界の設定そのものはシビアだが、全体的に『親子で見るミュージカル』と言いたい雰囲気だった。しかし、ミュージカルと銘打つほどミュージカルっぽくもない。
なんだかデパートの屋上で戦隊物のショーを見てる気がする、と思っていれば、後ろの席からはキャッキャッと笑う子どもの声が聞こえてきた。――まあ、オニさんだしね。イヌさんだしサルさんだしキジさんだしね。
肝心の歌を戸田恵子に頼りきるのはどうだろう。岸谷と蘭香レアはもっとイけたはずである。高橋由美子は可愛いかったからいい。唐沢は主役だから仕方ない。寺脇は……やめておけ。
物語はサブタイトル通り。捻りはまるでないが直球というほどの威力もない。一応『人間らしく生きること』を問い掛けるヒューマンストーリー――だったらしいが、説得力はあまりなく、バカバカしさに徹するにしても出演者が楽しそうではない。
しかも、大きな舞台で主役張る役者ばかりだが、特に男性陣は背格好も役者タイプも近く、コスプレしているだけで誰も目立たないという生ぬるいステージになっていた。
さすがに主催者2人は楽しそうではあったが、1部の終わりに登場した赤オニ岸谷が嬉しげに空中アクロバットみせても、観客には岸谷五朗だとはっきり認識してもらえなかったらしい薄い反応は、観てるこっちがもの悲しい気分にさせられた。
47人の大人数の舞台とはいえメインはほとんど踊らないため、合間にエキストラの人たちが頑張るが、主題歌と挿入歌があったという程度の印象しか残らない。唯一凄かったのはPniCrewの植木くんの登場シーンで、エキストラの皆さんを引き連れてのダンスは素人目にも際立っていた。ブレイクダンスの世界チャンピオンというのは後で知ったけれど、イヤ「すげえ」の一言。今ではNUDAの岡村がそれほどカッコよく思えません。(ゴメン)
ほかに岸谷五朗はかなり動ける、というのは発見かな。リズム感もバッチリある。もっと全面に出て踊った方が良かった。(演出の立場では難しいのかもしれないが)
比べて相方の寺脇康文は体が重すぎる。アクションシーンも体格の割りに動きが悪いので、ちっとも強そうに見えない。セットの円盤の上で回りながら、鼻にかかった声で「タネタロさんタネタロさん」は面白かったけど、犬飼ってる人しか分からないネタは微妙だと思う。
個人的に愛内里奈似のお色気社長秘書(HP見ても眼鏡してないのでどの人か判別できず…)と、ベリーショートのお姉さん(この人は分かりやすい。中村沙耶さん)はとても気になる存在でした。

妻をめとらば~晶子と鉄幹~

2006-09-23 | 観劇
マキノノゾミ『MOTHER-君わらひたまふことなかれ』より
脚本:マキノノゾミ・鈴木哲也  演出:宮田慶子
出演:藤山直美(与謝野晶子)・香川照之(与謝野鉄幹)・太川陽介(北原白秋)・岡本健一(石川啄木)・匠ひびき(菅野須賀子)・田中美里(平塚雷鳥)・山田純大(平野萬里)・松金よね子(啄木の母)・小宮孝泰(特高警察下っ端・安土兵助)・野々村のん(与謝野家手伝い・千代)・木下政治(佐藤春夫) 他
Sun.18.Jun  in 新歌舞伎座

物語は明治42年から大正2年までの5年間。かつては浪漫主義運動の中心として活躍した鉄幹も今は啼かず飛ばずで、弟子の北原白秋などは影でバカにする始末。8人の子育てと家計を支えるのは才気溢れる妻晶子だったが、犬も食わない夫婦喧嘩を繰り返しながらも夫にもう一度奮起してもらいたいと願っている。やがて『大逆事件』によって友人の菅野須賀子が処刑され、晶子も特高警察に目をつけられたが、彼女はただ家族のために日々を一生懸命生きていた。
明治の歌人与謝野夫妻と2人を取り巻く優しい人間模様。

