「とても、ご立派です。」身仕度を終えた允を見上げ、彩玉が美しい笑顔で淑やかに褒め称えた。王直属の新部隊の大将の衣装を身に纏った允は、凛々しく美々しい威厳と風格に満ち、非の打ち所のない、生まれながらの将軍のようだった。「オガァの、お陰だ。」穏やかで温かい笑顔を浮かべて允は彩玉を見つめた。この様な地位を得られたことよりも、そのことを彩玉に喜び称賛してもらえることが嬉しかった。自身が大将になったことより . . . 本文を読む
允は左捕盗庁の長官邸に赴き、正面に座するセウクに凛々しく美しい所作で正式な礼をし腰を下ろした。「立派に成長した姿を見て嬉しく思う。これからも王様のためこの国のために力を尽くしてほしい。」「長官様・・・。」初めて彩玉とともにこの左捕盗庁の壮々たる門前に立ち足を踏み入れた瞬間の息が詰まるような緊張感を昨日のことであったかのように思い出し、允は一瞬言葉に詰まった。「今日の私が在るのは、長官様の深いお心の . . . 本文を読む
四方を厚い壁に囲まれ壁面の棚には数種の拷問道具が並ぶ閉ざされた重苦しい取調室の簡素な固い椅子に、牢から呼び出されたグンソクが座っていた。髪は乱れやつれた顔をしていたが、それが却ってこの陰湿な部屋には不似合いな艶かしい美男子ぶりを引き立たせている。机を挟んでやや斜め方向に立つ允は、一対一でグンソクに向かい合い取引を持ちかけていた。立て続けに起こった王座を狙う謀反の今回の首謀者が、同じ王族であり王の特 . . . 本文を読む
グンソクは彩玉の側に歩み寄り片膝をついて、穏やかな瞳で彩玉を見つめた。「グンソク・・・どうして、こんなことを・・・」彼は一体何のために、何を為そうとしているのか・・・優しく注がれるその眼差しを彩玉は悲しく見つめ返した。「これ以上の危害は加えないから、安心して。大丈夫だよ。」「私を、どうするつもりなの・・・?」「私には、チェオクが必要だ。もし私より先にあの男に出会っていなければ、チェオクは私を選んで . . . 本文を読む
人と活気に溢れ賑わう市場を、彩玉は侍女を伴い歩いていた。王の許しを得て身分を回復し、允と正式に婚儀を挙げ妻となった彩玉の聡明さと美貌、それらを誇らぬ慎ましい謙虚さをたいそう気に入った王妃は、折に触れ、彩玉に後宮に遊びに来るようにと促す。畏れ多いことではあったけれど、王妃の優美な気高い人柄を知り、御子に恵まれぬまま後宮に暮らす孤独な寂しさを知り、次第に心を通わせ互いに姉妹のように親しく思い合えるよう . . . 本文を読む
「奥方様は、今夜は先にお休みになっていらっしゃいます。」「えっ・・・」ホン執事の誠に遺憾ながら・・・とでも言わんばかりの言伝てに、長官邸から帰宅した允は一瞬明らかに期待通りの遺憾な顔をしてみせてしまったけれど、すぐにそうか。と短く答え平静を装った。それなのに、着替えを終えた允は自室には戻らず、廊下で控えていたホン執事に空ろな背中を見せて彩玉の部屋のある奥の間へと向かって行く。遅くなるときは先に休ん . . . 本文を読む
・・・チェオク・・・チェ「オク・・・オガァ、どうしたんだ。」「え・・・?!あ・・・」帰宅した允の着替えを心ここに在らずと言った様子で手伝っていた彩玉の顔を、允が曇った表情で見つめていた。今日、彩玉はナニの見舞いに出向いていたはずだ。何か・・・言われたのではないかと、ひどく気掛かりでならなかった。「何か、あったのか?」允はほっそりとした手で淑やかに衣服を着せ掛けようとしてくれている彩玉にもう一度問い . . . 本文を読む
広い敷地内の地面に薄っすらと降り積もった真冬の寒さをより厳しくする雪を慎重に踏みしめながら、彩玉は捕盗庁の長官邸へと向かっていた。年が明けて新年を迎えた早々にナニは体調を崩し、そのまま寝込んでしまっているのだと言う。彩玉は躊躇いつつも左捕盗庁の従事官の妻として、長官の娘であるナニの見舞に出向いていた。O。O。O。寝具の上に身体を起こしたナニは彩玉に礼を言い静かな笑みを浮かべてはいたけれど、顔色は紙 . . . 本文を読む
表の間が騒がしい。そろそろ允が帰宅するのではないだろうかと、日ごと音もなく静かに深まっていく秋の気配を感じながら思っていたので、彩玉は常ならぬざわめきが心にかかり、ふと立ち上がって部屋を出た。表の間へと続く廊下を渡っていると、ホン執事が顔色を変えて駆けてくる。「お、奥方様。旦那様が・・・!」チマの裾を持ち上げて允の部屋に急いでいると、全身に力が入らぬ様子で苦しげに項垂れチュワンとウォネに両脇を支え . . . 本文を読む
允に付き従って市中を巡回していたペク武官を伴い、彩玉は邸に帰された。もちろんただですまされるはずはなく後程帰宅した允に長時間に渡って叱責されて、もう二度とこの様なことはしないと決定的に約束させられてしまった。やっと解放されて自室に戻った彩玉は華麗な刺繍で飾られた美しい光沢を放つ座椅子にぺたりと座り込んだ。むっとした不満げな顔から思わず言葉がこぼれる。「ナウリったら・・・叱り過ぎだわ!」悪いのは自分 . . . 本文を読む