らくがき・澪

澪。
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「東京ラビリンス」第34話・積み重ねた17年

「う……ん……」
 ぼんやりと開いた澪の目に映ったものは、慣れ親しんだアイボリーの天井だった。ここは自分の部屋だ――そう認識した直後、必死な顔をした武蔵が視界に飛び込んできた。
「澪、目が覚めたか? 気分はどうだ?!」
「えっ……と……」
 思考が混濁していて、何がどうなっているのかわからない。しかし――。
「過労と心労が重なってるみたいだから、しばらく寝てれば良くなるだろうって、さっき診てくれた田辺先生が言ってた。今朝、じいさんの書斎で何があったか覚えてる?」
「あ……」
 少し離れたところに座っていた遥に問いかけられ、ようやく記憶がよみがえってきた。帰るなり剛三に呼びつけられて書斎に集まり、そこで出生に関する調査結果を聞かされたのだ。夢であってほしいという一縷の望みはさっそく打ち砕かれた。
「おい、今、それを言うのかよ」
「隠したって何にもならないよ」
 武蔵と遥が淡々とした口調で言い合いをしている。その様子を、澪はベッドに横たわったままぼんやりと眺めた。自分と遥は実験のためだけに作られた存在、そして血の繋がった本当の父親は武蔵――今は少し落ち着いて考えられる。しかし、やはりすんなりと受け入れられるものではない。
「ねえ、遥……どうしてそんなに冷静でいられるの?」
「僕が僕であることに変わりはないからね」
 何か上手くはぐらかされたような気がした。納得がいかず顔を曇らせると、彼はちらりと一瞥してから言葉を繋ぐ。
「遺伝子だけじゃなく、生まれてからの17年が、今ここにいる僕たちを作っている。母さんたちの思惑とは無関係なところで、多くの人と関わり合ってきた記憶が、僕という存在を支えてくれてるんだ。もし、幼いころに知ったらもっとショックを受けただろうけど、今の僕は自分の存在意義を見失ったりしないよ」
「よく、わからないよ……」
 澪は天井に視線を移し、目を細めた。
「僕たちが実験のためだけに作られた存在だとしても、実験のためだけに生きてきたわけじゃないってこと。師匠が僕たちに武術を教えてたのも、じいさんがファントムをやらせてたのも、綾乃や富田や真子と友達になったのも、澪が誠一と付き合っているのも、どれも母さんの実験とは無関係だったはずだよ。それさえ理解していれば、必要以上に悲観しなくてすむと思う」
「うん……」
 完全に理解したわけでも納得したわけでもないが、それでも少し気持ちが楽になった気がした。これまでの人生すべてを否定する必要はないのだ。家族という枠組みは嘘で塗り固められていたかもしれないが、実験を知らなかった人たちとの交流に嘘はなかったはずである。
「まあ、僕も異種族交配の影響については心配だし、父親があんなのって知ってガッカリしたけど」
「おいっ、あんなのって! ガッカリって!!」
 不満を露わにして突っかかる武蔵に、遥は面倒くさそうに言葉を返す。
「武蔵としては良かったんじゃない? 澪のこと、これでもう諦めがついたよね」
「バカか、そう簡単に気持ちの整理なんてつくかよ。俺は本気だったんだぞ。いきなり俺の子供でしたとか言われても、何の実感もないし、気持ちが変わることも萎えることもない。俺にとっては娘なんかじゃない、好きな女なんだよ」
 武蔵は眉を寄せ、堰を切ったように真情を吐露する。
「でも、親子だって事実は変わらない」
「子供さえ作らなきゃ問題ないだろう」
「こっ……?!」
 澪はギョッとして素っ頓狂な声を上げながら、布団から跳ね起きた。
「ちょっと武蔵、落ち着いてよ!!」
「俺は十分すぎるくらい落ち着いてる」
 そう言った彼の青い双眸には、隠しきれない情熱が滾っていた。あの夜に見たものと同じ――思わず逃げるように目を伏せると、血色のない手でぎゅっと掛け布団のシーツを掴む。
「私、武蔵の気持ちには応えられない。武蔵の気持ちは変わらないかもしれないけど、私は血の繋がった父親とは絶対に無理だから……たとえ誠一と上手くいかなくなったとしても、武蔵と恋愛とかそういうのはもう考えられない……ごめんなさい……」
 言ったことに嘘はない。たとえ恋愛に近い感情がくすぶっていたとしても、澪の理性はそれを拒絶する。もう二度と受け入れることはないだろう。自分自身のためにも、彼のためにも、そのことを明確にしておかなければならないと思ったのだ。
 武蔵は静かにうつむき、その顔に仄暗い陰を落とした。
「好きでいることくらい、許してくれよな」
「それは……うん……」
 許すも許さないも自分が決めるべきことではないが、そう突き放してしまうのは、弱ったところに追い討ちを掛けるようで抵抗を感じる。だからといって許すと口にするのも憚られる。澪は困惑し、視線を落としたまま曖昧に頷くしかなかった。

