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高浜原発の仮処分ー判決文抜粋(2)ー過酷事故対策(争点2)

2016-03-19 09:34:33 | 原子力

2016年3月9日の大津地裁による高浜原発3号機および4号機の仮処分の決定の判決文は、下記URLを参照

http://adieunpp.com/download&link3/160309otukettei.pdf

判決文を読むと原発関連事項が整理できるので、一度、本文の通読を皆さんへお薦めしたい。55頁にわたる内容であり、争点に沿って抜粋する。

5 争点2(過酷事故対策)に関する当事者双方の主張
(1)債権者の主張

ア 新規制基準の不合理性

新規制基準では、次のとおり、福島第一原子力発電所事故で得られた教訓の多くが取り入れられておらず、過酷事故対策が不十分である。このような対策では、本件各原発の稼動上の安全性は確保されない。

イ 不合理な単一故障指針の採用
新規制基準が制定される前の安全設計指針(平成2年8月30日原子力安全委員会決定)では、各傾倒を構成する機器の単一故障を仮定し、それでも必要な機能を失われないことが求められており、「単一故障指針」と呼ばれていた。単一の原因によって一つの安全機器のみがその機能を喪失することを仮定するわけであるから、事故が起きたときに、各種の安全機能を有する機器の全部がこわれることを想定しなくてよい。
しかしながら、福島第一原子力発電所事故の経験から明らかなように、地震や津波をはじめ自然現象を原因とする事故は、多数の機器に同時に影響を及ぼす。そのため、異常状態に対処するための安全機器の一つだけが機能しないという仮定は非現実的であり、一つの安全機能に係るすべての機器がその機能を失うことを仮定すべきである。単一の要因によって複数の機器が同時に安全機能を損なうことを「共通要因故障」というが、本来、新規制基準では、多数の設備・機器が同時に機能を失う共通要因故障を仮定した設計および安全設計評価でなければならなかった。

ところが、新規制基準においても、単一故障指針は見直されていない。新規制基準では、「安全機能を有する系統のうち、案機能の重要度が特に高い安全機能を有するものは、当該系統を構成する機器または器具の単一故障(単一の原因によって一つの機器又は器具が所定の機能を失うこと(従属要因による多重故障を含む、)をいう。)が発生した場合であっても、外部電源が利用できない場合においても機能できるよう、当該系統を構成する機器又は器具の機能、構造および動作原理を考慮して、多重性又は多様性を確保し、および独立性を確保するものでなければならない」とされているにすぎない。

ウ 外部電源の重要度の不合理な低さ
重要度分類指針は、原子炉施設の安全性を確保するために必要な各種の機能について、安全上の検知からそれらの相対的重要度を定め、これらの機能を果たすべき構築物、系統および機器の設計似たいして、適切な要求を課すための基礎を定めることを目的とする。重要度分類指針は、安全機能をPS(Prevention System:異常発生防止系)とMS(Mitigation System:異常影響緩和系)に分類し、PSとは、その機能の喪失により、原子炉施設を異常状態に陥れ、もって一般公衆ないし従事者に過度の被ばくを及ぼすおそれがあるものと、MSとは、原子炉施設の異常状態において、この拡大を防止し、又はこれを速やかに終息せしめ、もって、一般公衆ないし従事者に及ぼすおせれのある過度の放射線被ばくを防止し、又は緩和するものと定義する。そして、PSとMSに属する構築物、系統および機器を、その重要度に応じて3クラスに分類し、設計上考慮すべき信頼性の程度を区分している。クラス1は、合理的に達成し得る最高度の信頼性を確保し、かつ、維持する、クラス2は、高度の信頼性を確保し、クラス3は、一般の産業施設と同等以上の信頼性を確保し、かつ、維持する、ことを目標とされている。ところが、新規制基準では、外部電源は、「異常事態の起因現象となあるものであって、PS-1(クラス1)およびPS-2(クラス2)以外の構築物、系統および機器」と定義付けられ、PS-3(クラス3)に分類されてしまった。また、外部電源は、耐震設計上の重要度分類においても、Sクラス、Bクラス、Cクラスの分類のうち、最も耐震強度が低いCクラスに分類されてしまった。

