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【追悼】 フアン・カルロス・カラバハル Juan Carlos Carabajal

2022年11月、アルゼンチンのフォルクロリスタ、フアン・カルロス・カラバハル Juan Carlos Carabajalが79年の人生を経て旅立ちました。以前からSNSやメールなどで体調のことを知ってはいたのですが…まだなかなか気持ちの整理がつきません…今はとにかく悲しい気持ちとともに、感謝の気持ちでいっぱいです。

フアン・カルロス・カラバハルは音楽家・教育者・ラジオDJ・ジャーナリストとして活躍。特に作詞で数多くの作品を残していて、アルゼンチン国内外のフォルクローレの演奏家やファンの多くが、その作品を歌っているのではないでしょうか。日本でアルゼンチンのフォルクローレに取り組む方の中には、今回の訃報で「この曲を作詞した人だったんだ」と知った方もいるかもしれません。

私もJuancaが手掛けた作品を子どものころから家族のグループ「フーマ」で歌っていて、La Mesa(ラ・メサ / テーブル)やEntra a mi hogar(エントラ・ア・ミ・オガール / 家へ入れよ)はレコーディングもしています。 ※2曲とも作詞/フアン・カルロス・カラバハル 作曲/ペテコ・カラバハル

フアン・カルロス・カラバハル(フアンカ)とのご縁は実に30年以上前にさかのぼります。1989年に新潟のギタリスト・瀬賀倫夫さんと多田行規さんのDUO「ロス・デル・セキヤ」がアルゼンチンのコスキン・フェスティバルに出演、その滞在中に瀬賀さんが出会ったのがフアンカでした。その数か月後に瀬賀さんが埼玉の家に見えて(もともと父とはつながりがあって)ご縁ができたのですが、これはちょうど私がアルゼンチンの音楽を好きになってギターを弾き始めたばかり、というタイミングでした。

その後、瀬賀さんがアルゼンチンに渡航の際にフアン・カルロス・カラバハル作詞の「家へ入れよ」を家族で録ったカセットテープを瀬賀さんが彼の住むサンティアゴ・デル・エステロまで届けてくれたのが、フアンカと出会うきっかけとなりました。

2001年に瀬賀さんらの尽力でとうとう来日公演が実現、東京でのコンサートで初めて会うことができました。2004年に初めてアルゼンチンに行った際にはそのほとんどをフアンカとその家族のみなさんとともに過ごし、2011年の滞在でも日程の約半分をサンティアゴ・デル・エステロで過ごしました。


"Romance del Rio Dulce" 
(Dalmiro C. Lugones-Juan Carlos Carabajal-Horacio Banegas)
2011年 フアンカ宅で撮影
(現地ニュースでもこの映像が使われています)

合わせて約2か月間、本当の家族のように接してくれたフアンカ一家との思い出はつきませんが、2011年の滞在から帰国後すぐに東日本大震災があり、アルゼンチンでの経験をまとめる前に他の演奏活動が多忙になったり、愛媛に移り住んだり…その後はフアンカともSNS上でのやりとり以外はなかなかコンタクトがとれず…そのまま再会が叶わぬ夢となってしまいました。


それでも、2019年にようやく自分の中でCDという形にして、フアンカに送り届けることができました。その中にはフアンカ作詞の作品、彼の盟友の作品、そして私がアルゼンチンをテーマに作った曲も含まれています。長男のファビオが撮影してくれたフアンカのビデオメッセージ(ほめてくれました)を観て、8年かかって宿題を1つだけ終えることができた気持ちになりました。


フアンカはライフワークとして各地をまわりながら自身や地元サンティアゴの音楽家たちの作品を通して種を蒔き続けていました。フアンカ作詞の代表曲の1つ、「チャカレーラの種を蒔く Sembremos la Chacarera(作曲/カルロス・カラバハル)」はまさに象徴するタイトルの1つかもしれません。私もその「種まき」の数日間に関われたことは本当にうれしく思っています。


アルゼンチンを含めて、中南米音楽には「カバー文化」というのがあると考えています。作者の手を離れてさまざまな歌い手によって受け継がれている曲がたくさんあります。2016年の『Mis canciones por la sangre joven』というCDは、若手ミュージシャンたちがフアンカの作品を歌った、トリビュートというよりまさに「逆カバー」アルバム。かつて同行したフェスティバル会場でも若手やベテラン問わず多くのアーティストが「マエストロ!」と次々と声をかけて来てハグしていた光景を思い出します。これもとてもフアンカらしい作品だと思いました。

フアンカの詞は、とにかく優しさにあふれているような気がします。それを表すのが、タイトルだけでなく、曲のメロディーも「優しく」なっていること。サンティアゴ・デル・エステロを代表する数々のミュージシャンが作曲していますが、どれも心に沁みる曲ばかりです。その詩には魅力的な旋律や歌を引き出す力があるのかもしれません。

私も自分のライブだけでなく、この10年ほどは例えばサポート出演のライブでもソロコーナーをいただいた際に、よくフアンカの作品を弾き語りで(時には全員で)演奏してきました。最近はゲスト出演の際にもフアンカ作詞の曲をリクエストされる機会がけっこうあります。本当に少しずつなのですが、フアンカの作品を自分なりの形で伝え続けていきたいと思っています。

Muchas gracias papa Juanca
Hasta siempre

La Mesa テーブル
※2011年の滞在時のリハ音源

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フアンカの作品はネットでも聴くことができます。自身のアルバムは2作品配信されています。


オリジナル・カバー曲合わせて収録 私も2曲参加しました

若手ミュージシャンによる「逆カバー」アルバム

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