関西人にとって藤山寛美は特別な存在だ。(若い世代は知らないだろうが)その娘の藤山直美もしかり。とはいえ、まだまだ新歌舞伎座は敷居(年齢)が高い。本気で足を運ぶつもりはなかったのだが、チケットサイトのメルマガの煽り文句に踊らされてしまった。
マキノノゾミだし、出演者も現代劇の人だし……ちょっとだけ敷居が低くなったような幻を見た。
新歌舞伎座は御堂筋線なんば駅12番出口の目の前。というより新歌舞伎座のために作った出口だろう、あれは。その階段を上りながら後悔がすぅーとやってくる。
「私のお客さんはおばちゃんが多いんです」
藤山直美のインタビューを読んでいたが、敷居は予想以上、はるかに高かった。
地上に出て正面玄関に溢れる人込みを目にした瞬間に、私は岡本健一ファンのふりをすることに決めた。(本当は香川照之が好き)
さて、劇場の居心地は別にして、舞台そのものは面白かった。
一言で言うなら、ザ☆マキノノゾミ・大衆演劇風味。
与謝野晶子と聞いてこの種の芝居のテーマとしてはどうかと思っていたが、マキノノゾミらしい人物描写と、優しい視線でほのぼのじんわりとした物語に仕上がった。
マキノ氏の個性が強いが、テンポのいい遣り取りの中には女性らしさも見え、そのあたりは演出家の目線かもしれない。
そして藤山直美。冒頭のシーンは与謝野家の引越し手伝いに集まった弟子たちのところへ平塚雷鳥、菅野須賀子が訪ねてくるというものだが、あまりピンとくるものはなかった。ところが、花道を鉄幹を従え身重のドテッ腹抱えた晶子が偉そうに大外股で登場し、振り返って2階席をギロリと睨むんだ途端、舞台の空気が変わった。
圧倒的な存在感で舞台が引き締まる。大黒柱が立ったといった感じだ。他の役者陣との会話も小気味良く、冷静な判断力と頭の良さを感じる。
応える相手役香川照之も上手い。できもしない主婦の真似事をしてみたり、妻の著書を売って辞書を買おうとするダメ夫、でも「男がすたる」と見栄を張るのがちょっとカッコイイ。
犬も食わない夫婦喧嘩を繰り返す与謝野夫妻だが、その様がなんだか可愛らしかった。
しかし会場のおばちゃんたちの心をつかんだのは松金よね子だった。その流れるようなセリフとボケと"はしっこい"ばっちゃんのコメディセンスに、周囲のおばちゃんたちは自分の姑を思い出すかのように「あらまあー、おばあちゃんったら」と親しみを込めて呼びかけていた。それをさせる演技の安定感がプロ仕事って気がする。
岡本健一の啄木も男前なのにひ弱な感じが良く、白秋の太川陽介は調子のいい男で啄木との対比もあり似合っていた。
啄木の奥さん役も誰か分からないんだけど、貧乏を苦にせず、おっとりしているのに夫のために姑の裏をかくけなげな姿が可愛かったな。可愛いといえばお手伝い役の千代ちゃんもはきはきして気持ち良かった。
木下政治は……どこにでもいるなぁ。クドカン作品の阿部サダヲみたいなものだろうか。それにしては演技が地味なんだよ。山田純大とポジション的に被っていたが山田が爽やかな分、佐藤春夫がそこにいる意味は(実際いたのかもしれないが芝居上は)なかったと思う。
正直言えば藤山直美の晶子はいかにもオバハンなのかと思っていた。けれどそこには夫を愛し、お茶目で懸命な、理想にしたいような母であり妻がいた。女性としても魅力的だけど、女優としてもやはりすごい。そして後半、ある部分で間違いなく寛美が乗り移っていた!
今回の公演は観れて良かった。おそらく新歌舞伎座にはあと×△年は行かないけれど。私も世間ではそこそこいい年だが、あそこでは所詮まだまだ小娘さ。

