安積咲

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ミネラルマーケットと宝の山の福島

2013-06-23 01:09:14 | ブログ記事
先日、ミネラルマーケットというイベントに行って来ました。

ミネラルマーケットとは「コレクター有志によるフリーマーケット」とサイトの説明にありますように、鉱物を愛する人たちのフリーマーケット、と認識させて頂いております。

こういった鉱物の販売会のようなものは、日本の各地で年に何度か行われています。新宿や池袋の大きなミネラルショーやミネラルフェア、更に少し毛色は違いますが宝石業界の展示会であるIJTなど。それらは主に「出品業者」と「買い手」の関係で成り立っているものと思いますが、このミネラルマーケットは、出品する側も鉱物を愛してコレクションしている人たちが集まる場所、のように思えました。

私が鉱物に興味を持つきっかけになったのは、仕事の関係で宝石の鑑別の勉強を始めたからです。
そう、多くの人が美しいと興味を惹かれる宝石、それも当然「鉱物」です。

私が宝石の鑑別を学んだ英国宝石学協会という機関は、一般的に「宝石鑑定士」と呼ばれる資格を授ける機関ですが、商業的な色合いよりも学術機関としての方向性が強く、宝石製品の流通や商業ノウハウよりも、鉱物学を学ぶための教育に力を入れています。なので、私も成り行き上、鉱物に興味を持つようになったのです。

そういうきっかけなので、純粋な鉱物好きの方から見れば、少し動機は不純かもしれません。しかし、鉱物というものは学べば学ぶほど面白いものです。多くの宝石がなぜ美しいかの理由も分かりますし、美しさの秘密を知るという事は魅惑的なものなのです。(といっても、私の鉱物学知識は、知識と呼べるほどのレベルにも至っておらず、恥ずかしい限りなのですが)

そういった経緯で、勉強も兼ねて、新宿や池袋のフェアに行くようになっていたのですが、このミネラルマーケットはまさに「コレクター有志」の集まる場所でした。

もちろん他のミネラルショーも参加している皆さんが楽しそうなのですが、このミネラルマーケットに参加している人たちの楽しそうな表情は、本当に「好き」が溢れているのです。出品者も、並べている自分たちのコレクションが大好き。買いに来る人も、それを見るのが大好き。例え買えなくても、見るだけで楽しい。鉱物の話をしているだけで楽しい。それが良く分かるのです。

そして、皆さん、非常にマニアックです。
いや、もしかしたら「鉱物が好き」というからには、これくらいの知識と好奇心があって然るべきなのかもしれません。
(という訳で、私は本当に足元にも及ばないと恥ずかしく…とそういえば、このマーケットでは、ブースの机の足元にも鉱物の入った箱が積んであり、皆さんそこまでくまなくお目当ての品を探して回るので、机の下にお客様がもぐっている図をそこかしこで見かけました)

展示しているのは採掘した鉱物に限らず、人工結晶も、関連書籍もあります。(去年私はビスマスの人工結晶を買わせていただきました)鉱物写真の美しいクリアファイル、ポストカードも。

また面白いのは、そこは一応売買の場所であるのですが、「売る事に積極ではない人がいる」事です。
ミネラルショーでは、ブースの前に立てば、当然セールストークです。買ってもらうための話です。そのための情報を提供してもらえます。
でもミネラルマーケットは少し違います。
それが何の石か、どこで採れたか、どう採った(入手した)か、こちらが話しかける前に話しかけ、説明してくれます。自分のコレクションの自慢とも言えますが、どちらかといえば「我が子がどれだけ可愛いか」を語ってくれる感覚です。
更にその石の背景に至るエピソードまでとなれば、なかなか普段は知る事のできない話です。

「これ最初は○○石かと思って、調べたんだけどねえ、結局○○石でね、その時の話がここにあるんだけど…」
「蛍光する石?そういうのが好きならこっちにいっぱいあるよ!」
「これはスコットランドで採れた石だよ。イギリスの産業を支えた石だよね」

