「ヒバリさんが好きですよ。」
あの子は、いつも僕にそう告げた。
ひどく綺麗な笑みを浮かべて、僕に告げる。
僕はただ、「そう。」とだけ、頷くだけなのに、あの子は僕に答えを求めなかった。
「好き」も「嫌い」も、何も告げない僕に、あの子はただ、綺麗に笑っているだけだった。
中学時代も、高校時代も、そして、あの子がイタリアに渡ってからも、二人だけになったとき、ふいにあの子はそういうんだ。
あの子が最期に僕にくれた言葉もそれだった。
ミルフォーレの動きが活発になり、ボンゴレに手を出し始めたころ、あの子が奴等と会談を持つ少し前、あの子は僕の前に現れて、仕事の相談をし、今後の動きを話しあった。
それが終わり、あの子が自分のアジトにもどる直前、アジトの境界を跨いだとき、不意にあの子は振り返って、僕に告げた。
「ヒバリさんが好きですよ」
後ろで聞いてた駄犬と草壁が驚いていた。そう、いつもは二人のときにしか言わないのに。
初めてだった誰かが居る前であの子がそう囁くのは。
けれど、僕は変わらず、いつもと同じように「そう」とだけ頷いた。
その後、あの子はいつものようにただ、笑うのだと思っていたけれど、それは違っていた。
泣きそうな、ひどく切ない顔をして、僕を見返した。
それが、僕の見た生きて、動く最期の君だった。
それから、しばらくして、あの子の死を知った。
そして、彼女からのメッセージを受け取った。
これからくる10年前の自分たちをどうか助けてやってほしいこと、すべてを押しつけて死んだことを詫びること、そして、一度だけ、あなたの返事が欲しかったという小さな愚痴。
何も言わなかった。「好き」も「嫌い」も告げなかった。
君が告げてくれる言葉をただ聞いていただけ。
告げられることがうれしかった。不意に告げられる言葉。その言葉を聞くたびに君は僕をまだ好きでいてくれているんだと、うれしかった。
どうして、うれしいのかなんて、考えもしなかった。
最期に見せた君の表情に胸が痛かったのはどうしてかなんて、考えなくてもわかるはずなのに、僕はただ、頷くだけ。
何もしなかったのに、僕の思いを知らずに逝った君が憎たらしいなんて、なんて身勝手なんだろう。
「ヒバリさんが好きですよ。」
君の声だけが耳に残ってる。最期の君の顔がちらついて消えない。
10年近く、近くにいたのに、思い出すのは、最期の君ばかり。
交わした言葉はたくさんあったはずなのに、君の思いに答えなかった。僕への罰。
愛しさと切なさで、かき消してしまいたい。君の残像だけが、僕を縛り付ける。
誰より自由な雲なのに、君の大空がなきゃ、どこにもいけない。
どこにもいかない。
とっくの昔に、僕は大空に縛られているのに。
もう一度、好きだと言って、もう一度、微笑んで。
そうしたら、君を抱きしめて、「 」と告げるから。