雑木帖

 ─ メディアウオッチ他 ─

「テレビは誰のもの?」というテレビでのなかでの議論

2006-05-05 22:19:44 | メディア
 3月21日にNHKの番組で「徹底討論 テレビは誰のものか」をやっていた。僕は小一時間見ていたが、次の法令を持ち出して、NHKも民放もこれを見れば同じ、違いはどこにあるのか、という話になり議論が止まってしまったので、呆れてスイッチを切ってしまった。
 日本放送協会国内番組基準

 日本放送協会は、全国民の基盤に立つ公共放送の機関として、何人からも干渉されず、不偏不党の立場を守って、放送による言論と表現の自由を確保し、豊かで、よい放送を行うことによって、公共の福祉の増進と文化の向上に最善を尽くさなければならない。
 …(略)…
 第4項 政治・経済
1 政治上の諸問題は、公正に取り扱う。
2 公職選挙法に基づく政見放送および経歴放送については、法律に従って実施する。
3 経済上の諸問題で、一般に重大な影響を与えるおそれのあるものについては、特に慎重を期する。
 放送法

 第一章の二 放送番組の編集等に関する通則

(放送番組編集の自由)
第三条  放送番組は、法律に定める権限に基く場合でなければ、何人からも干渉され、又は規律されることがない。

(国内放送の放送番組の編集等)
第三条の二  放送事業者は、国内放送の放送番組の編集に当たつては、次の各号の定めるところによらなければならない。
一 公安及び善良な風俗を害しないこと。
二 政治的に公平であること。
三 報道は事実をまげないですること。
四 意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること。

 テレビは誰のものか?…と聞かれれば、NHKは「私らと政府与党のもの」と言うだろうし、民放各社は「私らとスポンサー企業のもの」と言うだろう。無論これらは本音の話であり、民放などは「スポンサーは神様です」とまで言う筈だ(地方局の場合は政治屋が資本に参加している場合が多いそうで、「政治屋+スポンサー+キー局」ということになる)。
 法を見れば、NHKも民放も公平中立な放送をすることになっているのだから、どこに違いがあるのか、と問われ、そこで議論が止まるような番組をやっていて、何の意味があるのだろうかと思う。民放は「スポンサー企業の意向=電通」を無視できない、NHKは予算や人事を握られている「政府与党=政治屋」の意向を恭しく忖度、察知、実行しなければならない、と発言すれば、昨今のメディア業界の傾向からすれば、双方から告訴されるという可能性もないとはいえず、というメディア・リテラシーの一つの学習にはなる?

 しかし、事情はどうであれ、ほんとに「テレビは誰のものか?」と問うのであれば、それらの現実を語らずして何を語れと言うのだろうか。
 伊丹十三氏が言った「テレビは”バーチャル世の中”」というのも、こういう実情を言ったものだ。

 昨夜、NHKのニュースで興味深いものが一つあった。これは、一つにはニュース自体、もう一つには民放が全く報じないという意味で。情報元は国民生活センターの調査結果というのだから、当然民放各社にもその情報は入っている筈。

 多重債務者 4割がTVCMで [NHK] 2006.05.04



 複数の消費者金融などから借金をしているいわゆる多重債務者のおよそ40%が、テレビのコマーシャルがきっかけで借金をしていたことが、国民生活センターの調査でわかりました。
 調査は、多重債務を抱えている全国の男女585人を対象に、去年11月から12月にかけて行われました。このなかで、消費者金融などから金を借りたきっかけについて聞いたところ、「テレビコマーシャルを見たこと」が39.8%と最も多く、次いで「新聞の広告・折り込み広告」が36.2%、町なかにある「看板」が24.6%でした。また、世代別では、20代の65.9%、30代の53.4%が、借金のきっかけとして「テレビのコマーシャル」をあげ、若い世代にテレビのコマーシャルが大きな影響を与えていることがわかりました。テレビコマーシャルについて、消費者金融の大手7社は、社会的に問題になっているいわゆる「グレーゾーン金利」への批判の高まりなどを受けて、先月から朝の7時から9時までと、夜の5時から10時までの放送を自粛しています。全国クレジット・サラ金被害者連絡協議会の本多良男事務局長は、「消費者金融のコマーシャルは、いったん借りると次々と借金がふくらんでいく高い金利の危険性を知らせず、見た人はよい会社だと思って気楽に借りてしまう。これを機会にすべての会社がコマーシャルをやめるべきではないか」と話しています。

 VIDEO
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 それにしても、数日間テレビは共謀罪のキの字もやらない。
 テレビはCM料金の収入で運営されているのだから、また国からの許認可制の免許で営業が可能になっているのだから、視聴者のためのジャーナリズムとか何とかを要求するのはお門違い、というメディアの人間もいる。しかし、それは違う。企業がテレビに高い金額でCMを出すのは、テレビのジャーナリズム性も含めた信用性にあるのは確かだし、テレビはそのジャーナリズム性を事あるごとに宣伝、主張している。また、企業のCM支出は商品の価格に当然反映される(含まれる)。
 また免許についても、公平中立な「ジャーナリズム」の実行をテレビ局が否定するのであれば、当然おりることはない。従って、テレビ局の「ジャーナリズム」行為の否定は、一般企業の商品でいえば欠陥商品、虚偽商品ということになる。

