ダイアリー・オブ・カントリーミュージック・ライフ

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Rolling Stones ローリング・ストーンズ - Get Yer Ya-Ya's Out ~生活を歌うカントリーとロックの非日常性のこと~

2010-03-13 | カントリー業界情報、コラム

 すっ、すみません。ロックですが、このリイシュー盤だけは取り上げさせてください・・・・

 ローリング・ストーンズについては、このブログでもキース・リチャーズのカントリー・ルーツについて取り上げた事がありますが、その彼らの1969年アメリカン・ツアーのライブ盤である「Get Yer Ya-Ya's Out」が、未発表曲や、ティナ・ターナーとB・B・キングらの前座アーティストの演奏、そしてオマケのライブ&ドキュメントDVDなどを追加した豪華4枚組みボックスセットでリイシューされました。その内容の良さは定評となっていたものの、この前後にリリースされている名盤達(「ベガーズ・バンケット」「レット・イット・ブリード」「スティッキー・フィンガーズ」「メインストリートのならず者」)のおかげで、正直チョッピリ地味な存在だった事は確か。どっちかと言うと、1977年の「Love You Live」の方が名盤扱いされる事が多いから。しかし、この「Get Yer Ya-Ya's Out」が学生時代から大好きだった私(もちろん、LPで聴いてましたヨ)には、今回の突然の露出振りは嬉しい事件でした。今やすっかりお金持ちになった壮年のファンを狙って、ライブ・ツアーをする度にリリースされる最近のライブDVDボックスには全く興味が行かないのに、このリイシュー・CDボックスは即購入してしまいましたから。ハード・カバーの解説書やツアー時のパンフレットの表紙(どうせならパンフ全体を復刻してほしかった)や、ミニLPジャケット(冗談みたい)なども付いて、プレミアム感を漂わせてくれます。

 あまりこのブログで、ストーンズの音楽や”オルタモントの悲劇”の事をとやかく言っても仕方ないけれど、私にとってはここで展開される、粘っこいコクがありつつ軽やかにスイングするキース・リチャーズのギターとストーンズの音ってのが、ロッキン・サウンドに求める理想なのです。当時在籍のリード・ギタリスト、ミック・テイラーのフレーズも、ズバリ!の”美しい”メロディを紡ぎだしていると思う。"Midnight Rambler"の中盤のリフの応酬には、この歳になっても熱くなってしまいます。ミック・テイラー在籍時のライブとしては、1973年ごろがピークと言われていますが、私はこの1969年の妖気をも感じさせる(それは”オルタモントの悲劇”が宿命であったかのよう・・・)、コッテリとしたノリが一番好きです。

キース・リチャーズ(当時)


 このロック・ライブの中で、カントリー~アコースティック・ミュージック・ファンに注目してほしいのが、今回初めて公式リリースされた未発表曲の"Prodigal Son""You Gotta Move"の2曲。ボーカルのミック・ジャガーとキースの2人による完全アコースティック・セットです。これはDVDで映像も楽しめます。カントリー~ブルーグラスでおなじみの”ドブロ・ギター”(木製ボディに金属製リゾネーターをドッキング)を世に送り出したドブロ社の前進といえる、ナショナル社(ボディもリゾネーターも真鍮)のリゾフォニック・ギター1本によるアンプラグド・ライブで、ロック・ライブのアンプラグドはコレが初めての試みだったとの事。その影響力は大きく、70年代になってレッド・ツェッペリンを始め多くのロック・アーティストが取りいれて行きます。ポール・マッカートニー&ウィングスもやっていたな。"Prodigal Son"は、もちろんブルースマン、ロバート・ウィルキンスのカバーなのでカントリー・ブルースを意識しての演奏なんでしょうが、ミック・ジャガーのなかなかに実直でクリアなバリトン・ボイスを聴いていると、彼が影響を受けたというクラシック・カントリー・ヒーロー、ハンク・スノウHank Snow(代表曲"I'm Moving On")の影響を感じられて、なんとなく現在のオルタナティブ~アメリカーナ・カントリーに通じるものがあるのです。そりゃ、ストーンズが全米でコレを演奏してまわったのだから、その影響力は計り知れないでしょう・・・・


