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Retro-gaming and so on

呪凶介PSI霊査室

ホラー漫画のレビューなのにギャグになってるが、それが逆に、確かに「つのだじろう」への愛が感じられる。

以前書いた事があると思うんだけど、「ちびまる子ちゃん」は正しい。
任天堂からゲームボーイが出る前は、何故か小学校の遠足のお供は、心霊写真集、あるいは、黒田みのるつのだじろう楳図かずお古賀新一高階良子あしべゆうほホラー漫画、が鉄板だったんだ。
いや、僕はこれらのホラー漫画を持ってたワケじゃない。
ところが、クラスに数名、必ずと言っていいほど、「普段ホラーの話なんざ全くしない」ヤツが遠足に持ち込んでくるんだ(笑)。
それで遠足のバスでクラスで回し読みするんだよな(笑)。わはははは(笑)。
ガキってバカだぁ(笑)。
なお、これも前にチラッと書いたと思うんだけど、この経験で僕は少女漫画に慣れるんだ。当時は全然自覚はなかったんだけど、原則、ホラー漫画ってのは少女漫画の1ジャンルだったんだ。
例えば、楳図かずおって「まことちゃん」以降、漂流教室とかで少年漫画や青年漫画で活躍するけど、実は少年/青年漫画ではホラー漫画って基本描いてないんだよ。彼の「ホラー漫画家」と言う印象を作った礎はあくまで少女漫画なの。
そう、楳図かずおって少女漫画家だったんだ。
古賀新一なんかも少年チャンピオンでの連載、エコエコアザラクで有名になるけど、それまでは貸本とかで、少女漫画ジャンルでホラーやってた人なのね。んで、確か、みのり書房っつったかな。そこが古の、少女向けホラーコミックレーベルを出してて、描き下ろしでホラー漫画とか描いてたんだよ。何だろ、覚えてる事と言えば、おいなりさん?要するに狐憑きの話とかやってた気がする。悪魔じゃない、霊魂ものだ。
あと、あしべゆうほって「悪魔の花嫁」の人ね。確か毎年毎年、遠足中に続き読んで、結果読破したんじゃなかったかしらん(笑)。デイモスカッコイイんだよ(笑)。男が読んでもシビれるカッコ良さ、っつーか。まぁ、不幸を運んでくるんだけどな。
んで、遠足での「つのだじろう」の鉄板の単行本って言えば亡霊学級だ。もうなんとも怖い漫画なんだけど、何故か「遠足のお供」の役割果たしてたんだよね〜。
もっとも「つのだじろう」の場合、ひょっとしたら少女漫画でも描いてたかもしれんけど、実は上に挙げたメンツでは唯一、少年マンガ誌でホラーを描いてた作家だ。そう、彼だけは例外なの。
元々、つのだじろうって人も少女漫画でデビューしてるとは思うんだけど(※1)、後に女性誌でホラーを描く事になるけど、まずは少年マンガ誌でホラーをやり始めた、ってのは実は「マンガ界の常識」としては異色だったんだよな。

