小説「離しません!」&スピンオフ「オミとカイ-少女の霊と俺達と-」

心霊YouTuber達のソフトなBL小説です。男の方もどうぞ。更新情報などはブログ1P目又はツイッター(X)にて🌹

49激しいオジサン

2024-02-18 22:22:00 | 小説
「ああ、おかえり 」

 カイさんと俺が戻ると、オミさんはカッコいいスーツを着てウロウロしていた。
 

 どうだった、とオミさんが尋ねたのをさえぎるようにカイさんは、


「あれ、そのスーツどうしたの?随分 かっこいいじゃん 」

 するとオミさんは不満そうに、

「無理やり オーダーで作られちゃったの 」
 
 すると、カイさんは面白くて仕方がないといったように笑いながら、

「え? もしかして淡泊な方のおじさん? 」

「ううん、しつこくて激しい方のおじさん 」

「まだいたんだ しつこい方のおじさん 」

 オミさんはロを尖らせてうなずいた。しかしまだカイさんは、

「そういえばしつこいおばさんの方は? 」

 ボタンを気にしながらオミさんは、

「ん? 旦那さんにバレちゃって海外に飛ばされたみたい 」

 俺はちょっとざわっとした。

 これって 例の枕営業っていうやつではないだろうか。

 いやオミさんはいいんだけど、カイさんが承知しているとは思わなかったので、ショックだった。

「そしたら マンションと車は消えちゃったんだね 」

「まぁ、今のところはね 」

 でも YouTube でそんなに変な営業しなきゃいけない相手って何だろう…

 この前 BS の深夜番組に出たって言ってたけど、

オミさんは地上波には出たくないって言ってるし、

この前雑誌に出たって言ってもフクちゃんのお兄さんのコネだって言うし…

 するとオミさんは、

「そうだ、ダイキ君、来週の木曜日、あけられる? 」

「はい…」

「ダイキ君の歓迎会。フクちゃんも来るから 」

 ややっ、好機到来か!

「はい。ありがとうございます! 」

 フクちゃんはライブハウスの店長だから、仲良くできたらいつか華島さんの情報が得られるかも…

 俺が嬉しさを押し隠していると、オミさんは今日の神社に関する相談をカイさんと始めていた。



48.華島さんのプチ情報ゲット

2024-02-16 21:57:00 | 小説
「いやあ、俺に何かできるのか…」

「いやいや、そういや頭の片隅に置いておいて、としか確かに俺にも頼めないなあ… 」

「は、華島さんの問題は…」

「うん、まあ、オミはあの人とステージでチューとかしてたから、ファンには喜ばれてたっていうけどね。それが語り継がれてるのかなあ…」

 あと、ススキノのホテルの部屋は、華島さんと二人だったって聞いたけど…
 オミはススキノとかから華島さんをかついでくる役だったし、ツアーの予算不足で、主役も一人部屋にできなかったんだろ… 

 俺は、カイさんの話に違和感を覚えた。

 札幌でしかライブに参加していない俺は、ベーシストだったオミさんと華島さんのチューなんて見ていない。

 見ていたら、絶対に覚えていると思う。
 
 
 帰り道、車の中でカイさんは、

「神社で体調悪くならなかった? 」

 言われて思い出した。
 心霊スポットとその周辺では、頭痛や吐き気なんかの体調不良になることがあるからだ。

 よっぽどファミレスの話の方が身に応えた。

「はい 」

「良かった。俺は、神社の裏で気分が悪くなって目の前の崖から転がるかと思った 」




47.オミのウェディングドレス?

