登り梁が規則正しく並ぶさまは小気味良く、壮観でもあります。これが郡上に特有の出登り造りです。大屋根の軒の出の長さは1.8メートルにもなります。
日本のような多雨多湿な気候の場合、軒を大きく出すことは、建物の寿命を延ばすためには必須の条件です。
風のない状態で雨が降った場合、建物が濡れることはほとんどありません。
夏は陽ざしをさえぎり、風を呼び込みます。冬には部屋の中にたっぷりと陽ざしが届きます。
郡上に建つ古くからの家に使用する登り梁といえば、例外なく松です。横架材、小屋梁に松材は最適です。
ただ、松は乾燥に伴ってねじれます。その分、組み上げれば強いということも言えますが、古い家の登り梁はねじれて母屋との取り合いが外れてしまっているものが多く見られます。決まって同じ方向(時計まわり)にねじれるのは育つ環境での太陽の動きによるものなのでしょうか?
現在松材の入手は困難になってきています。また、ねじれのことも考慮して、今回は桧材を使用することにしました。厚みは6寸・18センチです。今回の刻みと建前を通して分かったことなのですが、材木がそこそこに乾燥して、割れやねじれが止まるのに自然乾燥(天然乾燥)の場合は最低でも3年間はかかる、ということです。天然乾燥材と人工乾燥材の違いについては、またの機会にお話ししたいと思います。
登り梁は屋根の勾配なりに登っていって、棟木の下で左右を組み合わせます。同じ高さで鯖組み(サバグミ)にするもの、拝みにするもの(例えば破風のような継ぎ方です)、高さを違えて長ほぞをそれぞれ抜いて端栓(ハナセン)打ちにするもの、などいくつかの方法があります。
今回は独自の方法も考えてみました。長ホゾで端栓打ちにしつつ、お互いを車知栓(シャチセン)で引き合いにするという方法です。
上の写真の長ホゾの下に櫃(ヒツ・相手の登り梁のホゾが刺さる穴です)が掘ってあるのが分かりますか?この櫃にも車知道(シャチミチ・車知を打つ時にガイドとなる溝のこと)と胴栓(ドウセン・お互いを緊結させるために打つ込栓)の穴も開けておきます。いろんな種類の栓の名前が出てきましたね。あとで写真で説明します。
登り梁の長さは6メートルありますので、屋根の上で組むことはできません。工場で刻みの時に仮組みをしておきます。
このように組むのを、鯖組(サバグミ)にする、といいます。また、こうして造り出した部分を鯖の尾と呼びます。
開いている四角い穴ですが、小屋束から伸びた長ホゾで串刺しにします。
妻壁ではこのように鯖組みにします。鯖組み部分には1寸角(3センチ角)の込栓を打ちます。クロスした上部には棟木が載るのです。
実際の建物ではこのようになります。屋根の上に立っている大工さんに比べて、登り梁がかなり大きいのが分かりますか?建前の様子はまた別の機会に紹介しますね。
登り梁は太鼓挽き(タイコビキ・丸太の両側面を製材したもの)なので、形はまちまちなのですが、軒桁から先は統一するために同じ形の造り出しとします。こうすることで、一番最初の写真のように統一感・連続性のある意匠になります。
一番手前の組手ですが、右流れの登り梁が棟束(ムナズカ・棟木を受ける小屋束)に差さり、左に貫通し端栓で引いてから小屋束に込栓を打って固定します。
この部分を下から見上げます。左流れの登り梁が棟束に差さり、右に貫通してから端栓で引きます。写真では小屋束に込栓はまだ打ってありませんね。
この長ホゾの先は、右流れの登り梁の櫃(ヒツ)に入り、下から車知栓を打ちお互いを十分に引きつけてから、胴栓(右流れの登り梁側面に打ってある、長方形の込栓)を打ちます。こうやって何重にも栓を打つことによって、お互いの登り梁はしっかりと結びつき、まず離れることはなくなります。
大工、と書いてわたしは、大いに工夫する、と読みます。まだ大工になってから25年ですので、技術は大六・第六ぐらいでしょうか?
心・技・体ともに、大工・第九目指して頑張っていきたいと思っています。
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