チャイナMBAマネジメント協会

「CMMA: China MBA & Management Association)」

長江商学院 MBAプログラム(その3:カリキュラムCont'd )

2012-05-08 | 長江商学院MBA

こんにちは、長江商学院の石井です。


北京は、5月に入り一気に30度超えの日々が到来し、もはや涼しくなることなく、夏に突入しそうな雰囲気です。北京人曰く、例年はもう少し緩やかに夏に移行する様ですが、今年は少し異常とのこと。


さて、当校MBAは、5月から1年制プログラムの後半期に突入し、全員参加の必修科目がなくなり全てが選択科目となった、また、欧米MBA校(Columbia, IE, Em Lyon等)からのExchange Studentsが加わりクラスの雰囲気が少し変わった等、小さな変化を感じる今日この頃です。クラスメイトは各自、選択科目を多く取る、インターン・就職活動を増やす、CFA・語学等の勉強時間を増やす、欧米校へのExchangeの準備をする、単にのんびりする等の過ごし方が見られます。

私自身は、卒業後のコンサルティング業務への復帰を見据えて、中国市場における潜在的なクライアントや情報ソースの整理・開拓と、何よりも中国語の学習に比重を置き始めています。



さて、前回はMBAプログラムの1年間を概観しましたが、今回は教授陣、そして次回は設置科目の内容について、やや詳しめに書きます。


Faculty(教授陣)について

同校の教授陣は、欧米の主要大学でPh.D (博士号)を取得し、教鞭をとりながら主要な学会誌に論文を発表し、Tenure(終身教授)の地位を得ている方(多くは中国人)を、当校がヘッドハンティングする形で構成されています。彼らの多くは欧米校にも籍があるため、頻繁に中国と欧米を行き来しています。また、訪問教授(Visiting and Adjunct Professors)として、担当講座が設置される数カ月間だけ北京に滞在し、教鞭を取る方も多くいます。

詳しくは以下の当校のFaculty紹介ページをご覧ください。個人的にはInvestment/Finance領域の層が厚い印象があります。

http://english.ckgsb.edu.cn/FacultyResearch/Faculty/byName.aspx

以上の「欧米一流校での実績+中国人主体」というFacultyのバックグランドからも分かる通り、欧米MBAのカリキュラムをベースに、彼らの中国市場関連研究成果、中国市場・中国企業関連ケースを織り交ぜる形で、授業が提供されるのが当校の大きな特徴となっています。


欧米MBAとの共通性

この「欧米一流校での実績」という点ですが、この欧米MBAと同内容・同品質のカリキュラムを、北京で、リアルタイムで学べるという点は、実は、日本各校のMBAと比べると希少な点といえます。特に、1年制カリキュラムの前半期は、必修科目が大半を占めますが、個人的な見解では、8割程度は欧米MBAと重複した内容と思われます。中国MBAにおいて、この点をポジティブに捉えるか、ネガティブに捉えるかは人それぞれかもしれません。


ポジティブ視点から、私が感じる事の一つに「共通言語としてのMBA」という側面があります。

良くも悪くも、全世界の多くのMBAが、欧米トップ校が保有するケーススタディ、有名教授が執筆した教科書を使用し、ほぼ同じ内容を学習することになります。良く言われる例では、「(Economicsの)Demand-Supply Curve(需給カーブ)」「Opportunity Cost(機会コスト)とSunk Cost(埋没コスト)」「PV, NPV, IRR, Capital Cost(資本コスト)」といった基本用語は、MBAでは嫌でも頻出し、プレゼンテーションでは聴衆を説得するフレームワークの一つとして多用するため、学生の頭に染み付きます。

すると、卒業して業務に復帰した際も、彼らの話のそこかしこに登場する訳で、僕らがその語り口に慣れていると、彼らと余裕を持った円滑な議論ができますし、こちらも同様の語り口をすれば、彼らと親睦を深めやすい訳です。