まとまったお金の唄

2006-09-04 | 観劇
大人計画
作・演出 松尾スズキ
出演:阿部サダヲ(蒼木ヒカル)・市川実和子(蒼木スミレ)・宮藤官九郎(馬場)・伊勢志摩(蝶子)・荒川良々(蒼木ヒトエ)・村杉蝉之介(カクマル父・蒼木父)・近藤公園(カクマル)・平岩紙(博子)・内田滋(神木)・菅原永二(新宿)・松尾スズキ(ダイナマン)
Sat.3 / Sun.4.Jun  in ウェルシティ大阪厚生年金開館芸術ホール

行方不明だった父がなぜか太陽の塔のペンキ塗り中に落ちて亡くなり、借金を背負った蒼木家。周囲で混乱させるのは、離れに下宿するウンコ哲学者の馬場と女性革命家蝶子の夫婦。金貸しのカクマル親子に、大衆演劇の美少年役者だったが一家離散で乞食になった神木くんが加わり、蝶子の手引きで東京から学生運動が元で逃げてきた新宿を匿う一方で、ボケ始めた母とメンスにこだわる娘たちが行きたいのは、もうすぐ閉会してしまうオオジカ(大阪)万博。
1970年、万博に行きたくて行けなかった家族の物語。


保険をかけたら2日取れちゃったよ第1弾。思ったより下品じゃなかったです。上品でもないですが。
クドカン、ウンコ持ってるし。でもいいです。今回の胸キュン大賞は、蝶子さんをペチッと叩いてつっこむところで(たぶん)肘がゴッと入ってしまい、傷みを堪えて芝居を続ける伊勢さんの頭を、そっと撫で撫でするクドカン。あの自然さ! そりゃモテるさ! ウンコ持っててもいいよ!(何言ってんだ自分!)
阿部サダヲは案外アドリブないんだね。稽古段階でやりきったのかもしれないけど。かき回すのはむしろ作・演出の松尾スズキだった。役者大変だな……良々が仕切ると思わなかった。今まで観たのが『素手でワニをつかまえる方法』(タ・マニネ)のワニに変身していく男とか『真夜中の弥次さん喜多さん』の荒川良々分裂ショーだったので誤解してました。まともな役者さんです。(この言い方も失礼だが) オカン似合ってたねぇ。
スミレの未来の娘(進行)役、平岩さんも可愛かったねー。セリフ間違えて立ち去る間際の「ゴメンナサイ!」が微笑ましく可愛い。市川さんも可愛い。阿部サダはオモロイ。
神木くんもなんか好き。あっけらかんとしてて。不幸なのにポジティブ。ポジティブすぎ?
伊勢さんは月影十番勝負の時とは別人のように美人な感じ。女優さんだね。回想シーンのミニスカ・ヒールでフライパン持った姿はスタイル抜群。モテモテという設定が説得力アリ。
カクマル親子も上手い。キャラクター重視の脚本だけれど、脇がしっかりしていると全員が生きるね。大人計画はいい役者さんが揃ってる。
大阪万博開催中、人口の半数が物見遊山に訪れ「人類の進歩と調和」をありがたく拝んだ日本。安保闘争、学生運動に揺れた日本。チープで、熱を帯びた1970年代。
舞台では差別用語として今では口にできない言葉が遠慮会釈なしに飛び出してくる。挑戦的なのではない。その時代はそれが当たり前だったのだ。大阪万博の頃は生まれていなかったが、子どもの頃でもまだ意味が分かる程度には使われていた。もちろん差別用語だとは思わずに。人々の混沌と残酷な事件をコメディタッチに描きながらも、あえて避けて演じられなかったことで、70年代という時代を強く感じた。
しかし、松尾スズキは少女性の喪失に何かのスイッチを持ってるのかな。『キレイ』とは全然違う世界観なのに、そこだけは共通していた。
いや、それにしてもみんな大阪弁上手い! 生粋の関西人の私が気づかんかったくらい、まったく違和感なかったよ。ブラボー!