エ 使用済み燃料ピットの不十分な防護
福島第一原子力発電所では、使用済み燃料の冷却にも失敗した。原子炉格納容器のような堅固な施設に守られていない使用済み燃料は、損傷が始まれば、放射性物質がそのまま環境へ放出されることになるにもかかわらず、その耐震性は、Bクラスにとどめ置かれたままである。

オ 計器類の改良不足
福島第一原子力発電所事故では、原子炉内の温度計、水位計、圧力計等がメルトダウンのような過酷な条件に耐えられず故障し、運転員が炉内の状況を正確に把握できなかったため、大混乱を招いたし、その後の究明に当たっても大きな支障になっている。そうすると、今後原発を運転するためには、炉心が損傷する過酷な条件かでも、故障しないで正確な情報を伝える改良が不可欠なはずである。しかし、新規制基準では、計器類に特段の要求がされていない。

カ 立地審査指針の欠如
原子力安全委員会は、昭和39円5月27日、「原子炉立地審査指針およびその適用に関する判断のめやすについて」と題する決定をし(以下「立地審査指針」といいう。)、立地審査指針では、重大な事故の発生を仮定しても、周辺の公衆に放射線障害を与えないことを条件とし、過酷事故を超えるような、技術的見地からは起こるとは考えられない事故の発生を仮定しても、周辺の公衆に著しい放射線災害を与えないことを条件とした。
ところが、福島第一原子力発電所事故では、実効線量100mSvの等値線が敷地境界から20kmも30kmも離れた地点にまで及んでいる。
これは、福島第一原子力発電所の設置許可に当たって仮想された事故が極端に小規模で、発電所発電所の敷地外の放射線の被害が及ぼないように計算された結果であったのである。これを踏まえれば、本件原発についても、正確に事故想定すれば、その設置の当初から、立地審査指針に不適合であったことは明らかである。しかも、新規制基準では、立地審査指針が排除されており、立地審査基準に適合しない状況であるからこそ、排除されたものであって、極めて不当である。

(2)債務者の主張

ア 新規制基準の合理性
新規制基準は、その制定に当たって、原子力規制委員会下の3つの検討チームでの結果を踏まえたものである。これらのチームは、福島第一原子力発電所事故を受けて設置されたものであるし、各チームの会合には、原子力規制委員会担当委員や多様な学問分野の外部専門家らが出席し、それぞれ約8か月間の会合において議論が重ねられ、その上意見公募手続き(パブリックコメント)が2度にわたって行われた。したがって、新規制基準は、現在の最新の知見を集合した知的信用度の高いものである。
新規制基準における基準地震動の策定方法の基本的な枠組みは変更されなかったが、地震動の大きさに与えるパラメータについては、慎重な検討を求め、耐震重要度分類の要求事項は、従前の規制と変わっていないが、津波防護施設の分類上の重要度が向上した。津波対策については、基準津波の策定を要求する点で従前の規制と変更があった。ほかに、竜巻の想定、テロ対策について、改良された。債務者は、これらの新規制基準に基づき規制に、本件各原発が合致していることを確認した。
イ 共通要因故障防止の指針
新規制基準にいう「単一故障}とは、単につの原因によって一つの危機が所定の機能を失うことであるが、単に一つの機器だけの故障を想定しているのではなく、例えば、外部電源が喪失した場合において、非常用ディーゼル発電機が故障し、同発電機から電力の供給を受けるECCSの電動ポンプが全て機能を喪失するといった、従属要因による多重故障を含むものである。
ウ 

