ダイアリー・オブ・カントリーミュージック・ライフ

現代カントリー・ミュージックのアルバム・レビューや、カントリー歌手の参考になりそうな情報を紹介しています

Billy Curringtonビリー・カリントン-Little Bit of Everything

2009-09-06 | カントリー(男性)
 Mercuryレコードを代表する若手コンテンポラリー系シンガーとして、マーク・ウィルスの後を継いだビリー・カリントン。彼の、2008年10月にリリースされたサード・アルバムをご紹介します。2年前、簡単なプロフィールと共にご紹介した「Doin' Somethin' Right」もそうでしたが、いかにもポップ系と一目でわかるカジュアルなルックスで侮れないほど、彼のアルバムのクオリティは高め安定で、骨のあるポップ・サウンドが聴きたい向きにはお勧めですよ。何といっても魅力的なのが彼の声。グルーヴィーなポップ・ソングで聴かせるラフなソウル・ボイスと、穏やかなアコースティック~カントリー・ソング系で聴かせるシルキーなカントリー・ボイスを、自由自在に操る力量のレンジの広さは見事です。アルバム・タイトルは、そんな彼のスタイルをさり気なく表現しています。



 オープニングの"Swimmin' In Sunshine"でスムーズにアルバムはスタート。ご挨拶にビリーらしさの一面をカジュアルに表現します。この曲、タイトルそのまんま、浜辺でビールの見ながら楽しもうよ!的、軽くファンキーなミディアム・チューン。コーラスでの伸びやかなエモーショナル・ボイスと、ラストのハミングの軽やかさの対比を是非お楽しみください。このお気楽キャラって、もともとケニー・チェズニーが十八番にしてるスタイルで、口笛が飛び出す"I Shall Retuen"も同系統。コチラはカリビアンなアコースティック・ギターのフレーズがいかにもの雰囲気を創っていますね。"Life & Love And The Meaning of"もモダンな曲調ながら、コーラス・メロにカントリー的なダウンホームさを感じる、コンテンポラリー・カントリーの佳曲です。タメのある骨太なリズムセクションがナイスで、結構コシに来ます。リード・シングルとなった、グルーヴィーな曲調が耳を掴む"Don't"では、彼の声のソウル・サイドの魅力がたっぷり堪能できます。前作でのNo.1ヒット、"Must Be Doing Something Right"の続編と言える、ビリーの十八番スタイル。

 一方、彼のカントリー・シンガー・サイドを堪能できるのが、"Every Reason Not To Go"。ほかの街へ~そこはおそらく今より都会~出て行こうとする恋人に、そんなとこに行ってもロクな事はないよ、と説くビリー。「そこは寒いし、人々は温かくない、毎日渋滞で、夜はきっちり戸締りをしないといけない。この町で一緒に暮らしていこうよ・・・・」ジョージ・ストレイトが歌ってもおかしくない、心和むストレート・カントリー・ソングです。ビリーの落ち着きあるラフ・ボイスの質感がたまらない。

 


 そして、素晴らしい"People Are Crazy"・・・・・主人公の若者は、とあるバーでたまたま一緒になった老人と、ビールを飲みながら会話を交わします。政治について、ブロンドや赤毛の女の子、老いた犬のこと、2度の戦争で戦ったこと、時には人生や死について深く考えたりも。そして、折にふれて老人はこんな言葉をつぶやくのです。「神は偉大、ビールはイイ、そして人々はクレイジーだ」その後、その老人と会う事はありませんでした。しかし、主人公はある晴れた日、死亡記事でその老人の事を知ります。彼は億万長者だったのです。そして老人は、たいしてよく知らないある人に財産を残し、子ども達は大騒ぎ。「僕は今日、お墓に立ち寄って感謝し祈った。ビールの6缶パックをお供えしたんだ」そして主人公はつぶやきます。「神は偉大、ビールはイイ、そして人々はクレイジーだ」生きた伝説と言えるソングライター、Bobby Braddockによる、正真正銘のカントリー・ソング。ピュアなアコースティック・サウンド、耳に心地よいメロディ、そしてシンプルな物語がそこにはあります。

 この物語の教訓は何なのでしょうか?人間なんてクレイジーな生き物だから、ビール飲みながら楽しくやってても、運がよければ幸運をくれる人がいるよ、ってこと?ミュージック・ビデオを見ていると、そんな風にも見えますが・・・・しかし、繰り返されるコーラスのフレーズ「神は偉大、ビールはイイ、そして人々はクレイジーだ」は意味深です。アメリカ人、特にカントリーのメイン・ターゲットは、キリスト教を大切に信仰するスピリチュアルな人たちと考えられます。とはいっても人間ですから、楽しみ(最も手ごろなのがビール)も求めます。さらに常軌を逸脱し、私的な欲望に突き動かされる事もあります。そんな狭間で揺れ動き、そして時にクレイジーな振る舞いをする人々。この歌の中での若者と老人の会話の話題は、その”狭間”を脈絡なく飛び交います。おそらく老人は、そんな会話に自然についてきた若者が心に残り、未来の希望を感じたのではないでしょうか?



 しかし、こんな話って現実にありえるでしょうか?こんな老人がいるのでしょうか?絶対にいないでしょう。現実にいるのは、会社がほとんど倒れそうになってるというのに、まだ巨額の報酬を得ようとするアメリカ産業界トップ達の存在。だから、カントリー・アーティスト、ビリー・カリントンが、そんな世の中への啓示を込めて、この夢のような物語を歌っているのではないでしょうか。そして、ここでの”信仰”や”神”を、”誠意”や”謙虚”に置き換えると、我々にもささやかな教訓を与えてくれる物語になるように思います。この音楽的には至極シンプルなナンバーは、ビルボードのカントリー・ソングで見事No.1に輝きました。

 

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1 コメント

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チャート1位 (t@ke)
2009-09-06 09:45:09
彼に注目し出したのはShania Twain が"Party for Two"でデュエット相手に抜擢してからです。
声が魅力的でポップ調ですがカントリーにしか出せない味わいを感じます。
当アルバムの"People Are Crazy"はチャート37位に入った時から気にいっていました。
2ケ月以上かかって1位になった時は自分の事の様に嬉しかったです。
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