…20代も後半になって、インディーズの音源も売れず、プロデビューなんてとんでもなく、俺たちは本当に焦り出した。
バンドを拾ってくれる事務所なんてのも現れなかった。
俺はオミと一緒だからどうにかやってこられたと思う。
結局30歳になるまで、 バンドは続けることにした。
そんなある日 インディーズの社長に、話があると言ってオミは連れて行かれた。
オミが遅く帰ってくるとびっくりだった。
オミにプロのアーティストのツアー メンバーになって欲しいという。
ベースがうまくてルックスがいい人間がほしいということで、 オミだけ華島さんの何回目かのソロツアーのサポートに誘われたんだ。
バンドのメンバーはもちろん 賛成だった。
どんなきっかけでいい 話が転がり込んでくるかは分からない。
こうしてプロの世界とコネができていれば、デビューのきっかけにでもなるかもしれない。 みんなそう願ったんだ。
よくそんなおいしい話をオミが教えてくれたと思うけれど、オミは、オミだけは、プロの世界の端っこに指一本引っかかったんだ…
そう言ってカイさんは俺の方を 意味ありげに見た。
はっきりとは言わないけれど、華島さんと俺のことはオミさんから聞いているような気がした。
「でも 10箇所ほどのライブで、オミはボロボロになって帰ってきた」
「あのオミさんが、ボロボロ? 」
「ああ、俺もびっくりしたけどね…」
やっぱりテクニックの問題もあるし、色々 研究して臨んだライブだったけど…
客の煽り方がダサいと言われ、
俺なんかは信じられないことに かっこ悪いと言われ、
そうかと思えば、オミに夢中になって、何か所も追っかけることになった女の子たちもいて、
他の先輩ミュージシャンやスタッフなんかに冷たくされることが多かったらしい。
「優しくしてくれるのは 華島さんと華島さんのマネージャーだったって」
俺はドキッとしてしまった。今回のは隠しようがなかった。
「華島さんは俺たち2人と同じ年で、それでオミとはすぐ仲良くなったらしい 」
…仲良く、って何?
「帰ってきてから東京で飲みに行ったこともあるんだよ。俺は1回だけだけど、オミが何回飲みに行ったかは知らない。今は付き合いはないと思うけど 」
俺は…オミさんと華島さんの関係の真実がよっぽど…訊きたかったけれど…
そして…オミさんかカイさんが、本当は華島さんとまだつながっていてほしいのだけど…