**馬耳東風**

エッセイ・世相・世論・オカルト
  アメリカ・中国問題・
    過去・現在・未来

世界はどう見ている、中国・・・(アメリカを追い越すか、後退か)

2016-02-05 | 世事諸々
中国の中東への参入はさながら干潟に潮が満ちて来るようだった、とドバイ商業省サリ参事官は2003年当時を振り返って質問者に答えています。ひたひたと素早く、、気が付けば膝頭まで水に浸っていた感じで、いつの間にか身辺に中国製品が溢れていたということです。今身に着けている衣類を含め、履物、寝具、鍋フライパン、キッチン用具、電気洗濯機、物干しロープ、文具から、健康器機、加工食品、テレビ、オーディオ、通信機器に至るまで中国製品で、かってはよく目にした日本製品などどこへいったものか、もう見当たらないとのことです。

中東は産油国で高所得者の多い国々でありながら、中国製品は安価で歓迎されているのです。品質も良くあらゆるものが揃っていて、品数も豊富で、今では生活に不可欠なものとなっているとのことです。ノスタルジーもあってか、中東の人々には愛着ひとしおの砂漠用(高級)大型テントがレジャー用に求められていますが(地中海人がヨットを持つように流行している)それも今では8割が中国製だといいます。

ドバイはアラブ首長国の一つで、近年の経済発展と砂漠の中に築いた近未来型都市で世界の注目を集めています。埼玉県ほどの面積に、2005年現在人口百二十万人程が住んでいるのですが、その10年前の1995年度の人口統計は68万人だったということで、経済発展に比例して人口は倍増しているのです。(2014年の人口は220万人、中国からの移民も増えている)

ドバイを空から見ると、湾に向かって長く首を伸ばした爬虫類のシルエットが見えます。世界最大の商業施設、ドラゴンマートです。長さ1.2キロ、広さは15万㎡、中国製品のために作られた巨大な交易市場なのです。それまで中東やアフリカから年間20万人を越えるバイヤー達が中国製品を求めて16時間以上も飛行機を乗り継ぎ、中国東部の義烏市にある中国最大の卸市場に集まって来ていたのですが、今ではドラゴンマートがその全てを肩代わりしてくれるのです。距離の遠さもさりながら、中国での取引は通訳を介して行われ苦労が絶えなかったのだそうです。

「その点このドラゴンマートでは通訳は不要です。英語かアラビア語がここの主要言語だからです。アフリカのどの国の人も商人ならたいていアラビア語が流暢に話せます(ここでは中国人も話せる)、距離もアフリカのどこからでも苦にならないものです」

ドラゴンマートの中には4千数百店舗が軒を連ね、三万人以上の中国人が働き、中国で出来た全ての製品を売っているのです。ライターからサングラス、アクセサリー、コーランや聖書用スタンド、家具類、医療機器、携帯電話、テレビや白もの電化製品、衣類からテント、レジャーボートからハイテクの工業製品に至るまで買えないものはないということです。ドラゴンマートに隣接して巨大倉庫群が港に向かって並んでいて、受注品をどの国に向けても短時間で発送出来る物流拠点になっているのです。

ドバイは今では観光地としてもよく知られています。沿岸から280m離れたところに人工島を作り、ドバイの象徴とも言える、世界一贅沢な七星ホテル、一泊最低15万円ともいわれるホテル、ブルジュ・アル・アラブ〔高さ310m〕が聳え立っています。船の帆を模したガラス張りの煌めく優美な姿は、テレビなどでもしばしば紹介されているので誰でも目にしたことがありそうです。建設当初はイギリスやアメリカ、それにアラブの国々の富豪が最大の顧客だったそうですが、2008年のリーマンショック以降、これらの客層が減り、代わって中国人富裕層が増え続け、今では年間宿泊数の3割に達する常連になっているそうです。ドバイでの中国人の存在感は大きく「中国のお客様が最も重要な顧客となっています。つい先頃も、中国人御一行様が50室予約されました」と、ホテルの新任マネージャーが誇らしげに電話インタビューに答えていたそうです。

2011年3月、イギリスのオックスフォード大学で中国・アフリカ会議が開催されました。その場所の選定には疑問もあったようですが、中国の急激なアフリカ進出に対する欧米の暗黙の批判が高まっていた折りなので、その正当性を述べるためあえてヨーロッパの一中心地のオックスフォード大学講堂を選んだものと思われています。

会議は中国によるパネルディスカッションで、イギリスをはじめフランス、ドイツ、スペイン、ポルトガル・・と旧植民地宗主国の政府関係者やジャーナリストが多数招聘されたそうです。