 コンコン、と部屋の扉が小さくノックされた。
「あ、どうぞ」
 淀んだ空気を払拭するように張りのある声を響かせる。すぐに、そろりと扉が開いて悠人が顔を覗かせた。ベッドで上体を起こしている澪を目にすると、ほっと小さく息をついて中に入ってくる。
「澪、もう目を覚ましてたのか」
「はい……って、え? 誠一?!」
 悠人に続いて部屋に入ってきたのは誠一だった。今朝、仕事に出かけたときと同じスーツを着たままで、少々きまり悪そうにごまかし笑いを浮かべている。まだ午前中なので仕事が終わったわけではないだろう。
「どうしてここに?」
「仕事でね、楠長官と溝端さんに同行して、橘会長に話を聞きに来たんだよ。そうしたら澪が倒れたなんて言うだろう? ビックリして顔を真っ青にしてたら、楠長官が見舞いに行ってこいって……仕事中だし、一応は遠慮したんだけど」
 そう言いながら、遥に譲られた椅子をベッドに寄せて座った。
「話を聞きに……って、きのうのこと?」
「ああ、複数の目撃者に車のナンバーごと通報されてるし、騒ぎを起こしたのが橘家の人間だってことは露見している。大使館で誰と会っていたかも察しはついているみたいだな」
 楠長官は美咲のことを聞きに来たに違いない。剛三がどこまで話すのかはわからないが、事実を知ったところで、彼女を手中に収めるのは困難なはずである。相手は世界随一の大国なのだ。日本が交渉したところで切り札がなければどうにもならない。当然ながら、澪たち個人では話にさえならない――。
「澪、どうした? 大丈夫か?」
 ふと、誠一が心配そうに覗き込んできた。うつむいたまま黙り込んでいたので、誤解されてしまったのだろうか。別に体調が悪いわけでも気分が悪いわけでもない。澪は安心させるように精一杯の笑顔を見せる。
「ちょっと考えごとをしてただけ」
「それならいいんだけど……」
 その言葉とは裏腹に、彼の表情はいまだ曇ったままである。
「ねぇ、ちょっと心配しすぎじゃない?」
「倒れたばかりなんだから当然だろう」
「それだって疲れが出ただけなんだからね」
「まあ、きのうは大変な一日だったからなぁ」
「うん……」
 声のトーンが少し落ちた。美咲を説得することは出来なかったが、メルローズは取り戻し、みんな生きて帰って来られたのだから、結果としてはそれほど悪くないだろう。決して無意味ではなかったのだと、間違ってはいなかったのだと、そう自分に言い聞かせる。
「おいっ!」
 その刺々しい声につられて顔を上げると、武蔵が身を乗り出し、誠一の鼻先に人差し指を突きつけていた。
「他人事みたいに言ってんじゃねぇよ。わかってるのか? 自覚してるのか? 澪が倒れたのは、おまえのせいでもあるはずだぜ。昨晩、澪が大変な一日だったことを知っていながら、本能のまま朝まで寝かせなかったんだろうが」
「あ、いや、寝かせなかったってことは……少しくらいは……」
 誠一はしどろもどろで弁明しかけたが、途中で開き直ったように反撃に転じる。
「それについては悪かったと思うが、君だって人のことを言えるのか? ここに戻ってくる前日、大変な一日になるとわかっていながら、一晩中ずっと澪を放しもしないで……あんなに痕が残るくらい……だいたい、あれさえなければ俺だって……」
「ほう、全部俺のせいだって言いたいのか?」
 武蔵は僅かに顎を持ち上げ、冷笑を浮かべながらひどく挑発的に問いかける。だが、誠一もいつになく強気で一歩も引こうとしない。二人の視線は、激しく火花を散らしてぶつかり合った。
「もうやめてよ、二人とも!」
 澪は顔を真っ赤にして声を上げた。これではまるで二人に抱かれたことが過労の原因であるかのようだ。確かにこの二日間はあまり寝ておらず、影響がまったくなかったとは云えないが、だからといってこんなことを言い争われてはたまらない。
