水銀党本部執務室

冬月のブログです。水銀党本部の活動や、政治社会問題、日常の中で感じた事など様々なテーマで不定期に更新されております。

国民の敵

2008-11-23 12:53:49 | Weblog
今から、76年も昔の事です。
1932年5月15日に、過激派の青年将校数名が首相官邸を襲撃し、時の首相犬養毅を暗殺する事件がありました。
いわゆる5・15事件と呼ばれる暗殺テロです。

近代日本史の専門家の多くはこの後に起こった2・26事件と合わせて、軍部が近代日本の政党政治を衰退させ軍国主義化させたというストーリーを作って論じますが、実際には5・15事件は軍人がやったといってもあくまで個人の立場で起こした犯罪であり、クーデターを目的に大部隊を動員して行われた2・26事件とは性格の異なるものです。5・15事件という犯罪が日本の政党政治を衰退させたとすれば、その原因は事件そのものよりもむしろ事件後の世論の反応にあったといえるでしょう。

5・15事件に対しては、政財界も、軍の上層部も、ほとんどの知識人も、これを許すべからざる犯罪として糾弾しています。
ところが当時の一般大衆の世論は、犯行に及んだ青年将校を愛国的英雄として支持・賞賛し、大規模な助命嘆願運動まで起こります。
圧倒的な世論の圧力におされる形で軍法会議の判決は犯人達に極めて軽いものとなり、後の2・26事件の遠因になったといわれています。

当時、1929年の世界恐慌と、欧米列強及びその植民地が関税障壁を設けた「ブロック経済」で日本の産業は大きな打撃を受けており、日本経済の疲弊、国民生活の困窮は今日とは比較にならないほどでした。
いうまでもなく全世界規模の不況ですから、日本政府がどれだけ経済対策を頑張っても抜本的な解決にはなりません。しかし、それが理解できない大衆は、事態を打開できない議会政治への不満と将来への閉塞感を高め、逆に満州事変に代表される軍部の大陸進出策に期待していました。
満州国への軍の増派に反対し軍縮を唱えていた犬養首相は、大衆にとって「国賊」であり、その「国賊」を殺した犯人は英雄だというのが、助命嘆願運動まで起こした世論の背景だったのです。


さて先日、元厚生次官の自宅が相次いで襲撃され、元次官とその妻が殺傷されるという痛ましい事件がありました。
犠牲者に心からご冥福をお祈りし、怪我をされた方の一日も早い回復を願ってやみません。
昨夜犯人を名乗る男が警察に出頭したそうですが、この男が本当に犯人なのか、何故このような凶行に及んだのかその動機も含め、事件の全貌は未だ明らかになっておりません。
新聞やテレビは、この事件を昨今騒がれている年金問題等、厚生労働省の不祥事とあたかも関連があるかのように報じ、麻生総理はじめ政府に特殊な対応を声高に要求して、いたずらに社会不安を煽っています。
先述したように事件の全貌が未だ明らかになっていない現状で、この犯罪を犯罪以上の性格を有するものとしてマスコミが報じていることは不適切であると私は思います。
それと同時に、被害者の退職前の職業を理由に、ネット上で殺人という犯罪を肯定・擁護する低俗かつ無責任な主張がこれほど多く飛び交っている現状に、「かつて来た道」を思い出し、民主主義国家の危機を覚えずにはいられない。
Yahooニュースの時事通信やロイターといった記事のコメント欄を見ると、「殺人は悪いことだがこの被害者には同情できない」といった客観的な意見を装ったものから、「ざまあみろ」「犯人は英雄」「官僚は死んで当然」「夫人も同罪」といった、臓腑を抉るような許し難い暴言に多い場合で何千人もの支持票が与えられています。
ネット上では、以前から匿名性により深刻な誹謗中傷が問題視されている2ちゃんねるが有名ですが、Yahooニュースは2ちゃんねると違って一般市民が普通に閲覧しているページです。その場所で、閲覧者の大多数がこのような、法の支配・民主主義に背を向けた野蛮なコメントに支持を与えている。
私は、事件そのものも痛ましく思いますが、ネット上で現在起きているこの事態にむしろ戦慄を覚えました。

当たり前の事ですが、年金問題や厚生労働省の不祥事と、殺人という犯罪は、全く別の次元で論議されるべき問題です。
参政権も言論の自由もあるこの国で、卑劣な暴力に正当性など一切ありません。
これでは、5・15事件を起こした青年将校を擁護した当時の世論と、民度が一切変わっていないか、それどころかより野蛮になっているのではないですか?
警察の発表を読む限り、この犯人の行為は卑劣さの極みです。
二回の犯行とも宅配便を装い、出てきた奥さんをまず刺しています。それも何度も何度も、足元が血の海になるまで。
年金などの恨みからのテロなら、どうして民間人の妻を明らかに故意に殺傷するのか。
犯人を擁護・肯定する人間は恥を知るべきだ。

