「天狗の中国四方山話」

~中国に関する耳寄りな話~

No.9 ★ ヤマハ、「中国ピアノ市場の変調」により曲がり角 2024年は新たな「成長ストーリー」を描き出す年

2024年01月27日 | 日記

東洋経済オンライン (吉野 月華 : 東洋経済 記者)

2024年1月8日

写真はヤマハのグランドピアノ。ヤマハの調べによるとピアノで33%(2022年度時点)、デジタルピアノでは47%(同)の世界シェアを持つ(撮影:梅谷秀司)

2023年後半に株価が急落したのは楽器大手のヤマハだ。8月頃まで5000円台前半で推移していた株価は下落を続け、足下では3000円台前半だ。

ヤマハは2010年代を通じて、中国など新興国の開拓を進め右肩上がりの成長を遂げた。半導体不足で商品供給に苦しんだコロナ禍においても、外出制限中に自宅で楽器を楽しむという巣ごもり需要が追い風だった。

それが一変したのはなぜか。2023年に明らかになったのは、過去10年間ヤマハが乗っかっていた「成長ストーリー」の変調だ。

業績予想の修正を境に株価下落

株価下落の最初のきっかけは、2023年度通期業績予想の下方修正だった。2023年8月2日に第1四半期決算と一緒に発表された。

インフレが進んだ欧米で、低価格帯の電子ピアノを中心に楽器需要が想定よりも弱かった。電子ピアノは利益率が高いため、業績に与える影響が大きい。この修正で株価は一気に800円近くも下がった。

しかしより深刻なのは、11月に発表された2回目の修正だ。下方修正したとはいえ8月の時点では前年度比で7.6%の増益を見込んでいた営業利益を減益に修正した。

需要が軟調な中、市中在庫の調整のために楽器の減産を実施し費用が発生したのが主な要因だ。加えて、中国での市況回復が難しいと判断し予想に織り込んだ。中国については2024年度も厳しい状況が続くとみる。

中国では単に深刻な景気後退で市況回復が遅れているだけではない。

2021年に発表された「双減政策」の影響を受け、教育向けピアノの需要が減衰している。子どもと保護者の負担軽減を目的とし、学校の宿題と学外教育の時間を減らすことを定めたのが双減政策だが、結果として教育熱を冷ますこととなった。

教育向けピアノ需要の減衰がヤマハに与える影響は大きい。なぜなら、ヤマハの過去10年の収益拡大は、中国の高いピアノ需要を前提とした成長ストーリーだったからだ。

中国では教育熱の高い都市部の富裕層を中心に、アコースティックピアノの需要が強かった。ヤマハは中国市場向けのピアノを現地生産することで利益を最大化できる体制を築いていた。

ヤマハは2012年度からコロナ影響が顕在化する前の2018年度にかけて、営業利益率を2.5%から12.8%まで右肩上がりで高めてきた。この大幅な採算向上には、現地生産、現地消費で採算がよい中国教育市場の拡大が貢献していた。

この間、ヤマハの中国での楽器売り上げは229億円から468億円まで成長。楽器売り上げ全体に占める中国比率も8%から17%に拡大した。

新たな成長ストーリーは

しかし、教育熱が冷めているとなると戦略の変更が必要になる。ヤマハの中田卓也社長は12月末に行われた記者懇親会の場で、中国市場の今後について次のように言及した。

「教育一本足打法から、需要が伸びているエンタメや趣味向けなどへ軸足を移すことで今後の成長を実現したい。ピアノで培ったブランド力でほかの成長も支えられる」

中国市場での地産地消を実現していた製造拠点についても、輸出拠点として活用できるよう手を打つ。

市場はシナリオが崩れることを嫌う。従来のシナリオは、わかりやすく、かつ実績も挙げていただけに、ヤマハは急いで次の成長ストーリーを描き出す必要がある。

「欧米中日以外が成長ドライバーになる。地域の1人あたりGDPが5000ドルを超えると楽器の普及が始まるとみている。新興国でも都市部ではそのような地域が増えている」。中田社長はそのように持論を交えて新市場への期待を語った。

例えばインド。デリーやムンバイなどの大都市では1人あたりGDPが5000ドルを超えている。インドでは地域の伝統的な楽器の音を取り入れた電子楽器が人気で、すでに製造拠点を現地に置いている。

製品でいえば、楽器の中でもギターは成長が続く。ギター市場でのシェアはアメリカのフェンダー社に次いで世界2位。エレキギターの入門機の評価が高く、ギター売り上げは過去10年間の間に3.5倍に成長した。2022年度のギター売り上げは379億円で、楽器の売上高に占める割合は13%だ。

ヤマハのギター。過去10年で売り上げは3.5倍に成長した(記者撮影)

ギターは従来から戦略領域と位置づけられている。2014年にエフェクターなどを手がけるLine6社(アメリカ)を、2018年にはアンプを手がけるAmpeg(同)ブランドの事業を買収し周辺機器を強化した。

2023年にはヤマハが手薄だったクラシックギターで知名度が高いコルドバ社(同)も買収。今後は中高価格帯を強化し世界トップシェアを目指す計画だ。

国内での製造強化と次なる変化も

新興国とギターの2つは従前の戦略領域だが、次の一手といえる変化も表れている。

2023年12月22日、国内の楽器製造子会社ヤマハミュージックマニュファクチュアリングの吸収合併を発表した。本社との強い連携のもと、技術・技能の分散回避と継承、より柔軟な製造体制の構築が目的だ。

ヤマハはこれまで、コストや効率の観点から海外工場への工程移管を積極的に進めていた。しかし、現地労務費の上昇や円安で海外生産のメリットが低下。かつ中国で大きな市況変化があった今、新たな施策として国内のものづくりを強化する方針を打ち出した。

楽器製造は職人による手作業の工程が多い。サックスの朝顔は木槌で打って形を整える(記者撮影)

これまで、ピアノフレームについては生産工程をすべて中国に移管する計画で投資を進めていた。しかし、その計画を取りやめ同工程の主力を日本国内に戻すことを決めた。

国内製造子会社の合併は、国内で労働者を確保するための手立てでもある。「製造子会社よりも本社であるほうが、働き手にとって訴求力がある。好きな楽器を造りたい、という方々にやりがいのある仕事を提供したい」。中田社長はそのように狙いと抱負を話した。

ヤマハは世界で唯一、吹奏楽やオーケストラで使用される楽器のほぼすべてを自社で製造・販売している。楽器の盟主にとって2024年は大きな変化の年になりそうだ。

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