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熟年オジサンの映画・観劇・読書の感想です。タイトルは『イヴの総て』のミュージカル化『アプローズ』の中の挿入歌です。

歌わせたい男たち

2008-03-10 | 演劇
再演で、やっと観ることができた。
1時間50分の1幕物で、ある都立高校の卒業式が始まる2時間前の保健室だけでお話は進行する。壁に掛った時計の時刻は午前8時。無人の舞台にジュリエット・グレコが歌う♪聞かせてよ愛の言葉を♪が静かに聞こえくる。

売れないシャンソン歌手から都立高校の音楽講師に転身したミチル(戸田恵子)は、卒業式で歌う君が代の伴奏を初めてすることになるが、実はピアノは大の苦手。その上、片方のコンタクトレンズを無くしてしまうは、眩暈はするはで最悪の状態で保健室で休んでいる。
それとは知らずに保健室へ入ってきたのが校長(大谷亮介)。昨年の卒業式では、不起立で「君が代」を歌わなかった教師を3人も出し、今年は1人だけ残った反対派を説得しようと躍起で、その上、花粉症で挨拶の練習もままならない。
ただ1人の反対派が社会科教師・拝島(近藤芳正)。
ミチルは同郷でもある拝島から眼鏡を借りようとするが、君が代伴奏の手助けをするはずがない。
他に、賛成派で校長の補佐的役割の英語教師(中上雅巳)、養護教諭(小山萌子)の計5人の登場人物が、シリアスだけれど滑稽なテンヤワンヤぶりを繰り広げる。
タイトルの『歌わせたい男たち』は、校長と社会科教師の「君が代」を「歌わせたい男」と、拝島のミチルにシャンソンを「歌わせたい男」の二派に分かれる。
シャンソンが効果的に使われ、中でもオープニングの♪聴かせてよ愛の言葉を♪を受けて、最後に戸田恵子が切々と歌い胸を打つ。

永井愛の芝居の特徴は、ある状況に置かれた複数の登場人物たちを、それぞれの立場に応じて描き分ける作劇の妙だが、イデオロギーを振りかざさず、コミカルに見せる術はさすがである。
高校の屋上に翻る日章旗の横での校長の演説場面は、某元首相、某都知事、さらには、狂気の独裁者へとエスカレートし、大谷亮介が空恐ろしい名演技を見せてくれる。

結末がどうなるかは描かれないが、セリフの上でしか登場しない退職した教師像、人間の「内心の自由」と「外心の自由」の滑稽なレトリック、さらには自由とは、尊厳とは等など、さまざまな重たい問題が、保健室と言う限られた場所で、卒業式スタート午前10時のタイムリミット直前まで、徐々に浮かび上がる仕掛けは、なかなかスリリングで見ごたえ十分だ。
フランス、イタリア、ドイツ、イギリスなどのヨーロッパ諸国では、入学式・卒業式と言った「式典」が無いため、学校行事での国家斉唱はないそうだが、こんなことで裁判になったり、教師がクビになったりする日本って、いったい???
(2008-3-9、紀伊国屋ホールにて、butler)


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2 コメント

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Unknown (クワスト)
2008-03-10 23:26:23
大谷さんは自由劇場出身の方だから昔よく舞台を観劇しました。おもしろそうな作品ですね。

アメリカも入学式とかないのです。卒業式(ヨーロッパ諸国は卒業式もないのですか?卒業証書の授与とかどうなっているのでしょう)はあるけど、そこで国歌を歌うことはないと思います。ただし、スポーツの試合の前には必ず歌いますね、プロ・アマ問わず。日本では野球の試合の前に君が代とか歌いますか?

でも学校で国歌は歌わないけれど、「誓いの言葉」みたいのを毎日言うのですよ(小学生から)。合衆国に忠誠を誓う、みたいな。それもUnder Godという二文字が入っているおかげで、無信心の人(生徒の親、教師が反対することはあまりないかも)は「教育の場と宗教は分けられるべきだ」って裁判になったりするぐらいです。どこの国も同じですね。
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Pledge of Allegiance (butler)
2008-03-11 21:44:36
>クワストさん、

大谷亮介を舞台で観るのは初めてでした。巧いです!
自由劇場出身者たちは、今や舞台・映像になくてはなならない存在ですね。
『上海バンスキング』を久しぶりに観て、改めてそう思いました。

アメリカでは、国旗に忠誠を拒否した生徒が退学になったのは憲法違反だとする戦前の判例が、今でも尊重されているそうですね。
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