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アジア映画巡礼

アジア映画にのめり込んでン十年、まだまだ熱くアジア映画を語ります

重厚な韓国映画『王の運命(さだめ)』

2016-05-21 | 韓国映画

6月に入ると、またまた韓国映画の話題作が公開されます。ソン・ガンホ、ユ・アイン主演による時代劇『王の運命(さだめ)-歴史を変えた八日間-』です。韓国映画や韓国ドラマのファンなら、すでにお馴染みであろう歴史上の事件「思悼(サド)世子の米櫃餓死」を真っ正面から描いた本作は、『王の男』(2006)などのイ・ジュニク監督作品。今回も力作です。

『王の運命(さだめ)-歴史を変えた八日間-』 公式サイト
2015年/韓国/韓国語/125分/原題: 사도(思悼)

 監督:イ・ジュニク
 主演:ソン・ガンホ、ユ・アイン、ムン・グニョン、チョン・ヘジン、キム・ヘスク、ソ・ジソプ
 配給:ハーク
 宣伝:ポイント・セット
6月4日(土)よりシネマート新宿ほか全国ロードショー

© 2015 SHOWBOX AND TIGER PICTURES ALL RIGHTS RESERVED

主人公となるのは、李氏朝鮮王朝の第21代国王であった英祖(ヨンジョ/在位1724-1776)と、その息子で、亡くなったあと「思悼(サド)世子」と名付けられた世子(皇太子)。英祖(ソン・ガンホ)は最初の男の子、孝章世子を皇太子にして間もなくの1728年に9才で亡くしており、その後1935年に誕生した次男を2才で世子にすると、自分の期待を一身に背負わせて育てました。世子は非常に聡明でしたが、英祖が王として最も重視すべき勉学を強いるのに対し、世子は成長するにつれて芸術や武芸に興味を抱き始めます。こうして世子は徐々に父英祖の敷いた路線を嫌うようになり、英祖との間に溝ができ始めました。さらには、英祖との葛藤が世子の心をむしばみ始めます。

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この頃、朝鮮王朝では少論(ソロン)派と老論(ノロン)派が勢力争いをしており、その影響もあって、ついに英祖は世子を廃位することを決定します。それと共に、これまで自分にそむく行為のあった世子を米櫃に閉じ込め、死に至らしめるよう命を下します。世子の正室(正夫人)恵慶宮(ヘギョングン/ムン・グニョン)や、世子の母で、英祖の側室の1人である映[女賓](ヨンビン/チョ・ヘジン)らは何とか助け出そうとするのですが、英祖の決心は固く、8月の暑さの中、野外に据えられた米櫃で世子は苦しむことになります。まだ幼い世子の息子サンまでもが、父を助けようと必死になるのですが、英祖は赦さず、とうとう8日目に世子は死を迎えます....。

 

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映画では、この8日間が時系列的に描かれる合間合間に、過去の出来事の描写がさし挟まれます。なぜ英祖は、かたくななまでに世子を米櫃から出そうとしなかったのか。なぜ世子は、父英祖にそうされる要因を作ったのか。イ・ジュニク監督は、英祖のぬぐいがたいコンプレックスにも踏み込んで、李氏朝鮮王朝の中で最長在位期間を誇った英祖の人となりを多角的に捉えていきます。そして、ソン・ガンホがそれによく応え、その名の通り英明でありながらも、人としてこじれた部分を持つ英祖を重厚に演じています。その重厚さの殻が崩れ、だだっ子のようになる英祖の顔が見えるシーンは、ソン・ガンホならではの巧みな演技と言えるでしょう。『観相師』(2013)に続く時代劇2本目ですが、『観相師』の庶民的な役とは違った王の威厳をきちんと醸し出し、年齢のうつろいもしっかりと感じさせてくれるソン・ガンホ、さすが名優です。

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一方、このところその演技力が高く評価され始めたユ・アインは、難役というべき世子を一生懸命に演じています。父英祖に愛されたいと思いながら、なぜか疎まれるような結果になっていく世子の運命は、これまたこじらせ系の最たるもの。ちょっと演技がいっぱいいっぱいのところも見受けられますが、それがかえって世子の姿と重なって、見ているこちらまで息苦しくなるほど真に迫っています。『ベテラン』(2014)に続き、また新境地を切り開いたユ・アインです。

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実は、春先に必要があって韓国ドラマ「トキメキ☆成均館スキャンダル」(2010)なんぞを見ていまして(遅い!)、そこで「思悼世子の息子」「老論派」「少論派」などという言葉が出て来たため、『王の運命(さだめ)-歴史を変えた八日間-』を見た時にいろいろと繋がってきたのでした。さらに、本作の中では「サン」と字幕に出てくる世子の息子が、李(イ)氏朝鮮なので「イ・サン」になると気付き、これまた非常に遅ればせながら韓国ドラマ「イ・サン」(2007)を見てみたりと、本作を見たおかげでまたまた世界が広がりました。韓国ドラマに詳しい皆様方なら、そんなことはとっくにご承知でしょうが、こんなにもたびたび取り上げられている事件なのに、どうしてイ・ジュニク監督は今また映画で描こうとしたのでしょうか。インタビューでイ・ジュニク監督は、「韓国では誰もが知る歴史的事件にもかかわらず、誰も正しく知ることのなかった家族史に焦点をあてました」と語っていますが、確かに、父子のこじれた関係は現代の家族にもあてはまりそうです。

「王の運命ー歴史を変えた八日間ー」予告編解禁

様々な読み方ができる、重厚な時代劇『王の運命(さだめ)-歴史を変えた八日間-』。上の予告編にあるように、成人したイ・サン、つまり第22代の王正祖(チョンジョ)として、ソ・ジソプも特別出演しています。私としては、イ・ジュニク監督が彼の過去の時代劇作品『黄山ヶ原(ファンサンボル)』(2003)や『王の男』(2006)のように、庶民を登場させて彼らの視点から描く手法を今回とっていないのが気になるところですが、あえて王家の家族ドラマも庶民と同じ、という形で見せようとしたのかも知れません。重厚な人間ドラマ、ぜひ大きなスクリーンでご覧になって下さいね。


 


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