新規制基準において、原子力発電所の安全性を確保するために重要な役割を果たす「安全上重要な設備」について、発電所の通常運転に膣用な瀬得日に比べて拡大に高い信頼性を持たせることにより、安全性を確保している。地震時に原子炉の安全性を確保するために必要な電力の供給は、非常用ディーゼル発電機が担うこととされており、債務者は、本件各原発の非常用デーゼル発電機について、安全上重要な設備として耐震安全性を確保した。
エ 使用済み燃料ピットの防護が十分であること
使用済み燃料は、冠水さえしていれば崩壊熱は十分除去され、燃料被覆管の損傷にいたることはなく、その健全性が維持されることから、使用済み燃料ビットからの周辺環境への放射性物質の放出を防止するためには、冠水を保つことで十分である。そのため使用済み燃料ビットの給水設備については、安全上重要な設備をして耐震安全性を確認した。
オ 計器類につて十分な保護が与えられていること
新規制基準では、炉心の著しい損傷等の際に、原子炉の状態を把握するために必要となるパラメータ(1時冷却材の温度・圧力、加圧器の恣意等)を計測する計装設備が、事故時における温度、放射線、荷重等の使用条件においてその事故に対処するに必要な機能を有効に発揮するものであることが求められている(設置許可基準規則4条1項1号)。よって、新規制基準において、「計器類に特段の要求はされていない」との債権者らの主張は誤りである。
カ 立地審査指針に係る反論
そもそも、福島第一原子力発電所事故は、同発電所の自然的立地条件に係る安全確保対策(具体的には、津波に関する想定である。)が不十分であったため、同発電所の「安全上重要な設備」に共通要因故障が生じ、放射性物質が以上放出される事態に至ったものである。新規制基準は、福島第一原子力発電所事故を踏まえて策定されており、したがって、福島第一原子力発電所事故と同様の事態が生じることを当然の前提とする債権者らの主張は合理的ではない。

当裁判所の判断

(1)福島第一原子力発電所事故によって我が国にもたらされた災禍は、膨大であり、原子力発電所の持つ危険性が具現化した。原子力発電所による発電がいかに効率的であり、発電に要するコスト面では経済的優位であるとしても、それによる損害が具現化したときはには必ず優位であるとはいえない上、その環境破壊のおよび範囲は我が国を越えてしまう可能性さえあるのであって、単に発電の効率性をもって、これらの膨大な災禍と引換えにすべき事情であるとは言い難い。
債務者は、福島第一原子力発電所事故は、同発電所の自然的立地条件に係る安全確保対策(具体的には、津波に関する想定である。)が不十分であったために、同発電所の「安全上重要な設備」に共通要因故障が生じ、放射性物質が異常放出される事態に至ったもので、新規制基準が福島第一原子力発電所事故を踏まえて形成されていることから、福島第一原子力発電所事故と同様の事態が生じることを当然の前提とする債権者らの主張は合理的ではないと主張する(前記第2、5(2)カ)。

しかしながら、福島第一原子力発電所事故の原因究明は、建屋内での調査が進んでおらず、今なお道半ばの状況であり、本件の主張および疎明の状況に照らせば、津波を主たる原因として特定し得たとしてよいかも不明である。
その災禍の甚大さに真摯に向き合い、二度と同様の事故発生を防ぐとの見地から安全確保対策を講ずるには、原因究明を徹底的に行うことが不可欠である。この点についての債務者の主張および疎明は未だ不十分な状態にあるにもにもかかわらず、この点に意を払わないのであれば、そしてこのような姿勢が、債務者ひいては原子力規制委員会の姿勢であるとするならば、そもそも新規制基準策定に向かう姿勢に非常に不安を覚えると言わざるを得ない。
福島第一原子力発電所事故の経過(前提事実(6)イ)からすれば、同発電所における安全確保対策が不十分であったことは明らかである。そのうち、どれが最も大きな原因であったかについて、仮に、津波対策であったとしても、東京電力がその安全対策の必要性を認識してさえいれば、同発電所において津波対策の改善を図ることが不可能あるいは極端に困難であったとは考えられず、防潮堤の建設、非常用ディーゼル発電機の設置場所の改善、補助給水装置の、補助給水装置の機能確保等、可能な対策を講じることができたはずである。しかし、実際には、そのような対策は講じられなかった。

