『国家の罠』の著者の佐藤優氏が『SAPIO』2006/01/25号で興味深いことを書いていた。
欧州各国から日本に派遣されている外交官たちが定期的に集い情報や意見を交換する場で、現在最も注目されているのが”耐震強度偽装問題”だという。
これは内河健総研所長が中国や台湾などの国外にまで、”強度偽装”を輸出していたことからくるその実態などに対する注目といったようなものなのではなく、日本の新自由主義化の進捗状況の見極めのための注目なのだ。
「官から民へ」の民営化の手法も、日本では官僚や利害が絡む者たちの利益誘導路線でおこなわれており、建築確認・検査を民間に開放した際のやり方などは、官の天下り先確保の典型的なものだった。
『週刊ポスト』2005/12/16号の”イーホームズばかりか業界大手の会社も ”仰天の実態” 民間検査システムは天下りだらけの「ザルチェック」だ!”という記事によれば、民間に開放する際に改正された建築基準法には、民間企業が検査機関としての指定を受ける際、役所のOBを受け入れざるを得ない巧妙な仕組みまでつくられていたという。
小泉首相は年頭記者会見で、やたらと「個人の自立」「地方の自立」と、論理的に脈絡の無い言葉を連発していた。次期総理と目されている安倍晋三官房長官も4日に出た週刊誌の対談(『週刊ポスト』2006/01/13-20号”安倍晋三 vs 猪瀬直樹「日本よ、『新しい国』へ!」”)で、
「では、安倍さんの考える”新しい国”のイメージとは?」
と問われ、
「自立した国、ですね。核になるのは自立した地方と個人。そうなることによって一層、日本人が日本人であることに、そして日本という国に誇りを持てるようになると思います」
と答えている。
この「自立」というのは、端的に言ってしまえば、小さな政府はあなたたちの面倒をみませんよ、ということである。もっとも、この小さな政府はひどい二重基準の持ち主で、富裕層や大企業には有利な税制や政策で応援をするらしい。
勤労者の多くの長年にわたる収入減、また地方の惨憺たる状況などは全て「自己責任」というわけだ。何故なら、「自立した個人」「自立した地方」であるのだから。自立したのだから、他に責任を転嫁してはいけないというわけなのだ。無論、”そうなることによって一層、日本人が日本人であることに、そして日本という国に誇りを持てるようになる”というのは、おだてであり、棺桶へのハナムケ言葉である。
左様斯様に、日本は本格的な新自由主義に向けていびつに突っ走っているのである。
ともあれ、「姉歯建築士問題」「耐震強度偽装問題」を駐在外交官たちが持つ認識から考えると非常にわかりやすいし、今の日本の問題を代表している現象ということもわかる。
佐藤優氏はこの”在京インテリジェンスはなぜ今「建築強度偽装問題」に注目するのか”で、次のようにも書いている。
欧州各国から日本に派遣されている外交官たちが定期的に集い情報や意見を交換する場で、現在最も注目されているのが”耐震強度偽装問題”だという。
これは内河健総研所長が中国や台湾などの国外にまで、”強度偽装”を輸出していたことからくるその実態などに対する注目といったようなものなのではなく、日本の新自由主義化の進捗状況の見極めのための注目なのだ。
在日外公官たちの問題意識は次の通りだ。実際は公的資金投入を主張する政治エリートの面々は、対新自由主義の理念からそうしているのでは全くなく、幾つも指摘されている耐震強度偽装の当事者たちとの癒着、また関係業界からの要請、早くうやむやにして終わらせたいなどの思惑からの行動だろう。
「新自由主義政策に基づき、官から民への移行が起きれば、今回の姉歯建築士のような偽装設計は必ず起きる。論理的にこれは自己責任の問題で、日本政府が耐震偽装マンションに公的資金(税金)を投入することはありえない。しかし、政治エリートの中に公的資金投入を主張する強い声がある。本件に関して公的資金を投入しないという決断を日本政府がするならば、近未来予測は簡単で、日本は新自由主義政策をこれまで通り推進することになる。逆に公的資金を投入するならば、基本政策のジグザグが生じ、予測に多くの不確定要因を加味しなくてはならない。その意味で姉歯問題が分水嶺になる」(『SAPIO』2006/01/25号 佐藤優 ”在京インテリジェンスはなぜ今「建築強度偽装問題」に注目するのか”から)
「官から民へ」の民営化の手法も、日本では官僚や利害が絡む者たちの利益誘導路線でおこなわれており、建築確認・検査を民間に開放した際のやり方などは、官の天下り先確保の典型的なものだった。