マンドラゴラの降る沼

2006-06-18 | 観劇
シティーボーイズミックスPRESENTS
作:細川徹・丸二祐亮・平元健太・シティボーイズ・中村有志・いとうせいこう
構成:いとうせいこう
演出:細川徹
出演:シティーボーイズ(大竹まこと・きたろう・斉木しげる)中村有志・いとうせいこう・銀粉蝶
Sun.14.May in シアター・ドアラマシティ

うっかり崖から落ちたが一瞬止まって助かる方法を相談する5人の男、一家殺人事件の捜査協力のために9年前の野外演劇のビデオを見せることになった男、酔った勢いで人間大砲をやると言ってしまった男、団地の謎のプレゼント男に怯える人々、原発の地元理解を得るために頑張る見当違いな男たち、生分かりの会話とは……不思議でおかしな愛しい親父たちのコント集。

あー笑った。笑った。
――と、感想を書けば一言で終わる。今こんなに一生懸命で滑稽で、可愛い親父たちは他にいないだろう。
意味はないのにおかしくて仕方ない。どこまでが脚本でどこまでがアドリブでハプニングなのか。インテリの匂いをベースに日常的で不自然でいい加減で、必死な人間模様。
イライラしている人々にマイナスイオンという名の二酸化炭素を振りまくガラ(ナイアガラ)、初日は1分ほどだったのに、どんどん長くなって声が出なくなるほど暴走してしまったネガティブ夫人、公演中にトイレから帰ってこない斉木しげるの時間を、野球ベース1つで必死につなぐ大竹まこと、毎回誰かが違うことを言うので相手のセリフまで覚えなきゃならなくて気が気じゃない。
いとうせいこう独特の間、シュール感も吹き飛ばし、最後にいたっては力技。それでも伏線が最大限に生かされた面白さになるのだから、やっぱ只者じゃない。
親父たちだけかと思えば銀粉蝶も、終演後は打って変わってロングヘアを肩にふっさりと広げ、黒いフレアードレスの綺麗だけど年よりも若い格好で、大竹まことに「この人おかしいんだ」と言われても平然と遠くを眺め、「銀粉蝶ってどこまでが苗字?」と誰もが1度は考えた疑問にも小首を傾げるだけ。なんて馴染んだゲストなのか。歌上手いし。えらい気持ち良さそうだったし。
そして楽日とはいえ昼の回で全力投球してしまった中村有志は、夜の回をちゃんと勤められたのか。ネガティブ夫人(どう見ても美輪明宏)はどこまで行ってしまったのか。
この面白さを伝えきれない自分の文章力を恨む。今年1番笑った日である。

春狂言

2006-05-08 | 観劇
Sun.23.Apr in 大槻能楽堂
大蔵流狂言『土筆』『寝音曲』
古典狂言「川上」改作『川上地蔵』

冒頭のお話は丸石やすし氏。「皆さんが観にきてくれるおかげで、我々狂言師の生活が成り立っているわけです」と相変わらず開けっぴろげで明るい。
『土筆』は『つくづくし』と読みます。
春にしかやらない演目なのだそうです。
『寝音曲』は『ねおんぎょく』
『川上地蔵』はそのまま『かわかみじぞう』ですが、和泉流狂言の『川上』を改作したもので(ここでも和泉流の説明に「プロレスされたりですね…」とやはり開けっぴろげ)初演では地蔵は出てこなかったそうですが、今回は出てきます、とのこと。後述しますがナイスです。地蔵。
ちなみにパンフには40年ぶりとなっていますが、丸石さんが入門32~3年で、その後にできたはずなので、本当は約30年くらいのようです。