このことは、少なくとも東京電力や、その規制機関であった原子力安全・保安院において、そのような対策が必要であるとの認識を持つことができなかったことを意味する。現時点において、対策を講じる必要性を認識できないという上記同様の事態が、上記の津波対策に限られており、他の要素の対策は全て検討し尽くされたかは不明であり、それら検討すべき要素についてはいずれも審査基準に反映されており、かつ基準内容についても不明確な点がないことについて債務者において主張および疎明がなされるべきである。
そして、地球温暖化に伴い、地球全体の起床に経験したことのない変動が多発するようになってきた現状を踏まえ、また、有史以来の人類の記憶や記録にある事項は、人類が生存し得る温暖で平穏なわずかな時間の限られた経験にすぎないことを考えるとき、災害が起きる度に「想定を超える」災害であったと繰り返されてきた過ちに真摯に向き合うならば、十二分の余裕をもった基準とすることに念頭を置き、常に、他に考慮しなければならない要素ないし危険性を見落としている可能性があるとの立場に立ち、対策の見落としにより過酷事故が生じたとしても、致命的な状態に陥らないようにすることができるとの思想に立って、新規制基準を策定すべきものと考える。
債務者の保全段階における主張および疎明の程度では、新規制基準および本件各原発に係る設置変更許可が、直ちに公共の安寧の基礎となると考えることをためらわざるを得ない。
(2)次に、本件で問題となった過酷事故対策の中でも、福島第一原子力発電所事故において問題となった発電所の機の維持のための電源確保について検討すると、債務者の考えによれば、例えば、基準地震動Ssに近い地震動が敷地に到来した場合には、外部電源が全て健全であることまでは保障できないから、非常電源系を置くことになる。我が国は、地震多発国であるものの、実際、本件各原発の敷地が毎日のように基準地震動Ssに近い地震動に襲われているわけでないから、その費用対効果の観点から外部電源についてはCクラスに分類し、事故時には非常用ディーゼル発電機等の非常用電源(Sクラスに分類)により本件各原発の電力供給を確保することとするものである。経済的観点からのこの発想が福島第一原子力発電所事故を経験した後においても妥当するのか疑問なしとしないが、その様な観点に仮に立つとすれば、電源事故が発生した際の備えは、相当に重厚で十分なものでなければならない。
ここで, 新規制基準に基づく審査の過程を検討してみると, 過酷事故発生に備えて, 債務者は, 安全上重要な構築物, 系統及び機器の安全機能を確保するため非常用所内電源系を設け, その電力の供給が停止することがないようにする設計を持ち, 外部電源が完全に喪失した場合に, 発電所の保安を確保し, 安全に停止するために必要な電力を供給するため, ディーゼル発電機を用意することとし, これを原子炉補助建屋内のそれぞれ独立した部屋に2 台備えることとしている。またそのための燃料を7日分,燃料油貯油そうを設けて貯蔵するとしたり,直流電源設備として蓄電池を置いたり,代替電源設備として空冷式非常用発電装置,電源車等を設けることとしたことが認められる (乙76)。また,原子力規制委員会の審査においては, これらの設置に加え, これらが稼働するための準備に必要な時間, 人員, 稼働する時間等にっいて審査し,要求事項に適合していると審査した(乙14の2)。ほかにも, 過酷事故に対処するために必要なパラメータを計測することが困難となった場合において, 当該パラメータを推定するための有効な情報を把握するための設備や手順を設けたり, 原子炉制御室及びその居住性等にっいて検討しており, これらからすれば,相当の対応策を準備しているとはいえる。
しかし, これらの設備がいずれも新規制基準以降になって設置されたのか否かは不明であり (ただし, 空冷式非常用発電装置や, 号機間電力融通恒設ケーブル及び予備ケーブル, 電源車は新たに整備されたとある。), ディーゼル発電機の起動失敗例は少.なくなく (甲80)、空冷式非常用発電装置の耐震性能を認めるに足りる資料はなく,また,電源車等の可動式電源にっいては, 地震動の影響を受けることが明らかである。 非常時の備えにおいてどこまでも完全であることを求めることは不可能であるとしても,また,原子力規制委員会の判断において意見公募手続が踏まれているとしても, このよ
うな備えで十分であるとの社会一般の合意が形成されたといってよいか, 躊躇せざるを得ない。

したがって, 新規制基準において, 新たに義務化された原発施設内での補完的手段とアクシデントマネジメントとして不合理な点がないことが相当の
根拠, 資料に基づいて疎明されたとはいい難い。