『週刊ポスト』2005/12/16号の”イーホームズばかりか業界大手の会社も ”仰天の実態” 民間検査システムは天下りだらけの「ザルチェック」だ!”という記事によれば、民間に開放する際に改正された建築基準法には、民間企業が検査機関としての指定を受ける際、役所のOBを受け入れざるを得ない巧妙な仕組みまでつくられていたという。
当時の法改正に関わった自民党幹部の一人は、「最初から国交省や自治体役人の天下り先確保が目的の制度だった」と指摘する。とにかく、本来の理念の「官から民へ」とはほど遠い。もっとも、本来の理念通りの「官から民へ」だったらよい、ということではもちろんないのだ。外交官たちも言っているように、「市場原理」には、科学的事実や個人の「良心」などを駆逐する、公共的利益(パブリックインタレスト)を不問に付させる危険性が、より多く存在する。
「検査を民間会社にやらせれば、厳しいチェックをするところには依頼が来ないから、儲けるためには甘くせざるを得ない。党内には腐敗を招くという批判があったのに、国や地方の建設技官の再就職先づ<りのために国交省が法改正をゴリ押しした」
調べてみると、確かに検査機関はいずれも天下りの巣窟と化している。(同)
小泉首相は年頭記者会見で、やたらと「個人の自立」「地方の自立」と、論理的に脈絡の無い言葉を連発していた。次期総理と目されている安倍晋三官房長官も4日に出た週刊誌の対談(『週刊ポスト』2006/01/13-20号”安倍晋三 vs 猪瀬直樹「日本よ、『新しい国』へ!」”)で、
「では、安倍さんの考える”新しい国”のイメージとは?」
と問われ、
「自立した国、ですね。核になるのは自立した地方と個人。そうなることによって一層、日本人が日本人であることに、そして日本という国に誇りを持てるようになると思います」
と答えている。
この「自立」というのは、端的に言ってしまえば、小さな政府はあなたたちの面倒をみませんよ、ということである。もっとも、この小さな政府はひどい二重基準の持ち主で、富裕層や大企業には有利な税制や政策で応援をするらしい。
勤労者の多くの長年にわたる収入減、また地方の惨憺たる状況などは全て「自己責任」というわけだ。何故なら、「自立した個人」「自立した地方」であるのだから。自立したのだから、他に責任を転嫁してはいけないというわけなのだ。無論、”そうなることによって一層、日本人が日本人であることに、そして日本という国に誇りを持てるようになる”というのは、おだてであり、棺桶へのハナムケ言葉である。
左様斯様に、日本は本格的な新自由主義に向けていびつに突っ走っているのである。
ともあれ、「姉歯建築士問題」「耐震強度偽装問題」を駐在外交官たちが持つ認識から考えると非常にわかりやすいし、今の日本の問題を代表している現象ということもわかる。
佐藤優氏はこの”在京インテリジェンスはなぜ今「建築強度偽装問題」に注目するのか”で、次のようにも書いている。
田中真紀子外相が登場してからは、外交よりも日本の内政に外交官たちの関心は強くなっていった。その中で異口同音に次のような見立てを在日外交官たちは述べていた。こちらも非常にわかりやすい。…
「小泉改革は少しタイムラグを置いて、冷戦後の国際環境に日本が適応しようとする動きだと思う。その中で日本の政治エリートは、弱肉強食の新自由主義政策を選択した。同時に、冷戦という枠の中で抑えられていた日本のナショナリズムが噴き出している。靖国問題や歴史教科書問題は氷山の一角だ。小泉純一郎首相はこの流れに乗っている。これに対して田中真紀子外相は、地方から出てきた公平配分型の政治家で、また中国との関係を重視し、首相靖国参拝に反対する自虐史観の流れを汲む政治家だ。従って、遅かれ早かれ、小泉首相というよりも日本の政治エリートが田中外相を切ることになると思う」
私は「田中外相の支離滅裂な発言の背後に政治哲学を見るのは深読みのし過ぎで、彼女は人気取りの観点から漂流しているに過ぎない」と反論したが、在日外交官たちは納得せず「佐藤さん、あなたは政局の渦に近づき過ぎたので、大きな流れが見えないんです。田中外相は小泉首相によって必ず放逐されます」と自信をもって述べていた。
このやりとりがあってから1年後の夏、筆者は東京拘置所独房で田中真紀子衆議院議員辞任のニュースを聞きながら、在日外交官たちの洞察力に脱帽した。