先進国とは、単にGDPが高い国をいうのではありません。富だけでいうのなら、中国・ロシアもとっくに先進国です。
先進国とは、国民が民主主義的な価値観を共有し、民主主義の枠組みの中で定められたルールを守る近代的公民としての意識が成熟した国家をいうのです。

戦前日本で議会政治の死亡診断書を書いたのは軍部ではなく、民主主義の価値に無関心で野蛮な暴力を肯定し熱狂した愚かな大衆とそれを助長した朝日新聞を筆頭とする言論でした。
今また同じ過ちを繰り返さないために、この国の秩序を守るために、私はネットユーザーのもしかしたら9割以上が今回の事件を賛美している中で、勇気を出して主張します。
これは間違っていると。
犯人は、暴力によって目的を達せられると思ったのでしょう。
警察と司法にお願いします。
一刻も早く事件の全容を解明し白日の下にさらす事で、犯人が英雄でも義賊でもない、薄汚い犯罪者、憎むべき国民の敵であることを知らしめて下さい。

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4 コメント

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コメント (シュレンベルクSS准将)
2008-11-25 22:34:15
 どうもお久しぶりです。

私も何かがおかしいと思っていたんですよ。

世間では「年金問題」「救急患者のたらいまわし」
などの厚生労働省がらみの問題が現実起きている。
マスコミはこれらの問題が事件の原因であるかのように報じ、なぜか犯人を擁護しているような文面なんですよね。


 大衆社会の一番怖ろしいところは、たとえ間違えでもその
大衆が正しいと思えばそれが正しいになってしまうことです。
ヒトラーが首相になったのもドイツの大衆がナチスの
宣伝に熱狂し、時のドイツ大統領ヒンデンブルクの心
を動かしたのがいい例です。

今の麻生政権には犯人に対し厳罰を与えなければならない。
これを怠ればこの事件を賛美している人たちに誤った
考えを植えつけてしまう。
「気に入らなければ殺してしまえ」という考えを。
そうなればこの国の民主主義は死にます。
麻生さんにはこの国を生かすか殺すかがかかっています。

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返信遅れて大変申し訳ありません! (冬月副司令)
2008-12-04 00:07:36
准将ご無沙汰しております、コメント頂いたのにお返事が遅くなって大変申し訳ありません。

ホッブスが人間の自然な状態を「万人の万人に対する闘争状態」と表現しましたが、私達は法の枠によって縛られている必要があります。
その法を決める代議制が理性によって大衆の熱狂をフィルタリングし、秩序を守っているのです。

余談ですが今のタイで起きている状況は、戦前の日本やドイツを彷彿とさせるものがありますね。
いかなる理由があるにせよ、選挙で選ばれた政権を国民が選挙以外のバイパス的手段で引き摺り下ろす事に慣れてしまったら、選挙で構成された議会で通った法を軽んじる事に慣れてしまったら、議会制民主主義はお終いですよ。
返信する
ども (シュレンベルクSS准将)
2008-12-06 14:21:58
 
 こんにちは。
返信が遅れたことはお気になさらず。

話は変わりますがノルウェーで開かれたクラスター爆弾のに関する条約に日本も署名をしましたよね。

日本はなぜこうもまあ、自分の首を自分で締めるんだろうと思いますよ。

ご存知だと思いますがクラスター爆弾は、大きな爆弾の中に小型爆弾が入っており、投下して一定の高さでその小型爆弾をばら撒き、広範囲を攻撃する兵器です

日本の海岸線は長い。それだけ侵攻し来る敵はどこからでも侵入でき、守る方は兵力を分散せざるおえない。
戦術的に戦力の分散は愚考であります。

クラスター爆弾の場合一発で広範囲を攻撃できるので
上陸してくる敵に対して有効な兵器はず。
そんな有効な兵器をなぜ禁止するような条約に日本が署名するのかが理解できませんよ。

日本に限りますが、よく市民団体が「クラスター爆弾はばら撒く小型爆弾に不発弾が多いから危険」などといっていますよね。
いったい何時何処で自衛隊がクラスター爆弾を使ったんでしょう?
今のところ自衛隊は専守防衛です。クラスター爆弾を
使うような場所はどこにもないはず(演習場は別ですが)。
もしそれを使うのであるならばそれは日本の存亡が懸かった時、そんなときにそのような寝言を言うのだけは勘弁です。

使わないなら使わないで、防衛予算を増やしてほしい物です。とくに砲兵の装備増強をね。(日本では特科隊でしたっけ?そろそろ古い呼び名じゃなく、他国の
呼び名に戻してほしい物です。)
返信する
その通りですね。 (冬月副司令)
2008-12-09 00:09:06
問題提起ありがとうございます。
クラスター爆弾を規制する条約、いわゆるオスロ条約の批准に関しては、私も以前からずっと日本は他の先進国と地理的状況が異なる、本土防衛に大穴が開くので日本は批准すべきでないと主張して参りましたので、今月政府が同条約に署名したことは痛恨の極みです。