(3) また, 使用済み燃料ピットの冷却設備の危険性にっいて

新規制基準は防護対策を強化したものの,原子炉と異なり一段簡易な扱い(Bクラス) となっている。 安全性審査にっいては, 原子炉の設置運営に関する基本設計の安全性に関わる事項を審査の対象とすjきところ, 原子炉施設にあっては, 発電のための核分裂に使用する施設だけが基本設計に当たるとは考え難い。 すなわち, 一度核分裂を始めれば, 原子炉を停止した後も, 使用済み燃料となった後も, 高温を発し, 放射性物質を発生し続けるのであり, 原子炉停止とはいうものの, 発電のための核分裂はしていないだけといってよいものであるから, 原子炉だけでなく, 使用済み燃料ピットの冷却設備もまた基本設計の安全性に関わる重要な施設として安全性審査の対象となるものというべきである。 使用済み燃料の処分場さえ確保できていない現状にあることはおくとしても, 使用済み燃料の危険性に対応する基準と して新規制基準が一応合理的であることにっいて,債務者は主張及び疎明を尽くすべきである。また,その上で,新規制基準の下でも,使用済み燃料ピットにっいては,冠水することにより崩壊熱の除去が可能であると考えられるが, 基準地震動により使用済み燃料ピット自体が一部でも損壊し,冷却水が.漏れ,減少することになった場合には, その減少速度を超える速度で冷却水を注入し続けなければならない必要性に迫られることになる。 現時点で, 使用済み燃料ピットの崩壊時の減i水速度を検討した資料であるとか,冷却水の注入速度が崩壊時の漏水速度との関係で十分であると認めるに足りる資料は提出されていない。

 

 

 

 

本ブロガの感想


(1)債権者の主張について
(抑制された論調と感じた。もっと、切り込んでも良いのでは。)

ア 新規制基準の不合理性
新規制基準が成立した過程が明らかにされていない。その過程との関係での新規制基準の不当性を明らかにして欲しかった。

新規制基準が策定された経緯についての解説は、参議院 環境委員会調査室「原子力発電所の新規制基準の策定経緯と課題」参照
http://www.sangiin.go.jp/japanese/annai/chousa/rippou_chousa/backnumber/2013pdf/20130903131.pdf

単一故障の論理が福島第一原子力発電所事故により崩壊している事実を明確にして欲しかった。

ウ 外部電源の重要度の不合理な低さ

重要度分類指針は下記で規定されている。
「発電用軽水型原子炉施設の安全機能の重要度分類に関する審査指針について」
http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/nc/t19900830002/t19900830002.html
原子力安全委員会決定
平成二年八月三〇日

即ち、福島第一原子力発電所事故を踏まえた見直しがされていない。と言うよりは、見直しの必要性を感じながら意図的に無視している。政府、電力会社の不作為である。これを債権者は訴えて良かったのではないか。
このような分類指針は、耐震設計重要度分類指針を含め、総じて、抽象的である。匙加減でどうともなると言うことができる。このようなアイマイな基準に人の命を預けることができるか。


エ 使用済み燃料ピットの不十分な防護
これもまた、福島第一原子力発電所事故でその防護の不十分さが万人に晒された。
同じ使用済み(あるいは使用中)燃料が、原子炉内では、圧力圧力容器、原子炉格納容器および原子炉建屋で三重に保護されていたが(それらの機能も、事故では破られたが)、なんと、燃料ピット中の使用済み燃料には一般ビルの建屋だけであった。したがって、水素爆発したとき、使用済み燃料中の放射性物質が大気中に放出された。
また、4号機の燃料プールが耐震不足により崩壊するような事態になれば、それこそ日本沈没に至るような瀬戸際にあった。
これらの事実に対しても、新規制基準はしらん振りを決め込んでいる。これで「世界一厳しい基準」か。

カ 立地審査指針の欠如
立地審査指針の「技術的見地からは起こるとは考えられない事故の発生」とは、何をいうのであろうか。今回のメルトダウンは、技術的見地から十分に起こりうる事故で、シミュレーションすらされていた。
設置審査基準は、極めて有力な、主張の肝である。

(2)債務者の主張について

ア 新規制基準の合理性
約15名の検討チームが検討しものであるから妥当な基準だというが、たった、約15人の専門家が決定した内容が
妥当なものであるとう証拠は無い。まして、一般人を委員に加えない委員会を開くこと事態がおかしい。このような重要な基準が原子力規制委員会の身内で決定している(2013年6月19日)。なぜ、国会の場で議論しないのか。
「新規制基準は、現在の最新の知見を集合した知的信用度の高いものである。」というが、誰がこの程度の説明で「ハイそうですか」と言うだろうか。
イ 共通要因故障防止の指針
例にあげている非常用デーゼル発電機の故障こそが単一故障である。この時、2台目の非常用デーゼル発電機も一台目と同一の原因(例えば、地震、津波)で故障する「共通要因故障」の場合を考慮すべきである。二台の非常用デーゼル発電機が同時に故障することは無いとの考えは通用しない。(このことは、福島第一原子力発電所事故で現実になった。)

