アジア映画巡礼

アジア映画にのめり込んでン十年、まだまだ熱くアジア映画を語ります

TIFF&FILMeX:DAY 3『瀑布』と『小石』が素晴らしい!

2021-11-01 | アジア映画全般

本日は、一番キツキツなスケジュールの日でした。11:20~13:29『瀑布』(朝日ホール)⇒13:40~15:00『ザクロが遠吠えする頃』(シネスイッチ銀座2)⇒15:20~16:34+Q&A『小石』(朝日ホール)⇒18:40~20:10『ホワイト・ビルディング』(朝日ホール)というわけで、最後の作品はもうQ&Aを聞く元気がなく、帰宅してぐったり、というところです。でも、『瀑布』と『小石』がすごくよかったので、幸せな1日でもありました。この2作を中心に、ご紹介しようと思います。

『瀑布』
 台湾/2021/129分/原題:瀑布/英題:The Falls
 監督:チョン・モンホン(鍾孟宏)
 出演:アリッサ・チア(賈靜雯)、ワン・ジン(王浄)

コロナ禍下の台湾。高校生のシャオジン(ワン・ジン)は、3年前に父が母(アリッサ・チア)と離婚して家を出たので、マンションに母と2人暮らしでした。母はバリバリのキャリアウーマンだったのですが、コロナ禍で会社から給料減額を言い渡され、また、シャオジンのクラスに感染者が出て、シャオジンが自宅隔離になってずっと家にいたりすることから、次第に心を病んでいき、ついに精神科に入院するまでになります。そのため職を失い、住宅ローンの支払いやお手伝いさんの給与支払いも滞るようになったため、シャオジンが家計の心配をせざるを得なくなりました。母はいったん退院したものの、料理中にボヤ騒ぎを起こしてしまい、ヤングケアラーのシャオジンの緊張はピークに達します...。

映画の半ば過ぎまで、つらい出来事ばかりが起きて胸苦しくなるような思いを味わうのですが、母が家計のためにスーパーのパートをするようになってから、気分が徐々に上向いていきます。母を採用し、何かと目配りしてくれる中年男性の主任が、一挙に多幸感を運んできてくれるのです。もう、この人の言葉や行動は、思い出してもウルウルしてくるほど。ユーモアもまじえながら、こういう冴えない中年男に幸福を運ばせるチョン・モンホン監督の腕の冴えと言ったら! それ以上に、演じる陳以文(チャン・イーウェン/本職は監督です)のいい味すぎる演技と言ったら!! このシーンだけ、あと二、三度見てみたいです。フィルメックスの会場も、一瞬笑いに包まれました。

もちろん、アリッサ・チアとワン・ジンの主役2人の演技も素晴らしいです。『瀑布』はアカデミー賞国際長編映画部門の台湾代表にも選ばれ、はからずもインド映画『小石』とアカデミー賞で競う間柄となりました。チョン・モンホン監督作品は、昨年も『ひとつの太陽』(2019)がアカデミー賞に送られたそうで、この作品も父親役で主演したチャン・イーウェンが泣かせてくれましたよね。そして、『ひとつの太陽』では重要な役を演じていた劉冠廷が、今回はチョイ役でカメオ出演しています。チョイ役ですがこのシーン、決定的に重要なシーンなので、それでチョン・モンホン監督も彼に依頼したのでしょう。というわけで、チョン・モンホン監督(下写真)に大きな拍手を! 日本公開してほしいなあ、の作品でした。

 

『小石』
 インド/2021/タミル語/74分/原題:Koozhangalகூழாங்கல்/英題:Pebbles
 監督:P.S.ヴィノートラージ
 出演:チェッラパーンディ、カルッタダイヤーン

ある村を、怒り狂った男がどかどかと歩いていきます。この男ガナパティは、稼いだ金はすべて酒と煙草に使ってしまうクズ男で、とうとう妻のシャンティは愛想を尽かして下の娘ラクシュミを連れ、実家に戻ってしまったのです。ガナパティは息子ベルーの小学校に乗り込むと、息子を連れ出します。妻の実家に連れ戻しに行くのですが、息子に妻説得の役をさせようというわけです。2人は村はずれのバス停から、バスに乗って遠くの村をめざします。

息子も父親を嫌っており、バスの中では別々に座りますが、ガナパティは煙草を吸いだし、乗客と大げんかになります。やっと妻の里のバス停で降り、ガナパティはベルーを実家に行かせて妻を連れてくるように言いますが、実は妻と娘はこの日の朝、家に戻ったところでした。ベルーは母方の祖母や母の弟一家に歓迎されますが、ガナパティが乗り込んで来るとここでも大げんかに。妻がいないとわかって、ガナパティが村に戻ろうとしたところ、ベルーが父を母と会わすまいと考えたのか、バス代の紙幣を破って歩き出します。仕方なくガナパティもそのあとを追い、炎天下をえんえんと村まで歩く羽目になります...。

その途中で、2人は野ねずみ採りをしている一家と出会ったり、ベルーが面白い物を見つけたりして、歩き版ロードムービーが展開していきます。セリフは少ないのですが、主人公ガナパティの危険な性格が醸し出す強いインパクトと、少年ベルーの印象的なまなざし、そして何よりも、岩山のそびえる大地の様子が観客を捉えて放しません。いやあ、面白い映画でした。

