ようこそ劇場へ! Welcome to the Theatre!

熟年オジサンの映画・観劇・読書の感想です。タイトルは『イヴの総て』のミュージカル化『アプローズ』の中の挿入歌です。

善き人のためのソナタ

2007-08-03 | 映画
ベルリンの壁崩壊の5年前、1984年の東ベルリンが舞台。
シュタージ(国家保安省)のヴィースラー大尉(ウルリッヒ・ミューエ)は、劇作家ドライマン(セバスチャン・コッホ)と、その恋人で女優のクリスタ(マルティナ・ゲデック)の監視を命じられる。留守の20分間で、彼らの住まいのアパート全ての部屋に盗聴器が仕掛けられ、24時間態勢の監視活動が始まる。
国家による国民統制の前に、個人のプライヴァシーなどあろうはずもなく、「○月△日、□時×分セックス始まる」てな具合の盗聴記録が作成され上司に報告される。
しかしヴィースラーはある日、ドライマンが権利を剥奪されて自殺した友人を偲んで弾くピアノ曲に、心を揺すぶられ盗聴をしながら涙を流す。
その曲名が♪善き人のためのソナタ♪である。僕たち観客も一緒に泣いてしまう、美しい場面である。
これがターニングポイントとなり、ヴィースラーの心に変化が生じて来る。それは忠誠を誓った国家への裏切りだが、本来の人間性の回復でもあるのだ。
ドライマンの部屋から、ブレヒト著作本を持ち出して読むのも、変化の表われのひとつで感動的だ。
監視する者も、また上層部からは監視されているという構図だが、命がけで隠さなければならない秘密が存在するので、展開はスリリングである。
1989年の壁崩壊後になって、やっとドライマンはヴィースラーが何をしたか知るが、そのさり気ない恩返しは、涙無しには見られない。

つい先日の7月22日、ヴィースラーを演じたウールリッヒ・ミューエが胃癌のため54歳の若さで亡くなった。ケヴィン・スペイシーの贅肉を削ぎ落としたような感じの、知的な雰囲気のある俳優であった。
寡黙なヴィースラーの交錯する感情を、無表情に淡々と表現したミューエが素晴らしかっただけに、その早過ぎる死が惜しまれる。合掌。


最新の画像もっと見る

3 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (hitomi)
2007-08-10 00:00:07
はじめまして。ぴかちゅうさんに教えていただきました。この映画見逃して残念です。DVDがもうでるそうです。「ブラックダイヤモンド」「ブラックブック」はよかったです。よろしくお願いします。
返信する
Unknown (hitomi)
2007-08-10 00:04:11
私も「街のあかり」「ヒロシマナガサキ」「幕末太陽傳」「NINAGAWA十二夜」観ました。TBさせてください。
返信する
はじめまして! (butler)
2007-08-11 20:54:24
>hitomiさん、

演劇、映画ともに観賞作品が結構かぶっていますね。
今後とも、どうぞ宜しくお願いいたします。
TB&コメントに感謝!
返信する