んで、これも以前チラッと書いたと思うんだけど、元々ホラーもの、ってのは不合理の話じゃないの。殆どの人が勘違いしてんじゃねぇの、とか思ってんだけど徹底した合理の話なんだよね。超常現象が絡もうが何だろうが、AだからBってのがハッキリしてる話なんだ。つまり、背後にロジックがある
因縁モノ、ってあるじゃない。人に拠っては単純に「超常現象が絡む復讐モノだろ?」って思うだろうけど、そもそも因縁モノって言う以上、「超常現象が起こるべくして起こる、ドラマ上の因果関係ってのはハッキリしてなきゃならない」んだ。
東海道四谷怪談とか、番長皿屋敷とか、「古典」もみんなそうじゃん。「何故その怪異が起きたのか」と言う原因が結果を導いてる。言ったろ?ホラーって元々はロジカルな物語なんだよ。
何故に山村貞子を生み出した「リング」がヒットしたのか。それは80年代半ばから、古典的な構造を持つロジカルなホラーに代わってカウンター的に現れた「不条理ホラー」に逆カウンターを食らわせたから、だ。「リング」は古典的な「ロジカルなホラー」の逆襲だったんだよ。
登場人物は、メタフィジカル(つまり作者の観点である筈)な「怪現象のロジック」を解き明かそうとする。結果その「解き明かした筈の」ロジックが間違ってた、ってのが主役の絶望を呼ぶわけだが。
で、このホラーが優秀だったのは「理詰めの物語」なんだけど、「ビデオと言えばダビング」と読者もすぐ思いつきそうな「ロジック」を、作者が全力で回避させよう、としてる辺りなんだ(笑)。読者の目を逸らす為、主役とその友人は「全力で違うロジックを追う」(笑)。そのミスリードさせる構成が見事だったんだよ。
言わば、この作品は物語としてのロジックがやっぱしっかりしてて、そのロジックに対する伏線としての「間違ったロジック」が読者を誘導する、ってのが「リング」を傑作ホラーにした理由なんだ。
んで話を戻すと、上に挙げた作家だと、そう、「楳図かずお」と「つのだじろう」、って人達二人は特にその「ロジックを構築する」って事に関して特に優れてたんだよ。
でも方向性は違う。楳図かずおは「怪物(あるいは化け物)」は描くが幽霊は描かない。一方つのだじろうは「幽霊」専門だ(※2)。
いずれにせよ、「不条理ホラー」って言われる作家陣が「楳図かずお」や「つのだじろう」と言う「巨頭」に勝てない理由はハッキリしてる。「不条理ホラー」には「理」がないからだ。
不条理ホラーは単に「絵が不気味だ」とか、「起承転結がハッキリしない話」の読後の「スッキリしない感」なんかを「怖さ」と誤認させてる、ハッキリ言えば「小手先の話」ばっかだから、だ。それじゃあ「理を操る」巨頭には勝てない。
当たり前の話、なんだ。

さて、つのだじろうは「トキワ荘」の連中と同世代として関わってた事もあり、キャリア自体はかなり長い人だ。
でも彼が関わった最初の「ヒット作」ってのは1971年に梶原一騎と組んで描いた「空手バカ一代」(1971年)だろう。しかし、途中でつのだじろうは作画から降板する。
その降板時期(1973年)とほぼ同時に週刊少年チャンピオンと週刊少年マガジンに連載を始めたのが「恐怖新聞」と「うしろの百太郎」だ。
そう、この2本のマンガってのは、つのだじろうの「代表作」って言って良いモノだが、実は登場時期って結構古いんだよ。もう半世紀(50年)も前のマンガ、だ。
つのだじろうの独特の絵柄のせいもあるが、この2作品、今読んでもさほど古さを感じさせない、ある種「恒久性」があるマンガになっている。逆に、特に「恐怖新聞」のリメイク版である「平成版」なんかの方が、「時代に合わせて」ケータイなんぞ出してる為に古さを感じさせる。
マンガの根本で、「時代を感じさせない恒久性」をもたせるのは、ギミックではなく、「ストーリーテリング」なんだ、ってのが良く分かる作品だ。

なお、「恐怖新聞」と「うしろの百太郎」は両者とも「心霊現象」を扱っているが、スタンスがかなり違う。「うしろの百太郎」は、ホラーの形式を借りてるが実質的にはスーパーヒーローものだ。主人公、後一太郎と言うワードプロセッサのような名前の少年に憑いている守護霊、「百太郎」は言っちゃえば超常現象専門のスーパーマンみたいなモンで、主人公を「助ける」以上、物語のモティーフに「心霊」は関わってくるが、恐怖感はそこまで、でもない。
むしろ、「あの世」を経由して「道徳」を語ってくる辺り、構造的には「お説教マンガ」になってる気があるくらいだ。
何だろ、今の若い人は知らんだろうけど、「漫画版丹波哲郎」みたいなノリになってるんだ。大霊界だ。要は「宗教っぽい」マンガで素直に読めないし、評価しづらいんだよな。
一方、「恐怖新聞」はとにかく怖い(笑)。子供心に「ここまで怖く描く必要があるんか」って泣き出したい程怖かった(笑)。つのだじろうは「霊は怖いものではない」とか言ってるけど、そう言いながら何でこんな怖いマンガを描くんだ、ダブルスタンダードじゃねぇのか、って恨み言を言いそうな程怖いマンガだったんだ(笑)。いやいや、大人って酷いね(笑)。
いずれにせよ、この二作は当時かなりヒットしたんだよな。これでつのだじろうは「心霊漫画家」と言う確固としたポジションを作り上げたんだ。

