小説「離しません!」&スピンオフ「オミとカイ-少女の霊と俺達と-」

心霊YouTuber達のソフトなBL小説です。男の方もどうぞ。更新情報などはブログ1P目又はツイッター(X)にて🌹

44.オミの指一本

2024-02-10 21:15:04 | 小説
 …20代も後半になって、インディーズの音源も売れず、プロデビューなんてとんでもなく、俺たちは本当に焦り出した。
 
 バンドを拾ってくれる事務所なんてのも現れなかった。

 俺はオミと一緒だからどうにかやってこられたと思う。

 結局30歳になるまで、 バンドは続けることにした。

 そんなある日 インディーズの社長に、話があると言ってオミは連れて行かれた。

 
 オミが遅く帰ってくるとびっくりだった。

 オミにプロのアーティストのツアー メンバーになって欲しいという。

 ベースがうまくてルックスがいい人間がほしいということで、 オミだけ華島さんの何回目かのソロツアーのサポートに誘われたんだ。

 バンドのメンバーはもちろん 賛成だった。

 どんなきっかけでいい 話が転がり込んでくるかは分からない。

 こうしてプロの世界とコネができていれば、デビューのきっかけにでもなるかもしれない。 みんなそう願ったんだ。

 よくそんなおいしい話をオミが教えてくれたと思うけれど、オミは、オミだけは、プロの世界の端っこに指一本引っかかったんだ…


 そう言ってカイさんは俺の方を 意味ありげに見た。


はっきりとは言わないけれど、華島さんと俺のことはオミさんから聞いているような気がした。

「でも 10箇所ほどのライブで、オミはボロボロになって帰ってきた」

「あのオミさんが、ボロボロ? 」
「ああ、俺もびっくりしたけどね…」

 やっぱりテクニックの問題もあるし、色々 研究して臨んだライブだったけど…

 客の煽り方がダサいと言われ、

俺なんかは信じられないことに かっこ悪いと言われ、

そうかと思えば、オミに夢中になって、何か所も追っかけることになった女の子たちもいて、

他の先輩ミュージシャンやスタッフなんかに冷たくされることが多かったらしい。

「優しくしてくれるのは 華島さんと華島さんのマネージャーだったって」

 俺はドキッとしてしまった。今回のは隠しようがなかった。

「華島さんは俺たち2人と同じ年で、それでオミとはすぐ仲良くなったらしい 」

 …仲良く、って何?

「帰ってきてから東京で飲みに行ったこともあるんだよ。俺は1回だけだけど、オミが何回飲みに行ったかは知らない。今は付き合いはないと思うけど 」

 俺は…オミさんと華島さんの関係の真実がよっぽど…訊きたかったけれど…

 そして…オミさんかカイさんが、本当は華島さんとまだつながっていてほしいのだけど…



43.残酷な〈華〉

2024-02-06 22:37:00 | 小説
「なぜ…ですか? 」

「アイツはもともと慎重なヤツだし、その頃は、俺もそうだったけど、オミも青かったんだと思う。バンドの切り込み隊長になる自信も、バンドを背負う自信も持てなかったんじゃないかな」

 …でも、一番人気が出たのはやっぱりオミだし。

 オミと俺ばかり女の子に騒がれたり、プレゼントもらったり、先輩に誉められたり。


 それは大学生バンドになってからも変わらなかった。


 ボーカルもすごくうまかったし、ドラムもそうだったんだけど、ギターとベース以外いわゆる華ってやつがない。

 ずっとそう言われてやってきた。
 
 全然、プ口になれそうな気配はなくて。

 ボーカルとドラムは卒業と同時に就職しちゃったし。


 親をごまかせたオミと俺だけはバンドを続けることができたけど、あとは何人メンバーチェンジしたことか…



42.オミ君、お願い。

2024-02-04 22:07:00 | 小説
「いやいや、ダイキ君、それ聞いちゃう?」

 カイさんは複雑な笑みを浮かべたが、うつむくと少しずつ話し始めた。


 …オミとバンドを組んだのは高校1年の夏休みだった。

 オミはベースだったけど、ボーカルもできた。俺はギターで。

 メンバーは全員もうすでに中学の時にバンド経験があったからよかったんだけど…

「一番ルックスがいいのがオミだから、オミをボーカルにしようと、何となくみんなで思ったんだ 」

 それで、オミにみんなで言ったんだけど、オミは固く辞退した。

 みんなで何回も頼んだけど、無理だって断る。

 やっぱり説得は俺だろうと思って、行きなれたオミの家に行って長々と説得したけど駄目だった。

「オミは何ていうか、オーラもあったから絶対どこでも通用したと思う。オミだって、プロを目指していたんだし、俺もそうだし。だから、最後は、俺をプ口にするためにも引き受けてくれって言ったんだけど…アイツは首を縦には振ってくれなかった 」
 


41.苺パフェがトリガー

2024-02-01 23:00:00 | 小説
「カイさんに何か縁のある神社なんでしょうか?」

「いやあ、親父たちからも聞いたことないなあ。でも何か親近感は覚えるよね」

 他の字はもう読めなかったので、気を取り直して、検証というか下見というかを始めた…と言っても俺の機材の使い方をチェックしてもらう時間の方が多かった。

 実はカイさんたちが思っているほど心霊チャンネルを見ていない俺なわけだがカイさんは丁寧に、夜の撮影で先を歩くメンバーの写し方などを教えてくれる。

「編集の練習も頑張らないと…」

 俺のつぶやきに、カイさんは笑顔で応えてくれた。

「この先は夜の本番だなあ。でもお社のほかに特に何もないからなあ…あとはオミに相談だな…」

 ということで、俺たちは帰り支度を始めた。



 帰りも骸骨や白い人は現れなかった。


 
 遅いお昼は、俺のリクエストでファミレスのハンバーグ。

 ちょっとお高めの店にカイさんは連れていってくれたが、さすがにハンバーグセットは美味しかった。

 お皿を下げてもらったところで、40代くらいの素敵なマダムと中学生くらいの女の子がカイさんのところに来た。

「あの、〈礼霊ず〉のカイさんですか?…」

 母娘でカイさんのファンなのだという。
 
 お母さんまで少女の顔になっている。

「握手していただいてよろしいですか? 」

「はい、ありがとうございます…来週新作配信予定なので、よろしくお願いします! 」

「はいっ! 」

 お母さんの方が舞い上がってたな…

 目の前でカイさんの人気を見せつけられてしまった

 カイさんもオミさんと一緒に心霊イケメン四天王に入ればいいのに…


 それは…華島さんとの思い出にも似ていて…

 

 そこに運ばれてきた、カイさんの可愛いイチゴパフェを見ているうちに俺は、はたと気づいた。

 オミさんとバンドをやっていたカイさんなら、華島さんのことを何か知っているかも…それに俺の本当の入社理由は知らないかもしれないし…

「そういえばカイさんは、いつ頃バンドをやってたんですか…?」