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共謀罪の新聞記事

2006-05-02 19:15:32 | 政治/社会
『共謀罪』 与党修正案を検証する (東京新聞 2006.05.02)
 昨年十月の衆院法務委などで、柴山昌彦委員(自民)などからも集中砲火を浴びた「中止犯」の問題も放置されている。中止犯は「犯罪を思いついても思いとどまった人には刑を減免しなければならない」という刑法四三条の規定だ。「共謀後に『やめよう』と言っても共謀罪になってしまうではないか。あいまいだ」と矛盾をつく柴山氏に、法務省は「予備罪や準備罪にも中止規定は適用されない」と答弁したが、法律家らは「殺人・強盗などが対象の予備罪と、都市計画法や道路交通法まで対象の共謀罪を同一に語るのは、むちゃくちゃな話」と批判する。「誰でもいけないことを思ったり口に出すが、中止犯という“黄金の橋”があるから実行せずに戻ってくる。橋をはずしてしまってよいのか」(日弁連)とも。

社説: 共謀罪 乱用の余地を1点も残すな (愛媛新聞 2006.05.02)
 相次ぐ市民活動家らの微罪逮捕を見ると、市民団体や労働組合が狙い撃ちされかねないと危(き)惧(ぐ)するのはもっともだ。実際、民主党によれば、米国では犯罪行為に無罪判決が出てもあらためて共謀罪で検挙する手法で、イラク戦争への抗議行動などが取り締まられてきたという。
 私たちは改正案を撤回して抜本修正するべきだと主張してきた。テロや組織犯罪を未然に防ぐ重要性は理解するにしても、乱用の余地を残せば、歯止めなく思想弾圧へ暴走した治安維持法のように内心が圧迫されて思想や表現の自由は委縮し、社会が窒息してしまうからだ。
 改正案で対象となるのは懲役・禁固四年を超える六百種類以上の犯罪だ。公選法や職業安定法違反も含まれる。一方、未遂罪より前段階の予備罪とちがって、準備行為がなくても成立する。適用も国際的犯罪組織に限定していない。いずれも条約の要請を逸脱する疑いが強い。

・共謀罪 3度目の国会提出 (東京新聞 2005.10.08)
 そうした法律の独り歩きは共謀罪に限らない。「〇一年の米中枢同時テロの後には、テロリストを対象として愛国者法(反テロ法)ができ、盗聴も裁判所の許可なくできるようになった。しかし、このテロリストの定義も拡大してきた。現在は動物愛護や伐採反対の団体に対し、政府は動物の権利テロ、エコテロリズムなどというレッテルを張り、愛国者法による捜査を実施している」


 追記。
 AML(オルタナティブ運動メーリングリスト)で、2日夜8時過ぎ次のような投稿があった。

【長崎】地元マスコミ関係者による共謀罪強行採決反対の声明 (投稿者:たぬ涼)

各位

長崎でも、共謀罪について「沈黙のマスコミ報道」を破り、地元マスコミ関係者の動きがありました。

まず、長崎のテレビ、新聞社の有志31人で改正案反対・強行採決中止を求めるメールを28日に、衆院法務委員会に2回に分けて送り、次いで関係労組5団体でつくる「長崎マスコミ・文化共闘会議」でも同じメールを28日に送信したということです。また、以降も具体的行動を計画中とのこと。

文面は以下のとおりです。(「有志」、「マスコミ・文化共闘会議」とも同内容)

**************************
衆院法務委員会・石原伸晃委員長、理事、委員各位

 「共謀罪」新設を柱とする組織犯罪処罰法改正案に反対します。
 特に「共謀罪」は「現代版治安維持法」といわれるほど警察の恣意的乱用の危険性が極めて高く、ほかにも多くの問題点が指摘されています。なのに審議は不十分。国民の理解が得られているとは到底思えません。このような状況で重要なテーマを採決することは民主主義に反し、議会活動の死を意味します。28日の委員会での強行採決中止を求めます。

以上
 (追記ここまで)

 以下、記事全文。

 東京新聞 2006.05.02

 『共謀罪』 与党修正案を検証する

 「相談罪」とも呼ばれる「共謀罪」創設法案。法律違反せずとも、話し合えば逮捕できる同法案(政府原案と与党修正案)には野党、弁護士、NGO、左右の論客から「密告社会をつくる希代の悪法」との批判が強く、民主党が修正案を出した。しかし、自公両党は五月九日の衆院法務委参考人質疑ののち間を置かず、与党案を強行採決の意向だ。大詰めの法案を検証する。 (市川隆太)