……ちょっと、再現しきれておりません。はっきり言って、私ごときではついて行けないディープな知識の世界です。(しかしそこではそれが共通言語です)
ご教授願うにはお金を払ってでも、というくらいのお話なのですが、こんなふうに気さくに教えてもらえるというのは、贅沢な事でもあります。皆さんの知識を親切に分けてもらえるのですから。

今回印象的だったのは、あるブースの方にアイオライトの話を伺った時の事です。

私はアイオライトを探していました。アイオライトは、多色性が強く、角度で全く見える色が全く違うという不思議な石です。(科学的な理由がもちろんあります)宝石としては、サファイアに似ているという事で、「ウォーターサファイア」という名前で売られてしまう事もあります。(※個人的にはそんなに似てると思わないのですが)

今年のミネラルマーケットの会場でまず入ってすぐのテーブルで目に付いたのがなんと、アイオライトでした。
でも、そのアイオライトは透明度があまり高くはなかったので、私は手にとってしばらく考え込んでいました。
そこでブースの方が話しかけてくれます。

「そのアイオライトね、あまり良くないんだよ」
「そ、そうなんですか?」

開口一番、おすすめどころかネガティブなこの一言。

「透明度が低いし、もっといい結晶はあるんだけどね、あまり良くないよ」
「そうですねー…ああでもこっちの方向から…」
「そうそう、見えるんだけどね、多色が。でもはっきりしないでしょ。もっと良いのを持ってるんだけどね、これは良くないよ」

そう言われてしまうと、うーん、と考えてしまいます。
お値段もお手ごろだし、せっかくすぐに目に入ったものだし、とぐるぐる考えつつ、何度かそのブースを訪れては悩んだのですが、その度に「良くないよそれは」と言われてしまうのです。

「本当はねー、私が持ってる、六面体にカットされたアイオライトを見せてあげたいよ。あれは本当に面によって全然見える色が違うの。これはねー、良くないんだよ」

……もしかして、売りたくないんですか?( ̄▽ ̄;)

で、結局私、それを買わずに帰ってきてしまい、今はとても後悔しております。
アイオライトは他に見つからなかったし、あの結晶の形はとても面白かったなぁ、と思い出してしまうのです。結局「良くないよ」に終わってしまうものの、お話してくれた方もとても親切でしたし。売りつけるのが悪いと思って「良くない」と言っていたのかも…などと考えてしまうと、余計に未練は募ります。(その、六面体にカットされたというアイオライト、見てみたい…)。

あの場所にあった鉱物、いや、宝石でも同じなのですが、世界に「同じ石」というのは一つとしてありません。同じ種類の鉱物でも、全て違った形、内包物を持っています。カットされた宝石であっても同じです。例えばダイヤモンドには4Cと呼ばれるグレードのランクがありますが、それで同じランクを持つ石であっても、それは目安であり、特徴は一個一個で違うので、全く同じ石というものはないのです。(なので、卸の現場において、同じ大きさ、ランクの石であっても、価格が変わって来るのです)

なので、石(鉱物)との出会いは一期一会。気に入った石はそれぞれ世界にたった一つ。私は石のパワーは信じてませんが、石との運命の出会いはある、と思っています。(きっと対象が何であっても同じかもしれませんが)
あの会場には、そんな運命の出会いを探している人、またその出会いを掴んだ喜びに溢れている人がたくさんいたように思えます。

ロンドンでのIJLというイベント(上記のIJTのイギリス版)を見に行った時に、「Are you enjoying this show ?」と話しかけられたのを覚えています。日本のIJTなどでは「見ていって下さい」「安くしますよ」などの声がけが多かったのに比べ、「ショーは楽しんでる?」と声をかけられるのが新鮮だったのですが、このミネラルマーケットはまさに「楽しんでますか?」と声をかけ合うようなイベントでした。

そしてもう一つ、とても興味深いお話を伺う事ができました。

その方は福島からの出品者の方で、大変ベテランのコレクターだという事でした。
机の上に並べられたのは、水晶類をはじめとし、コランダム、オパール、トルマリン、フルオライト、金、そして琥珀。ほとんどが福島県内で採れたものという事で、福島が鉱物産地だと多少は聞いていた私でも、本当に目を見張るものでした。

