ようこそ劇場へ! Welcome to the Theatre!

熟年オジサンの映画・観劇・読書の感想です。タイトルは『イヴの総て』のミュージカル化『アプローズ』の中の挿入歌です。

吉原手引草

2007-08-02 | 読書
まるで芝居を観ているような感覚で、読みながら情景が浮かんで来る。
忽然と消えた名妓・葛城の周辺人物、引手茶屋のお内儀に始まり、妓楼の番頭、遣手、楼主、幇間、女衒、お大尽など17人が、一人称で語るのは、花魁葛城に関してに留まらず、吉原遊郭のシステムそのものに及び、未体験ゾーンを知る上での絶好の手引書にもなっている。
この17人の語りにインタビュアーは存在しますが、いずれも独奏であるにもかかわらず、知らず知らずの内に重奏効果を上げて、最後には完璧なハーモニーで完結する見事さだ。
しかし、ヒロインたる葛城の独奏(=真実の声)は隠されていて、最後まで彼女の心の内は「藪の中」にある。

証言者の数人によってリピートされる、「女郎の誠と卵の四角は無い」は当っているようでもあるが、葛城の誠に限れば完遂されたと言える。そこが悲しいけれども、その反面ホッとするところでもある。
判官贔屓の日本人の感性にフィットすることは間違いない、廓噺忠臣蔵である。


最新の画像もっと見る