 きっかけは国連の国際組織犯罪防止条約だ。法務省は同条約で義務が生じた組織犯罪対策の一環として共謀罪の新設が必要だと主張している。一方、国連での審議を見守ってきた日弁連は「国連といっても、各国の担当者は捜査機関だった。それに日本政府は当初、共謀罪は日本の法体系になじまないと反論していた」と指摘する。

 「日本の法体系」とは、どういう意味だろう。犯罪を思いついてから罪を犯すまでの流れは「共謀」(犯罪の相談。単独犯なら「決意」)→「予備」(武器などの準備)→未遂→既遂という順だが、日弁連は「日本は近代刑法にのっとり、一部の重大犯罪だけ予備段階で罰するが、残りは被害発生の場合のみ罰する法体系。共謀罪新設は近代刑法の否定だ」と指摘する。

 どんなことを話し合うと共謀罪で捕まるのか。識者の意見をもとにまとめた。

 ▼ケース1 希少生物の生息する森にマンション建設が強行されると分かり、町内会と環境保護NGOが「建設会社ロビーで座り込み運動をしよう」と決めた。この場合、合意したメンバーは実行しなくても「威力業務妨害罪」の共謀罪。

 ▼ケース2 議員選挙の陣営で「アルバイトに金を払って有権者への電話作戦を展開しよう」と決めた。実際に支払わなくても、公職選挙法の「買収罪」の共謀罪となる。

 ▼ケース3 脱税をもくろむ会社社長が顧問税理士に「経費水増しの帳簿操作をしたい」ともちかけた。税理士は、実行するつもりはなかったが、「いいですよ」と言って、その場をやり過ごした。この場合、二人とも「法人税法違反罪」の共謀罪となる。

 ▼ケース4 新商品開発会議でライバル社の売れ筋商品そっくりの品物を販売しようとの意見が出て、出席者は合意した。社長のダメ出しにより、この案はボツとなったが、それでも出席者には「商標法違反罪」の共謀罪が成立する。

 ▼ケース5 ゼネコン社長が国会議員に「来年、五千万円、持って行きます」とわいろ提供を持ちかけた。議員はクリーンな性格で、そのうち断るつもりだったが、場の雰囲気を壊したくないので「ありがとうございます」と頭を下げた。これは「収賄罪」の共謀罪となる(現行法では社長にわいろ申し込み罪が成立するだけ)。

 こうした指摘に対し、法務省は「まじめな一般市民を適用対象にすることはない。対象は暴力団、詐欺組織など」と強調してきたが、過去の国会審議で与党からも不備が指摘され、法案は二回も廃案になった。そして、今国会、与党が修正案を提出した。

 ■与党も不備指摘 過去2度の廃案

 「警察はちょっと抜けている方がいい。でないと、喫茶店でお茶飲んでるだけでしょっ引かれる」。戦中、戦後を新聞記者として生きた大学の恩師の口癖だ。治安維持法を武器に思想、言論を取り締まった特高警察の怖さを見てきた実感だろう。「銭湯の冗談も筒抜け」といわれた監視網。こんな世になるのか。 (鈴)

 与党は「一定の犯罪を行うことを共同の目的とする団体によるものに限定する」という条文により、適用対象を狭めたとする。しかし、日弁連や野党は「これでは、過去に犯罪を遂行した団体とは限らず、NGOなどにも適用可能」と批判。この意見を参考に、民主党は組織犯罪集団に限定する「犯罪実行が目的で、あらかじめ任務分担がある継続的な結合体」との表現を盛り込んだ修正案を先月二十七日、国会に提出した。

 また「共謀罪の対象となる罪が六百十九種類にも及ぶことが、一般市民の摘発につながる」との批判も強い。これは、政府原案や与党修正案が「懲役四年以上の罪」を対象罪種としたため。民主党修正案は「懲役五年超の罪」とすることで、対象罪種を約三百に絞った上、「国際的な犯罪」しか共謀罪は適用できないようにした。