『土筆』
甲 茂山七五三・乙 茂山宗彦
春の晴れた日、(乙)は兼ねてから遊山に行きたいと言っていた友人(甲)を誘って出かける。野にはたくさんの土筆が顔を出している。そこで(甲)が土筆の歌を詠むと言葉の使い方がおかしいと笑われ、(乙)が芍薬の歌を詠むと間違っていると今度は(甲)が笑われる。互いにムキになってしまい――
単純で楽しいお話。どの時代も人間って変わらんものですね。ど~でもいいことで負けず嫌いの意地の張り合い。平和で可愛いです。
宗彦くんは観る度に目がなくなっていってる気がする。表情とはすごいな。50年後には千作さんの顔になってるんでしょうか。

『寝音曲』
主人 丸石やすし・太郎冠者 茂山千作
通りがかりに太郎冠者の謡の声を聞いた主人は感心し、目の前で聞かせるよう命じる。しかし太郎冠者はことあるごとに呼ばれて謡わされてはかなわないと、酒を呑み妻の膝枕でなければ声が出ないと断るが、主人は酒を用意し、自分の膝を貸すのでさあ謡えと一歩も退かない。仕方なく寝転ぶが、結局途中から上機嫌で朗々と謡ってしまう。
87才ですか……狂言って健康にいいのかな。笑いの健康法とかあるもんな。
やっぱり一番面白いのはこの方。表情の1つ1つにふてぶてしいような、ずる賢いような愛嬌が滲み出てるんですよね。

『川上地蔵』
座頭 茂山千之丞・女房 茂山あきら・地蔵 茂山童司
霊験あらたかな川上地蔵に参った座頭の夢に地蔵が現れ、妻と別れることを条件に目が見えるようにしてやろうと言う。さっそく座頭は教えられたまじないを行い目が見えるようになったが、盲目の10年間を献身的に支えた妻は別れることを了承しない。夫婦で揉めているところへ地蔵が現れ――
この地蔵、仲裁するのかと思いきや、まるで役に立たない。調子のいいばっかりのちょーテキトー地蔵。まさに神仏って感じ。笑。
ここでも男の狡さ、長年連れ添った夫婦の滋味がコミカルに表現され、その中にしっとりとした雰囲気もきちんとある、千之丞さんらしい演出の作品でした。
そしてご本人の謡いがいつ聞いても良いのです。声の良さはこの方がダントツですね。

綺麗なディスプレイがほしいね

2006-05-01 | 観劇
連休はcubit club theaterで『DRACULA』と『LILIES』を鑑賞。
ようやく曽世海児の演技を見ることができたが、ヴァンパイアと伯爵夫人なので参考にならず……
笠原氏のドラキュラ伯爵には一歩及ばずながら、伯爵夫人は素晴らしかったので、曽世氏にはずっと伯爵夫人でいてほしいと思った。
可愛い姜くんにはずっとヴァリエとして泣いていてほしい。

ライファーへの道?

2006-04-30 | 観劇
さて。あんまり更新しないのも定期的に読んでくれている方(いるの?)に申し訳ないので、新米ライファー……には程遠いが、見に行く劇団リストに新規追加したStudio Lifeのチケットゲットへの、ささやかな奮闘などを。