ウ 外部電源の重要度の不合理に低くない
「地震時に原子炉の安全性を確保するために必要な電力の供給は、非常用ディーゼル発電機が担うこととされている」とは、どのような根拠で言っているのか。軽油の備蓄量等、関連事項のシミュレーションは十分か。

福島第一原子力発電所事故の第一原因は、外部電源の鉄塔が倒壊し、外部電源が遮断されたことである。
その証拠に、同じ福島第二原子力発電所では、外部電源の一系統が辛うじて残ったためになんとか危機が避けられた。

新規制基準では、外部電源の確保の対策をとらず、外部電源が遮断された場合の対策をしている。
例えば、家の耐震性不足が判明して、テントを数個、購入する態度と似ている。誰もこのような態度を是としないだろう。

エ 使用済み燃料ピットの防護が十分であること
「冠水さえしていれば」と仮定おくこと自体、安全設計思想に反している。自衛隊がヘリコプターから決死の覚悟で給水した映像を決して忘れられるものではない。
オ 計器類につて十分な保護が与えられていること
よくもこういう反証ができるものだと電力会社の雇われ弁護士を哀れに思う。まして、相手の主張が誤りであると言うとは。
カ 立地審査指針に係る反論
技術的見地からは起こるとは考えられない事故の発生を仮定しても、周辺の公衆に著しい放射線災害を与えないことを条件としたものであって、安全確保しているから大丈夫という反論が通らない要件である。福島はだめで高浜は大丈夫などという反論の通用する要件ではない。

当裁判所の判断について
(1)福島第一原子力発電所事故の原因究明がなされない状態での新規制基準であることを認識すべきことを指摘している。
(2)非常用ディーゼル発電機の信頼性に疑問を提示。また、計器類の欠陥について疎明されていないことを指摘している。
(3)使用済み燃料ピットの冷却設備の危険性について指摘している。
但し、原子力の憲法である立地審査指針に関し、債権者が指摘した、「カ 立地審査指針の欠如」に対する判断をしていないことが悔やまれる。
以上

 

 


高浜原発の仮処分ー判決文抜粋(1)ー立証責任の所在(争点1)

2016-03-19 09:32:45 | 原子力

2016年3月9日の大津地裁による高浜原発3号機および4号機の仮処分の決定の判決文は、下記URLを参照

http://adieunpp.com/download&link3/160309otukettei.pdf

判決文を読むと原発関連事項が整理できるので、一度、本文の通読を皆さんへお薦めしたい。


同判決は今後の取消処分の方向性を決定付けるものと思われるので、少し、内容を検討したい。

争点は、次の7点である。

(1)立証責任の所在(争点1)

(2)過酷事故対策(争点2)

(3)耐震性能(争点3)
(4)津波に対する安全性能(争点4)
(5)テロ対策(争点5)
(6)避難計画(争点6)
(7)保全の必要性(争点7)

争点1について判決文から抜粋すると、
 

1.争点1(立証責任の所在)に関する当事者双方の主張

(1)債権者(原告)の主張

志賀2号機訴訟1審判決は、
原子炉施設における安全設計および安全管理の方法に関する試料はすべて被告が保有していること等から、原告らにおいて、被告の安全設計や安全管理の方法に不備があり、本件の原子炉の運転により原告らが許容限度を超える放射線を被ばくする具体的可能性があることを相当程度立証した場合には、公平の観点から、被告において、原告らが指摘する「許容限度を超える放射線被ばくの具体的危険」が存在しないことについて、具体的根拠を示し、かつ、必要な資料を提出して反証を尽くすべきであり、これをしない場合には、上記「許容限度を超える放射線被ばくの具体的危険」の存在を推認すべきであると判示した。
この立証責任の分配方法こそ、原発民事差止訴訟において公平、適切であり、かつ、伊方原発訴訟最高裁判決の趣旨を民事訴訟において体現したものである。

(2)債務者(被告)の主張

本件仮処分が民事裁判である以上、民事裁判における主張立証責任の一般原則に従い、上記請求が認められるための要件については、債権者らにおいて、その主張立証責任を負担すべきである。原子力発電所に関する裁判においても、この理を変更すべき理由はなく、従来の原子力発電所の運転差止訴訟においても、そのような判示をした最高裁判所判例がないのは勿論のこと、裁判例においても主張立証責任の存在そのものを転換したものは存在しない。