仰る通り、日本は列島状で長大な海岸線と無数の離島を抱えており、着上陸侵攻の脅威に対して国土が極めて脆弱です。
日本の自衛隊は専守防衛という事で着上陸能力はおろか艦載巡航ミサイルなどの対地攻撃能力すら満足に保有しておりませんが、ロシア・中国・韓国いずれも大規模な着上陸侵攻能力並びに対地攻撃能力を有しております。
このうちロシアは伝統的にアメリカ等NATOとの戦争、中国は台湾上陸を想定しての戦力とまだ理解できますが、韓国にいたっては表向きの仮想敵である北朝鮮は地続きであるにも関わらず、二個師団3万人もの海兵隊を有している事は、一体何を目的としてそんな大部隊を用意しているのか、全くもって不可解です。

それはさておき、これらいずれの国に対して通常戦力でバランスをとるにしても、自衛隊の現状の兵員数では残念ながら足りません。
陸自は現在確か14個師旅団13万人がおおよそだと思いますが、薄く広く分散させるのが手一杯ですし、戦車や88式誘導弾といった火砲も正直足りません。それも厳しい財政事情で削減の方向にあります。
戦前のような海岸線の要塞化などは、世論を考えればもってのほかです。
それを考えれば、クラスター爆弾は極めて経済的で、かつ軍縮を望む世論の意向にも沿う経済的な抑止力だったのに、廃棄するのは日本のこれまでの方針にも反している。
長距離爆撃機を日本は持っていないのですから、クラスター爆弾は専守防衛の兵器です。
クラスター爆弾を保有していれば、面制圧で上陸を足止めできるので、周辺国に安易な侵攻作戦の計画を躊躇させる事ができたのです。

クラスター爆弾廃棄を主張する知識人は、冷戦後着上陸侵攻の可能性はほぼ無くなったから、もうこのような脅威の想定自体が無意味だといいます。
一見正しく聞こえるかもしれませんが、そういう人は地域の安定・対等な外交は、軍事力のバランスに拠っている事をわかっていないかわかろうとしていません。
ご理解頂けると思いますが、日本以外のアジアの普通の国は現状の外交情勢と関係なく周辺国全てを仮想敵にした防衛の備えを常にしています。
それが常識的な「国防」というものです。国防とは今から準備して10年後にやっと効果が出るわけですが、今友好関係にある国と10年後も仲が良いかどうかはわからないからです。
だからどこの国も必要な戦力は備えるし、その上でお互いに抑止がしっかりとできて、対等な外交ができるのです。
日本の周辺国はどこもクラスター爆弾を保有し続けているのに日本だけ放棄しては、他の国は日本を簡単に侵略できるけれど日本はできない、力の不均衡が発生してしまう事になります。
これは地域の不安定を招きますから、むしろ平和の妨げです。
これは核の均衡に限らず通常戦力でもそうで、冷戦中のヨーロッパでは、例えばワルシャワ条約機構が新しい防弾チョッキを配備したら、NATOは今度はそれを貫通できるサブマシンガンを配備するという具合で、小火器レベルでのバランスを守っていました。それが両陣営に冒険を思いとどまらせ平和を守るのです。

さらに言えば、クラスター爆弾廃絶の旗振り役となっているのは北欧諸国やカナダで、いずれも自分の周囲に老成した先進国しかいない、またはEUなどに守られて独自の防衛を考えなくてもよくなった、「紳士クラブ」の中にいる国々です。
ROBERT COOPERという国際政治学者が『THE BREAKING OF NATIONS』で指摘していますが、日本はヨーロッパ並みの「脱近代圏」の先進国でありながら、周辺を中国、ロシア、韓国、東南アジアなど、未だに軍事力で国家が競い合う「近代圏」の価値観をもった国に囲まれた不幸な国です。
学校に例えれば、本来なら私立進学校にいるはずの優等生が、一人札付きの不良ばかりの公立の学級崩壊を起こした教室にいるようなもので、その日本に安全な北欧にいる人々が「クラスター爆弾を捨てなさい」と上から指図するのは日本の地理的状況を全くわかっていないと苦言を呈するしかありません。

故小渕首相の対人地雷廃絶を超える無知な政治の失策で、関係者は一様に、大阪城を内堀まで埋められたような気分でいるのではないでしょうか(苦笑。
慶應の添谷教授は『ミドルパワー外交』という著書で、地雷やクラスター爆弾の廃絶で積極的なイニシアチブをとれば日本が国際社会から尊敬されるなどと書いてますが、それは違うと私は思いました。
遠い安全な北欧で、我々極東の日本を取り巻く現実を全く理解できていないお花畑の軍縮論を振り回している人々に一時だけ口先でちやほやされて、それに一体何のメリットがあるのでしょうか。

中国韓国の軍拡は「良い軍拡」で自衛隊と米軍を目の敵にしている国内の左翼プロ市民団体、日本の本土防衛を揺るがす大問題なのに詳しい報道を何故かしようとしないマスコミも間違っていると思います。

非常に残念ですが、しかし決まった事は決まった事、自衛隊はこれまで通り国防を担う責任感と旧軍ゆずりの創意工夫の才能をもって、課せられた規制の範囲内で克服してほしいと願っています。
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