「・・・髪、濡れてる。新しいタオルで拭けよ。」
まだ水分を含んだ彼の髪をツンツンと軽く引っ張って、濡れたタオルをとりあげる。
新しいタオルを取り出して、ベットに腰掛けたスザクの足の間に立って、やさしくタオルドライをしてやる。
「ちょっ、ルル。自分でできるよ。」
「いいから。やらせろ。」
「うーーー。」
少し、照れたように俯くスザクが可愛くて、抱き締めるように髪を拭う。
静かな沈黙、微かに感じる互いのぬくもり。
その静寂を破ったのは、スザクの呟くだった。
「・・・ルルーシュは、責めないんだね。」
「何をだ。」
「僕は父を殺した。」
タオルで隠れて、スザクの表情は見えないけれど、思いつめた顔をしているのだろう。
「ああ、そう聞いた。」
「どうして、責めないの?」
タオルを取り、スザクの髪を指で梳きながら、整えてやる。
「責める?どうしてだ?」
「俺は父さんを殺したんだ!!」
履き捨てるように言われた言葉。悲鳴のように。
「・・・・・・お前が、あの時、 枢木首相を殺した理由。なんとなく分かる。」
「え?」
「止めたかったんだろ。護りたかったんだろ。たくさんの命を。」
あのとき、徹底抗戦を唱えていた枢木首相。
彼があのまま、その姿勢を貫けば、民間人にも、もっと大勢の犠牲がでた。
そして、自分とナナリーも。見せしめとして、いつ殺されてもおかしくないことを肌で知っていた。
「・・・・。」
「少なくとも、お前の行動で救われた命は、多くある。俺もそのひとつ。」
バッと顔をあげ、目を見開いて、俺を見つめるスザクに苦笑しながら、
まだ少し乱れている髪を直してやる。
「あの状況だ。予想くらいしてたさ。」
「ごめん。」
自分の父が幼い姉妹にしようとしていたことを思い出し、
顔を歪めるスザクに、ただ優しく微笑む。
「謝るな。仕方のないことだ。
お前はお前の行動を後悔しているのかもしれないけど。
俺はお前の行動に感謝している。お前のおかげでナナリーは生きてる。」
「ルルーシュ・・・。」
見つめてくるスザクに微笑む。
「ありがとう。スザク。それと、ごめん。」
「え?」
「7年前に、気づいてやれなかった。あのとき。気付くべきだったんだ。
あんなに傍にいたのに。ごめん。スザク。」
7年前、父を失い泣くスザクを抱きしめたときに、
ナナリーと3人で死体だらけの道を歩きながら、泣いたスザクを見た時に。
もっと早く、あのときに気付いてやれば、スザクの心はここまで傷つかなかったのではないだろうか。
泣きそうになる。スザクも顔を歪めて、目の前にある俺の腰を引き寄せる。
胸の辺りにスザクの額が当たる。
「・・・・・・・ありがと・・・。」
微かに聞こえた。泣きそうなその声に、目の前の少年から青年に変わりかけている、けれど、今は幼い子どものような彼をぎゅっと抱きしめた。
抱き締められたまま、スザクはポツリポツリと語りだした。
淡々と語られる、あの時の彼、アレからの彼。今の彼。
小さく相槌をしながら、自分の胸に縋りつく彼の背をただ、優しく撫でた。
泣けばいい。7年前にできなかったことをしよう。
君の心のままに、叫んで。心に溜め込んだままの、誰にも言えなかった。思いを。
今なら、受けとめられるから。
独りじゃないと抱き締めるから。
全てを吐き出した彼は、ひどく弱弱しくて、傷だらけの心をむき出しにしていた。
長く語ったスザクは最後に、俺に回した腕の力を強めながら、懇願した。
「今夜は、ひとりで耐えられそうにないんだ。そばにいて・・・・。」
答えなど、決まっている。
苦しそうに言葉を吐く唇に、そっと己の唇を重ねた。
「・・・そばにいる。」
重なる二人の影を、月だけが見てた。