当裁判所の判断

伊方原発訴訟最高裁判決は、「原子炉施設の安全性に関する判断の適否が争われる原子炉設置許可処分の取消訴訟における裁判所の審理の判断は、原子力委員会若しくは原子炉安全専門審査会の専門技術的な調査及び判断を基にしてされた被告行政庁の判断に不合理な点があるか否かという観点から行われるべきであって現在の科学技術水準に照らし、右調査審議において用いられた具体的審査基準に不合理な点があり、あるいは当該原子炉施設が右の具体的基準に適合するとした原子力委員会若しくは原子炉安全専門審査会の調査審議および判断の過程に看過し難い過誤、欠落があり、被告行政庁の判断がこれに依拠してされたと認められる場合には、被告行政庁の右判断に不合理な点があるものとして、右判断に基づく原子炉設置許可処分は違法と解すべきである。ーーー」旨判示した。
ーーーー
原子力発電所の付近住民がその人格権に基づいて電力会社に対し原子力発電所の運転差止を求める仮処分においても、その危険性即ち人格権が侵害されるおそれが高いことについては、最終的な立証責任は債権者が負うと考えられるが、原子炉施設の安全性に関する資料の多くはを電力会社が保持していることや、電力会社が、一般的に、関係法規に従って行政官庁の規制に基づき原子力発電所を運転していることに照らせば、上記の理解は概ね当てはまる。
そこで、本件においても、債務者において、依拠した根拠根拠、資料等を明らかにすべきであり、その主張および疎明が尽くされない場合には、電力会社の判断に不合理な点があることが事実上推認されるものとういべきである。しかも、本件は、福島第一原子力発電所事故を踏まえ、原子力規制行政に大幅な改変が加えられた後(前提事実(7))の事案であるから、債務者は、福島第一原子力発電所事故を踏まえ、原子力規制行政がどのように変化し、その結果、本件各原発の設計や運転のための規制行政が具体的にどのように強化され、債務者が上記要請にどのように応えたかについて、主張および疎明を尽くすべきである。
このとき、原子力規制委員会が債務者に対して設置変更許可を与えた事実(前提事実(7))のみによって、債務者が上記要請に応える十分な検討をしたことについて、一応の主張および疎明があったとすることはできない。当裁判所は、当裁判所において原子力規制委員会での議論の再現を求めるものではないし、原子力規制委員会に代わって判断すべきであると考えるものでもないが、新規制基準の制定過程における重要な討議や、議論を踏まえた改善点、本件各原発において問題となった点、その考慮結果等について、債権者が道筋や考え方を主張し、重要な事実に関する資料についてその基礎データを提供することは、必要であると考える。そして、これらの作業は、債務者が既に原子力委員会において実施したものと考えられるから、これらの主張や疎明資料の提供は速やかになされなければならず、かつ、およそ1年の審理期間を費やすことで、基本的には提供することが可能なものであると考える。

本ブロガの感想

(全文を通読していないが)

1.民事訴訟と言えども、立証責任は被告側に分配すべきとする本地裁の考えは、他の取消訴訟でも定着するのではないか。
2.福島第一原子力発電所事故後の新規制基準の性格が真に、原子力発電所の危険性を解消するものかが、間接的に検討の対象になると本地裁は主張している。
即ち、技術的なことに関連する訴訟であっても、その技術的事項の妥当性を直接、対象としなくても、債権者側に説明責任を課すことで、その技術的事項が裁判所の審理対象となり得ることを明確に示した。

3.関電は、原子力規制委員会の再稼働の承認を得られたことのみを持って、裁判所の資料提出、疎明の要請に従わなっかたこと、不誠実な対応が伺える

4.希望するとすれば、判決文中に、新規制基準の成り立ちについての経緯の説明が欲しかった。新規制基準がどのような法的根拠を持つのか、誰が作成し、それを良としたのか、「世界一厳しい基準」と言うけれど、安倍首相がそういうだけなのか等々新規制基準にまつわる雲が晴れないままである。新規制基準を既成事実としてそれ以降を論じることに違和感を覚える。

以上