タイトルの「小石」は、歩き始めてすぐ、ベルー少年が拾って口に含み、家に着くまでずっと口中に置いているものを指します。上映終了後のQ&Aに登場したP.S.ヴィノートラージ監督(下写真)によると、暑い中歩いて行く時には、喉が渇かないよう小石を口に含み、唾液の分泌を促す、という方法を村の人たちはとるんだとか。本作はヴィノートラージ監督が育った土地で撮ったので、彼のこれまで経験してきたことがいっぱい盛り込まれているそうです。英語があまり得意ではないという監督のために、本当はタミル語ー日本語の通訳が付くはずだったのですが、ちょっと手違いがあって、監督の代わりに本作のスタッフの人が英語で答え、最後の質問だけ日本語ー英語ータミル語の通訳となったのでした。日本公開は難しいかも知れないので、ご覧になりたい方は11月6日(土)21:10~ヒューマントラストシネマ有楽町である上映にぜひお出かけ下さい。

 

『ホワイト・ビルディング』
 カンボジア、フランス、中国、カタール/2021/90分/原題:/英題:White Building
 監督:ニアン・カヴィッチ
 出演:ピセット・チュン、シタン・ウ、ソカ・ウク、シナロ・ソム

一昨年、第20回のフィルメックスで、『昨夜、あなたが微笑んでいた』(2019)が上映されたニアン・カヴィッチ監督の新作です。『昨夜~』では、ホワイト・ビルディングを巡る様々な住人たちの姿をドキュメンタリーで描きましたが、今回はエピソードを元に劇映画化。ヒップホップをやりながら、そのダンスパフォーマンスで食べていこうとする3人の若者を中心に、その中の一人で、父親がマンション立ち退きに向けての住民とりまとめ役をしているサムナンの家族に焦点を当て、マンション取り壊し後の運命を描きます。前作に比べると、ホワイト・ビルディングの存在感と精彩がかなり薄れ(一部の取り壊しも始まっているので当然ですが)、映画から発する光が弱まった感じでした。それでも、冒頭に出てくるホワイト・ビルディングの俯瞰ショットはいつまでも印象に残り、監督の執着もわかる気がしました。

 

『ザクロが遠吠えする頃』
 アフガニスタン、オーストラリア、オランダ、イラン/原題:/英題:When Pomegranates Howl
 監督:グラナーズ・ムサウィー
 出演:アラファト・ファイズ、エルハム・アフマド・アヤジ、サイーダ・サダト

アフガニスタン、カーブルの街。父を亡くした少年は、母と妹、そして祖母を養うために、移動販売用台車を借りていろんな店から品物を預かり、ザクロ、そのシロップ、野菜などを売り歩いています。未亡人になった母に姑である祖母は、夫の弟、つまり下の息子との再婚を勧めますが、母はしぶっています。自分がたくさん稼げば母も再婚しないで済む、と少年は、映画のエキストラの仕事を熱望するのですが...。外国の撮影隊はかわいい顔をしている子供を雇いたがる、と少年が屋台を囲む子供達に言い、オーディションをしていく場面はとても興味深く、その外国の撮影隊に「インド映画」も入っているのになるほどなあ、と思った次第です。実話ベースで、元の事件はオーストラリアのヘリが誤爆で子供2人を死なせ、賠償金として数百ドル払った、というもの。安い命の背景に、こんな物語があったことを知らしめる作品でした。

 


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4 コメント

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『瀑布』、良かったです! (703)
2021-11-08 20:44:19
『瀑布』、すごく良かったです。
初めは娘の気持ちに共感していたのですが、徐々に母の気持ちにも入り込み、今も思い出すだけで涙、涙…です。

陳以文さん、本当に良い味出してましたね!恋とか結婚に発展するかはわかりませんが、好意を持ってくれる人がいるのって、すごく励みになると思います。重い空気が突然楽しく、微笑ましい雰囲気になりました。

『ひとつの太陽』も好きな作品なのですが(←こちらも号泣)、『瀑布』はもっと好みかもしれません。近年の台湾映画は良作が増えているような気がします。

(申し遅れました、エレベーターの中で声をかけさせていただいた者です。バタバタしていて申し訳ございませんでした★ 一瞬でしたが、お会いできて嬉しかったです!)
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703様 (cinetama)
2021-11-09 10:26:49
コメント、ありがとうございました。
あの折は失礼しました。
私は本当に人様のお顔を憶えない人間で、社会人失格です。
チケットの件もあって、お先に行ってしまってすみませんでした。

「瀑布」、ブログに書いていらしたご文章も拝見しました。
同じように感じていらっしゃる同志だ! と嬉しかったです。
ぜひ日本公開されてほしいですね。
その時には、また一緒に泣きましょう!
返信する
cinetama様 (703)
2021-11-09 18:39:42
お忙しい中ご返信くださり、ありがとうございます!

短い感想ですが、目を通していただけて嬉しいです。
胸に残る作品ですよね…
再度スクリーン鑑賞ができる日を楽しみにしたいと思います。

TIFF&FILMeX、お疲れさまでした。
沢山の映画を続けてご覧になるだけでもすごいのに、きちんと記録なさってブログにアップされているので、本当に素晴らしいです。
段々年末に近づき、朝晩の寒さも感じるようになりましたので、お身体には気をつけてください。

(ちなみに、以前お会いした時はメガネをかけていなかったので、今回はわかりにくかったと思います…。最後のスバル座でメンドーサ監督の『アルファ、殺しの権利』を、偶然にもお隣の席で鑑賞させていただいた幸せ者です…。またご縁がありましたら、懲りずにお声かけさせていただきますね♪)
返信する
703様 (cinetama)
2021-11-10 01:07:23
またまたコメントをいただき、恐縮です。
今度またお目にかかった折には、ぜひお声をお掛け下さい。
しばらくお話していると記憶が蘇るので、『瀑布』のお話などできれば嬉しいです。

フィルメックスはこのあと、配信された作品も4本見る予定です。
23日までと期限が長いので、少し暇になる来週見られてとても助かります。
というわけでまだまだ終わらない、私の映画祭なのでした..。
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