「始末屋として復帰しないか?」
師匠は唐突に切り出した。
いつも何の脈絡もなく、脳内に話しかけてくる。
「始末屋? なぜ?」
私は聞き返した。
心の声で返事をするようにしているが、
つい言葉として、口に出してしまうこともある。
それが人前だったりすると、ひどく後悔する。
「お前、仕事しろよ。引退してる場合じゃない」
師匠は、目には姿が見えない。
それでもなんとなく周りにいる。
何か用事があるときだけ、私に声をかける。
耳では聞くことのできない声で。
「始末? 誰を?」
だいたいの見当はついていたが、一応確かめた。
私のところに回される仕事は、
ほかの人たちがやりたがらない事柄が多い。
「犯罪者だ」
いちいち分かりきったことを、という感じで、
師匠はひとことだけ吐いた。
「強くて面倒な連中?」
それぞれの地域で、担当者は既にいるはずだ。
彼らにとって荷が重い強者・・・
であろうことは想像に難くない。
「・・・・・・」
師匠からの返事はなかった。
答えるまでもない、という意味だろう。
「肉持ちの相手も多いはず・・・」
仕事を受けるかどうか即答せず、私は絡んだ。
私は師匠をからかうのが好きだ。
師匠の方は、それを好まない。
肉、とは生身の人間のことだ。
この世で一般には不可視であるはずの存在が、
力の容器として、潜伏する隠れ蓑として、
生身の人間を所有していることは、実は多い。
「相手が肉を持っていた場合・・・
その人間を、害することもありえますが・・・」
私は、またも無駄口を叩いた。
師匠はこの手の初歩的なことには返答しない。
「この話、受けるのだな?」
しびれを切らした師匠が、確認を急いだ。
「喜んで」
私は淡々と答えた。