サイレント

静かな夜の時間に・・・

氷河期(4)

2006-10-14 12:46:16 | Weblog



私は首都高速を走りながら指示を出した。

私「他の地方はその地域の者に任せ・・・」
カゲ「・・・・・・」
私「こちらは首都圏に集中する」
カゲ「・・・・・・」
私「予備の軍を全て首都圏に配置」
カゲ「・・・・・・」
私「予備の龍群を二分し、この車の前方と周辺を警護」
カゲ「・・・・・・」
私「本田、青山、石橋、佐藤、泉屋、加藤、野田・・・」
カゲ「・・・・・・」
私「川崎、丹羽、西村、星野、淡口、以上を用意・・・」
カゲ「・・・・・・」
私「首都圏での新たな過去操作を阻ませろ」
カゲ「はい」

過去が操作されて塗りかえられるかどうかは、
簡単にいうと、
変えようとする力と、変えさせまいとする力の、
力関係で決まる。

私は大抵、過去を塗りかえさせない側にいる。


この世で人として生きる者が、
異世界を介して過去を操作しようとする際、
決して破ることのできないルールがある。

自分がすでに既成事実として知っていることは、
絶対に変えられない。

例えば、戦っている敵である人間を、
最初から生まれなかったことにしたいとか、
幼少時に事故死したことにしたいとか、
そういう形で消そうと思っても、
自分がこの世の人間として意識があるなら、不可能だ。
どんなに強い異能をもっていたとしても。

なぜなら、
その敵である人間が現在まで生存していることを、
既成事実として認識してしまっているからだ。

肉を持たない者であれば、
そういう敵の消し方も可能かもしれないが、
当然、そうさせまいとする守備力の抵抗にあうだろう。


過去を塗りかえようとする時空操作戦は、
きれいに勝負がつくことは、あまりない。

ものの見事に狙い通りの結果を出すことは、
よほど際だった名人でないとできない。

それだけに、
今回の日本列島全体を寒波に覆わせた時空使いは、
相当なレベルの者と思われた。
最も防御の固い関東だけ、やりそこねたようだが・・・


私「敵はどこの誰だ?」
カゲ「・・・・・・」
私「まだわからないのか?」
カゲ「はい」

正体を隠蔽するのがうまいのかもしれない。
姿を被覆や偽装で隠すのも得意と考えるべきだろう。

私「ただの寒波ではないのだろう?」
カゲ「・・・・・・」
私「攻め手が来てるのではないか?」
カゲ「・・・・・・」
私「こちらの軍を攻めてくる相手の・・・」
カゲ「・・・・・・」
私「情報をできるだけ集めろ」
カゲ「はい」

これから戦えば、
おそらく敵方の素性はわかるはずだ。

私「これから東京に防壁を張り直す」
カゲ「・・・・・・」
私「ほかの防御者たちの張る防壁と・・・」
カゲ「・・・・・・」
私「バッティングしないように調整してくれ」
カゲ「はい」


平素、自然災害による被害が最小限になるように、
防御する仕事をしている者は、
それぞれ自分のやり方で、それを行っている。

神道、密教、陰陽道などの関係者であれば、
それらの伝統的な術式によって行うだろうし、
どの宗教宗派や術派にも属さない者であれば、
ほとんど我流のはずである。

ちなみに私は、完全無所属の完全我流である。
実生活において誰にも教わっていない。
肉を持たない見えない師匠を師匠と呼ぶのは、そのためだ。
実際ほかには、師といえる者が全然いないのだ。

防御者たちは、基本的にお互いを知らない。
通常は横の繋がりなど、ない・・・に等しい。
多くの者は、仕える神仏から命じられたと認識している。

起こりそうだった地震が回避された時など、
とある掲示板などでは、
自分が止めた、と自慢げに語る者がいつも複数現れる。
他の防御者の存在さえ知らないためだ。

それほど、横の繋がりがないのだといえる。
みんな孤独な存在だ。


この国には、
宗教関係者の防御者が、伝統的に多かった。
しかし、彼らをもってしても、
約80年周期の大地震はずっと防げなかったし、
戦争も防げなかった。

1980年代の終わり頃から、
どの宗教や術派にも属さない異能者たちが、
この国に、にわかに増え出したそうだ。

1990年代、そして2000年を越えてからも、
それら無所属かつ我流の仕事師たちは、
次々と現れ続けた。

現れた?
いや、表立っては現れてはいない。
それらの存在を知る者はほとんど皆無に近いから。
みんなただのサラリーマンだったり、
本屋だったり、シェフだったり、風俗嬢だったりする。


そろそろ来るはずの大地震が、
およそ80年おきに南関東を壊滅させるはずの大地震が、
なかなか起こらず首都圏がいまだ安泰なのを、
不思議に感じたことはないだろうか?

東アジア近隣で軍事的緊張が高まっても、
それでも戦争が勃発しそうでしないのを、
不思議に感じたことはないだろうか?

こんな大きな台風が首都圏を直撃したら、
どれだけの被害が出るのかというほどの台風が、
都合良く曲がって逸れてしまうのを、
不思議に感じたことはないだろうか?

いや、別に不思議に感じる必要はない。
まったくその必要はない。


私は車で首都高速に上がってから、
まずはいわゆるC1をぐるりと一周し、
湾岸線やC2を通って、またC1に戻り、
これを何回も一晩中繰り返した。
そしてC2から外環道へ回り、高速を降りて環八を走った。

つまり、東京の中心部を、
渦巻き状にグルグルと回った形になる。

夜が明けた。徹夜だった。
車内で私が具体的に何をしていたかは省略する。
話すと長くなるので。

ただ、これだけはいえる。
ぐったりと、ものすごく疲れた。


翌日の衛星気象画像は、
まるでマンガなどのフィクションのワンシーンのような、
奇妙この上ないものだった。

日本列島全体が冬の雪雲に覆われているのに、
首都圏だけが、小さな円形状にスポンと抜けており、
かろうじて太陽を浴びることができていた。

この日この気象画像を目にして、
不思議に感じた人は、はたしてどれだけいただろうか?
いや、
別に不思議に感じる必要はまったくないのだが。