 参考:

 「週刊エコノミー」 2005.03.29

 許認可産業の「甘え」
 テレビのビジネスモデルはインターネットに勝てない

 河本久廣(こうもとひさひろ) (メディア・コンサルタント)

 高コスト、頭打ちの広告収入、重いデジタル投資──。三重苦が今、テレビ界を襲っている。

 民放テレビ局の売上高合計は放送産業全体の6割に当たる約2兆円。
 その知名度や影響力に比して、産業としての規模は意外に小さい。さらに、127局で構成されている民放テレビの産業構造はいびつだ。キー局と呼ばれる在京5局に2兆円の70%が集中するうえ、関西・中京地区を加えた15局に90%近い売り上げが集中し、残りの10%にローカル局112局がひしめきあっている。
 その要因は、許認可産業という放送業の特殊性にある。東名阪の3大広域圏以外の免許エリアは県単位なので、地域経済レベルに民放局の売上高は規定されてしまう。しかし、免許制による高い参入障壁に守られた非競争市場が、民放局に高収益というメリットをもたらす。35歳で年収1500万円というフジテレビジョンを筆頭に、ローカル局でもかなりの高給与を支給できているのは許認可産業の特典ゆえだ。



 半面、もたれあいという「甘え」を生みだしやすいこともまた事実。その最たるものがローカル局のキー局依存だ。経営的には制作費という出費を極力抑えて、キー局からの番組を流す装置に徹した方が効率的だし、現実に求められるのも全国テレビネットワークの一員としての役割である。かくして「自主番組の制作局<全国ネットの中継局」という方式が、日本のローカルテレビ局の基本事業戦略となっていくのである。





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2 コメント

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仰る通りで・・・・。 (ゆりかりん)
2006-05-10 19:40:12
もう既に日本のあらゆる企業は、テレビCMに対する誇大妄想・・・というか、費用対効果を期待していません。

なぜなら、「『商品決定要因』=『購買の動機付け』は、テレビCMにはなく、店頭に有るのだ」ということが証明されて久しいからです。

確かに、テレビCMは、消費者の当該企業へのイメージ定着→認知度貢献→信頼感向上等に関しては、いまだそれなりに高いポイントを示していますが、直接的『購買率のアップ』=『売り上げアップ』には結びついてこないことが分かっています。消費者が商品の購入時にその商品をセレクトする動機にはなり得ないんです。

したがって、最近では、企業の業績をアップする戦術は、(従来の莫大な費用ばかりかかって売り上げに貢献しない)テレビCMから(低予算で多大な売り上げ向上に結びつく)セールスプロモーションへと移行しつつあります。

そういうわけなので、各テレビ業界や電通などは、これまでのようにテレビCMで収益を上げることに限界を感じ始め、いろんなチャレンジを模索し始めています。



我々のように、既にテレビCMをはじめとするマスコミから流れ出す各報道に左右されることのないマイノリティも然ることながら、その他の一般市民の視点においても、徐々にそれらの作り物情報に100%行動を左右されない傾向が見えてきています。

(といっても、その動きは遅々としてはいますが・・・)
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ままならぬ世の中? (雑木帖@管理人)
2006-05-11 21:15:40
そういえば、トヨタの高級車レクサスが売りに出されて、その広告などのお陰か、ベンツやBMWなどの高級車の販売が30%だとか2ケタだとかの伸び率になったとか。しかし、レクサス自身はあまり売れていないのだとか。

車そのもののアピールより、高級なシチュエーションのほうを前面に出しているレクサスのCM自体にも問題があるのかもしれないけれど、マインドが刺激されても、選ぶという行為はまた別というよい例なのかも。



セールスプロモーションへとはちょっと違う話だけど、「売る」という場では次のような要件もあるみたいです。



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「プロパガンダ─―広告・政治宣伝のからくりを見抜く」アンソニー・プラトカニス&エリオット・アロンソン 共著(1998年刊)より



 現代のプロパガンダについて、プロの説得者が学んだ事実が5つある。



●広告に「新しい」「素早い」「やさしい」「向上した」「いま」「突然」「驚くべき」「発表する」が含まれていると、その商品がよく売れる。

●スーパーマーケットでは、お客の目の高さの棚に並べられた商品が最もよく売れる(実際、ある研究で、目の高さにある商品に比べると、腰の高さにある商品は74%、床に近い商品は57%しか売れないことが明らかになっている)。

●漫画のキャラクターや歴史上の人物よりも、動物、赤ん坊、セックスアピールを用いた広告のほうが、商品がよく売れる。

●スーパーマーケットでは、通路の端やレジの近くに置かれた商品がよく売れる。

●バンドル・プライシング──たとえば、1個500円の品を2個1000円にする──は、客にとっての商品「価値」を高める。

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ともあれ、テレビは今のままでは視聴者からだけでなく、スポンサーからも距離をおかれるようになってゆく、ということになるのでしょうか。

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