夏にStudio Lifeが『トーマの心臓』をやるという。
大阪でのライフのチケットはいつも2日間しか公演がないので、かなりレアである。そこで今回はのんびり構えてないで、劇団の先行予約受付に電話してみることにした。
受付時間は夕方5時から7時。恒例、茂山千五郎家の春狂言を観た後、友人が早く帰りたいというので別れて帰宅した時間ぴったりである。
慌てて番号ボタンを押しながらも、どうせ繋がらないだろうと高をくくり、適当に切り上げるつもりだった。が、しかし。NTTのアナウンスにシャットダウンされることもなく、通話中のコール音はひたすら鳴り響くばかりだ。と、ゆーことは極端に電話が集中してるわけではない……番号が3つ書かれていたので不審に思っていたが、まさか、受付3人で回してる?
それは定かでないが、携帯の電池が切れるまでと思いながらも、もし繋がって予約中に切れたらどうしようと充電用プラグを取り付けて、こうなったら受付終了までかけてやる、繋がらなくたって7時で終了だ、と意地と惰性でボタンを押し続けた。途中からは納得するためだけにかけているので、8割がた諦めて漫画なんぞを眺め、ほとんど無意識で指を動かしている。そのためいざ携帯から声が聞こえてきた時には、手元に用意してあったはずのダイレクトメールのハガキもどこかにふっ飛ばして、バタバタと探し回る慌てようだ。しかも充電用プラグのコードの長さが足りなくてハガキに手が届かない。こちらの焦りが伝わって受付のお兄さんも焦る。予約番号を控えるためのボールペンにも手が、手が!
電話をかけ始めて1時間40分。なんとかチケットを入手。最近ネットにばかり頼っていたので、チケットを取るって大変なことだと思い出す。メタルマクベスを取る時にもこの根性(?)が必要だったんだな…
今回の公演はSeele・Leben・Flügelのトリプルキャスト。ここは山本芳樹・曽世海児ペアのFlügelチームを選ぶべきなのかもしれなかったが、私は曽世氏の演技をまだ見ていないので、彼と高根研一の写真を眺めて「う~ん、どっちがオスカー?」と顔で高根氏に決めた。宣伝写真だけならユーリ:曽世海児・オスカー:高根研一・エーリク:松本慎也だって絶対。けれどそんなチームはないので、Seeleチームを見てきます。この選択やいかに。
ところで、落ち着きのない相手の受付をしてくれた○○さん。同姓でなければ役者さんだと思うのですが。ごめん、君の出てない回だった…

ヴァンパイア・レジェンド

2006-04-09 | 観劇
Studio Life (Vice side)  脚本・演出 倉田淳
原作 ジョセフ・シェリダン・レ・ファーニュ「カーミラ」
Fri.7.Apr in シアター・ドラマシティ
ゼーリヒ(及川健)・ジョージ(山本芳樹)・エリザベス(林勇輔)・ペロドン(青木隆敏)・ラフォンテン(石飛幸治)・シュピールスドルフ将軍(奥田努)・ヴェルト(松本慎也)・深見真路(関戸博一)・志田陽一(下井顕太郎)マーティン(大沼亮吉) 他

19世紀末のオーストリア、ステリアの城に母エリザベスと乳母のペロドン、家庭教師のラフォンテンの4人でひっそりと暮らしていた青年ジョージ。馬車の事故に遭った親子を助けたところから、彼の運命は狂い始める。城に残った美貌の青年ゼーリヒと惹かれあい、友人になるはずだったヴェルトの訃報も忘れ始めたが、街では若い娘が謎の病で次々に命を落としていた。

Studio Lifeの予備知識
1. 萩尾望都の「トーマの心臓」を舞台化したことで有名。(著者とも仲がいい)
2. 男優だけの劇団である。
3. 及川健という男と思えない色気を魅せる俳優がいるらしい。
以上。

