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山岳ガイド赤沼千史のブログ

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テント泊残雪の笈ヶ岳4月29、30日

2014年05月18日 | ツアー日記

 新緑がようやく芽吹き山桜もちらちら見える隣の尾根を眺めながら急峻な尾根を行く。樹林の尾根とは言え、粘土混じりのこの尾根は気を抜けない岩稜だ。登りはまだしも下りは妙に恐くて、疲れた体でこれを最後に下りきらなければいけないのだから、このルートは一筋縄ではいかない。

 笈ヶ岳には登山道が無い。だからこの時期残雪を利用して登る。このルートは頑張ればなんとか日帰りも可能だが、僕はテント泊が良いと思う。山毛欅の巨木の冬瓜平(かもうりだいら)で幕営し、ゆっくり時間を掛けて遙かなる山を楽しむのだ。

 白山一里野から部分開通したスーパー林道を走って、自然保護センターからカタクリが一面咲き乱れる遊歩道を歩くと野猿公園に達する。そこはジライ谷の出会いで、最近では笈ヶ岳へ向かう最も最短のルートとして使われるようになった。僕のツアーでも以前は一里野を基点として山毛欅尾山を越え長大な尾根を縦走して笈ヶ岳を目指していた。アップダウンもかなりあって、雪の状態が悪い時は登頂できない事もあった。山毛欅尾山から見る笈ヶ岳はうんざりするほど遙か遠くに見えたものだ。それに比べたら、このジライ谷ルートと呼ばれるこの尾根は圧倒的に短く画期的なコース採りとは思うが、いかんせんこの樹林の岩稜はいやらしい。不条理はどこにでも転がっている。とは言えそんな不条理をなんとか克服するのが登山の楽しみであり,僕の仕事ではあるが。

タムシバの蕾

春の花たちに励まされて登る イワウチワ

タチツボスミレ

冬瓜平 笈ヶ岳も見えるが奥に見えるのは大笠山だ

 夜半から降り始めた雨が時折フライシートを叩いた。そんな事もまどろみの中で全部覚えている。テント泊ではいつもそんな感じで熟睡とはほど遠い僕だが、だからと言って日中の登山が出来ないかと言えばそんな事は無い。体は横たえているだけでも充分に回復する。長期の登山であればまた別だろうが一泊ごときで、「眠れなかった」と落胆する事はない。その落胆する心持ちの方が登山の妨げとなるから、そんなことは一切気にしないことだと思っている。

明け行く笈ヶ岳

 未明からもぞもぞやり始めて出発する頃には雨は一応収まってくれた。降りが酷くなれば帰ってこようと決めて出発した。雲の流れは速く、白山には雨雲が懸かりっぱなしだが、その北方に位置する笈ヶ岳周辺は時折青空も見えて不安定ながらも登山は可能だった。冬瓜平を抜け急な沢へ下り、対岸の雪の斜面を登る。尾根に出て再び反対側のコルへ下り良さそうな斜面を登って、ようやく白山から連なる北方稜線に達した。この稜線は石川県と岐阜県の県境で、東側の谷は荘川の流れる白川郷あたりだ。稜線を北へ辿る。柔らかめの雪に足を取られながらなんとか山頂に到着した。パラパラと断続的に雨が降るが、時折抜ける青空が僕等を励ましてくれた。

 再び登ったり下ったりしながらテントサイトまで戻って、全ての装備をザックに詰め込んで下山した。ここまでは余裕みんな余裕もあったのだが、やはり下りが大変だった。昨日4時間半で登り上げたジライ谷の尾根を、4時間掛けて下山した。下部岩稜帯は降った雨に濡れて、粘土が滑る。木の根も岩も、確かな感じがあまり感じられないそんな尾根だ。左右の斜面はさらにかなりの急斜面で、谷底には雪解けの沢が轟音をたてている。それを見ながら下るのはあまり気持ちの良いものではない。野猿公園に降り立つ斜面では雨に濡れた粘土質の道がずるずるに緩んでいて、僕は豪快に尻餅をついてしまって、最近流行の細身ののズボンにはすっかり泥まみれだ。ついでにジライ谷の渡渉ではお客様がひとり足を滑らせほぼ水没というオチまでついて、やっぱり、この尾根の下りは妙にいやらしいと思うのだ。車に帰りついた時の安堵感もまたひとしおであった。

ハルリンドウ・・・・・かなあ?

ネコノメソウ