 このほか、「共謀」がどの時点で成り立つのかをめぐっても、野党や法律家から「あいまいで意図的な運用が行われる危険がある」との指摘が出ている。犯罪をもちかけられた時に、「うん、やろう」と具体的に答えなくとも、捜査当局や裁判所が共謀と見なすのではないか、との不安だ。

 昨年十月の衆院法務委で、保坂展人委員(社民)から「言語なし、目くばせでも共謀罪は成立するのか」と問われた法務省は「目くばせでも十分、成立する場合はある」と認めた。

 「そうであれば、本当は犯罪に反対だけど、場の雰囲気で一応、賛成のふりをした人まで共謀罪になるのか」というのが法律家などの指摘だ。「気が弱くて、つい、うなずいてしまった人も逮捕されるのか」という疑問も出されている。

 こうしたことから、与党修正案は「合意」だけでなく「犯罪の実行に資する行為」を適用条件とした。しかし、さまざまなNGOなどから「資する、では寄付した市民や『頑張ってね』と激励した人まで含まれてしまうのではないか」との強い懸念が出ており、日弁連も「歯止めにならない」と話す。

 政府原案では共謀に参加しても、捜査当局に自首した者は刑が減免されることになっているため、「戦時中のような密告社会に逆戻りする」との不安も指摘されている。日弁連は「この点は、与党修正案でも削除されなかった。わざと共謀に加わって自首し、相手を陥れることも可能になる」と批判する。

 ■「中止犯」の問題 放置されたまま

 昨年十月の衆院法務委などで、柴山昌彦委員(自民)などからも集中砲火を浴びた「中止犯」の問題も放置されている。中止犯は「犯罪を思いついても思いとどまった人には刑を減免しなければならない」という刑法四三条の規定だ。「共謀後に『やめよう』と言っても共謀罪になってしまうではないか。あいまいだ」と矛盾をつく柴山氏に、法務省は「予備罪や準備罪にも中止規定は適用されない」と答弁したが、法律家らは「殺人・強盗などが対象の予備罪と、都市計画法や道路交通法まで対象の共謀罪を同一に語るのは、むちゃくちゃな話」と批判する。「誰でもいけないことを思ったり口に出すが、中止犯という“黄金の橋”があるから実行せずに戻ってくる。橋をはずしてしまってよいのか」(日弁連)とも。

 この問題に詳しい弁護士らは共謀罪を施行済みの米国の事例を危惧(きぐ)する。「イラク戦争に抗議して、兵士募集ポスターに自分たちの血を塗るパフォーマンスを行ったキリスト教徒らが器物損壊容疑で逮捕され無罪となったが、次に、共謀容疑にあたるとして逮捕された」

 一連の状況を見て、ジャーナリストの櫻井よしこ氏も言う。「共謀罪は暗黒社会の到来を意味する。住基ネットと合わせて、権力者が市民を監視する独裁国家になる。一体、誰が何の目的でこんな悪法を通そうとしているのか。市民の自由を守るため、思想信条の違いを超えて、共謀罪成立を阻止しなければならない」

