とんでもない力技で押してくる韓国映画、『悪女/AKUJO』を試写で見せていただきました。しかも、押してくるのは、美しくも全身血まみれのヒロイン。荒唐無稽なストーリーながら、撮り方、絵づくり、キャラ立ち度が抜群で、プレスにあるように「思わず作り手の正気を疑いたくなる」場面が続出する作品です。画像を多用しながらご紹介したいと思いますが、まずは作品データをどうぞ。
『悪女/AKUJO』 公式サイト
2017年/韓国/韓国語/124分/原題:악녀(悪女)/英題:THE VILLAINESS
監督:チョン・ビョンギル
出演:キム・オクビン、シン・ハギュン、ソンジュン、キム・ソヒョン
配給:KADOKAWA
※2018年2月10日(土)より角川シネマ新宿ほかロードショー
©2017 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & APEITDA. All Rights Reserved.
冒頭から、トンデモなアクションシーンが始まります。画面に映るのは、奥へと伸びる古びたビルの内廊下。黒服の男が奥から画面に入ってきます。「何じゃい? 誰じゃ、ワレぁ!」みたいなことを男が怒鳴った途端、黒い革手袋をした右の手が突き出され、その手にに握られた拳銃が火を噴きます。左右の部屋のドアから飛び出してくる黒服の男たち。右手の拳銃は彼らを確実に仕留めていきます。こうして、男たちを銃とドス、鉈(なた)などで次々と始末していく黒手袋の手のみが写り、その手の持ち主である女の息づかいや短い悲鳴が聞こえる中で、7分に及ぶノンストップアクションが展開していきます。最後に、駆けつけたパトカーの前に姿を現したのは、本作の主人公である若き女性スクヒ(キム・オクビン)。結婚したばかりの最愛の夫、中国朝鮮族マフィアの若頭ジュンサン(シン・ハギュン)を殺した男たちへの復讐でした。幼い頃父親を殺されたあとジュンサンに拾われ、殺し屋としての訓練を受けたスクヒは、やがてジュンサンと恋仲になって結婚したのですが、その直後にジュンサンは敵対する組織に殺されたのです。
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ところが、警察に逮捕されたスクヒが連れて行かれたのは、刑務所ではなくて国家情報院がひそかに暗殺者を育てている訓練所でした。ジュンサンの子供を妊娠していることがわかったスクヒは、女の子を出産後数年にわたって様々な訓練を受け、凄腕の暗殺要員に成長します。教育係であるクールな女性幹部クォン(キム・ソヒョン)に太鼓判を押されたスクヒは、訓練所を出て娘ウネと共に市中に暮らすことになりますが、マンションの隣人となった青年ヒョンス(ソンジュン)は何かとスクヒたち母子を気に掛けるのでした。そんな中、スクヒには次々と暗殺命令が下ります。ある時、ウェディングドレス姿でライフルを構えたスクヒが照準の中に捉えたのは、意外な人物の姿でした...。
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お話は荒唐無稽なのですが、『殺人の告白』(2012)でも監督・脚本を担当して人々をアッと言わせたチョン・ビョンギル監督は、虚々実々の中に目が離せないアクションシーンを巧みに入れ込みながら、観客をぐいぐい引っ張っていきます。見どころとなるアクションシーンをいくつか挙げると、暗殺を実行した後バイクで逃走するスクヒとそれを追うバイクの男たちの闘いがまず挙げられます。公道を走りながら繰り広げられる死闘は、一体どうやって撮ったんだ、と思わせられるものばかり。その死闘バイク・チェイスが延々と続くのですから、観客は筋肉が固まるような緊張を長時間強いられます。「しつこさ」も、『悪女』のアクションシーンの特徴と言っていいでしょう。
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また、最後のクライマックスも公道での乗用車とバスを使ってのアクションで、これまた狂気の沙汰的シーンの連続です。スクヒがボンネットに乗ったまま、壊れたフロントガラス越しにハンドルを操作しながら敵を追って行くシチュエーションには唖然とさせられますが(誰がアクセルを踏んでるんだ???)、その後に敵の一団が乗った路線バスに飛び移り、車内へと飛び込むシーンは、ジャッキー・チェンの『ポリス・ストーリー』も真っ青となるような大迫力。ここも決着が着くまでの長さが、テンコ盛りに盛られたアクションによって、さらに長く感じられます。
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元々、韓国一のアクション監督チョン・ドゥホンが設立した、ソウル・アクションスクールの生徒だったというチョン・ビョンギル監督は、スタントマンになる夢が挫折し、監督に転じたという変わり種。監督デビュー作は、劇映画としては『殺人の告白』(2012)なのですが、その前にドキュメンタリー映画『俺たちはアクション俳優だ』(2009)を撮っているそうで、アクションへの思い入れは非常に強いものがあるようです。韓国では「女性アクション映画は万人には受けない」というジンクスがあるとかで、そう言えばアクション・ヒロイン映画と言えるものは皆無に近く、アクションシーンを演じた女優も、『花嫁はギャングスター』(2001)シリーズのシン・ウンギョンや、『10人の泥棒たち』(2012)や『暗殺』(2015)でのチョン・ジヒョンぐらいしか思い出せません。
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そんな中、『悪女』でキム・オクビンが見せるアクションは、まさに破格のヒロイン・アクションと言っても過言ではないでしょう。パク・チャヌク監督作『渇き』(2009)でのキム・オクビンとは、まるで別人です。前述のアクションシーン以外にもまだまだあるのですが、キム・オクビンはその9割以上を自分でこなしたのだとか。撮影に入る前に3ヶ月間、ソウル・アクションスクールでみっちりと訓練を受けたそうですが、実際のアクションシーンを演じるのはまた勝手が違うはずで、それを現場で次々とこなしていくには、相当の運動能力とアクション・センスが必要とされたことでしょう。おまけに、ほとんどのアクションシーンが、血まみれになったり手ひどく肉体を痛めつけられたりする苛酷な現場ばかり。よくぞこなした、と思いますが、この根性と身体能力が、まさに新しいアクション・ヒロインを誕生させたのでした。
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アクションシーンはいずれも、繰り返し見てみたくなる素晴らしさで、それ以外のストーリーは極言すれば、アクションの引き立て役として存在する、と言いたくなるような本作。アクション好きの方、特にアジアン・アクションがお好きな方は、絶対に見逃せない1作です。『悪女』で、韓国映画の血まみれヒロイン誕生の瞬間を目撃して下さい。最後に予告編を付けておきます。
韓国発のスタイリッシュアクション 映画『悪女/AKUJO』予告編
<特別付録>
シン・ハギュン&ソンジュン・ファンの皆さん向けに、2人が写っているヴィジュアルも付けておきます。
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ソンジュンは2012年に映画『私は公務員だ』とテレビドラマ「美男(イケメン)バンド」等でデビュー、主としてドラマに出演しているモデル兼男優です。『悪女』では、彼が出てくるシーンで息抜きができます(笑)。
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