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アジア映画巡礼

アジア映画にのめり込んでン十年、まだまだ熱くアジア映画を語ります

素晴らしいご本をいただきました ♥その②♥ 「死とオベリスク 墓石のグローバル・ヒストリー」

2025-03-29 | インド文化

「砂の境界」に続き、私の所にやってきて、今、私の心をワクワクさせてくれているのは、冨澤かな先生が書かれたこの本です。タイトルは「死とオベリスク 墓石のグローバル・ヒストリー」、出版社は中央公論美術出版で、お値段は7,000円+税となります。

タイトルを見ても、本のカヴァーを見ても、一見インドとは関係なさそうですが、これが大ありなんですね。裏表紙もスキャンして、帯に書かれている目次を見てみましょう。

「インド」という言葉や、インドの地名がいろいろ出てきますね。関係ある章だけ、ピックアップしてみましょう。
  序章:――なぜインドで墓でオベリスクなのか?
  第一章:カルカッタ(1)
  第六章:サーンチー、アーグラー、スーラト
  第八章(あ、これ、「第九章」の間違いです):カルカッタ(2)
  終章:――再び、なぜインドで墓でオベリスクなのか?

というわけで、冨澤先生の研究はカルカッタから始まり、ヨーロッパとインドを行き来して、最後にまたインドに戻る、ということのようです。そのきっかけが冒頭に書かれているのですが、サー・ウィリアム・ジョーンズ(1746-1794/イギリス人の東洋学者で最後はカルカッタで亡くなった)の墓に詣でようと、カルカッタ(現コルカタ)のパーク・ストリートにあるサウス・パーク・ストリート・セメタリーに行ったら、そこに巨大な白亜のオベリスクがあったそうで、「なぜここにオベリスク?」と某テレビ番組みたいなひとりごとからその謎解きが始まったようです。その写真が本書の1ページ目に出て来ますが、オベリスクってすらりと細高いものかと思ったら、「どすこい!」型の貫禄ありすぎのもので、しかも足下の4面と台座の四方には、これまた貫禄十分の飾りがついています。これはやはり、「なぜ?」と思わせられてしまいますね。Wikiに写真があったので、ジョーンズ自身の写真と一緒に付けておきます。

 

さらにこの墓地にはオベリスクが林立していたらしく、「古代エジプトの太陽神殿に建てられた柱状建築のオベリスクが、なぜこの時代に、インドで墓になっているのか?」とどんどん疑問が膨らんで、それから15年ぐらい冨澤先生を捉えて放さなかったようです。その研究結果が、全362ページという大判のこの本に結実したのでした。惜しむらくは、この間コルコタに行った時、パークストリートから徒歩10分ぐらいの所に泊まっていたのに、この墓地まで行かなかったこと。行っていたら、さらに大感激していたでしょうに。

それはいいけど、インド映画研究が専門のあんたと何の関係があるの? と言われそうですが、昨年7月に東大であった研究会でお目にかかり、その前に「インド文化読本」(小磯千尋・小松久恵編、丸善出版、2022)で冨澤先生の「さまざまな宗教、さまざまなお墓――お墓で見るインド宗教史」を読んでいたもので、ついお話がはずみ、勝手に香港のインド人墓の写真をお送りしたりしたのでした。それが下の写真で、ムスリムのお墓だとわかりますが、グジャラーティー語が墓石に書かれているのが珍しく、つい写真を撮ったのです。

それと、この本を読む前年だかにNHKの「ジャイサルメール」という番組の字幕監修をした時、その中にチャトリ(”傘”という意味の霊廟建築)群が登場し、調べたりしたため、「さまざまな宗教、さまざまなお墓」を読んで中の写真を見て、「これだわ!」と思ったこともあって、ついつい冨澤先生に親近感を覚えてしまったのでした。そんなつながりだけでしたのに、こんな立派なご本を頂戴して、本当に申し訳ありません。まだちらちらとしか拝読していないのですが、墓を巡る人間の営みは本当に興味深く、アジア各地でいろんな墓に接してきた私としては、それらの墓の物語も読みたくなってしまいます。このブログを書くにあたって、記憶にあるお墓の写真を捜してみたのですが、写真は撮っていなかったようで、鮮明な記憶だけが残ったようです。それらのお墓は、①30数年前に見た、台北の捷運の駅「辛亥」裏手に広がる小山を占める、福建系のお墓群、②マニラの高架鉄道(行った1993年は貧しい庶民の乗り物で、ホストファミリーに「乗って来た」と言ったらたいそう驚かれた)から見えた華人墓地の、立派な福建系のお墓。まるで邸宅みたいだった、③香港の山の南斜面をぎっしりと占める、お墓密度が高い墓地、等々で、③は空港エキスプレスからいつも見えるため、行き帰りに挨拶する感じのお墓なのでした。下は香港の、イスラーム教徒墓地の入り口です。

そう言えば、今年の清明節は4月4日(金)のようです。その日ぐらいになったら、このご本もじっくり読めるようになるかも。お若い皆さんはお墓の話など興味がないかも知れませんが、学者の研究がいかに面白い本になるか、という見本にもなりますので、研究者やもの書きを目指している人はぜひ「死とオベリスク」を読んでみて下さい。何かねー、この本の文章には巧まざるユーモアがあって、読んでいてニコニコしてしまうんですよ。特に「あとがき」での冨澤先生の悩みぶりが面白くて、つい、「第一の書きにくさに、本書の位置付けのあいまいさがある。見直してみるほどに、これがどういう研究領域のどこにどう位置づく、どういう意味を持つ研究であるのか、正直なところすっきり説明できないのである」という箇所では、「人間学ですよ、人間学」と拳を握りながら言ってしまいました。

カヴァー写真も美しく、文中に使われている写真もどれもとてもきれいです。カヴァーをはずして広げると、さらに美しく感じます。中央公論美術出版という美術系出版社の力でしょうか。表紙と裏表紙の広げた写真が上と下です。両方とも背表紙を付けてあります。「あとがき」にはちょっと悲しいお話も書かれているのですが(私が50年前に体験したのと同じ出来事)、この本がそのお話のオベリスクになるのでは、と思います。

本書をお求めになる方のために、アマゾン沼のサイトと出版社のサイトを付けておきます。それにしても返す返すも、この間コルカタに行った時、サウス・パーク・ストリート・セメタリーに行かなかったことが残念です。そこから徒歩10分ぐらいの所に泊まっていたというのに、私のマヌケったら。映画巡礼はやっても、墓地巡礼をコロッと忘れていました。せめてものことに、ハイダラーバードで行った聖者廟のお墓の写真を付けておきます。冨澤かな先生、興味深いご本をありがとうございました。これからじっくりと拝読させていただきますね。


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