なんだか、いろいろびっくりした…
まず劇場入ってすぐにグッズ販売に長蛇の列ができている。開演前にこんな光景見たことない。しかも開場から10分も過ぎてないんですが。
ちょっと、いつもと雰囲気が違う…この時点で少々びびっている。
観客は99%女性で占められていた。『ラブ・レターズ』もほとんどが女性だったが、それとは明らかに違う心酔系の空気だ。一体どんな耽美な世界が繰り広げられるのだろう、と初体験にドキドキである。
それでも、同時上演の『DRACURA』は発売すぐに完売していたが、今公演のチケットはわりと簡単に手に入ったので、やや作品的に落ちるか、1番人気が出ていないかだろうとは思っていた。
1ヵ月ぶりのキャストだからなのか、前半の演技はぎこちない。期待が大きかった分、素人っぽさに目を疑った。なにより主人公で語り役のジョージの立ち居振る舞い、喋りすべてがダメ夫。終始背中を丸め、十代の郷ひろみのような声での根暗~な語りは、とてもヴァンパイアに見初められるような美しい青年のものとは思えない。大事に育てられた“ぼんくら”と思えばいっそ見事なほど。趣味悪すぎだよ、ゼーリク…
ところが、ライフってこの程度だったのかと、失望していた中盤のある瞬間から愉快になってきた。
西洋文学的な雰囲気を予想していたからいけないのである。素晴らしく美しい女形を期待してもいけない。基本的に普通の男が女装しているのだ。想像していたほど妖しくもなく、むしろ男版タカラヅカといっても差し支えない気もする。
エリザベスは声だけを聞くと宝塚の男役の声に似ていて、女優がいる? と一瞬思ったけれど、演技以外の声は男だったから上手なんだろうな。他の役者陣も徐々にテンポをつかんで観やすくなったので、連続公演で観れば違ったかもしれない。
そして、1番楽しみにしていた及川健は、あんた演出家の愛人だろう! と言いたくなる魔物ぶりだった……あ、ライフの演出家は女性なので問題ないのか。じゃ代表。←このおじさんの演技はさすがに上手い。女装してませんが。
たとえるならパタリロにおける美少年的色香。マライヒ、いやラシャーヌだ。(ライフファンを敵に回した瞬間) けっこう好き。笑。 これをハマッたと言うのだろうか。(えっ!)
内容はそう深くもないので、感動するとか涙するとかいったことは一切ないが、他の劇団にはない面白みがある。それはいきなり来る。なんか分かんないけど来る。男の人には分からないかもしれないが。(でもやってるの男だしな)
さて、終演後に驚きはまだあった。カーテンコールに対する拍手は切れ間がないものだが、役者が頭を下げた時以外は拍手が止まるのである。な、何か決まりごとが? しようよ、終わったら普通に拍手…
さらに河内氏の「大阪初日ということで役者挨拶をさせてください」という言葉を合図に、突然始まる写真撮影会にカルチャーショックを受ける。カメラを持っていない人間の数の方が圧倒的に少ない。白いフラッシュの嵐には唖然とするばかりである。舞台観にきたのか写真撮りにきたのかみたいな。これってどうなんですか、役者側は。
とにもかくにも独特のポリシーを感じる劇団。演技面では役者の実力にかなり開きがあるので平均点は下がってしまうが、一見の価値はあるかも。
次チケット取る時はぜひ『DRACURA』で見損なった男前の姜暢雄を…て、君TRICKの菊池かいっ! レジェンドも脇で出てたみたいだけど分からんかったよ。
とりあえずcubitで2004の『DRACURA』を観ようと思う。

あした あなた あいたい

2006-04-09 | 観劇
演劇集団キャラメルボックス  脚本・演出 成井豊+隈部雅則
原作 梶尾真治「クロノス・ジョウンターの伝説」
Fri.24.Mar in シアターBRAVA!

クロノス・ジョウンターの実験のために選ばれた布川。憧れの建築家の作品である朝日楼旅館をそのカメラに収めるため、取り壊された5年前へと飛ぶ。ゴミ捨て場に倒れていた彼を助けたのは、近くのコーヒー店の娘で花屋で働く圭ちゃんだった。