2024-02-15 23:41:00 | 小説
 俺は驚くしかなかった。

 しかしカイさんは苦笑いをして俺を見るばかりだった。
「…なーんてね…でも、やっぱりオミが前面だから、〈礼霊ず〉は上手くいってるでしょ」

と、いたずらっぽく笑って、この話は終わりになったようだった。

「ダイキ君、コーヒーでも飲まない? 」

「すみません、気がつかなくて」

 俺はほっとして、ドリンクバーに向かった。

 …席を離れてから、俺が意外に思った、というか残念に思ったのは、クールでストイックと言われるカイさんが、歩いてくる女性にチラチラと視線をやっていることだった。
 
 手をつないでいるカップルの女の子の方にも。

 俺が席に戻って、2人でコーヒーにロをつけてからもカイさんは…

 もちろん俺は不快さを押し隠していたのだが、カイさんは気づいたらしく、

「ごめん、いや、みんな麻里華ちゃんのデザインしてる服に似てたから…そういう時代なんだなあ、って 」

「…? 」

 聞けば、オミさんの彼女の麻里華さんは、福岡の出身で、進学のために東京に来て、今は小さな工房を都内で経営しているのだそうだ。

「大金持ちの実家にも頼らないで、若いのに立派なんだよ。オミの実家も金持ちだから、社長同士だし育った環境も似てるようだから、年はひと回りも違って犯罪級だけど、いい感じだったんだ」

…えっ? 過去形?

「ダイキはオミと同居してるからこっそり教えるけど、二人は最近うまくいってないみたい 」

「なぜ…」

「…まあ麻里華ちゃんはオミの横でウェディングドレスが着たいらしい。オミに夢中で、早く独占したいからね。でも、工房でのデザインが、思いつかなくなってきているらしいんだ…でもオミはYouTubeも順調…オミは焦らずひと休みしたら、ってアドバイスもしてるし…」

 無理やりデートの時間も増やしてるけど…しっかりしててもやっばり24才の若さだから…

「オジサンのアドバイスとしか思ってないかも、ってオミがぐったりして言ってたよ 」




46.地獄の果てまで、オミを。

2024-02-13 23:13:00 | 小説
 ただ俺は、その時、「オミに前面に出てほしい」って言ったの。

 リーダーとかメインとか。

 チャンネルの看板のイケメンとして動いてくれなきゃ俺はやらない、って。

「…でも、今は二人でメインですよね? 」

「…うん…でもリーダーはオミでしょ?」

「あ…そうですね… 」

 俺は照れ隠しに、
「で、なぜ音楽チャンネルじゃなくて心霊にしたんですか? 」

「二人で映像制作会社を経営しながらできるから。今なら色々わかるけど、当時は音楽ジャンルの料理のしかたもわからなかったし 」

 …諦めたばかりのことに、向かい合うのもつらいですよね。すみません。

「それに、オミはホラー、俺は日本史好き。それを生かして動画を作り始めたんだ。〈礼霊ず〉としてね 」

 …そこで…

 カイさんの微笑みに…こういうところでは普通、安心しても許されると思うのだが…

「…でも…」

「えっ? 」



「俺はオミを恨んでる…」


「えっ? 」

「最初、バンドを組む時、オミがボーカルを引き受けてくれていたら、俺たちはプロのミュージシャンになれてたんじゃないかって思いが、今でも消えないんだ 」
 
 突然のことに、俺は、何を言っていいかわからなかった。

「…オミを必死で説得したときの、放課後の教室の景色も忘れられないよ 」


 一緒に苦労した親友で、仲良しイケメンYouTuberで売っている2人に、こんな裏があるものなのか?

 俺は、頭がパニックになった。

「でも、それならなぜ、今、一緒に 」

 オミさんは?

と俺が訊こうとしたのをさえぎって、カイさんは微笑んで言った。

「だから俺は、ずっとそばでオミの行く末を見届けたい。地獄の果てまでオミについてく。差し違えても構わない」



45.心、折れて

2024-02-12 22:40:00 | 小説
 「…そして華島さん本人からは、次のツアーも頼むね、って言われてたのに、病気ということでで事務所を辞めてそれっきり…マネージャーさんともね 」

…オミが電話しても、「おかけになった電話は」になっちゃうし。

 他力本願と言われればそれまでだけど、もう売り込みもあてがなくなってて、心が折れてしまってバンドは解散。

 もうオミと俺も、音楽はやめてしまったよ。
 
「おかげでバイトが増やせたけどね…何の目標もなく、つらかった。同じ街だけど、実家に戻るのは嫌だったから、よくオミとお互いの部屋に行って、テレビとかYouTubeとか見てゴロゴロしたり… 」

 
 で、流行りのYouTubeでもやってみようかってことになったんだ。