出張で札幌に出かけた。
日曜日の早朝、埼玉の自宅を出発する。
月曜の仕事をスムーズに運ぶための前泊なので、別に夕方出発してもよかったのだが、
札幌に以前住んでいたこともあり、昔を辿ってみたくなったのだ。
正午の少し前に札幌駅に到着した。
所要時間は、5時間半。
決して「遠すぎる」場所だとは思わない。
交通費を節約するため、さっぽろ駅で「共通1DAYカード」を購入する。
(ちなみにJRは「札幌」、地下鉄は「さっぽろ」と表記するのが正しい)
1,000円で地下鉄と市電、それに一定区間内のバスが乗り放題になるカードだ。
地下鉄に乗って、麻生という駅で降りる。
「あざぶ」と読みたくなるが、正式には「あさぶ」である。南北線の北端だ。
麻生は僕が住んでいた町だ。札幌市の北区にある。
駅を降り、懐かしい路地を曲がる。
幼稚園、クリーニング屋、質屋……そして、かつて僕が住んでいたワンルームマンション。
質屋の看板だけはリニューアルされていたが、すべてが相変わらずその場所に在った。
麻生から北の方向に歩き、大きくカーブを曲がった正面にJRの新琴似駅がある。
ここから大した距離ではない。
軽い郷愁に耽ったあと、歩いてみた。
それにしても、札幌の空気はとても澄んでいる。
たしかに寒いが、その冷たさが気持ちいい。
以前勤めていた先物取引の会社は、札幌駅前にあった。
今は社名変更して、支店も移転しているはずだ。
行ってみたが、日曜だったせいだろう、ビル全体が閉まっていた。
中に入ってみたかったが、ここは諦めるしかない。
このビルには、オフィスしか入っていないのだ。
宿泊先は北18条だった。
近くの飲み屋で軽く食事……のつもりが、ついつい長居になってしまった。
昔よく通っていた飲み屋は北24条にあったのだが、けっきょく行かなかった。
翌日の仕事は東札幌だった。
ここから地下鉄で新さっぽろまで行けるので、帰りは札幌からではなく、
新札幌から空港へ向かうことにした。
道内での「利用者数の多い駅ベストスリー」。
1位は札幌、2位は手稲、そして3位がこの新札幌なのだそうだ。
ちなみに札幌と同様、JRは「新札幌」、地下鉄は「新さっぽろ」と表記するのが正しい。
17時ちょうど。
ホームから、函館行きの特急「スーパー北斗18号」を見送った。
新札幌を出ると南千歳、苫小牧、登別、東室蘭、伊達紋別、洞爺、長万部、八雲、森、
五稜郭、函館の順に停車する(大沼公園は通過)。
3分後、快速エアポートに乗り、新千歳空港へと向かう。
広い大地と大らかな気風のせいか、札幌では雑踏があまり感じられない。
雪が音を吸い込むせいなのかもしれない。
雪道という事情も手伝ってか、人もクルマも急いでいる雰囲気が少ない。
たとえば今回の滞在では、エスカレーターを駆け上がる人を見ることはなかった。
列車の間隔も長いし、接続で大忙しになることもない。
首都圏で乗り継ぎが悪いとけっこうイライラするものだが、
こちらでは不思議なことに、悠然と構えていられた気がする。
そんな北海道での時の流れ方を実感しているはずなのに、
飛行機が羽田に着いた途端、飛行機の乗客全員が変貌し、
何かに追われるように思い思いの方向へと散っていく。
東京の人々は、時間との戦いを強いられる。
飛行機が羽田に到着した。
ベルト着用サインが消える前に、ベルトを外す。
次のモノレールが10分後に発車する。
間に合うだろうか。
早めにチェックインしたおかげで、出口に近い席が取れた。
しかも通路側の席を意図的に指定していたので、多少のリードがある。
臨戦態勢に入った。
どうやら、時計の針が忙しく回りはじめたようだ。