「澪、こんな男と別れた方が身のためだぞ」
「君にそんなことを言う権利はないだろう」
「それが、残念なことにあるんだなぁ」
 武蔵は芝居がかった抑揚をつけてそう言うと、不敵に口角を上げる。
「なんてったって、俺は……」
「待って!」
 彼が何を言おうとしているか察して、澪は慌てて制止した。指示を仰ぐべく悠人に視線を送る。
「師匠、あのこと……」
「南野さんになら話しても構わないだろう。もちろん澪さえ良ければだけど」
 誠一はすでにおおよその内情を把握している。今さら隠し立てするつもりはないが、当事者である澪の意思は尊重する、というのが橘家としての判断のようだ。澪としては、積極的に話したいわけではないが、彼に対しては正直でいようと決めた。だから――緊張が高まるのを感じながら小さく頷くと、怪訝に眉をひそめている誠一に向き直り、ゆっくりと語りかけるように言葉を紡ぐ。
「あのね、私自身もいまだに実感が湧かなくて、ちょっと信じがたい気持ちなんだけど……その……そこにいる武蔵がね、私と遥の本当の父親だったらしいの」
「……は?」
「私たちは橘美咲と武蔵の子供ってこと」
「…………」
 誠一は口を半開きにしてぽかんとしていた。しかし、澪の話した内容を咀嚼するにつれて、その顔は怒りに染められていき、ついには武蔵の胸ぐらに掴みかかった。
「君は橘美咲さんにも手を出していたのか!」
「?!」
 澪はようやく自分の言葉足らずに気がついた。そうじゃなくて、と慌てて声を上げようとするものの、どう説明をすればいいのかわからない。考えがまとまらずおろおろしていると、武蔵は溜息をつき、軽く顎を上げて後ろに視線を流した。
「遥、おまえが説明してくれ」
「そうだね」
 遥も呆れたように溜息を落とすと、その場に立ったまま説明を始めた。DNA親子鑑定の結果に始まり、異種族交配の実験ではという推測まで、落ち着いた口調で流れるように述べていく。しかし、それを聞いている誠一の表情は、徐々に険しさを増していった。
「あ、あのね……無理しなくてもいいからね……」
 澪は掛け布団をギュッと握りながら、おずおずと切り出した。
「こんなのが父親だなんて誠一も嫌だろうし」
「おい、こんなのって何だよ」
「それに、異種族交配の影響がどうなるか……」
 武蔵の抗議には取り合わず話を進める。この異種族交配の影響が一番の問題だろう。澪たちの体に何が起こるのか、あるいは何も起こらないのか、おそらく前例がないため誰にもわからない。美咲に聞けばある程度のことは判明するだろうが、今まで問題がなかったとしても、今後もそうだという保証はどこにもないのだ。恋人がそんな危険を抱えていると知れば、逃げ出したとしても不思議はない。しかし――。
「俺はもうとっくに腹を括ってるよ」
 誠一はいつもの優しい笑顔でそう言った。彼がどこまで事の重大さを理解しているかはわからない。いつかは澪のもとから去ってしまうかもしれない。それでも、彼がそう言ってくれたという事実だけで、少なくとも今の澪にとっては大きな慰めになった。
「ごめんね……ありがと……」
 目の奥がじわりと熱くなるのを感じながら、精一杯の笑顔を返す。どちらからともなく伸ばされた手は、互いの温もりを確かめ合うように、互いの気持ちを伝え合うように、布団の上でそっと重ねられた。
「親の許しも得ないで勝手に盛り上がるなよな」
「都合のいいときだけ父親ぶらないでよ」
 ふて腐れながら身勝手な文句を言う武蔵に、澪は目元を拭いながら言い返した。隣では誠一が当惑まじりに苦笑している。それでも、自分たちが親子だという事実から不自然に目を逸らすより、このくらい冗談めかして言える方がいいのかもしれない――奇妙だが悪くない空気を感じながら、頭の片隅でそんなことを考えていた。