 音楽的な面からすると、ストーンズとカントリー・ミュージック(現代のメインストリーム系ではなく、ルーツとしてのクラシック・カントリー)が切っても切れない関係である事は、以前の記事で取り上げた通りですが、イメージというか社会に対するスタンス、と言う意味では、全くもって相反するものがあります。今をときめくカントリー・デュオ、ジョーイ+ローリーJoey+RoryのオフィシャルHPのバイオの冒頭はこんな文章で始まります。「ミック・ジャガーがセックス、ドラッグ、そしてロックンロールについて歌ったとき、誰も彼を疑わなかった。ジョニー・キャッシュが"Walk The Line"を歌ったとき、人々は彼が問題に直面している事を知った。そしてエミルー・ハリスが傷心を歌ったとき、聴衆は彼女の痛みを感じたのだった。本物のアーティスト達は、彼らの人生経験から得られた真実を3分間のメロディーに絶妙に織り込むことで、聴衆と心で通じ合うという贈り物を分け与える。ジョーイ+ローリーも自分達がソングライティングし歌っている通りの(牧歌的な)人生を生きている貴重なタレントである・・・・・」ここではカントリー・アーティストと並ぶ形でミック・ジャガーについて言及されていますが、ミックの歌う題材はとても非日常的だけれども・・・と言うニュアンスがありますね(しかし、余談ですが、ジェファーソン・エアプレインのグレース・スリックがミックに会った時の印象を、”スーツをビシッと決めたビジネスマンで、アメリカのアーティストとは違った”と語っています。ミックの最終学歴は、夏目漱石が留学したロンドン大学です。つまりミックは表向きはロック・スターを演じている・・・)。ここでミックについてピックアップされたテーマって、ストーンズに対するステレオタイプに過ぎないのですが、まあ確かにその通りでもあります。そして、そんな一般生活からすると縁遠いものを歌っているストーンズを聴く人のほうが圧倒的に多い。特に我が国においては。

           

観客の、何と近いこと!いい時代。マディソン・スクエア・ガーデンにて。



 ストーンズを始めとするロックを聴くと言う事は、若かりし頃親しんだオールドロックを聴く事も含めて、現実逃避的な行為なのです(記事「アメリカにおけるカントリー・ミュージック・ファン像」もご参考に)。私は学生時代、ストーンズとクスリに関するエピソードを本で読んでは、何か怪しい別世界を知る喜びのようなものを感じていた記憶があります。若い頃ってのはそんなもんでしょう。ストーンズはそんなスキャンダルと、唯一無二のカリスマ性をも醸し出すロック・サウンド(今の彼らからはもう感じないけど)、そしてミック・ジャガーのエキセントリックなパフォーマンスもひっくるめて、聴衆を非日常の世界に連れて行ってくれるのです。そしてここが、人生の物語や日常生活を生きていく為の知恵を歌うカントリー・ミュージックとの好対照になる部分なんでしょう。本来、人は成長していく中で、ロック的な若々しいスピリットを卒業し、社会の秩序を知り、自然に成熟していくべきものです。その中で、アメリカにおいては結構な人たちがカントリーに出会っていくのだと思います。しかし、そういうカントリーの受け皿のない我が国(CDは簡単に手に入るハズですけどね)では、洋楽好きは幾つになってもロックを聴くしかない。それって、ロックンローラーを自で行く生き方が出来る人は良いけれど、社会的秩序の中でフツーの生活をするべき大人にとっては、未成熟を助長することになってるんじゃない?と。音楽だけでそこまで言うのは相当に強引で単純すぎるでしょうが、日本とアメリカの社会全体の成熟度をみると、そんな事も言ってみたくなるのです。変革と安定のバランスってのが欠けてしまってるのでは・・・て意味で(特にメディア側にいる人間を見るとね)。スンマセン、チョッと話がでか過ぎましたね・・・

 それでもやっぱり、"Midnight Rambler"は、「か~っくい~!」


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