アジア映画巡礼

アジア映画にのめり込んでン十年、まだまだ熱くアジア映画を語ります

インドの「いま」を知るために必読! 湊一樹著「『モディ化』するインド――大国幻想が生み出した権威主義」

2024-05-09 | インド映画

アジア経済研究所所属の、私が尊敬する現代インド研究者、湊一樹さんの著書が届きました。まずは本のデータと共に、表紙と裏表紙をスキャンしたものを付けておきます。

湊一樹(みなと かずき)著
「『モディ化』するインド――大国幻想が生み出した権威主義」
 中公選書151/中央公論社/278ページ/2024.5.10/本体1.800円+税

アマゾン沼のサイトはこちらです。一見、インド映画と直接の関係はない本のようですが、実は湊さんはインド映画にも詳しく、特にモディ首相が「映画」という媒体を巧みに政治利用している点をしっかりと押さえていて、この本でも何カ所かでインド映画についての言及があります。本の最後にある索引を見ると、「映画」の項目のところには取り上げられた映画の題名が書いてあるので、この本を皆さんが読まれる時の参考になるよう、それぞれの映画の予告編とWikiのページを付けておきます。索引は邦題の五十音順なのですが、日本で未公開のものは原題の日本語訳を「邦題」扱いで掲載されているため、ここでは原題のアルファベット順にご紹介します。

Accidenntal Prime Minister, The 『偶然の首相』(2014)英語版Wiki

The Accidental Prime Minister | Official Trailer | Releasing January 11 2019

 

Chalo Jeete Hain 『さあ生きよう』(2018)英語版Wiki

Chalo Jeete Hain Official Trailer | Releasing 29 July

 

Kashmir Files, The 『カシミール・ファイルズ』(2022)英語版wiki

The Kashmir Files | Official Trailer I Anupam I Mithun I Darshan I Pallavi

 

『KESARI/ケサリ 21人の勇者たち』 Kesari(2019)日本版ウィキ

『KESARI/ケサリ 21人の勇者たち』予告編

 

『ミッション・マンガル 崖っぷちチームの火星打ち上げ計画』 Mission Mangal(2019)公式サイト 

『ミッション・マンガル 崖っぷちチームの火星打上げ計画』予告

 

『パッドマン 5億人の女性を救った男』 Padman(2018)日本語版ウィキ

映画『パッドマン 5億人の女性を救った男』予告(12月7日公開)

 

PM Narendra Modi 『首相ナレンドラ・モディ』(2019)英語版Wiki

PM Narendra Modi |Official Trailer | Vivek Oberoi,Omung Kumar | Sandip Ssingh| Re-Releasing - 15 Oct

 

Toilet: Ek Prem Katha 『トイレ―ある愛の物語』(2017)英語版Wiki

Toilet Ek Prem Katha Official Trailer | Akshay Kumar | Bhumi Pednekar | 11 Aug 2017

 

ちょっと長くなってしまいましたが、実はまだまだモディ首相関連映画はあるんですね。特に最近は、『Article 370』(2024)等いろんな作品に首相のそっくりさんが登場して、ものまね大会の様相を呈しています、やれやれ。

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ところで、私が初めてモディ首相と映画とを重ね合わせたのは、『バジュランギおじさんと、小さな迷子』(2015)の最初のソング&ダンスシーン「Selfie Le Le Re(セルフィー撮れ撮れ)」がYouTubeにアップされた時です。「♫チャル・ベーター・セルフィー・レー・レー(さあ、坊やorあんちゃんor若いの、セルフィー撮れ撮れ)」とハヌマーンに扮したおじさんたちが、主人公を演じるサルマーン・カーンと一緒にケータイで写真を撮りながら歌う歌を見て、「モディ首相はセルフィー大好き。外国で要人と会っても、まずは1枚、と撮りまくる」の話を思い出し、ひょっとして新首相へのヨイショかしら? と思ったのでした。2015年の7月公開なので、その少し前、モディ首相就任から1年ぐらいが経った時ですね。このシーンです。

'Selfie Le Le Re' FULL VIDEO Song Pritam - Salman Khan | Bajrangi Bhaijaan | T-Series

 

