見出し画像

Retro-gaming and so on

現実主義勇者の王国再建記

またもやキングレコード関係、の模様だ。
キングレコード絡みのアニメは取り敢えず押さえておかないとならない、ってカンジになってるわけだが。
この作品も期待を裏切らない作品になりそうである。



原作は元々、やっぱ「なろう」系の小説。ただ、作者と「なろう」の間でトラブルがあったらしく、今現在は「なろう」では原作小説は削除されている。



系統的にはいわゆる「異世界転生系」であり、ある意味「転生したらスライムだった件」の流れではある。これはちょっと含みがあるのだが、それに付いては後述しよう。
この作品の勇者(主人公)は基本全く戦わない。いわゆる「異世界転生系」のフォーマットに逆らった作品になっている。
言わば、異世界転生系のフォーマットは、「このすば」を除き、原則「転生した主人公が無双する」と言う、以前話した通り、実は「ドラゴンボール」エピゴーネンが殆どである。99%くらいはそうだ。
その中に「転生したらスライムだった件」もあったわけだが、この作品が他とちょっと違ってたのは、主人公が「王様」になっちゃう辺り。
フツー、転生したら貴族の子女であったり、勇者であったり、あるいは冒険者であって、色々なトラブルに立ち向かったり強敵と戦いまくるわけで、「転スラ」もある程度そういうフォーマットを借りつつも、ある国での最高権力者の立場を獲得する。そしてこの時点で他の「転生系」と内包する技術的なテーマを違えたわけである。
一体それが何か、と言うと、要するに「国造り」と言うかなり大きなテーマを持ってきたのだ。それにより、文系学問的な知識を微妙に作品に混ぜる事が可能となったわけだ。政治学しかり、経済学しかり、である。
「転スラ」自体はそこまで深くその辺を追求せずに、エンターテイメントに徹したわけだが、いずれにせよ、「王様である」と言う立場でその辺の「文系教養」のエッセンスを微妙に混ぜつつ話を作る、と言う「新しい作劇法」を示した。ここに一つの種が蒔かれたと思う。

実際、黎明期のラノベはあまり褒められた商売じゃなかったと思うし、「なろう」の作品が総初期から素晴らしい作品ばっかだったワケではない。今もそうだろうけど、ただ、商業的にどうかな、って思われるような「新しい方式」を試みる実験場としては「転スラ」のような優秀なエンターテイメントが出たのは事実である。
「王様」だと政治学的な観点や経済学的な観点をどうしても混ぜなきゃならない部分が出てくる。そこはある意味「学問的リアリティ」であり、そしてそのまま書いても面白くない部分なわけだ。しかし、ファンタジーとしてのフォーマットを借りれればそれなりに娯楽作品として読ませる事が出来る。
考えてみれば2000年代末期、「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら。」と言うヘンな小説が出て売れた事を覚えてる人もいるだろう。僕は全然読んでなかったんだが、「ラノベで専門書を解題する」と言うのが新風で、似たような企画を立てては結果あまり成功しない、とか言う出版ブームがちょっとあった。商業だとその辺、難しかったんだろうな(※)。
しかし、時は経ち、「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら。」で蒔かれた種、そして「転スラ」が示した方法論をもっとこなれたカタチで出来ないか、と言うような試行錯誤的な作品もチラホラ出てきてる。
個人的にはこういうのを「解題系」って呼んでるんだが、この「現実主義勇者の王国再建記」もそういう、基本「解題系」の作品である。主人公は異世界召喚されたら比較的すぐ、呼び出した弱小国の王様に王位を譲られ、現代日本の文系知識/教養を駆使してその弱小王国を立て直そうとする。彼は迫りくる書類と戦うのであって、好んで勇猛果敢に「強敵」とは戦わない。そういう一風変わった「勇者もの」の、恐らく一番最初のアニメ化作品だろう。



似たような「解題系」作品に、「数字で救う!弱小国家」と言うのもある。これは数学知識を駆使して国を立て直そう、と言う話しで、理系・文系の差はあれど「学問的な知識/教養をバックグラウンドとして」何かをなそうと言う話しであり、基礎コンセプトは「現実主義勇者の王国再建記」と共有してる。
いずれにせよ、多分この辺のジャンルは今後もっと増えて発展するのではないか、と思っている。
一つは「ホンマ楽しそうに歴史を語る」磯田道史氏みたいな人の出現。彼によって「国の成り立ち」なんかを朧気ながらマジメにかつ楽しく理解する層が増えた、ということ。
もう一つは単に社会不安だよな。今の日本の政治がどっかダメだ、と思ってる人が増えて、みんな「俺だったらこうしたい」と言う欲求だけは持っている。しかしそこには具体的な作戦がないし戦略もない。その辺に「教養小説の新系」として、このテの「解題系」が登場して受け入れられつつある、って考えていいんじゃないか。
いずれにせよ、多分この辺は「なろう出身」としてはかなり新しい潮流なんじゃないか、って思っている。
んで、転スラの原作の面白さに反して、アニメは全然ダメダメなので、それもあって、この「現実主義勇者の王国再建記」には相当期待してる自分がいるのだが、果たして?


※: この時期の雛形の一つに「魔王勇者」と言う旧・2chで投稿された作品があり、これはアニメ化もされている。
が、「小説ではない」(戯曲スタイル)ので、一つの雛形ではあるが、今回は取り上げていない。
  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最近の「アニメ」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
人気記事