 不意に、ノックもなく扉が開いたかと思うと、篤史が何の躊躇いもなく入ってきた。左手には小型のノートパソコンを携えている。ベッドの澪をちらりと一瞥すると、さして興味なさそうに言葉を落とす。
「何だ、もう起きてたのか」
「ちょっと、ヒトの部屋に無断で入らないでよ」
「おまえじゃなくて武蔵さんに用があるんだよ」
 口をとがらせる澪をさらりと受け流し、ノートパソコンを掲げながら武蔵の方へ向かう。
「頼まれてたもの、一通り作ってみた」
「お、早かったな、さすが天才ハッカー」
 武蔵は素直に賛辞を送った。
「まあそれほど難しいものじゃないんだけどな。急いで作ったから、見た目や使い勝手にはあまり手を掛けてないが、時間が許せば少しずつでも改良していくつもりだ。要望があれば遠慮なく言ってほしい」
「了解」
 篤史はノートパソコンを開いてベッドの上に置いた。誠一、遥、武蔵、悠人の四人が後ろから取り囲むように集まり、小さな画面を覗き込む。澪も四つん這いになって覗き込んだ。そこには橘家付近の地図が表示され、そのほぼ中央に赤と緑の点が重なって打たれていた。
「緑がこのパソコンの位置で、赤がメルローズのいるところだ」
「両方ともウチ、だね」
 ああ、と篤史は素っ気なく肯定しながら、トラックパッドに指を滑らせて操作する。すると、地図が滑らかに拡大され、緑の点は不動のまま、赤の点だけが斜め上に離れていった。ただ、地図上の位置は変わっていない。
「この上下で地図の縮尺を変えられる。さすがに屋敷の見取り図までは表示されないし、ここまで拡大するとわかりづらいけど、赤の位置は俺の部屋の隣になってるはずだ。そこが今メルローズが寝ている客間で、武蔵さんにも今日からそっちに移ってもらう……あ、メルローズと同部屋でいいですよね?」
「ああ、その方が助かる」
 客間は基本的に一人用となっているが、十分な広さがあるので、二人で使っても全く問題はない。彼女にとっては親戚である武蔵と一緒の方が安心できるだろうし、武蔵も彼女を目に見えるところに置いた方が安心できるだろう。
「発信機はメルローズの足首に取り付けてある。防水になってるから風呂もそのままで大丈夫だ」
 篤史は自分のくるぶし付近を指さして言う。
「このパソコンと発信機が100メートル以上離れたとき、あるいは発信機が探知できなくなったとき、このパソコンで警告音を鳴らすようにしてある。ただし、シャットダウン時やスリープ中は作動しない」
「わかった」
 武蔵は画面を見つめたまま頷いた。
 そのとき、どこからか小さく唸るような音が聞こえ、屈み込んでいた誠一が体を起こした。スーツの内ポケットから震える携帯電話を取り出し、背面ディスプレイに目を落とすと、その場から足早に離れながら電話に出る。
「はい、南野です……もう目は覚ましていますし、特に心配はないと思います…………いえ、戻ります…………はい……申し訳ありません……伝えておきます……」
 口調から察するに、相手はおそらく目上の人だろう。最後に「失礼します」と言って通話を切ると、背中を向けたまま吐息を落とし、携帯電話をしまいつつ澪たちの方へ戻ってきた。
「楠長官から。仕事はいいから澪についてろって。あと澪にくれぐれもお大事にって」
「あ、うん……」
 楠長官が何を考えているのかわからず、澪は曖昧に目を伏せる。一応、今現在は美咲を巡って橘家とは敵対関係にあるはずだ。仕事に関しては非情な人だと思っていたが、本来は思いやりのある人なのだろうか。それとも何らかの計略や底意があるのだろうか。親切心を疑うようなことはしたくないのだが――。
「僕はそろそろ剛三さんのところに戻るよ。南野さんはごゆっくり」
「あ、はい」
 悠人は軽く手を挙げると、振り向きもせず急ぎ足で部屋を出ていく。楠長官の名前が出たことと関係しているのかわからないが、その後ろ姿からは若干の焦りが見てとれた。
 今度は、遥が体を起こした。
「僕も自分の部屋に戻る。宿題、まだ残ってるから」
「あっ、私、一ヶ月も学校休んじゃってる……」
「落ち着いたら習ったところを教えてあげるよ」
「うん、ありがと」
 澪はベッドの上に座ったまま、にっこりと手を振って見送った。遥が教えてくれるのは心強い。しかし、事件前の日常を早く取り戻したいと切望する一方で、それどころではないという矛盾した思いも抱えており、今はまだ学校に復帰する気にはなれなかった。
「俺はメシ食ってくる」
 篤史はそう言って、欠伸をしながら大きく伸びをする。