(つづき)ダンデの感想で阿部くんを新人と書いたけれど、一応2年目だったらしい。しかしそれまでに演劇経験はないようなので、やはり期待大の青年である。どんな役でもこなせそうなキャラなので、いろんな舞台を踏んでほしいと思う。
閑話休題。『あしたあなたあいたい』である。
冒頭、大内厚雄のモノローグに「お、いい役者になったね!」と感心したが、最後まで見ると「う~ん惜しい」といったところ。しかし、少しずつでも堅実に前に進む成長の仕方はマジメな彼らしい。
圭ちゃん役の温井摩耶さんについては、これまであまり意識していなかったけれど、キャラメルの女優さんらしい声を張る演技をする人です。個性が出てくるのはこれからかな。
そして、圭ちゃんの妹役、お気に入りの大木初枝ちゃんは今回もとても可愛かった 主人公の家族・親友といった役どころが多い彼女。そろそろヒロインもいいんじゃないですか、成井さん? 過去「この人は主役やりたいんだろうな、でもキャラメルでは難しいだろうな」と思っていた人たちはやっぱり退団してしまったけれど、彼女はそんなに我の強いタイプでもなさそうだし、雰囲気ある女優さんなのでうまく起用してほしい。
ダンデもあしたも恋に落ちてから行動するまでがやけに早い。ダンデに関してはそれなりに説得力があったけれど、あしたについては恋する2人の気持ちが周囲を納得させるほどのものに思えず、ご都合主義的展開に『クロノス』のあの悲しみはなんだったのか、という気にさせられたのが残念だった。キャラメルさんにはありがちなんだけど。ラストでガクッとしちゃうんですよ。来美子さんが出てきた時は吹原を追いかけるのかと…(公演中につき自粛)
2作を通して西川さんを比較するとちょっと面白い。クロノスに最も傾倒しながら、自身は時間に逆らうことなく生きている野方という男を(当たり前かもしれないが)ちゃんと演じ分けている。今のところ、キャラメルでこの役をできるのは西川さんだけでしょうね。
ハーフタイムシアターは『短い芝居で演劇を身近に』という主旨なので、あまり重くなく描いたのかとも思うものの、あともう少し何かがほしい。でも、公演2日目だったしね。まだまだ変わるかもしれません。舞台は生き物って言いますから。

ミス・ダンデライオン

2006-04-03 | 観劇
演劇集団キャラメルボックス  脚本・演出 成井豊+隈部雅則
原作 梶尾真治「クロノス・ジョウンターの伝説」
Fri.24.Mar in シアターBRAVA!

子供の頃入院していた病院で物語を聞かせてくれたヒー兄ちゃん。医者になった樹里は不治の病で亡くした大好きなヒー兄ちゃんを助けるため、特効薬を手にクロノスに乗り込む!

ハーフタイムシアター1本目。
これからチケットを取る予定の方は時間軸どおりの順番で観ることをお勧めします。別の日に観るなら構わないと思いますが。
私は通うのが面倒で通し券でたまたま遡る形で観たわけですが、『あしたあなたあいたい』が『クロノス』とのリンク度が高かったため、ダンデを最後にしたかったところです。
さて『ミス・ダンデライオン』
久しぶりのW岡田コンビは、さすがの安定した走り。
ただし主役はさつき嬢なので、若干広告に偽りありですね。でもヒー兄ちゃんの役柄はおっかーにぴったりだったと思うな。
おばちゃん、おばあちゃん役までこなせるようになったさつき姉さんも、まだまだヒロインでいけますね。相手役はおっかー限定だけど。(私の中で)
そして新境地を拓いたのは前田綾。ぜひその路線を突っ走ってもらいたい! 笑
阿部丈二くんは新人のはずなのに、ベテランの演技でどこの劇団のゲストかと思ったよ。まだキャラメルに染まってないのかもしれないけれど、ここ数年はいい新人が続くね。
OPでスクリーンに映される科白は、ヒー兄ちゃんと11才の樹里の優しい関係を表しているようで好感触。物語を聞かせてあげるという設定と符合してるのだな、と納得していた――が、ハーフタイムシアターの1セット演出だったことが後で分かりがっかり。あっちはない方が良かったなぁ。
分かりやすいストーリーで、無理なつじつま合わせもなく、1時間でちょうどいい構成。ダンデ単独ではキャラメルの中でも好きな作品上位にランクイン。
『あした~』が面白くなかったわけではないけれど、あちらはベタなラブストーリーなので、私向きではなかったかな、という違いですね。(つづく)