「綿虫(わたむし)」は名前のとおり、白くてフワフワした小さな昆虫です。
別名「雪虫(ゆきむし)」とも呼ばれ、俳句では冬の季語となっています。初雪が降る少し前の時期に現われ、体長2~3ミリという小さな姿でゆっくりと空中を飛びます。
お尻の辺りに白い繊維状の蝋質物質を着けていることから、綿のようにも雪のようにも見えて「綿虫」「雪虫」と呼ばれているようです。
綿虫がよく飛ぶ北海道では「冬を告げる虫」「雪の妖精」と呼ぶ人もいるとか。
この虫が目撃されると、ほぼ7~10日程度で雪になるといわれています。綿虫が飛ぶ姿が粉雪が舞うように見えるのも「雪の妖精」と呼ばれる所以でしょうか。
私が「綿虫」の名前を知ったのは、母が毎月購読していた雑誌『ミセス』の俳句コーナーでした。
当時、『ミセス』の俳句コーナーには読者からの投稿が掲載されており、少女のころの私は楽しみに読んでいたものです。
その投稿句で心に残ったのが「綿虫」の句でした。
--綿虫と 野の踏切に 行き交わす (雑誌『ミセス』俳苑より)
「綿虫」の句を投稿した読者の方は多分女性だったでしょう。雑誌に掲載されていた作者のお名前もお住まいも覚えていませんが、句だけは今でも私の記憶のなかにあります。
そして、もう何十年も昔に見た句なのに、ふと野の踏切で綿虫と行き違った女性のことを時々思い返すのです。
--------------------------------------------------------------------