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熟年オジサンの映画・観劇・読書の感想です。タイトルは『イヴの総て』のミュージカル化『アプローズ』の中の挿入歌です。

私はだれでしょう

2007-02-02 | 演劇
敗戦直後、昭和21年から22年にかけての日本放送協会・東京放送会館(内幸町)の2階、ベニヤ板で仕切られた一室が舞台である。建物はGHQに接収され、放送も下部組織のCIE(民間情報教育局)という検閲機関によって監督されている。
この狭い一室は、戦争で離れ離れになった人びとの唯一の拠り所となっっていた、聴取率90%のラジオ番組『尋ね人』のスタッフ(浅野ゆう子、梅沢昌代、前田亜季)ルームである。
この部屋には、他にも放送用語調査室主任(大鷹明良)が同居していて、GHQに放送禁止の烙印を捺されないように、アナウンス原稿を自主校閲している。
また、CIEのラジオ班主任だが職員たちには協力的な日系2世の将校(佐々木蔵之介)と、マッカサーの肝いりで出来た従業員組合の書記(北村有起哉)が出入りしている。

そしてある日、玉砕の島サイパンから奇跡的に生還した「山田太郎」と名乗る青年(川平慈英)がこの部屋を訪れる。彼はラジオの『尋ね人』で探して欲しい人がいて、それは自分だと言う。「私はだれでしょう?」
彼は記憶を失くしていたのだ。彼の自分探しの過程で思い出す記憶の断片が、色々な特殊技能や才能を発揮するエピソードとして徐々に明らかになってゆくが、芸達者な川平慈英の明るいキャラクターで、ミュージカルでのショー場面と同様の効果で、大いに楽しませてくれる。♪勘太郎月夜唄♪を歌いながらのタップダンスは見事だ。

GHQのコードで広島・長崎関連の『尋ね人』は取り上げられなかったことを、私たち観客は重い現実として知ることになる。原爆を投下した当事者の不利益になるからだ。
タブーだった多くの「広島・長崎の声」の封印を解いたのは、『尋ね人』の企画者でリーダーでもある元アナウンサー川北京子(浅野ゆう子)だが、それが原因でGHQに連行されて勾留されてしまう。
「私たちには 未だ伝えなければならないことがある」という使命感溢れる彼女の言葉は、確実に国営放送局の危うさを抱えた現在のNHKに向けて発せられているのが解る。

例によって、歌入りの音楽劇(ピアノ演奏=朴勝哲)の楽しさがいっぱいだが。そのなかでもオープニングの♪耳♪♪ミミ♪(作曲=リチャード・ロジャース)から、♪シャワー・ソング♪♪ステーキ・ソング♪『ひょっこりひょうたん島』の挿入歌♪オレ台所が大好きさ♪(作曲=宇野誠一郎)から劇中歌として使用されており、相変わらず選曲と語呂合わせの妙は流石である。

いつも通り、「楽しくてためになるお芝居」には違いないが、15分の休憩を入れて3時間20分の上演時間を、せめてあと20~30分短縮していただければ有難いのだけれど…。
(2007-2-1、紀伊國屋サザンシアターにて、butler)


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4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
やはり井上ひさしの脚本は凄いです! (ぴかちゅう)
2007-02-11 03:13:07
井上芳雄くんとの握手現場を目撃されてしまったのはきっと私です。背の低いポテッとしていたおばさんです。いや、お恥ずかしい(^^ゞ心臓に毛が生えてるって言われることもありますが、人なつっこいといい方に見てやってくださいませm(_ _)m
2/1の本格感想が書けたのでTBさせていただきました。あきれられるほど長くなってしまって恐縮の極みです。
真面目で重たい話をこんなに楽しく面白く見せてしまうというところに敬意を表します。歌があるからいいと私も思います。「薮原検校」で蜷川さんがまた演出してくれるし、やはり脚本のよさを広く認められているというのもさすがだと思います。
この連休も3日連続観劇と我ながらあきれる過ごし方ですが、またボチボチ書いていきますのでよろしくお願いします(^O^)/
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井上ひさし凄い! (butler)
2007-02-11 11:45:44
>ぴかちゅうさん、

70歳を越えた蜷川さんと井上さん、どちらも凄いですね。
『藪原検校』は1974年の西武劇場の再演を観ました。
財津一郎、太地喜和子、高橋長英もよかったし
木村光一の演出も当時絶賛されました。
悪の権化のダークユーモアのお話ですから
蜷川演出のお得意技でしょうね。

3連休の観劇三昧 羨まし~い!
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TB感謝 (因幡屋)
2007-02-28 00:51:39
butlerさん、TBありがとうございました。「せめてあと20~30分短縮していただければ」というご意見に同感です。また川平慈英の『勘太郎月夜唄』はもう少し彼に合ったキーで歌わせてあげたかったなと思いました。あと佐々木蔵之介のダンスが微妙にぎこちなかったのにはかえって好感を持ちました(笑)。ともあれ今の日本に生まれて井上ひさし作品を味わえることは幸運&幸福ですね。だからどうか初日には間に合わせて!と祈るばかりです。
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コメントありがとうございます (butler)
2007-02-28 13:05:09
>因幡屋さん、

井上さんほどの劇作家だと 脱稿を待って
劇場を押さえる訳にもいかないでしょうが
観客にも役者さんにも 迷惑が掛からない妥協点を
真剣に模索して欲しいものですね。
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