允と彩玉を包み込む閨の密度がゆらりと薄れ、どこか清涼さを含んだ風が再び窓辺から吹き込んで二人の身体を優しく撫でるように愛しんで吹き抜けていった。
地上ではなく遥か遠い山頂の美しく雅な幻のような場所を渡ってきた風・・・この世の楽園のようなあの場所を渡って・・・
似ていない。
私の彩玉は、誰にも似ていない。私の彩玉は、この世に唯一人しかいない。
伸びやかな四肢を可憐に操って岩場を渡り水を食み水に遊 . . . 本文を読む
◇◆◇ ◇◆◇ ◇◆◇
酒と女たちの媚びた笑いとけたたましい嬌声、笛や弦の音・・・。允は部下たちを残して足早にその場から立ち去ろうとしていた。
我が国一の風流の都と呼ばれる松都で、妓房を訪れぬの者などおらぬとばかりに松都の役人たちが鼻高々に設けた宴席だった。無下に一蹴することもできず彼らの面子を潰さぬ程度のときは過ごした。だがもうこれ以上はごめんだ・・・。
つい数か月ほど前に従事 . . . 本文を読む
○◆○ 誘惑(後) ○◆○
左捕盗庁に仕官したばかりの頃、決して人並みにはなれぬ自分がそれでも人並みであるために妓房に行けば妓姓と戯れ一夜を過ごさねばならなかった。
とうに妻子を持つ年齢は過ぎても未だ独り身であることには妾腹の子であるがゆえの嘲りを込めた暗黙の了解があった。しかしそれは彩玉以外の女を妻に娶る気など毛頭ない自分にとっては、妾腹であることが都合の良い唯一の事柄であったかもしれ . . . 本文を読む
○◆○ 誘惑(前) ○◆○
彩玉は目の前の文机の上に重ねて置かれた絹布に包まれた小箱とチョゴリの結び紐にそっと手を伸ばし、膝の上に引き寄せた。允の言葉を胸の中で寂しく反芻しながら無意識に指先で結び紐の青い流れをなぞっていた。
私が・・・悪かったのだろうか・・・
瞳に浮かんだ涙を零すまいと彩玉は結び紐から視線を外して文机の上に戻し、膝の上に残った絹布に包まれた小箱に目を移した。
包みをほど . . . 本文を読む
○◆○ チェオクの企み-2 ○◆○
資源の少ない我が国の貴重な鉱脈から大量の鉱物が国外に流出していることが密かに発覚していた。産出量と最終的に納められる鉱物の量は明らかに違っているが、どの過程で誰がどの様にして流出させているのか、またそれほど大量の鉱物をいかなる方法で国外に運び出しているのか何度調べても分からない。
允は現地にも足を運び、鉱物が納められるまでの過程を入念に追った。加工・精錬 . . . 本文を読む
○◆○ チェオクの企み ○◆○
「お嬢様、本日午後以降に従事官様の奥方様のお姿をご覧になられましたでしょうか。」
オ商家のオ・テヨンから届けられた布を検め、早速縫い物をしていたナニに侍女が尋ねた。
「いいえ・・・。お見かけしていないわ・・・。」
縫い物をする手をふと止めて答えたナニの脳裏に、従事官様にはご内密に・・・と言ったテヨンとの会話が気がかりに思い出された。
「従事官様の奥方 . . . 本文を読む
背景を秋用に変更いたしました
皆様、こんにちは
日中はまだ少し夏の暑さの名残がありますけれど、蝉の鳴き声も止み、いよいよ秋の季節到来ですね。
書くのが遅くって、季節に合わせて書き始めたはずの愛の絆【その後の二人】編なんですけれど、案の定、徐々に季節が外れてまいりました…
いましばらく、お話の方は夏夏にどうぞ引き続きお楽しみくださいね。
って申しますわけでまだまだお熱ぅ~い愛の絆【その後の . . . 本文を読む
○◆○ 眼差し ○◆○
食事を終えた允は、茶を淹れてくれている彩玉の優雅で美しい手の動きに見とれ、妻らしく清楚に慎ましく装った可憐な姿に心を奪われていた。左捕盗庁の職務は多忙で邸に帰ることもままならないが、それでも允はまめに帰宅し彩玉と過ごす時間を作っていた。
ときどき瞳を上げては允に向けられる彩玉の匂い立つような艶やな微笑みとどこか甘く芳ばしい茶の香りが、息つく暇もないほど膨大で雑多な職 . . . 本文を読む
○◆○ 恩恵 ○◆○
小雨のように柔らかく水が降り注ぐ岩の上に彩玉を座らせて、允は先刻から解いて小さな背中に豊かに流れ落ちる黒髪を少しずつ手に取って丁寧に洗ってくれていた。
取るに足らない存在でしかない自分を允がなぜここまで大切にしてくれるのか彩玉にはいまだによく分からないし、それゆえの申し訳なさを感じてもいた。けれど、彩玉は允に素直に身を委ねて大人しく髪を洗ってもらっていた。
父も母も、 . . . 本文を読む
~背景を夏用に変更いたしました~
◆初めてちひろの「チェオクの剣」二次小説をお読みくださる方は、古いログではございますが◆必ず◆当カテゴリー内「はじめに」にて、内容についてのご了承事項をご確認の上、よろしければ愛の絆1~快復~よりお読みになってみてくださいませ。
皆様にお楽しみいただけましたらとても嬉しい♪です。
○◆○ 楽園 ○◆○
允と彩玉が左捕盗庁の従事官邸で夫と妻として暮らし始 . . . 本文を読む