「きのうの夜から作業に没頭してたせいで、寝てないし食ってないしヘロヘロだぜ。メシ食ったあとは、しばらく部屋で寝てる。武蔵さん、それについて疑問とかあったら、いつでも訊いてくれていいから」
「感謝する」
 武蔵はノートパソコンに片手を掛けて振り返り、気怠そうに出ていく篤史にそう声を掛けた。部屋の扉が閉まると、パイプ椅子に座ってノートパソコンを膝に載せ、無言でトラックパッドに指を滑らせ始める。
「武蔵はまだ部屋に戻らないの?」
「おまえらを二人きりにするかよ」
 武蔵さえいなくなれば二人きりになれる。せっかくだから二人きりになりたい――その魂胆はすっかり見透かされていたようだ。それでも少し離れてくれればまだいいのだが、誠一のすぐ隣にいるので気になって仕方がない。澪は口をとがらせる。
「邪魔なんだけど」
「邪魔してるからな」
「はぁ?!」
 完全な嫌がらせだ。思わずカッと頭に血を上らせる澪を、誠一は苦笑しながら宥める。
「あんまり怒ってるとまた倒れるぞ。もう少し寝てた方がいいんじゃないか?」
「せっかく誠一と一緒にいられるのに、寝ちゃうなんてもったいないよ……」
「澪が元気になったら一日中でも付き合ってあげるよ」
 その言葉とともに、ベッドに寝かされて布団を掛けられたものの、ついあれこれ考えてしまって眠れそうもない。この二日間であまりに様々なことが起こりすぎて、まだ自分の中で消化しきれていないのだ。ベッドに横になったまま、顔だけをそろりと誠一の方に向ける。
「ねえ、誠一ってお父さまには会ってるの?」
「大地さんなら、ときどき取り調べしてるよ」
「元気そう?」
「ああ、そんなに悪い扱いはしてないはずだし、実際とても元気そうにしているよ。囚われの身にもかかわらず、いつも不思議なくらい明るくて、こっちが調子を狂わされるくらいだ」
「お父さまらしい」
 澪はくすっと笑みを零した。が、すぐに真面目な顔に戻る。
「もし、今度お父さまに会うことがあったら、私たちの出生のことを訊いてくれる?」
「あ……、彼の取り調べは二人きりじゃないんだ。録画録音もされているはずだから、秘密の話はとてもできそうにない。澪の頼みを聞いてやりたいのは山々だけど……ごめん、役に立てなくて……」
「ううん、仕方ないよ」
 そう言いながら、心のどこかで少しほっとしていた。覚悟をしていなかったわけではないが、臆する気持ちまではそう簡単に拭いきれない。しかし、いつかは訊かなければならないときが来るだろう。大地と美咲の知る真実と思惑を――。
「澪にとっての父親は、今でも橘大地さんなのか?」
 気遣わしげに切り出された誠一の問いかけに、澪はそっと目を細めた。
「わからない……どうしたらいいのか……」
 思い返してみると、大地にはほとんど父親らしいことをしてもらった覚えがない。それは、我が子だと認められていなかった証左なのかもしれない。彼のことを父親として慕うのは迷惑でしかなかったのだろうか。そもそも、どうして父親として慕っていたのかもわからなくなってきた。
「あのな、澪」
 武蔵がノートパソコンから顔を上げて言う。
「良くも悪くも、家族ってのは簡単に切れるものじゃない。いくら絶縁して家族じゃないと思っても、心の奥深くでは呪いのように縛られている。それは血の繋がりによるものじゃなく、家族として過ごしてきた時間によるものだ。おまえは17年も橘大地を父親だと思ってきたんだからな。向こうがどうであれ、澪はそこから逃れられはしない。下手に拒絶しようとしても歪みが生じるだけだ」
「じゃあ、どうすればいいの?」
「あるがまま受け入れればいい」
「よく、わからないよ……」
 天井を見つめたまま、澪は消え入りそうな声で答えた。
 武蔵は少し考えてから続ける。
「少なくともきのうまでの17年間、澪にとって橘大地が父親だったのは事実だ。それを否定する必要はない。そして、今後どういう決断を下したとしても、心までは決断どおりにいかないだろう。父親だと思う気持ちと思えない気持ち、おそらく両方が入り混じってしまうはずだ。それは、仕方のないこととして受け入れればいい」
「そう、だね……」
 彼の言いたいことは何となくわかったが、どうすればいいのかは曖昧なままである。受け入れようとして受け入れられるものでもないだろう。だが、それを心に留めておくのとそうでないのとでは、何かが大きく違ってくるのかもしれない。澪は彼の言葉をそっと胸に刻み、目を閉じた。