その後、この映画を見た時も、ハヌマーン祭りといい、その中でのセルフィーといい、やっぱりちょっと新首相におもねっているところがある、という感覚で見たのですが、モディ首相の言動が何やらきなくさくなってきている中で見直してみると、これは! とこの映画を認識し直したのでした。この映画は、それまでヒンドゥー教の世界に生きてきた主人公が、ヒューマニズムからイスラーム教に目覚めるストーリーだったのです。つまり、挨拶は「ナマステ」しかしたことのない主人公が、「サラーム」や「アーダーブ」というイスラーム教徒の挨拶ができるようになるまでのストーリーなんですね。下の挨拶が、「サラーム」「アーダーブ」の時のイスラーム教徒のジェスチャーです。

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この、アンチ・ヒンドゥー至上主義と言っていい映画はほかにもあって、現在公開中のサルマーン・カーン主演作『タイガー 裏切りのスパイ』(2023)を初めとする「タイガー」三部作もそれに当てはまります。第一作『タイガー 伝説のスパイ』(2012)が公開された頃はまだ会議派政権だったので、インド全体はそれほど右傾化していなかったことから、印パ両国のスパイが恋に落ち、逃避行するこの映画は、ファンタジー的に捉えられたのでは、と思います。しかしその後、『タイガー 蘇る伝説のスパイ』(2017)で印パ両国のスパイが力を合わせる、という物語を作り上げたのは、明らかにアンチ・ヒンドゥー至上主義の発露と言っていいでしょう。そして、『タイガー 裏切りのスパイ』では、それがさらに色濃く出てきています。ネタバレになるのですが、タイガーとゾヤに国家の危機と自分の命を救われたパキスタンの女性首相が、ラスト近くで「お礼に」と言って、パキスタン国歌を演奏するために控えていた少女たちにインド国歌を演奏させるシーンには、思わず目頭が熱くなってしまいました。

(『タイガー 裏切りのスパイ』上映時に配られたポスカ)

こういう、「時代と映画」のエピソードをいろいろ書き残しておけるといいんですけどねー。ちょっと内輪話を言うと、インド映画まわりは本当に書き手不足で、いろんな映画が公開される時のパンフレットに原稿を寄せて下さる方も少々マンネリ化しているんですね(私もマンネリリストの一人です;;)。映画評論家の方でインド映画好きの方もいらっしゃるのですが、勉強不足だったりして、冷や汗が出るような文に遭遇したことも。その点、『タイガー 裏切りのスパイ』のパンフに寄稿なさった岡本敦史さんは、よくインド映画を見てらっしゃるし、このアンチ・ヒンドゥー至上主義についてもちゃんと認識してらして、素晴らしいです。できればインド映画ファンの中から、きちんとインドのことを勉強している人で、執筆能力のある人がバンバン出てきてほしい、と願っています。どなたか、私なら書ける! という方がいらしたら、コメント欄を使ってぜひご連絡下さいね。おっと、話がそれましたが、「『モディ化』するインド――大国幻想が生み出した権威主義」、ぜひ読んでみて下さい。

 


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1 コメント

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Unknown (ddd)
2024-05-20 16:07:04
若い世代のインド映画やドラマについて知らない人が他人に対して不勉強と言えるのは不思議です。
あなたが書いたパンフレットでも書くべきことを逃しているものがたくさんあります。文字数や編集の都合などもあるので一概には言えませんが。そういった言葉って一周回って、自分に戻ってきますよ。

実際にアンチ・ヒンドゥーの見解もこじつけすぎます。ひとつの意見として流そうとも思いましたが、他人に対して不勉強と言っているのでコメントを書かせていただきました。
印パ協力関係を描いた作品はドラマでは山ほどありますが、これはアンチ・ヒンドゥー至上主義というより、もっと簡単な話です。
韓国と北朝鮮のように、見た目が同じ種を印パとして対立させることは、コンテンツとして世界的に売り出そうとしていて、そこで俳優たちも世界に売っていく際に、どちらかに悪い印象を付けてしまうとグローバルな視点からは不利益になりえるからです。
だから韓国も北朝鮮と協力する作品が年々増えていますし、配信系作品にたずさわる複数のプロデューサーや映画監督が同じように言っています。

文化や歴史については誰よりも詳しいかもしれませんが、もっと最新の映画ニュースに気を配って、インドの一部の話題作と劇場公開作だけではなく、映画全体のことを勉強してください。
ローヒトの作品でもパキスタン人とパキスタンのテロリストは明確に区別するように作っています。
いろんな意見があるのは勝手ですし、社会と結びつけるのは別にいいですが、無理に結びつけると陰謀論と同じです。
どんな映画でも、そういうことを言う人はいるのですが、あなたはそれなりに影響力があるので、もっと慎重な発言をお願いします。

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