くだらん話としては、「FinanceのAirbusのケース面倒だったね」「Organizational BehaviorのMorgan Stanleyのケースは、主人公に自分を重ねたよ」等々の思い出話もできます(私も、既に他校の学生やMBAホルダーとの話で経験しました)。

したがって、現時点で、多国籍企業の幹部クラスの大部分がMBAを保有している以上、グローバルビジネスでキャリアを積みたい人にとっては、海外MBAは有用なのでしょう。今や、ケーススタディも教科書もノウハウ本も、インターネットや本屋を探せば、すぐに見つかる時代ですが、やはり、ある一定期間を勉強に専念することで体が覚える、さらに、多国籍の外国人クラスメイトと英語でコミュニケーションを重ねる中で思考回路を共有する、といった要素がMBAの実質的な価値を支えているのでしょう。もちろん、欧米トップ校には、レジュメや肩書におけるブランド価値もありますが。

個人的な見解では、日本の一部のMBAは、日本市場を知り尽くした実務家出身教授が、自らの実務経験をベースに、体系化された理論を織り交ぜる形で提供するタイプの講義は大変価値を感じますし、近年は、欧米一流校での経験(Ph.D等)と産業界とのネットワークを併せ持つ学者系教授も増えている印象があります。したがって、欧米トップ校MBAがあり、日本のMBAも進化している中で、学生が、中国MBAを選択する場合、中国市場やAsia/ASEAN市場を軸としたキャリアプランを持っているのが自然といえます。


中国MBAならではの価値

個人的には、当校MBAに対して、中国市場にフォーカスした内容を強く期待していたので、教授陣の多くが「中国人」である点は重要に感じます。また、中国市場ネタの比重が増える選択科目が設置された後半期には期待しています。

もちろん、前半期の必修科目の中でも、中国市場のケースのみを用いる教授もいましたし、講義以外の時間で彼らに中国市場に関するディスカッションを投げかける事も可能ですので、学生側の姿勢次第で、中国市場に関する情報収集は可能です。しかし、仕事をしている時と同様、通常業務以上のプラスαの活動をするには、それなりの負荷がかかります。中国語ができる方であれば、中国語の情報ソースにアクセスが容易ですので、圧倒的に優位ですね。


なお、私が「北京でMBAを勉強していて良かった」と感じた点としては、シンプルに「日本と中国との歴史は長くて深い」という点です。政治・文化的な歴史的背景については言わずもがなですが、ビジネス分野においても同様の事が言えます。日本企業にとっての中国ビジネスは、輸出入、技術・生産提携、合弁設立、生産拠点、販売市場、独資設立、研究開発拠点...と歴史の中でトレンドがありながらも、それなりに数多くの意思決定をし、その中で多くの成功・失敗事例を蓄積してきています。

確かに、中国には他国市場にはない特殊性も沢山ありますが、日本企業は、より真剣に、中国市場での過去・現在の経験を分析し活用していく事で、グローバルで戦うための示唆を引き出せるのではないかと感じます。

そのためには、日本人側だけではなく、中国人・中国企業側からの率直な意見を引き出すコミュニケーションスキル、グローバル基準で通用する調査分析スキル等が必要であり、我々の若い世代こそ、もっと中国人の同世代・先輩と議論を交わす事によって、それら成果を創出できるのではないでしょうか。関連するケーススタディもまだ少ないですし、研究対象としての可能性も感じます。

現在(近い将来)、中国ビジネスの実務担当者である(になる)方にとっても、中国MBAは、語学研修以上に、中長期的に活用可能性が高い学びの場だといえます。人脈形成としても、実際の仕事で知り合うよりも、クラスメイト・先輩後輩という形で知り合うと、距離感が違う感もあります。


以上、当校のカリキュラム紹介から脇道に逸れてしまいましたが、長くなってしまったので、今回はこの辺で中断して、具体的な科目の中身の紹介は次回ご紹介します。