 愛媛新聞 社説 2006.05.02

 共謀罪 乱用の余地を1点も残すな

 共謀罪の新設を盛り込んだ組織犯罪処罰法などの改正案が今国会で再び審議されている。
 麻薬取引やテロといった国際犯罪に対応する国連の条約に基づいた国内法整備だ。犯罪を実際に行わなくても話し合っただけで処罰できるようになる。
 だが、どんな団体に適用されるかはあいまいで、該当する犯罪も広範だ。捜査当局の裁量で拡大解釈され、恣意(しい)的に運用されるおそれがつきまとう。
 これまで二度廃案になり、昨秋の特別国会でも継続審議となった重みをかみしめたい。
 相次ぐ市民活動家らの微罪逮捕を見ると、市民団体や労働組合が狙い撃ちされかねないと危(き)惧(ぐ)するのはもっともだ。実際、民主党によれば、米国では犯罪行為に無罪判決が出てもあらためて共謀罪で検挙する手法で、イラク戦争への抗議行動などが取り締まられてきたという。
 私たちは改正案を撤回して抜本修正するべきだと主張してきた。テロや組織犯罪を未然に防ぐ重要性は理解するにしても、乱用の余地を残せば、歯止めなく思想弾圧へ暴走した治安維持法のように内心が圧迫されて思想や表現の自由は委縮し、社会が窒息してしまうからだ。
 改正案で対象となるのは懲役・禁固四年を超える六百種類以上の犯罪だ。公選法や職業安定法違反も含まれる。一方、未遂罪より前段階の予備罪とちがって、準備行為がなくても成立する。適用も国際的犯罪組織に限定していない。いずれも条約の要請を逸脱する疑いが強い。
 準備行為を要件としなければ謀議だけでどう立証するのか。政府案にある通報者の罪の減免規定を口実におとり捜査に走るかもしれない。盗聴拡大や自白偏重に陥る可能性も否めない。
 同時提出されている刑事訴訟法改正案では証拠としてメールの内容を保全するほか、一つのパソコンの差し押さえ令状によって、接続された他人のパソコンのデータも押収できるようになる。通信の秘密などにかかわり、これも問題が多い。
 与党は修正案を提出し「共同の目的が罪を実行することにある団体」と定義、要件にも「犯罪の実行に資する行為」を加えた。が、あいまいさは消えず、日弁連は「多くの問題点は是正されていない」と指摘する。
 一方、民主党は対案で、適用を「国境を越えた組織犯罪集団」に限定した。対象も懲役・禁固五年超に絞り込んだ。これで適用罪名は半減するという。
 与党案より踏み込んだのは確かだが、近年の厳罰化の流れからすれば、対象が必然的に拡大するのは目に見えている。
 与党は四月二十八日に想定していた衆院法務委員会での採決を、民主党の反発もあって見送った。九日に参考人質疑をするが、なおその日のうちの採決を念頭に置いているようだ。
 これはおかしい。問題点を掘り下げるには拙速で、単なる実績づくりかと疑われかねない。
 与野党はこぞって合意できるものとなるよう時間をかけて練り直すべきだ。乱用の余地を一点たりとも残してはならない。

 東京新聞 2005.10.08

 共謀罪 3度目の国会提出

 実際に罪を犯していなくても、話し合っただけで罪に問われる「共謀罪」。衆院解散で廃案となったこの「共謀罪」を盛り込んだ組織犯罪処罰法などの改正案が、今国会に提出された。3度目の提出だが、衆院で圧倒的多数を占める与党は、その余勢を駆って今回こそは、と法案成立を狙う。米国では「共謀罪」の乱発が問題になっているともいう。その実態は-。

 先月二十六日、米国はニューヨーク州のビンガムトン地裁。「本件起訴の罪状のうち、共謀罪は適用されない」。判事のこの判断に被告、弁護側は沸いた。

 連邦政府・司法当局から訴えられていたのは「カトリック労働者運動」の反戦活動家四人。四人はイラク戦争直前の二〇〇三年三月十七日、同州内の徴兵センターのロビーで壁や星条旗に自分たちの血液をまき、戦争反対を訴えた。

 被告らは「劣化ウランなどにさらされる戦場とかけ離れたセンターの宣伝に対し、血によって戦争の現実を訴えたかった」と動機を語った。だが、司法当局は四人を不法侵入、器物損壊、さらにその双方の共謀罪で起訴していた。

 米誌によると、反戦活動家に共謀罪が適用されたのはベトナム反戦運動以来。問題は共謀罪を除けば最高刑で懲役十八月だが、共謀罪が認められれば、懲役六年と量刑が一気にはね上がる点だった。最終判決は来年一月に言い渡されるが、今回の地裁の判断で重罪は免れた形だ。

 ■マーサさんも禁固5月判決

 しかし、米国では共謀罪の適用は珍しくない。カリスマ主婦で一世を風靡(ふうび)し、その後、株式のインサイダー取引に絡み、昨年、実刑判決を受けたマーサ・スチュワートさんも適用を受けた。マーサさんは当初、偽証罪で逮捕されたが、再逮捕の容疑と起訴の罪状は虚偽供述罪、司法妨害罪とその二件の共謀罪に証券詐欺罪。うち四件で有罪となり、禁固五月の判決を受けた。

 このほかにも、先月二十八日に起訴された共和党院内総務(辞任)のディレイ氏にも政治資金違法流用罪とその共謀罪を適用。〇一年に経営破たんした米エネルギー大手エンロン社の不正会計事件、人気歌手マイケル・ジャクソンさんの性的虐待事件、日本人医師に嫌疑が掛けられた遺伝子スパイ事件、アブグレイブ刑務所のイラク人虐待事件、さらにはクリントン前大統領の弾劾でも司法妨害の共謀罪が問われた。