「武蔵さん!」
 ようやくうとうとし始めたところで、バンッと扉が開き、篤史が勢いよく部屋に飛び込んできた。彼らしくない慌てぶりに面食らったものの、またしてもノックがなかったことに気付き、澪はベッドから体を起こしながら口をとがらせる。
「もうっ、ノックしてってあれほど……」
 そう言いかけたところで、彼の様子を目にして息を飲んだ。
 全力で走ってきたらしく、額に大粒の汗を滲ませながら荒い息を吐いているが、その顔からは今にも倒れそうなくらい血の気が失せている。そのうえ、武蔵をまっすぐに見つめる眼差しには、ひどく思い詰めたものが感じられた。彼は、唾を呑んでから震える口を開く。
「メルローズが、どこにもいない」
「何っ?!」
 武蔵はとっさに手元のノートパソコンを覗き込む。
 だが、最初に見たときと変わることなく、赤と緑の点は中央にほぼ重なって表示されていた。その矛盾が何を意味するのか澪にはわからない。ただ、メルローズがいなくなったという事実だけでも、大変な事態であることを察するには十分だった。


…これまでのお話は「東京ラビリンス」でご覧ください。

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らくがき・澪

澪。
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名探偵コナン「ダーク・ナイトに愛の涙を」

まじっく快斗回。

成功率100%の犯罪プランナー、ナイトメアが怪盗キッドに接触してきました。どういうわけかキッドの正体がバレバレなんだけど…ていうか、仮説を聞かされてあんなに動揺しちゃいかんでしょ。いついかなるときもポーカーフェイスじゃなかったのかい。

ナイトメアを追ってきたインターポールの捜査官ジャック・コネリー。息子は養護施設に預けているのか。うーん、親戚とか預かってくれる人はいないのかな。仕事上のことなら一緒に暮らせないのは仕方ないと思うけど、やっぱりちょっとかわいそうだよね。

ナイトメアは黒い馬。ならば、当然、白馬が出てきますよね! 青子が「彼」と言っていたのは白馬でした。なんで青子が親密に連絡を取り合ってるのさ、彼って呼び方は何なのさ、と怪しんでみようとするものの、全然怪しく思えない不思議(笑)。

キッドは館長に変装して宝石を奪い去った。そこに待ち構えていたのはナイトメア。正体はインターポールの捜査官ジャック・コネリーでした。息子の莫大な手術費用を得るために始めたと。しかし、うわあ、こんな展開になるとは思わなかった…! まじですか。キッドは息子のために真実を盗んでいったけど、これではキッドが仲間割れで殺したことになってしまうのでは…。白馬は気付いたみたいだけど、これを公表するのか、胸におさめておくのか…。