さて、1970年代は、映画でもエクソシスト以降のホラーブーム、またユリ・ゲラーによる超能力ブームがあって、オカルトが大人気だったんだよな。その煽りもあって、横溝正史ブームが起こるわけだが。
時代の寵児、つのだじろうは1976年にヒット作「恐怖新聞」と「うしろの百太郎」を終了する。約三年の連載だ(※3)。
そしてここで少年画報社の今は無き少年誌、少年キング(※4)が声をかけるわけだな。
多分こんな事を言われたのではないか。

「恐怖新聞やうしろの百太郎のような漫画を描いていただけないでしょうか?」

それで出来たのが、この「呪凶介PSI霊査室」(1977年)だ。

ところで、「恐怖新聞」も「うしろの百太郎」も、好んで主人公が「心霊的な事件」を探して介入してるわけではない。あくまで「巻き込まれる」ストーリーだ。
一方、「PSI霊査室」は、(架空の)九鬼警察署に設けられた民間の参考協力機関となっていて、怪事件を霊的に捜査しよう、と言う話になっている。
このプロットを聞くとあるドラマを思い出すだろう。そうだな、円谷の怪奇大作戦だ。
単純には、怪奇大作戦のSRI(科学捜査研究所)に当たるのがPSI霊査室だ。
しかし、SRIはあくまで「怪事件を科学的に徹底的に捜査する」のに対し、PSI霊査室は「オカルトはオカルトのままとして捜査する」と言うのが違う。
一見、プロット自体は面白そうだ、って思うだろう。でもこの漫画、実はこのプロット自体が凄い弱いんだ。「恐怖新聞」や「うしろの百太郎」とは並べられない程弱い。多分描いてるつのだじろう自身が相当苦労しただろうな、と思われる。
まず、主人公コンビが何者なんだか良く分からない(苦笑)。二人の関係性も分からんし、何故にSPI霊査室、なんつートコで働く必要が出て来たのかサッパリ分からんのだ(苦笑)。



この「主人公二人組の良く分からんバックグラウンド」ってのは結局、「読者が感情移入出来ない」って事を意味するんだよ。
「恐怖新聞」も「うしろの百太郎」も、主人公はフツーの少年で、心霊現象に出会う前は「フツーの常識しか持ってない」僕らの代弁者なわけ。だから共感可能だし、「心霊現象が我が身に起きたら・・・」と言う想像で、漫画内の「怪奇現象」をリアリティを持って読めるわけだ。
しかし、その構図が「呪凶介PSI霊査室」には全くないわけだ。
現代の我々にとっては、せいぜい、

「ああ、また剛力彩芽似のヒロインが出てきたよ」

程度しか感じられない。

つのだじろう的ヒロイン顔(謎

そして、SRIはなんだかんだ言って「科学捜査を徹底する事によって」事件を解明する。つまり犯人を挙げられるんだ。
一方、PSI霊査室の場合は違う。「オカルト捜査な以上、現象は霊的には解明されても最終的には警察が介入不可能」なんだ。
つまり、霊的捜査は実を結ばないんだよ。結果、警察が介入出来ない、ってのが分かるだけ、だ。犯人が霊だったら逮捕も出来ない
従って、この設定は無理があり、結果早々に破綻するんだよな(笑)。
そう、割に早い段階でこの漫画、九鬼警察署云々、ってのが「たまにしか」出なくなるんだ。
しかしそうなると、この主役二人が「積極的に心霊事件に首をツッコむ」必然性もなくなる。
イコール、かなり早い段階で漫画の構図が崩壊しちまうんだ(笑)。




