表の者からの知らせがあり、遅番で夜半に帰宅した政浩の着替えを手伝うために部屋に入ったヨジンは案の定いつも通りすでに後片付けも整然と終えられもぬけの殻となった暗い部屋を見渡して苦笑した。
素銀が休みの日には棒立ちで、ときに愛妻に甘えながら延々と着替えをさせてもらっている政浩であったが、それ以外の日にはあっという間に一人着替えて、素銀と二人で食事をする居間か、遅番のときは奥の素銀の部屋へと駆け込んでい . . . 本文を読む
「ジミンちゃん。気がついた?だいじょうぶよ。」
事態は切迫していたが、素銀は薄っすらと目を開けたジミンを脅かさぬよう、そっと頬をなで、穏やかに声をかけた。
「・・・お義姉様・・・」
「もう少しよ。ジミンちゃん。頑張って。」
「はい・・・お義姉様・・・うぅっ・・」
そう答えながらも激しい痛みに襲われたジミンは再び意識を失ってゆく。
ジミンの夫ノ・ジウォンの姉リナとの一件以来、素銀はノ家を訪れていな . . . 本文を読む
ここ数日、政浩は素銀のことが片時も頭を離れず、苛立ちを募らせていた。
あの日、素銀は何度問うても首を横に振るだけで、泣いている理由を打ち明けようとはしなかった。
だが翌朝、出仕する政浩を見送りに出た素銀の目は一晩中泣き明かしたせいで赤く潤んでいた。何事もなかったかのように振舞ってはいたが、無理をしていることは明らかであり、何よりも政浩にとっては、あの日の政浩を見つめる、冷たい・・・見知らぬ他人を見 . . . 本文を読む
帰宅した政浩は、今日は休日であった素銀の手に全てを委ね衣の着替えをしていた。初々しく清楚な色合いの絹のチマチョゴリを身に付けて妻らしく美しく装い、かいがいしく着替えの世話をしてくれている素銀は本当に可憐で可愛らしく、政浩の目はもちろんそんな素銀に釘付けになっていた。
「政浩様。下着もお替えになられますか?」
「どうしましょうか。今日は昼に少し汗をかいた程度なのですが・・・。ですが、いつも綺麗にして . . . 本文を読む
都や宮中への疫病騒ぎの余波もやっと静まってきた頃、王命に背いたとは言え、疫病の原因を究明し、村人たちの治療に当たった素銀には、長徳、長今とともに王より褒章が与えられ、素銀は内医院の医女長・信非に伴われ、王への拝謁を賜ることとなった。
だがそれは王・明宗の極めて個人的な希望によるものであり、王殿は人払いがされており、明宗は礼を終えた素銀に早速その労をねぎらう言葉をかけ、続けて言った。
「そちの両親と . . . 本文を読む
長徳と素銀、政浩は早速に村人たちが避難していた粗末な小屋を探し当て、まずは重症の患者を焼け残った家屋に運び込むことから始めた。
村人たちは焼け落ちた我村の様子を見回しながら悄然とした様子で黙々と長徳や素銀、政浩の言葉に従っている。それは、病に侵され、村を焼かれ、見るも無残な、この世から見捨てられ置き去りにされた人々の姿であった。
素銀たちも沈痛な面持ちで村人たちを誘導していると、この場に不似合いな . . . 本文を読む
都から遠く離れた地方のある村を中心としたその周辺一帯の地に疫病が発生していた。その疫病の広がりは信じられないほど早く、多くの者が高熱にうなされ、嘔吐と下痢を繰り返して次々と命を落としていると言う。
その知らせが宮中まで届くと、時の王明宗はただちに内医院と各恵民署の医員、医女からなる救助隊を派遣するように命じた。
「なぜあなたが・・・!!」
屋敷に帰った政浩は言葉を失った。恵民署から素銀が疫病の地 . . . 本文を読む
今宵、政浩はソン・スホを始めとする明日非番や遅番の部下たちを伯母リュ・ムンスクから譲り受け、素銀との新婚生活を送る屋敷に招いて、酒と料理を振舞っていた。政浩は以前からときどき部下たちを慰労するために彼らを料亭に連れて行ったり、屋敷に呼んだりしていたのだった。
両班である政浩の屋敷では一流の料亭に劣らぬほどの豪華な膳が振舞われていた。
そこへ数か月前に政浩の妻となったばかりの素銀が酒を持って入ってき . . . 本文を読む
「まだ帰っていないのですか。」
政浩は眉を寄せ、瞳を曇らせた。自身ですら遅くなってしまったと思いながら足早に帰ってきた夜道であった。だが素銀はまだ帰宅していないという。
政浩は何をするでもなくその場で落ち着かない様子でそわそわしていた。本当はすぐにでも素銀を迎えに行きたいところだが、一家の主ともあろう自分が帰宅して早々、そう簡単に妻を迎えに行くからと再度家を出るわけにはいかない。
「迎えの者を遣り . . . 本文を読む