▼名探偵コナン アニメ感想等
名探偵コナン@SKY BLUE
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らくがき・レイチェル

レイチェル。
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らくがき・ユールベル

ユールベル。
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らくがき・澪

澪。
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MAJOR ワールドシリーズ編 ~夢の瞬間へ~ 特別版+メッセージ

MAJOR ワールドシリーズ編 ~夢の瞬間へ~ 特別版+メッセージ。本編はテレビシリーズから7年くらいあとの話のようです。その間にいろいろ状況が変わっているようで、中にはどうしてそうなったとビックリするようなものも。個人的には眉村がね…! くそう、もう一度、海堂のあたりをニヤニヤしながら見直したいです(笑)。

吾郎はまだホーネッツにいて、としくんも追いかけてホーネッツ入りしていました。追いかけて、というのは私の勝手な妄想じゃなくて、本当に吾郎がいるからホーネッツを選んだそうな。としくん、吾郎のことほんと好きすぎるよね。パッケージイラスト(このイラスト、ネタバレなんだけど…)を見ていると、ツンデレとしくんやらヤンデレとしくんやらデレデレとしくんが思い出されて感慨深いです。としくんはまだ独身なのかな。嫁とかそういう描写はなかったと思うし。まあ、母親とのことがまだ決着してなかったですからね。

特典映像の「メッセージ」というのは、がっつり本編の続きでした。さらに数年後。うん、吾郎は小さな頃から無茶ばかりやってたからな。そうなるんじゃないかとずっと危惧していたけど…。あれでも長持ちした方だよね。見ていてつらかったけど、それでも吾郎はあきらめない。どんな困難でも前を向いて突き進むだけ。子供に何も言わなかったのが正解かどうかはわからないけど、私としては言ってあげた方が良かったと思うけど、結果的には背中で示せて良かったのかな。

しかし、桃子が見た目若いままなのが気になって仕方ないです! もう50くらい(過ぎてる?)じゃないかと思うんだけど…まだ20代でも全然いけるくらい。薫と同年齢と言われたら普通に信じられそうな。

あと、本編にオーディオコメンタリーがあるみたいだけど、それはまだ聞いていません。森久保祥太郎さん、森田成一さん、浪川大輔さん、笹本優子さんというメンバーらしいです。
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らくがき・万由里

万由里。
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らくがき・沙耶

沙耶。
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らくがき・澪

澪。
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らくがき・七海

七海。
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名探偵コナン「涙のクリスタル・マザー」

今回はまじっく快斗です!

怪盗キッドはセリザベス女王が所有する宝石「クリスタル・マザー」を盗むと犯行を予告。しかし、この女王はキッドとの駆け引きを楽しんでいる様子。あまり危機感はなく余裕たっぷり。このくらい肝が据わってないと、女王なんてやってられないのでしょうか。

快斗は青子と一緒に豪華列車に乗ってきたわけね。豪華列車って予約をとるのも難しいし、値段もお高いと思うんだけど、中森警部に頼んで何とかなっちゃうものなのか。意外とすごい…のか…?

中森警部は酒を飲むと気が大きくなるタイプらしい。女王も勧めてしまったことを少し後悔しているかも(笑)…とか思ってたら、警部の飲んでいたグラスにクリスタル・マザーを隠していたのか! 大胆にもほどがある…警部がうっかり飲んだりかじったりしたらどうするつもりだったの(笑)。

そして、やはりやってきたスパイダー。まあキッドには敵わなかったわけだけども。でも、クリスタル・マザーも望みの宝石ではなかったんですね。引っ張るなぁ。

王子様、なぜか一発で快斗が怪盗キッドだと見抜いていました。この子は健気で純粋で可愛い。お母さまは嫌いだけど、お父さまと約束したから守らなきゃいけないとか、母親に褒められたいと一生懸命になっているところとか。お母さま、厳しく躾けるのはいいんだけど、ちゃんと愛情も示してあげないとね。これからは大丈夫かな。

▼名探偵コナン アニメ感想等
名探偵コナン@SKY BLUE
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らくがき・アンジェリカ

アンジェリカ。
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