私が郡山から来たというと、あの聞きなれた郡山の言葉で滔々と様々なエピソードを教えて下さいました。
郡山なら石筵方面、湖南、西田、逢瀬など、自分にも身近な地名がたくさん出てくるので、ブースの前を塞いでしまって申し訳なかったのですが、ずっと聞いていたいくらい興味深い話ばかりでした。

私は今回、そこで琥珀を買わせていただきました。

いわきで琥珀が採れたというのは知っていたのですが、私が入手したものは双葉郡広野町で採れたものでした。いわきの琥珀は、今話題の朝ドラ「あまちゃん」でも登場する久慈の琥珀と同じように大変古いもので、約8,000万年前のもの、と聞いていましたが、この広野の琥珀は約3,400万年前から約2,300万年前と、少し若いもののようです。
(※一般的に、宝石としての琥珀は古いものの方が高価と言われます。よく市場に出回るロシア産の琥珀が約3,000-4,000万年前のものなので、8,000万年前のものは珍しいのだと思います)
石炭が採れる場所は琥珀が採れる、という訳で、いわきでは琥珀が採れたのでしょうが、広野町の方でも採れたというのは知りませんでした。

更に驚く事には、福島で琥珀が採れたのはいわきだけではなく、郡山の熱海町の方でも採れたというのです。長く郡山に住んでいた私ですが、これは全くの初耳でした。あの辺りでも石炭が掘れる場所があったそうなんです。

元々鉱物好きな方々の間では、福島は鉱物の産地として有名だったそうです。
宝石品質にまでなるものが少ないせいなのか、山梨のように水晶産地だと名乗ったりはして来なかった(ように思われる)福島県ですが、石川町のペグマタイト鉱床は日本三大ペグマタイトとして有名なのですね。ただ、残念な事に、掘り尽くされて枯渇してしまった場所も多いようですが。

この方のブース以外でも、福島県産の鉱物をたくさん見ました。中通り、浜通り、会津、それはもう広範囲で採れたという鉱物の数々。今はもう入れないかもね、という南相馬の場所で採れた石もありました。(少し調べてみれば、双葉でも、富岡でも、採取できる場所があった事が分かります)

福島の有名な民謡といえば「会津磐梯山」ですが、そこには「宝の山よ」という歌詞があります。鉄の産地だったからという説もあるようですが、もしかしたら熱海の金山の事も含んでいたのかもしれませんし、こうして見ると、福島県全体が「宝の山」なのではないかと私には思えました。
それが今は掘り尽くされてしまったとしても、そんな宝が眠っていた場所だと思うと、まさに「福の島」のように思えたのです。

ツイッターでは何度も書いて来ましたが、私は生まれた頃から、福島がそんなに好きではありませんでした。田舎で、つまらなくて、郡山に至っては薄汚くさえある、そんな場所としか思っていませんでした。
でも、そこには宝が眠っていたんだな、と思うと、一見寂れた街の風景さえも変わって見えるように感じました。確かにここは「宝の山」だったと、鉱物を通じて感じる事ができたのは、新たな発見だったと言えます。恥ずかしながら今まで知らなかった鉱物の産地としての福島、そんな地元の面白さをここで再認識できました。

その福島のコレクターの方に「これだけのお話、もっと郡山でも伺える場所があるといいのにと思うんですけど…勉強会とか」とお話すると、「ダメだなぁ、郡山は文化程度が低いがら」と笑っておられました。それは確かによく、言われている事です(笑)。

「福島」はどんな場所であったか。もしかしたらまだ、広く知られていない視点で語る事もできるかもしれません。そんな事を考えさせてくれた、ミネラルマーケットでもありました。また来年も、見に行けたらと思っています。

(※当日ご挨拶させていただいた先生方、お忙しいところお時間割いて下さいまして、本当にありがとうございました)

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