 先月、米国シカゴで司法の実情を視察した山下幸夫弁護士は「米国では日常的に行使されている。共謀罪をセットで適用させることで、刑を重くすることが狙いだ」と指摘する。

 米国の共謀罪について、関東学院大法学部の足立昌勝教授(刑事法学)は「話し合っただけではなく、何らかの行為(顕示行為)が伴う場合、適用される。しかし、それは何らかの行為であって、犯罪行為そのものではない」と説明する。

 米国では、この刑法の共謀罪とは別に、盗聴などもできるリコ(RICO)法という特別法の共謀罪もある。こちらは「組織犯罪にしか適用しない」と、日本の法務省が説明しているのと同様に、当初、マフィアの組織犯罪のみに、と導入された。

 弁護士らでつくる米国の人権擁護団体「憲法上の権利センター」代表マイケル・ラトナー氏は問題点を次のように語る。

 「RICO法の導入時点では、誰もが組織犯罪の摘発のみのためと考えていたが、実際には他の犯罪、人権運動の街頭行動などについても適用されていった」

 なぜ、そうなったのか。この点をラトナー氏は「法律というものは中立な形で書かれているため、政府は導入時点でこう言ったと反論しても、できてしまえばなし崩しに使われてしまうのが実情だ」と説明する。

 ■愛国者法ではテロ拡大解釈

 そうした法律の独り歩きは共謀罪に限らない。「〇一年の米中枢同時テロの後には、テロリストを対象として愛国者法(反テロ法)ができ、盗聴も裁判所の許可なくできるようになった。しかし、このテロリストの定義も拡大してきた。現在は動物愛護や伐採反対の団体に対し、政府は動物の権利テロ、エコテロリズムなどというレッテルを張り、愛国者法による捜査を実施している」

 日本では共謀罪の導入は先の通常国会を含めて、二回廃案になったが、政府は廃案になった法案をそのまま再提出。一部修正を行うことで、成立させようとの動きも出ている。

 一方、四日には共謀罪導入に反対する日本弁護士連合会(日弁連)主催の国会院内集会も開かれた。参加した野党議員たちは「今回の特別国会の会期は異例に長い四十二日間。与党の“数の暴力”で可決されかねない」「一九九〇年代後半から立て続けに成立した盗聴法、住民基本台帳法改正、個人情報保護法、有事立法などの延長線上にある現代の治安維持法」などと口々に懸念を漏らした。

 共謀罪新設への流れには、消費者団体などの市民団体も危機感を募らせる。

 日本消費者連盟事務局の吉村英二氏は「たとえば、ある企業が販売した商品に問題があり、本社前で抗議のため街頭活動やビラ配りをしても、威力業務妨害の共謀罪に問われかねない。威力業務妨害罪の範囲は必ずしも明確ではないが、共謀罪は実際に犯罪を行っていなくても、犯罪について話し合っただけで摘発対象になるため、消費者問題について話し合うこともできない。つまり、活動できないということだ」と指摘。

 ■摘発だけでも人生の致命傷

 そのうえで「一般の人にとって怖いのは摘発されることだ。起訴されるかどうかは関係ない。一度でも摘発されれば、その団体は危ないという烙印(らくいん)を押され、個人ならば、その人の人生に致命傷となる。六百もの犯罪が対象で、それについて話をしたことがないという人は恐らく一人もいないはず。誰でも何らかの犯罪に問われるということだ」と話す。

 米国の事情から日本が学ぶべきことは何か。前出の足立教授は「日本も米国と同じ状況になるだろう」と予測する。「RICO法はマフィア対策で導入されたが、実際に摘発されているのは公務員が圧倒的に多く、拡大解釈が横行している。日本でも政府関係者は、適用対象は暴力団などによる国際的な組織犯罪と答弁、運用の問題だから警察を信用してくれ、と言っているが、本当に信用できるのか、と言いたい」

 院内集会に出席した日弁連副会長の中村順英弁護士は、共謀罪を殺虫剤に例えて「ゴキブリがまったくいない空間には(人体に影響の出るような)かなり強力な殺虫剤がまかれている。そうした社会をわれわれは選ぶべきなのか」と、警鐘を鳴らしている。


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