中国のパネリストは外交部のスポークスマンでもあった秦剛で、彼は中国のアフリカ進出がいかに途上国の発展に寄与するものであったか、中国も勿論潤ったがアフリカの多くの国々では貧困と騒乱が長年続き、疲弊していた、資本主義国のどの国も、誰も投資も金融もアフリカに向けて行うものはなく、中国としても大きなリスクを承知で・・・と論評していたのですが、長い演説の要点は二つで:
「アフリカ最大の問題は各国が自力では発展できない。中国の投資と金融、インフラの構築があって初めて行動し自立できた」
「中国がアフリカで成功した理由は、我々が決して外国の(人権問題)などに介入しなかったから」
というものでした。が、中国の内政不干渉政策は不変であると強調しながら、その国の国民をないがしろにしている強欲な独裁者に対しても不干渉というのは人道主義の片鱗もない汚い実利主義で、秦剛の演説はその事実を糊塗するものと、厳しい反論もあったようです。世界中の非難を浴びている独裁国家ばかりを狙って進出しているかに見える中国のやり方は、中国の本質を改めて思い知らされる、と西側からの批判は辛辣でした。

最後に手を挙げたポルトガル人のアナ・マリア・ゴメスのスピーチはその核心を突くものだった、と紹介されています。
「途上国に於ける開発というものは、グッド・ガバナンス、人権尊重、法の支配なくしては実現できません。強欲な現地エリートの権力者と利権でもたれあい、独裁を維持、長続きさせている中国の責任は大きい」
といい「被援助国の一部エリートだけが一層豊かになり国民は益々困窮している・・・」と続けていました。
秦剛は反論しなかったようですが、(それが資本主義というものだろう)と嘯いていたかも知れません。一方が豊かになれば他方は貧窮する・・・(アメリカでも日本でも、ヨーロッパでも、そうではないと誰に言えるか)と無言の反論をしていたかも知れません。

会議の終盤に立った中国側の講演者は年配の紳士で始終穏和な表情を浮かべて中国の善意と真摯な対応を簡潔にのべ、その結論に:
「今日の中国は欧米社会に代わる別の、新しい選択肢を提供していると言えます。もしかすると西側のものより我々の方がすぐれているかも知れないのです」

長いアメリカ駐在経験もある李国富という外交官でした。かねてより、アメリカ民主主義の批判者で、アメリカ国内でも他国より、よい政治が行われているとは言えない、と批判しているのです。「どの州のどの街のどのマクドナルドの店の周辺にもホームレスが物乞いし、たむろしている姿がみられます。これがよい治世と言えるでしょうか。人民は自由で抑圧されてはいないかも知れませんが、”尊厳”を失っているのです」と演説を締めくくっていたのです。

アメリカの大手世論調査機関、ビュー・リサーチ・センターが昨年、「世界で求心力を増す中国」 と言うテーマで世界の主要40カ国でアンケート調査をしていますが、その設問の一つは〔遠からず中国はアメリカを追い越す〕というもので、その正否を問うものでした。追い越すという意味合いは、経済、軍事、国際的影響力などで、総合的国力と解釈できるものとおもわれます。

結果は日本人には驚くべきものでした。YES,と答えた国はヨーロッパ主要10カ国全てで、それもフランスの66%がYESで34%がNOといった大差で中国の覇権の拡張、アメリカの衰退を予測しているのです。世界主要国のYESの比率が高い回答例は以下の通りです。
           YES   NO
フランス       66%  34%
スペイン       60   34
イギリス       59   35
ドイツ        59   37
イタリア       57   36
イスラエル      56   34
トルコ        46   33
オーストラリア    66   40
韓国         59   40
中国         67   27

これは何を意味するのでしょう、近年のアメリカの世界紛争地からの全面撤退、自国問題最優先とする国民の意思の表れ、などで世界の見る目が変わったのです。アメリカがアジアから撤退することもありうる、中国に覇権を譲る事もなしとは言えないと、わずかながら、日本人の根底にあったアメリカへの信頼感を揺るがせるものだったのです。

NOの比率が高いのは調査40カ国中アメリカと日本のほかでは、ベトナム、インドネシア、フイリッピン、ブラジル、ウガンダに過ぎず、インド、マレーシアなどは(その他の多くも)37・33といった僅差だったのです。

この調査でNOと答えた国々は、日本を含めて中国に何らかの軋轢と偏見があり、中国の世界の中での急激な覇権の拡大を好感していないということでしょう。偏見が事実を直視する妨げになっているともいえるようです。日本人の思いとは裏腹に、世界の大勢は中国が経済でも世界に向けた影響力でも日本をとうに凌駕していて、アメリカさえも越えて行く勢いがあると見ている、ということです。

この6月に行われた中国主催のAIIB(アジア・インフラ投資銀行)結成に世界の57カ国が参加を表明して、中国の北京に集まり、契約書類に署名をした事実が上の調査結果に符合し裏付けられているかに思われます。日本も同調はしないまでも、事実は受け止め、中国を(その力を)正当に評価する必要はありそうです。


コメントを投稿