5話くらいまでは、「霊安室から起き上がる死体」とか、「警察内部」ならではのギミックを頑張っていたが、これくらいが限界だったのか、この話のあとから、「警察」のストーリー上の重要度が減っていく。

これはホンマ「苦しい漫画」だ。
結果、この漫画は「たまに」九鬼警察署が出てくるが、「恐怖新聞」や「うしろの百太郎」のような「巻き込まれ型の漫画」に様相が変わっていく。
つまり、最初につのだじろうが考えただろう「恐怖新聞や百太郎とはまた違った漫画を」と言うのは完全に崩壊しちまうんだ。
そして、相当連載が苦しかったんだろう、最後はヤケのヤンパチでヒロイン美霊香の死、でエンディングを迎えるんだ。



ハッキリ言おう。メチャクチャだ(笑)。

これはやっぱり、「積極的に心霊現象に関わらせる」と言う設定がそもそも失敗だった、って事なんだろう。
繰り返すが、「恐怖新聞」も「うしろの百太郎」も、「主人公達は積極的に心霊現象に関わらない」、いや、むしろ「関わりたくない」のが連載モノとして功を成してたんだ。
特に、「恐怖新聞」の鬼形礼は、だからこそ便利なキャラクタで「語り部」とか「狂言回し」の役もこなせた。
「恐怖新聞に書いてたんだけど・・・」と言うカタチで「自分と全く関わりのないストーリーを話す」って役割も出来たわけ。
ところが、心霊現象に積極的に関わる主人公を作ったが為に「呪凶介PSI霊査室」は破綻する。「つのだ漫画」には「心霊現象に積極的に関わる」主役は必要ない、と言うか、それじゃ「連載漫画」の形式が取れない、ってのが分かった瞬間だった。
結果、この漫画以降、つのだじろうの「心霊漫画」は1話完結のオムニバス形式が多数を占める事となる。
そういう「作風」のターニングポイントになる「失敗作」が、この「呪凶介PSI霊査室」だった、と言う事を言わせてもらおう。

※1: 実は少女漫画デビュー組、ってのは異様に多い。今みたいに「女性作家」が少ない時期だと、人口過密的な少年漫画雑誌でデビューするより、少女漫画誌で(描き手がいないんで)デビューする方が早かったんだ。
赤塚不二雄や松本零士、そしてつのだじろうは全て少女漫画デビュー組で、後に少年誌や青年誌へと「移動」する。

※2: UFOや「超能力」も好きみたいだが。

※3: なお、あくまで計算上の話だが、「恐怖新聞は一回読むと100日命が縮まる」。っつー事は三回読めば約1年命が縮まり、三十回(約一ヶ月分)読めば約10年命が縮まる。
恐怖新聞が日刊紙なのかどうかは知らんが、三百回読まない内に死ぬのは間違いない。恐怖新聞が配達されたら最後、1年購読せんウチにお亡くなりになるわけだ。
っつーことは恐怖新聞の鬼形礼はどのくらい読んだんだろう。連載期間3年、も命が保つわけがないのだが(笑)。

※4: 今やメジャー少年誌は4誌しかないが、往年は「5大少年誌」と言われ、少年キングはその一角を担っていた。
主な代表的掲載作に松本零士の「銀河鉄道999」や聖悠紀の「超人ロック」、藤子不二雄Aの「まんが道」等があった。
なお、意外にも、つのだじろうは少年キングで、後に「5五の龍」と言う将棋漫画を連載する。これが多分将棋が漫画になった最初の作品じゃなかろうか。
もちろん、心霊将棋バトルではない(謎
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