沢登りはその装備の特殊性や、なにより濡れると言う事への抵抗感から、足を踏み出せない方が沢山お出でだと思うので先ずは簡単にご説明しよう。
そもそも沢登りとは一般の登山道から離れ、沢を遡って頂を目指す行為だ。山というのは頂上や、整備された登山道だけで成り立っているわけではなく、その山体には岩稜もあれば、広大な斜面もあれば、沢という超魅力的な遊び場だってあるわけで、そういったものを多面的に考えてようやくその山自体を味わえるようになる。山をより立体的に感じるということだし、それを知ることは大きな喜びである。
先ずは装備だが、一番大事な物は足回りだ。沢の履き物と言えば昔は「草鞋に地下足袋」や「フェルト底の騒靴」、そして現在はファイブテン社製のゴム底を貼った「ゴム底沢靴」などがある。地下足袋はお値段も安いし未だに愛用者もいないわけではないが、今や殆ど見かけることはない。なので、我々が現実的に選択するとなればフェルトかゴムかと言う事になるが、それらは用途によって使い道が若干異なるということになる。
フェルトは沢中では万能選手といえる。ヌルミにも強いので、低山や日当たりの悪い沢では威力を発揮する。対してゴム底は、高標高な北アルプスなどの花崗岩系の沢の乾いたスラブなどや、河原歩きでバツグンのフリクションを生み出す。ゴム底で簡単に登れるところをフェルトが登れないということは良くあることだ。だけど、河床は毎日その環境が変わって、バクテリアが繁殖し濡れた石ころがヌルミを増すと、ゴム底はからっきし効かなくなったりする。そこら辺、悩ましい問題は尽きないのだが、僕はもっぱらゴム底を愛用しているし、フェルト底は直ぐチビてしまって不経済なので滅多に履くことはない。濡れている事を気にしなければ、ゴム底は沢までのアプローチや帰路の登山道歩きにも普通に履いて歩けるから装備の大幅な軽減に繋がる。フェルトは別途登山靴などを持ち歩かなければいけない。うーーーん、悩ましい。
ここで、一つの光明ともいえる靴を紹介しよう。月星社製 「ジャガーシグマ」
みんな女の子らしく靴紐変えたりしておしゃれに
この靴はそこら辺の靴屋さんに売ってるもので、学生の通学指定靴になっていたり、看護師が履いていたりする普通の運動靴だが、何を隠そう沢ではファイブテンのゴム底と同等の性能を発揮する。ローカットしかないので、しょっちゅう砂が入り込んだりするが、グリップ力は十分ですこぶる軽い。靴底が若干薄く柔らかいのだが、その柔らかさ故に、岩を巻き込み掴むように歩けるからグリップ力が良いのだとも思う。しかもお値段は3,500円ほど。買って損はありません。
今回の釜ノ沢もメンバー7人中五人がシグマシューズ持参。帰りの登山道では、インチキっぽい白い靴を履いた異様な集団に見えるのだろう、すれ違う登山者に足下をジロジロ見られたりして。でも具合がいいので気にしない。尚、この靴を僕に教えてくれたのは、藤沢山岳会会員、毎日新聞旅行の添乗員、花岡さんである。花岡さんありがとう。
さて次は衣類である。基本的には水切れがよい物ということになろう。以前は僕はアクリル製のジャージを使っていたし、淵にドボンするような沢でなければそれで充分といえる。ただ、上廊下とか泳ぎを交える沢になると保温力の高い物が必要のなるので、僕は薄手のネオプレーンタイツを使っている。モンベルとか、秀山荘などからいろいろなものが発売されているが、最近の登山用衣類はみんな水切れがいいから、先ずは専用の物でなくても済む。
装備はこんな感じ
さあ、装備を整えたら、翡翠色の淵にドボンしよう。濡れるのに慣れてしまえば、それは気持ちの良いことに感じるようになるし、通常の縦走登山で濡れることをいとわなくなる。そして濡れた雨合羽や、登山靴をムシムシの乾燥室にこもって必死に乾かす無意味さを、皆さんは知るだろう。ちょいとしたカルチャーショックです。灼熱の夏、ひとたび沢登りを味わったら、稜線をフウフウ言いながら縦走するのなんていやんなってしまうから。これほんと。
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